NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第77章:仕事狂

バイロインに会えず帰宅してからというもの、グーハイは全てを忘れるように仕事に没入し、狂った生活を送っていた。

社員も彼の溢れるエネルギーに置いていかれないよう必死になっていたが、グーハイの仕事量はその誰よりも上回っている。それは、数多の書類に囲まれながら眠りに落ちる彼の姿が証明していた。

「...会議の主な内容は、上場計画の協議だ。ここにいる皆は、俺が選んだ上場指導グループのメンバーなってくる。後でこの中から取締役会秘書を選出して仕事を覚え、次の会議から運用していこうと考えている。じゃあ、まずはトン副社長から......」

そう言ってトンにマイクを渡した瞬間、雷鳴のような拍手で歓迎された。これは大げさな比喩ではなく、確かに雷鳴のような拍手だったのだ。

現在、会社ではトンの人気がかなり高く、その勢いはグーハイに追いてしまうほどで、エンを除いた全ての女性社員から慕われていた。

「やっと私たちの会社に男性が来たのよ!」

「しかもイケメンだなんて〜〜!」

男性に飢えていた社員から人気を得ることなど、トンのルックスからしたら造作もない。

また、トンはグーハイと同じように彼女たちの視線を全て無視していたが、そのクールさも人気を助長させる素材にしかならなかった。

「でも、わたしたちに媚を売るよりクールな殿方の方が素敵よねぇ〜」

「むしろ、むしろ!もしかしたら、社長と二人が出来ていたり〜〜...」

「「きゃーーー!!」」

グーハイが経営する会社の社員は、他と比べて女性の偏差値は高めになっている。そんな環境でも相手にしない男性二人を、乙女たちはカップリングとして見つめるようになっていた。

「やっぱり、社長×副社長よね〜」

「えーー、何それぇ」

このカップリング騒動はエンも巻き込まれており、謎の恋人敵対関係が形成されていた。

それも仕方がない。なぜなら、エンがグーハイに近づこうとする度にトンがそれを拒むのだ。

エンも彼女たちの側で仕事をする以上、この噂は早い段階で耳に入っていた。

「んなわけないでしょう...」

最初はそう思っていたエンだったが、考えてみると確かに彼女たちの言う通りであることに気づき始める。

「確かに...。最近はやたらとあの二人が一緒にいるわよね」

嘘でしょ!?とエンは頭を抱える。

しかし、彼女はどうしてもグーハイが男性嗜好であることを信じられずにいた。

「トンの野郎が、グーハイのことを想っているのね...」

エンは導き出した結論は周りの噂とは少し違い、トンだけを異端とするものになっていた。

その結果、エンはトンのことを恋敵として次第に認識するようになったのだった。

 

 

 

「以上で会議は終了だ。じゃあ、最初に話した通り、次は臨時の取締役会秘書を決めたいと思う」

そうグーハイが発言すると同時に、一人を除いた全ての視線がトンの元へと集まる。

何も本当に秘書としての注目を集めてるのではない。トンがそのポジションについたとしたら、彼女たちは彼と話し合える機会が格段に上がることが理由だった。

 

「私がやります」

 

そう名乗り出たのはエンだった。

秘書の立場はかなり厳しいもので、誰もやりたがらないのが常である。そんな立場だとしても、エンはグーハイの側にいたかったのだ。

しかし、その自薦に呼応するかのように反対の意見が出る。

「いえ、私はトン副社長が務めるべきだと考えています。この業務は多忙を極めており、女性よりも男性の方が適当だと思うからです。また、トン副社長は香港で役員を経験していたことがあると伺っております。上場企業として運営するために、外部顧問を雇うよりもトン副社長が指揮をとっていただいた方がスムーズに移行できるのではないでしょうか?」

筋の通った意見に賛同の声が集まる。

「確かにその通りだと思います!力仕事は男性に任せましょう!」

圧倒的不利な状況に、エンは苦笑いを浮かべる。

「ご心配ありがとうございます。ですが、同じような事をこの会社の立ち上げの時より行なっていましたが、今よりも激務だったのにも関わらず特に問題はありませんでした。そして、取締役会秘書は企業と政府部門、仲介機構の関係を調整する必要があります。昔からの人脈は私が持っているものであり、その流れとして、私の方が適当であると自負しております」

エンもただやられる女ではない。

彼女が口を閉じた瞬間、グーハイがついて口を開く。

「ああ、確かに昔からの付き合いになるエンには期待している...」

その言葉を受けて、エンは勝利の笑みを浮かべる。

「だが、やはり取締役会秘書はトンに任せることにする。エンにはその補佐として、外部とのやり取りを任せてみたいと思う」

先ほどまでの笑みは瞬く間に崩れ落ち、綺麗な顔が紫色へと染まっていく。

ーーえ、どうして??!

彼女がこの職務を希望したもう一つの大きな理由は、社内での意思決定の強さと多くの業務に実行命令が出せるという点が気に入っていたからだった。

外部との協調は、その職に就いても周囲から文句が出ないように努力していた部分であり、本当に才能があるから取り組めていた業務ではない。

ーーなんでこんな酷い仕打ちをするの?

エンの思いとは裏腹に「大丈夫だろ?」とこちらをみてくるグーハイの頼みに、首を横に触れなかった。

 

 

 

会議が終わった後、エンは何人かの美人の後ろをトボトボと歩いて移動してた。

「ねえ、さっき会議中にペンが落ちたんだけどさ。拾おうとした時にヤバいものを見ちゃったんだよね〜」

「え、なになに?」

「私たちの社長の逞しい脚が、トン副社長のスラッとした脚と擦り合っていたのよぉ〜」

「ええ!?...嘘、ほんとに見たの?」

「見たのよ!」

確かな口調で人差し指を天に指す。

「それで顔を上げた時にね、お二人の顔を見たら〜...。すっごく熱い視線で見つめ合っていたのよ〜〜!!」

言い終わると手で顔を覆い、黄色い悲鳴をあげる。

「それが本当なら、相当な愛ね!!」

ーーうげ、気持ち悪い...。

耳に入れないようにしていても、声量の大きい女たちの声はエンの耳に刺さってしまう。

「もう嫌よ!!」

そう叫んで扉を閉めるエンだった。

 

 

 

 

深く息を吸って、トンは白い煙をゆっくりと吐き出す。

「彼女はすごく質がいいはずなのに、なぜあなたの前では浅はかになってしまうのでしょうか...?」

トンはどこか憂うように、笑みを含みながら口にする。

トンの言葉がグーハイに届くことはなく、その脳内はスケジュールを確認した時に思わずバイロインと離れている時間を瞬時に計算していた。

ーーだめだな...

今は考えないように仕事に没頭していたつもりだったが、どんな些細なことでもバイロインのことを思い出してしまう。

「そういえば、あなたも料理が得意なんですよね?」手に持つライターを弄りながらグーハイの方を見つめる「仕事が一段落したなら、ご馳走してくださいよ」

今度はしっかりとグーハイに届いたようで、怒り狂った獅子のような表情を返された。

「まだそんな怒っているんですか?...もう何に怒ってるのかよく分かりませんよ」

あの日以来、グーハイから度々何か言われることがある。しかし、トンにとってその内容は理解できないものばかりだった。

「思い立ったら吉日と言いますし、さっそく今日お伺いしても?」

トンは気にしないような食事の話を続けるが、それに対してグーハイの堪忍袋の緒が切れかける。

「...おい。エンがいない時はお前も俺の前から消えろ」

「... ...。」

タバコを押し消し、長い足でゆっくりとグーハイに近づく。その距離は、二人の顔が残り数センチのところまで縮まった。

トンの瞳が、グーハイの双眸を捉える。

「もう、十二日もまともなご飯を食べていないでしょう?...そろそろ自分を許して下さい」

 

 

 

 

結局、グーハイはトンを家に招いていた。

玄関から入り、トンは靴を脱いで用意されていたスリッパを履こうとしたが、その手前でグーハイに止められる。

「これは駄目だ。...新しいものを持ってくる」

そう言って玄関に置かれていたスリッパを抱えると、大切なものを仕舞うように寝室へと運んでいった。

 

グーハイが台所に立っている間に、トンは広い家を観察していた。

ーーベッドとバスタブは一つずつなのに、なんで食器も歯ブラシも同じものが二つずつあるんだ?

食器などはスペアで考えられる。しかし、ベランダに干された男物の下着はどうにも引っ掛かる。

「誰かと同居しているんですか?」

トンは意外そうに問う。

ダンッッ!!

まな板に対して四十五度に傾きながら突き刺さった刃物を置いて、グーハイは冷たい表情で振り返る。

「あ...」

なぜ、グーハイがトンに対して「お前は俺を傷つけた」と言っていたのかが、漸く分かった瞬間だった。

ーー誰だ。誰がこの人の周りに...

よく考えてみたら、意外にも簡単に特定することができた。

「あぁ...なるほど」

 

 

 

 

 

「ささ、お酒でも飲みましょう!」

トンは手品のようにかばんから酒を一本取り出す。注がれたグラスから、かなり度数が高い香りが漂った。

今のグーハイにとって、お酒はリラックスするのに最適だった。

グラスが何回か空くにつれ、食卓にも豪勢な料理が品を揃えていった。

 

 

「まさか、お義兄さんとなんてねぇ〜...」

トンは感慨深そうに切り出す。

「でも、彼は確かに魅力的なお方だ。この私ですら、彼のことをよく知りたくなるほど良き香りが漂っていました」

トンの話を受け、酒に酔ったグーハイは熱い吐息を漏らす。

「だから困るんだよ...」

その目には厳しさなどなく、緩く純粋な瞳になっていた。

「あいつはクソ真面目だから、今頃自分を痛めつけて訓練をしてるに違いないんだ。...くそ、それを考えるだけでも苛ついてくる」

トンはまぁまぁと宥めながら、空いたグラスにお酒を注ぐ。

「インズは...おべっかもできない馬鹿野郎だ。適当に過ごせばいいのに...。それが心配で、ずっと一緒に居たいんだけど...」

ぐっとグラスに入った液体を飲み干し、食卓へと叩きつける。

「...でも、そうしたら嫌われるんじゃないかって。怖くなるんだ。」

滅多に見ることのできないグーハイの弱音に、トンは頬を緩める。

「そんな杞憂で済むようなことよりも、まずはあなたに引っ付くあの女をなんとかしないと」

「...そうだな」

吐息と一緒に出てきたその小さな声に、トンは眉を上げながら心配の息を吐くのであった。

 

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どうも、まだ社会に馴染めないnaruseです...笑

時間が空いたので、パパッと翻訳してみたのですが〜。眠たくて、ちょっと文章がおかしくなってる部分があるかもしれません!

 

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