NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第158章:恥をかかせる

あっという間に時間は流れ、気がつけばもう五月になっていた。

気温も上がり、暑くなってきたので、この日は二人で珍しく熱心に衣替え準備に取り組んでいた。冬用の厚手の布団と服を全て仕舞い、暑くなっても平気なようにしていた。

ところが翌日、そういうことをした後に限って風が強く吹き、気温が下がってしまい、結局寒い思いをする羽目になったのだ。

 

あの一件以降から三か月近くの間、二人は穏やかで平凡な日々を満喫していた。

バイロインが実家に帰る頻度も段々と少なくなり、週末だけ帰り、夕飯を食べ、

しばらく家族と一緒に過ごし、それからアランを連れてしばらく散歩をして…

そして厚かましくも持っていける美味しい料理の数々全てを自分の家に運び出し、冷蔵庫に入れたのだ。

この三ヶ月の間に、バイロインの車の運転技術は成長を遂げ、グーハイが怠けたくなった時は、バイロインに運転させて朝食を買いに行かせていた。

グーハイも料理の腕を上げ、彼が作ったラーメンはもう”スイトン”では無くなり、麺のほとんどがしっかりと一本ずつ線を成し、長さこそまちまちではあるが、口にするとモチモチで食べ応えがあった。

 二人の暮らしは楽しく充実しているようである。

 

 

ある日のお昼時、二人は『どっちかがウズラの卵を多く食べた』ということで揉めていた。185cmの二人の男が、まるで高校生とは思えないくらいバカみたいに箸で互いの頭を叩き合っていた。

しかも、叩き合っているうちに、ご飯を食べている途中だというのに部屋の中を駆け回り、バイロインはいつでもグーハイに奇襲をかけられるようにして、グーハイも負けじと恐ろしい顔つきでバイロインを追いかける。

そんなこんなしていると、バイロインは追い詰められて逃げ場を失ってしまった。グーハイの隙をついてパッと玄関にかけこんでドアを開けて外に飛び出し、必死にドアを押さえてグーハイが外に出てこれないようにする。

二人は拮抗したまましばらく争った後、グーハイはなんと内側から鍵を閉めたのだ。

ーーお前は優秀なんだろ?それにお前には直接ドアをこじ開ける手があるしな

グーハイはそんなことを考えながら覗き穴から外の様子を見てみると、バイロインの怒りで血相を変えた表情があった。そしてグーハイは一人でそれを見ながら楽しんでいる。

飽きるまでさんざん見た後、肩で風を切りながらリビングに歩いて帰り、淡々といつもと変わらない様子で食事をしながら心の中で冷たく唸る。

ーークソガキが、チャイムを鳴らさない、それに俺にキスをしないっていうなら絶対にドアを開けてやらないからな!

バイロインがずっと如何にして中に入ろうか考えていると、エレベーターのドアが彼の前で開き、その中には良く知った姿があった。

「グ少…おじさん」

バイロインは引きつった笑顔をしている。

雄々しく威厳のある佇まいでグーウェイティンがバイロインの前に立っている。彼の柔らかな視線の中には物寂しい雰囲気を感じる。

「なぜ中に入らないんだい?」

バイロインはそっと目を逸らした。

「丁度今、入ろうとしてたところで…これからチャイムを押すところです」

するとグーウェイティンは自ら手を伸ばしてバイロインの代わりに任務を遂行した。

グーハイは耳を立てていた。そしてチャイムの音を聞き、口元に得意げに弧を描く。

ーーなんだ、もう我慢できなくなったのか?

そして調子に乗った表情で玄関に向かった。

のろのろと鍵を開けて、ゆっくりと扉を押して、それから外にいる人を素早く中に引きずりこみ、その人の唇を激しく奪った。

それは非常に正確で容赦のないものであった。

いつも一貫して仏頂面のグーウェイティンが、さすがにこの時は驚いた顔をしていた。

十七年。十七年丸々だ。グーハイが生まれた頃にグーウェイティンの首元に小便をしてしまったのを除いて、父と子の身体的な接触は無かった。

バイロインの表情は言うまでもなく、手で顔の半分を隠し、もうすぐ顎が脱臼するくらいに笑っていた。

グーハイは呆然としていた。

ーーこの老いぼれめ、一体いつ出てきたんだよ?俺がさっきキスしたのは…クソ!これじゃあまるで鋼板にキスしたのと同じじゃねえか!

三人は入り口に立ち、誰も口を開かず、この場の雰囲気はすっかり死んでしまった。

グーハイは半ば諦めの様子だった。どのみちキスをしたのだ、今さら間違えたなどと言ったらなおさら追及されるのではないだろうか。こうなった以上仕方ない、このままやけくそになるしかないのだ。

 「父さん、来たんですね」

そう言ってグーハイは輝かしい笑顔をグーウェイティンに見せる。

グーウェイティンは少しこわばった様子ではあったが、確かにその表情には笑顔を浮かべていた。しかも普段の笑顔に比べてにこやかだ。

バイロインはゴホゴホと咳払いをして、グーウェイティンの後ろについて中に入ってきた。そしてグーハイの傍に来て口を尖らせながら、わざとらしくグーハイにキスをした。

グーハイはすっかり怒った様子で、イライラで歯がすり減るところだ。

「食事中だったか?」

グーウェイティンが料理の匂いがしたため、グーハイに尋ねた。

グーハイは偽りの歓迎を続ける。

「そうだ、父さんも一緒に食べますか?」

 グーハイがあえてこう言ったのは、グーウェイティンとこのまま一緒に食事をすれば難を逃れられると思ったからだ。それにグーウェイティンは息子からキスをされて気分が良く、息子からの誘いをすぐさま承諾した。

彼は二人の息子の向かい側の席に座る。そしてグーハイとバイロインは彼に疑われないように平静を装いながら箸で肉団子を掴み、自分のお椀に取って食事をする。

気づくと二個の肉団子が皿に残っていた。

そしてグーウェイティンが一つ取っていった。それはつまり、残りの一つは”奪い取る”しかないということを意味する。

その瞬間!

二人の箸が肉団子の皿の縁に同時に当たる。二人の動きは少し止まって、一度体勢を整える。そしてまだ”戦い”が始まっていないうちに、肉団子が空中に舞うのを目にして、美しい弧を描きながらグーウェイティンのお椀の中に落ちていく様を二人はただ見ていた。

「なかなかに美味いな」

グーウェイティンは肉団子を一口で食べた。

グーハイとバイロインは顔を見合わせて、がっくりと頭を下げた。そしてふて腐れるようにお椀の中をご飯を口の中にかけこむ。

グーウェイティンがバイロインを見ながら質問する。

「これは君が作ったのか?」

「いえ」

バイロインはグーハイに指をさしながら答える。

「彼が作りました」

それを聞いてグーウェイティンがグーハイのその二つの荒れた”匠の手”に目を向ける。この両手でどうやって肉団子をこねたのか、彼には全く想像がつかなかった。

さすがに親子なだけあって、グーハイはグーウェイティンの考えていることがすぐ分かった。

「肉団子は買ったんです、でも汁は俺が作りました」

グーウェイティンは頷き、ただ一言、

「とても美味い」

と褒めた。

グーハイは心の中で訴える。

ーー俺がガキの時、部隊であんだけ活躍してたのに、アンタは一度も褒めたことは無かった。なのに今は肉団子スープを作ったってだけでこのご機嫌っぷりは何なんだ!そうか、アンタの目にはせいぜい『料理が上手い息子』としか映ってないんだな?!

食事を終えるとグーウェイティンは、部屋の中をぷらぷらと歩き回ってあちこち物色していた。

ソファーにかけられているカバーのズレを見つけると、それを直した。それから無造作に落ちていた靴下の片割れを手に取ると洗面所に放り投げた……

バイロインはとても申し訳ない気持ちになる。この人は少将であり、軍の中でも位の高い人だ。そんな人が息子の部屋を片付けているのだ。

「…これは何だ?」

グーウェイティンの手には半透明で小さなチューブ状の入れ物(塗り薬の容器がそれに近い)が握られている。

それを目にした瞬間、グーハイの顔色が一気に変わり、素早く一歩踏み出して、強引にローションを奪い取った。

バイロインは隣でかなり困った顔をしている。非常にハラハラする展開だ。しかし幸いにもラベルは英語で書いてあるし、それにグーハイは眺める隙を与えないほど素早く奪い取った。

実は昨日、”とある人”が理性を失い、ソファーの上で”遊ばなければ”ならなくなり、バイロインはグーハイの悪い愉しみに抗うことができず、案の定相手をすることになった。その結果、絶頂に達するまで”遊んで”、うっかり『証拠』を戸棚にしまうのを忘れてしまったのだ。

グーウェイティンは疑いの眼差しでグーハイの手の中に握られているものを見ている。

「そんなに見られたくない様子で…それは一体何なんだ?」

グーハイは気まずそうに笑う。

「痔の軟膏…」

グーウェイティンは両目を細めて、グーハイのことをじっと見つめている。

「信じないんですか?」

グーハイはそう言ってすぐさま蓋をねじって開けて、自分の口元にローションを塗った。

「ほら、痔の軟膏でしょう?」

グーウェイティン「……」

 

 

ここのところ、学校でとある噂で賑わっていた。

 噂の中心人物は誰かというと、ずっと人気ランキングのトップに君臨しているあのヨーチー同志で、噂によるとどうやら彼に新しくガールフレンドが出来たらしい。しかもその女性は北京電影学院の現役女子大生だというのだ。XXというドラマにも出演していたらしい。家がどれだけ裕福なのか、はたまたどんな悪さをしてきたか……

ヨーチーが恋人に求める条件について、あることないこと多く語られていた。

ヤンモンも少し注目してみると、何人かの女子が彼に尋ねてきた。それでヤンモンはデマの流布者の一人となる。ヤンモンは無責任にもヨーチーのイメージを悪くするのが好きで、彼のことを卑しい男だのしょうもない奴だと言いたい放題だ。しまいには言い終えてから何が本当で嘘か当人が分からなくなる始末だ……

するとある日、ヨーチーがヤンモンを校門の前で止めた。

ヤンモンは袖をまくり上げて戦闘態勢に入っている。そしてヨーチーが手を伸ばした時、ヤンモンはヨーチーの腕の下をくぐろうとした。

しかし、それはヨーチーに見破られ、肘でぐいっと首を掴まれてヤンモンの思惑はあえなく失敗した。

「ちょっと手助けして欲しいんだ」とヨーチーが言う。

ヤンモンはあっけにとられる。

「僕に仕返しするために来たんじゃないの?」

ヨーチーもあっけにとられる。

「俺がお前に何を仕返しするんだ?」

「何でもない、何でもないよ……」

ヤンモンはニヤニヤ笑う。どうやら悪い噂を流していることは知らないみたいだ。

気持ちを落ち着かせてから、ヤンモンは普段のだらしのない姿に戻る。そしてヨーチーの肩を叩いてからかう。

「おまえに新しい彼女が出来たって聞いたんだけど?」

「新しい?」

ヨーチーはわざとこの言葉を繰り返した。

「以前にいつ、俺に彼女がいたんだよ?」

「先月、ほらあの人と……この学校で尻軽で有名な、名前は何て言ったっけ…?いや、そんなことはどうでもいい、彼女とは付き合ってないの?」

 ヨーチーは全く気にしていない様子で笑っている。

「噂にすぎないさ」

ヤンモンは緊迫したように問い詰める。

「お前ってやつは、本当にスターだね。まだ噂なんて言って、それが君自身さ」

「騒ぐなよ。真面目な話なんだ」

そう言ってヨーチーはヤンモンを旗の下に引っ張っていき、改まった様子で話し始める。

「お前に助けて欲しいんだ」

「何を?」とヤンモンは尋ねる。

するとヨーチーはキョロキョロと辺りを見回して、誰も他にはいないことを確認してから決心して話し始める。

「俺より五歳年が上の女がしつこく付きまとってくるんだ。俺は彼女のことなんか好きじゃないし、ストーカーだよ」

「まさか北京電影学院の美女の話をしているんじゃないよね?」

ヨーチーは仏頂面をしている。

「なんでお前が知っているんだよ?」

ーーくだらないね、だって僕も広めたうちの一人だよ……

ヤンモンは虚ろいだ表情を変えて、軽蔑の眼差しでヨーチーを顔を見ている。

「まだそんなご立派なことを言うの?わざわざ独り身の僕の前で、女性に付きまとわれているなんて泣き言を言って…そんなに嫌なら振ればいいだろ!」

ヨーチーはうんざりした様子で答える。

「本当に振りたいと思っているんだ」

ヤンモンはしばらくヨーチーの様子をこそこそと観察したのだが、どうやら嘘をついているわけではなく、本当に困っているようだった。

『縁』というものは本当に不思議なもので、時に凄い美女が目の前にいたとしても、惹かれることもなく、虚しい時を過ごしている時には、例え醜い容姿の相手ですらときめいたりするものだ。

「じゃあどうして僕のところに来たの?」

それからヤンモンは続けざまに質問する。

「それに対して僕がどう役に立つって言うの?」

「すごく役に立つさ」

話し出すと、ヨーチーが元気を取り戻し始めた。

ヤンモンはその様子を見てなんだか良くない予感がしてきた。

「もしかして代わりに僕に酷いことを言わせて、その美女を傷つけようって気じゃないよね?言っておくけど、そんなことできないからね。ヤン家では代々フェミニズムを支持してきているんだ。だから女性を傷つけるなんてことできない!」

「違う、お前は勘違いしてるぞ」

 ヨーチーはそっと含み笑いする。

ヤンモンはそれを聞いてほっとする。ヤンモンは人を傷つけるようなことを一番嫌うのだ。

「明後日、その女性が俺に飯をおごる予定なんだけど、お前に『俺の彼女』に扮して欲しい。一緒に行って、彼女に徹底的に諦めてもらうんだ」

ヤンモンはほっとしたのも束の間、驚いて咽るところだった。

美しいヤンモンのその顔は一瞬にして真っ赤になり、まるでぷっくりとした豚のレバーのようだ。口の中で歯がじりじりと音を立てて、鼻息からは血生臭ささえ感じるようだ。

「ヨーチー、お前!!……」

ヨーチーがヤンモンの肩を叩いて言う。

「お前を信じてるから!」

ヤンモンは咆哮する。

「なんで直接女性を探さないの?どうして僕が女装しなきゃいけないの?」

ヨーチーはヤンモンを褒めながらも貶していく。

「だって俺たちの学校でお前より美しい女性なんていないだろ?」

ヤンモンはそれを聞いて頷きながら、

「ホント最低だね」

と言ってヨーチーに背を向けて歩き出す。

しかしヨーチーがヤンモンをぐっと掴む。

「怒るなよ、別にお前を貶して辱めるつもりはないんだ。向こうは演技を学んでる。だから、もし本当は好きじゃない女の子を連れて行って、演技したところで一発で見抜かれてしまうのは目に見えている!でも俺とお前ならそうはならないだろ、お前は男だから俺は自然にお前と親しくできる」

「その子がお芝居ならすぐ分かるって知っているなら、尚更、僕が男だってすぐ気づくんじゃないの?」

とヤンモンは噛みついた。

しかしヨーチーはヤンモンの襟を引っ張り、根気強く説く。

「喉仏さえ隠せば、彼女からはお前が女に見えないって保証するから」

ヤンモンは泣きたいが涙も出ない。

ーーお父さん、私はまた恥をかきました…

 

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北京電影学院について

北京にある芸術専門大学であり、中央戯劇学院、上海戯劇学院と並んで「ビッグ3」BIG3と呼ばれる中国国内で最高水準の教育を学べる学校です。受験倍率は100~200倍で、最難関です。多くの芸能関係者を輩出しており、「不可抗力」謝炎役の孟瑞はここに編入し、卒業しています。

 

※グーハイとグーウェイティンのやり取りについて

中国語にはいわゆる「ですます調」は存在せず、言い方、丁寧な表現を使っているかなどでそれを判断して日本語を充てます。

グーハイはグーウェイティンに対して、あなた「你(ニー)」より丁寧な表現、あなた様「您(ニン)」と使っています。

この場合、ため口より敬語、丁寧な表現が妥当であると判断します。

もともと父親が軍の高官で、亡き母も名家の出で、親に対する言葉遣いも厳しい家庭かと思います。なので普段(キレてる時以外)のグーハイは恐らくグーウェイティンに対して敬語を使っているのかなと思います。

フォーマルグーハイはギャップ萌えですね、良き。

 

※ローションの入れ物について

ここ表現が意外と難しいなと思いました。正確には『半透明の薬管』と表現されており、イメージ的にはまさにドラマに出てきた痔の薬くらいの大きさのチューブ状の入れ物かと思います。日本だとドレッシングの入れ物のようなアレがどちらかというと一般的ですが、洗顔料(チューブタイプ)のようなものや小さいもので塗り薬くらいの大きさの入れ物もあり、今回登場したのはそのタイプですね。

外国ではドレッシングタイプのほうが少ないのかも?

 

てか公式設定で身長185cmなんですね、なかなかそんな高身長の人なんてアジア人でいないですよね、なんともすごいキャスティングだったんだ…

 

息子に唇奪われてウキウキするグーウェイティン可愛すぎかよ…グーハイファンクラブ会長やってもおかしくないな

 

:hikaru