NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第159章:ヤン家の勇猛な将軍

ヨーチーはアメとムチを使い、ついにヤンモンを説得してみせた。

土曜の午後、ヨーチーはヤンモンを連れて化粧品店を訪れていた。

店の中に入ると、中性的で男性か女性か判断のつかないスタイリストが二人、こちらのほうに向かってきた。声は少し野太いが、とても優しい口調だ。

「お伺いしますが、お二人は美容をご希望ですか?それとも変身をご希望ですか?」

ヨーチーはヤンモンを上から下まで見て、ズボンの股の間に視線を落として、固まる。

「彼を変身させてほしい」

スタイリストがヤンモンを一目見て、それからヨーチーは一目見る。最終的にヨーチーの顔を見つめるスタイリストの目は何とも取れない不思議な表情だった。

「本音を言えば私はあなたにやってあげたいんだけどね。あなたが秘めている素質は凄く大きなものよ。ちょっと変えるだけであなたのイメージを一変することだって出来ると思うんだけど。どう、やってみない?」

しかしヨーチーは急かす。

「それはまた日を改めて。今日は彼にやってほしいんだ」

スタイリストはそれを聞くと少し肩をすくめた。

「わかったわ。それじゃああなた達、私についてきて」

そしてヨーチーとヤンモンはスタイリストに連れられて、個室の化粧部屋に来ていた。

ヤンモンはその場所を見て、取り敢えず安心する。閉鎖された場所なら彼が男性から女性に変身する姿を誰かに見られないで済むからだ。

「じゃあ、どうしたいのか言ってちょうだい」

スタイリストは胸の前で両腕を組み、眼を細めながらヤンモンを観察している。

ヤンモンはずっと聞こえないフリをして、上品で小さな手でずっと服の袖をいじっていた。

するとヨーチーがスタイリストにはっきりと伝える。

「彼を女性に変身させてほしいんだ」

それを聞いたヤンモンの肩が震える。スタイリストが険しい表情をするのを想像していた。

しかし意外にも、スタイリストは喜んで引き受けてくれ、興味深く尋ねてきた。

「どんなスタイルがいいかしら?可愛い近所にいる妹系?野性的な若いダンサー?洗練されたインテリ系?お金持ちのお嬢様?それとも……」

ヨーチーはしばらく考えた後、意地悪な笑みを浮かべる。

「少しエロくしてくれたらそれで十分かな」

それを聞いてヤンモンが首をすっと回し、顔をヨーチーのほうに向けて、怒鳴り声を上げる。

「お前は殴られたいのか?」

ヨーチーは普段、勝手気ままな振る舞いをしたことがないが、この時の彼は顔に満面の笑みを浮かべてふざけていた。

スタイリストがヤンモンの頭の位置を元に戻し、鏡越しに彼の顔を注意深く眺めていく。そして輪郭を手でなぞり、まるで彼の顔の構造を研究しているかのようで、女性との違いを探し、どこから着手するか考えているようだった。

ヤンモンはそんなスタイリストの手慣れた様子を見て、思わずドキドキした。

 ーーもしかしてこの注文をするのは僕が初めてじゃないのかな?

スタイリストはそんなヤンモンの心の中を声が聞こえていたかのように、細長い指でヤンモンの頬を抓り、嬉しそうに話す。

「そんなに気を張る必要なんてないのよ。あなたの好みだって理解しているわ。今どき『男の娘』だってどこにでもいるし、あなたはそういう人たちを見習うべきよ。それにここまで来たのだから、自分のスタイルや自信っていうものをもたないと。どうして他人の目なんて気にする必要あるの?」

ヤンモンは田舎者だ。

首を少し傾けてヨーチーを見ながら訪ねる。

「『男の娘』ってなに?」

ヨーチーは百度バイドゥ:中国の検索エンジン、グーグルのようなもの)を使って検索し、ヤンモンにそれを見せる。

それを見たヤンモンの表情は真っ青になっていた。

スタイリストがヤンモンに化粧をし始める。ヤンモンはそんな自分の姿を見ていることができず、思いっきり目を閉じて、心の中でただ静かに推察している。

ーーこのスタイリストさんは男性?それとも女性かな?胸を見る限りは平たいけど、今どき別に胸が平たい女性だって珍しくないし…声を聞くと男性っぽいけど、所作はすごく女性的だし…

 ヤンモンの心の中にはある邪悪な考えが浮かぶ。直接そのスタイリストのズボンに手を伸ばして触り、アレがついているかどうか確かめたいと思っていた。

「私たちみたいに女性になりきるには、お手入れを覚えなくちゃいけないの。自分の肌を見てごらんなさい。色白ではあるけれど、毛穴が大きく開いているからどのくらい粉を使えばいいのか……」

ーークソ!女性ならそれでいいだろうけど、どうしてまだ僕に世話を焼くの?これって明らかに侮辱だよね?

ヤンモンは恥ずかしそうに片方の目を開けると、すぐ頭上にある”女”の首が目に入った。その喉仏の動きを見て、ヤンモンの眩暈がした。

ヨーチーはというと傍で座って退屈そうに携帯をいじっていた。そして、しばらくぶりにヤンモンの顔を覗いた。すると彼の顔から目を離せなくなり、ただ杨猛(ヤンモン)の顔をじっと見つめている。より正確な言い方をすれば、彼は杨“萌”(ヤンモン)を見つめていた。

 ーー全く完璧だ!

もともとヨーチーは、ヤンモンの顔はとても中性的に見えると思っていたため、ウィッグをつけてスカートさえ履けばOKだろうと思っていて、こんなに手間をかける必要はないものだと思っていなかった。しかし、相手は普通の女性ではなく芝居を学んでおり、念には念を、と思い保険のためにヤンモンをここまで連れてきたのだ。そしてここに彼を連れてきたのは、本当に無駄ではなかったのだ。

根本的にはヤンモンのままで顔立ちに大きな変化はない。しかし、実際にどこを変えたのか分からないが完全に女性の見てくれそのものになっており、しかもそれでいてこんなにも綺麗な女性として仕上がっているのだ。

「お前が男だなんて、本当勿体ないな」

ヨーチーはありのままを話した。

ヤンモンは鏡の中に映る自分の姿を見て、もうこの世界に絶望していた。

スタイリストがヤンモンを連れていき、服を着替えさせる。そして偽物の胸を彼に作ってあげたのだが、ヤンモンは死んでも被るものかと抵抗したため、スタイリストはヨーチーを呼んでヤンモンを説得するしかなかった。

「一度吹っ切れるしかないだろう。こうやって女装すると決めたからには徹底的にやろう。考えてみろ、ここまですれば誰も、お前を男だと見分けることなんてできないだろ」

ヤンモンはしばらく考え込んだ。

ーー確かにその通りだよね…

そして今は恥を忍ぶことにした。

ヤンモンを一度説得した後、スタイリストが再びヨーチーに対して”交渉”を仕掛ける。どうしても、無料にしてでもヨーチーのスタイルを作りたかったのだ。

そしてヨーチーは本当はやりたくなかったのだが、鏡の前に立ってみると、隣の”美人”とは不釣り合いになっていた自分に気づいた。

二十分後、ヨーチーが化粧部屋から出てくるのを見て、ヤンモンはすぐに正気でなくなった。

ーーなんで?どうしてヨーチーをこんなにイケメンにしたの?それに対してどうして僕をこんなに弱々しくしたの?

 

 

二人が街を歩いていると、すれ違う人たちに必ず振り向かれた。

ヤンモンは男としては背も低く貧相だが、女性になるとたちまち高富美(高身長・リッチ・美人の3高の略称)へと変身していた。

胸の前にあるこの二つのふくらみには未だ慣れず、ヤンモンは手で押してみる。すると弾力がとてもあることに気づき、ヨーチーの手を取って揉ませる。

「ねえ、どうかな、少なくともCカップくらいあるよね?」

そんな光景に周囲から不思議がるような目線を送られて、ヨーチーは堪らず咳払いをする。

「おい、もっと目立たないようにしろよ」

ヤンモンはすぐに黙り込んだ。

ヨーチーは隣を見てびっくりした。

以前のヤンモンが男の格好をしていた時は、彼がこんなにも大胆だと思わなかったが、女装をしている今、見れば見るほどに男らしくに見えるのは何故だろうか。

 

 

二人がホテルに着いた時には、すでに北京電影学院の美女はすでにそこで待っていた。ヨーチーは従業員に女性がいる個室のボックス席に案内される。向かっている途中、ヤンモンの心臓は狂ったかのように鼓動を速め、何度もヨーチーを裏切って帰ってしまおうかと思ったのだが、幸いにもヨーチーはそんな彼を見つけ、引っ張っていく。

ボックス席のドアを開けると、中にいた美女が立ち上がり、ヨーチーの元に歩いてきた。しかし、隣にいるヤンモンを見て、美人の顔から一瞬にして笑顔が消えた。

ヤンモンは目の前の美人がショックを受けた顔をしているのを見て、頭の中で何度もヨーチーに向かって唾を吐いた。

ーー自分が充分に幸せだということになんで気がつかないんだ。こんなにも綺麗な子が追いかけてきているっていうのに、君って人は一体なにを考えているんだ?

この美女は彼らよりも五歳も年が上で、しかも彼らより世の中を見ている。こんな時でも怒って物を投げるようなことはせず、未だ自分のイメージを崩すようなことはしないで、二人を温かく席に招き入れた。

「何食べる?好きに注文していいわよ」

美女はそういってヨーチーにメニューを差し出した。

するとヨーチーはヤンモンの前でメニューを広げ、ねっちこい口調で尋ねた。

「萌萌(モンモン)、何食べたい?」

ヤンモンは一切の反応を示さなかった。

ヨーチーは思わずヤンモンを見た。

ーークソ、こいつ目の前の美人に見惚れてやがるな…

ヨーチーは堪らずヤンモンの足を踏みつける。

ヤンモンはもう少しで大声を出すところだったが、自分の今の立場を意識してグッとこらえ、小声で怨みを呟くしかできなかった。

料理を注文し終え、ヨーチーが紹介する。

「こっちは俺の彼女、萌萌(モンモン)だ」

ヤンモンは不自然な笑顔を美女に見せた。

すると美女は笑顔に戻った。彼女は演技を習っているのだが、ヤンモンは笑顔の彼女の目から心が砕かれ悔しさを感じているのをはっきりと感じることができた。この時、彼は手を伸ばしてその愛嬌のある顔にそっと触れて、彼女の傷ついた心を慰めたいと心から思っていた。

しかし、残念ながらヨーチーは事前に注意していた。口を開くのは最小限に抑えたほうがいいと言われていたため、彼はただ静かに心の中で彼女を慰めるほかなかった。

ここまで来たら、美女が演技を習っているというより、むしろヨーチーが習っているといったほうがいいくらいだった。この美人を徹底的に諦めさせるため、彼は渾身の腕前を発揮していた。

食事をしている時も細かなところにまで気を遣い、ヤンモンに料理を取り、ヤンモンに何を食べたいか尋ね、その間に豆腐を食べて……非常に自然な演技で、恋人同士の親密な様子を見事に演出してみせた。

しかし、残念ながらどれほど用意周到なものにも一つくらいは落ち度があるものだ。

ヨーチーは気づいていなかったが、ヤンモンはそれに気がついていた。

彼の”胸”がずれていたのだ。

ヤンモンはお尻の力を使ってなんとかお腹を締めようとしたのだが、どんなに力を入れても、彼の”胸”は曲がったままで、姿勢を丸めると、それはとても見苦しいものだった。

そこでヤンモンはカバンをとって、自分の胸に押し当て、甲高い声で話す。

「お手洗いに行ってくるから、二人で話してて」

そう言ってヤンモンは小走りでトイレに駆け込んだ。しかし、彼は考えもせず、あろうことか男子トイレに入ったのだ。

先ほどの小走りのせいで、両胸のズレは五センチほどになっていた。

ヤンモンは鏡に向かってニヤニヤしながら手で支えながら直し始めた。

その時丁度、一人の男性がトイレをしようと中に入ってきた。そしてヤンモンの姿を目にして動きが完全に止まる。

そして五秒後、男性は顔を真っ赤にしてすぐさま謝る。

「すみません、すみません……」

そしてその男性は恥ずかしそうな顔をしながら反対側のトイレへと駆け込んでいった。

 

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 ※杨猛と杨萌について

猛(mĕng)は三声、萌(méng)は二声と発音は同じなのですが、声調のトーンが異なります。

猛を単体で見ると、日本語と同じような意味で「激しい、強い」といった漢らしい意味合いを持ちます。

萌を単体で見ると、この言葉は日本語のオタク用語「萌え」が中国に輸入されて同じ漢字「萌(モン)」として使われ、可愛いものに使われるネットスラングとして用いられます。

なのでドラマでもグーハイに「猛じゃなくて萌萌だろw」といじられていましたね。

男のヤンモンは杨猛で、女のヤンモンは杨萌なんですね、そして「俺の彼女、萌萌(モンモン)だ」というのも以前の章でも紹介しましたが、中国には名前を二度繰り返して呼ぶ愛称があり、可愛らしい響きにする文化があります。

この場合も扱いとしては「本名:杨萌、愛称:萌萌」という風になります。

これは女性であったり、アイドル(男女問わず)の名前に用いられる愛称です。

男らしい俳優さんとかには使わないかなーっていう感じですね。

 

最後の男性、結局女子トイレに駆け込んだというオチww

ヨーチーとヤンモン(女装)、完璧な美男美女カップルなんでしょうね

ドラマだと二人の絡みが少ないので少し寂しいですよね

それにしても、この美女はこの話が終わるまで名前すら出てこないのでしょうか、女性モブの扱い…

 

:hikaru