NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第80章:俺は、ずっと想っていた。

海淀分署花園路警察署では、警察官のグループが机を囲んでトランプをしていた。

「おい! 遊ぶのはそこまでにしろ!!」

チャオ班長は声を張って呼びかけ、急かすように手を叩く。

「仕事だよ!ほら、早くカードをしまいなさい!!」

面倒くさそうな表情を浮かべながらカードを引き出しに放り込み、だらだらと帽子を被った警察官が、班長の前に列を作っていく。

「今日の午後、西部のジンドゥーホテルで行われる時計ブランドの推薦イベントに著名人が出席する。現場の秩序を維持し、著名人の安全を守るのが、君たちの責任だ。」

ヤンモンの隣に立っていたシャオリーズーが意気揚々と口をひらく。

「その著名人は女性ですか!!?」

班長は眉間に皺を寄せながら、「男だ。」と質問に答える。

「くっそー!!」

小柄な割に野太い眉を寄せながら、シャオリーズーは愚痴をこぼす。

「男性アーティストがイベントに出席し、警察に護衛を頼む?・・・どんだけ臆病なやつなんだよ!」

愚痴はまだまだ、止まらない。

「そいつには個人で抱えているボディガードすらいないのか?そいつに何かあったら、それを俺らが守らないといけないのかよ!?」

この愚痴に呼応するように、隣に立っている警察官たちも口を開き始める。

「そうだそうだ!ホテルには警備員がいないのか〜?」

「なんで俺らが行かなきゃならねぇんだよ!」

「金をくれ!金がなきゃやってられねぇよ!」

部下の愚痴を一通り聞いた班長は、手を挙げて静かに口をひらく。

「やめ。傾聴するように」

先程まで煩かった彼らは一瞬にして静まり、署内は静寂に包まれた。

「 当初、ホテル側は警備以外に警察を派遣する必要はないと言っていたが、局長命令でこの任務は決定されたんだ。それもこれも、この有名人様が広告してくれている時計ブランドは、局長の義兄の会社が設立したものが理由にあるからなんだ。」

納得してくれたか?と目配せをして、話を続ける。

「全員行くのはまずいので、シャオザイとウーハオは署内に残り、残りのメンバーが私と共についてくるように!」

班長の語尾に合わせるように、「はい」と号令がかかった。

 

 

現場へ向かう途中、ヤンモンは宣伝ポスターを手に取り、じっと眺める。

「犬も火照るその…」

一字一句読み終えた後、ヤンモンは声を荒げる。

「はぁ? これが名前だって!? こんな名前をつける親は最悪だな!!」

隣にいた警察官は、声を荒げるヤンモンを同情的な目で見て、「それは広告の宣伝文句だぞ・・・」と優しく伝えた。

「え!?」

その優しさに触れ、ヤンモンの目は左右へひっきりなしに動いていた。

「い、いや!この単語を見て、苗字だと思ったんだよ!」

 

 

 

ヤンモンと他の数人の同僚がプロモーション会場に到着したとき、すでに数千人のファンが会場を取り囲んでいた。

レッドカーペットの両側には長い非常線が2本設置され、その中を数十人の警備員が電気警棒を持っては往来し、非常線を越えた者には直ちに厳重警告が与えられるほど厳重な警備体制をとっていた。

ヤンモン達は車が停まる位置に立ち、有名人が来るとエスコートをする役を担っていた。

ーーなんだってやりたくない、こんなこと・・・。

周囲からは邪魔をしてくる、恨まれる存在として警備はその任を果たさなさいといけない。

 


午後二時ごろ、二台の高級車がホテルの前に停まる。

ヤンモンと数人の同僚はそれを確認すると、急いで急いで駆け寄り、エスコートの陣形を整えた。

記者らに押さ、もがきながら車のドアを開け、有名人の彼に車から降りるよう促し、会場に入るまで必死になって守り続ける。

「きゃああああーーーー!!!!」

犬の遠吠え、いや。何か機銃の音に似ている悲鳴が至近距離で四方から放たれる。

ーーうう、耳が。

ヤンモンは弱さを見せずに歩き進めなければならない。

もし、弱さを見せてしまうと、そこを狙って周囲のファン達が押し寄せてくるからだ。

「どぅああああ!!!!!!ぎゃーーー!!!!」

ーーそんなに凄い人なのかよ、やめろ!!!

ヤンモンは、そう心の中で叫び続けるが、おばちゃんを筆頭としたファンも叫ぶことをやめず、ひたすら警備員の耳を破壊しようとする。

ーーもう麻痺して何も聞こえなくなってきたよ・・・

十メートル以上歩くまでに何度も靴が脱げ、制服は何度も破れそうになった。

ーー国慶節の満員電車でもこんなじゃなかったぞ!

 

ヤンモンは追っかけはもちろんのこと、いわゆる“推し”を作ったことがない。

若い頃、何人かの有名人が好きだったこともあるが、もって数日以内に興味が薄れ、頭の中から居なくなっていた。

大人になった今では有名人自体に興味を失っていたため、護衛対象の有名人が車を降りた瞬間から今に至るまで、ちらりとでも顔を見たことはなかった。


あれからどのくらいったのだろうか。

ホテルまで続くレッドカーペットの途中に差し掛かった頃には、ヤンモンが着る制服のボタンはすでに2つ取れていて、襟は首の後ろの方へと捻じれていた。

誰かがヤンモンのズボンを掴み、その裾をまた他の誰かが踏んだため、勢いに負けてベルトがカチッと音を立ててズレ落ちようとしていた。

ーーやばい!!

ヤンモンが慌ててズボンを引き上げようと手を下げた瞬間、ファンは包囲網の弱点を狙って一点突破を仕掛ける。

「あそこ!!」

現場はたちまち混乱に陥り、ズボンを直したヤンモンが慌てて流れるファンを阻止しようと奮闘するも、暴徒と化したファンの渾身の一撃がヤンモンの息子へとミートする。

「ひゅおっ!!」

ヤンモンの悲痛な叫びはファンの怒号にも負けず劣らず、近くにいた同僚は然り、守っていた有名人へまでも届いた。

「ヤンモン!!?」

名前を呼ばれた本人は痛みのあまりに途方に暮れていたため、誰が自分を呼んでいるのか全くわからなかった。

しかし、助けに来てくれた人が自分の捻じれていた襟を正し、身につけていたそのサングラスを外して肩を揺らしてくれたことで、初めて認識することができた。

「ヨーチー!?! お前が、なんでここに!?」

驚くヤンモンの声を聞いて、周囲のファン達は声を荒げる。

「私たちのアイドルにお前ですって!?」

「あなた、何者なのよ!!」

事態の収束を図った警察や警備員らは「早く行きましょう!」と呼びかけて、二人ともホテルの中へと急いで運んでいったのだった。

 

 

 

暫く落ち着いてから、ヤンモンは自分に起こった状況を把握する。

「まさかとは思うけど、今日の有名人ってのは・・・お前?」

ヤンモンの発言に周囲の同僚は慌てふためく。

護衛対象への無礼な発言をした同僚と一緒にいると、自分たちまでとばっちりを受けかねんと同僚達が離れていく中、仲のいい後輩が恐れることなく親切心でヤンモンへを説得する。

「先輩、今の言葉を撤回して今すぐ戻りましょう? ここには記者もいるんです。恥ずかしい目に遭う前に、ここから離れましょう?ね?」

後輩の忠告を聞き入れることなく、沸々と湧き上がる感情を宥めながらヤンモンは語気を強める。

「恥ずかしいと思うなら、後ろに下がってるあいつらと一緒にお前も戻って行ったらいいだろう!!」

ヤンモンはヨーチーを鋭い目で見つめながら、自身の拳を硬く握りしめる。

「今日の要人がお前だってわかってたら、あんなことしなかった。護衛にも名乗り出なかったのによ!!」

悲痛な叫びに、ヨーチーは応えることなく沈黙を貫いた。

 

 

 

製品の宣伝会場にて、ヨーチーは広告塔としてメディアのインタビューを受けている。

その様子をヤンモンは、少し離れたところから見つめていた。

インタビュアーはまるで美しい花を見るような惚けた表情でヨーチーを眺め、彼もまたそれに呼応するように美しい表情を浮かべていた。

ーーあいつ、あんな表情しやがって!あいつが広告してるんだ、クソ製品に違いない。

ヤンモンの苛つきは収まらなかった。

「あと、どのくらいで終わりますか?」

ヤンモンは近くにいたスタッフに尋ねる。

ヨーチーに見惚れていたスタッフは彼の質問に少し遅れて気づき、「あと〜、最低でも二時間くらいはかかるんじゃないですかぁ?」と適当に返事をする。

「なんだって?・・・俺はお腹が空いてラーメンが食べたいのに」

思い切って行動することを選んだヤンモンは、一番良い席を他の人に譲り、急いでホテルを出て、向かいにあったラーメン屋へと走っていく。

たった、七百円のラーメンを食べる。

これが彼の人生であり、幸せだった。

 

 

ヤンモンが食事を終える頃には、インタビューはすっかり終わっていた。

「あれ、あいつは・・・」

ヤンモンの姿を探すが、どこにも見当たらない。

久しぶりにちゃんと昔の話でもしようと思っていたが、最初に居たはずの場所から、気がついた時には居なくなっていた。

「今夜はカクテルパーティーがあるそうです。参加されますか?」

キョロキョロと周囲を見渡すヨーチーの側にマネージャーが近寄り、そう尋ねる。

「いや。・・・行かないでおくさ」

 

 

断った手前、裏口からこっそりと退出し、ヤンモンが勤務していた警察署へと脚を運ぶヨーチー。

しかし、勤務先に着いた頃にはすでに退勤している様子だった。

「すみません、昔からの仲なんです。今の住所を教えてもらえますか?」

「あ、なら送って行きますよ!」

有名人の頼みだ。無碍に断れない後輩が、ヤンモンの住む家の近くまで案内してくれた。

 

 

案内された家の扉をノックする。

「すみません・・・」

その瞬間、まるで広場で妖艶な踊りをするかの勘違いしてしまうほど濃いメイクをしたおばさんが踊りながら扉を開けた。

「あら。ヤンモンなら父さんと散歩に出かけたわよ。そうね、暫くここに座って待っててちょうだいな」

そう言って現れたのは、ヤンモンのお母さんだった。

 

二人の帰りを待っている間、お母さんはヨーチーのことをじっと見つめては何かを思い出そうとしていた。

数十分経っただろうか、急に手を叩いて口を開く。

「あなたは〜・・・何て言ったかしら?・・・すごく見たことある。名前は思い出せないけど、多分私が見ていたドラマに出ていなかったかしら?」

母親の質問に、笑顔で応える。

「あ、すみません。自己紹介がまだでしたね。僕は、ヨーチーと言います」

それと、恥ずかしそうに「 ドラマには一回出演しただけで、主人公ではなかったです。脇役だったので、まさかお母さんが僕を知っているだなんて・・・」と付け加えた。

「やっぱり!初めて会ったときから、すぐ分かったわよ! だって、あなたが演じた裏切り者の役はめっちゃイライラしたもの!!・・・裏切り者!人の虐め方を理解している人!そう思ってたもの!」

母親の憎しみ方をみて、ヨーチーは眉を顰める。

「失礼ですが、僕はそんな役やったことないです・・・」

 

 

十分後、ヤンモンと父親が戻ってきた。

中にいたヨーチーを見て驚きを隠せない息子を抑え、興奮を抑えきれない父親が「まさか!ヨーチーさんですよね!? 私、ファンです!まさか!!」と慌てて家の中に入り、強い握手を交わした。

散歩をしている途中、ヤンモンは父親に職務でヨーチーに偶然会ったことを話していたが、まさか父親がここまで興奮するとは思わなかった。

ここ数年の苦労話を父親に愚痴っていただけに、その様子をみてショックを受けたほどだ。

実の父親がここまで色情狂的な表情を浮かべるのを見て、ヤンモンは息子として頭を抱える次第だった。

 


ヨーチーと父親の二人は、リビングで座っておしゃべりをしていた。

「お父さん、これ」

そう言って、ヨーチーはヤンモンの父親に映画試写会のチケットを差し出す。

「来週、僕が出演する映画が公開されるので、ぜひよければ・・・」

まさかの出来事に目を光らせる父親を横目に、ヤンモンはわざとらしい舌打ちをする。

「どーせ、大した役もない映画だろ?」

ヤンモンの不敵な笑みに対し、ヨーチーも意地悪な笑みを浮かべる。

「残念、これでも主役の一人だ」

ヤンモンは少し悔しそうな顔を浮かべながら「ま、本当の主演じゃないだけお似合いなんじゃない?」と頷いた。

 

 

ヨーチーは出されたお茶を一口飲みながら、その瞳に限りない感情で輝せていた。

「まさか、お前が本当に警察官になるなんてな!」

「お前が知らないだけで、予想外のことなんて沢山あるんだよ!・・・知らないだろうから言うけど、バイロインだって・・・」

「空軍のパイロット、だろ?」

ヨーチーがヤンモンの言葉をさえぎる。

「数日前に会ったよ。グーハイと一緒だった。」

「え?」

ヤンモンはその言葉を聞いて、驚く。

「なんで一緒にいるんだ? だって、二人は喧嘩してるだろ?」

「どのくらい前の話だ? それ。」

ヨーチーの問いに暫く考え込むと、「まあ、もう半年近く経つ・・・のか? いやぁ、時って経つの早いよなぁ」と誤魔化した。

変わらないヤンモンに、笑みを浮かべるヨーチー。

そして、しばらく見つめ合った後、ヤンモンが躊躇いながら口を開く。

「もしかして、まだインズのこと・・・?」

「いや?」

ヨーチーはすぐに否定した。

「忘れたわけではないけど、もう固執はしてない。・・・ただ、俺はどれだけ経ってもお前のことを忘れられないでいるよ」

その言葉を聞いて、ヤンモンは少し嬉しそうな表情を浮かべる。

「俺が居なくて寂しかったのか?・・・寂しい間、どうしようとしていたんだ?」

その問いかけに、ヨーチーは「わからない」と静かに伝える。

「あの時、俺の心は複雑だったんだ。ただ、何年も経った今になって振り返ると、インズに関する記憶はすげぇ曖昧になってるんだよ。」

段々と大きくなる声を抑えて、ヨーチーは言葉を紡ぐ。

「でも、俺とお前。その間に起きた全てのことは、めちゃくちゃ鮮明に覚えてる。」

ヨーチーの熱い言葉を受けて暫く沈黙が続く。

 

 

「長いこと合わない間に、頭をどこか強く打ちつけてきたのか?」

沈黙を破ってヤンモンの口から絞り出して出てきた言葉だった。

 

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こんにちは!1年ぶりですか??

お久しぶりです!!なるせです!!

久しぶりの投稿は記念すべき80章目ですね!!笑

コロナも終わり、僕が姿を消したり現したりしている間に、いろんなことが進んだと思います。

きっと、もうハイロインには興味を無くした人や、僕のことを忘れてしまった人。

もうすでに全ての小説を読み終えた人。タイ沼だって同じです。

翻訳や沼活を続ける時間や気力は、取り戻しては失いを繰り返していました。

だから、また復活です!とは言い切れません。

ただ、数年前の僕の願い。この小説を最後まで翻訳する。この言葉は曲げないようにしたいなと思い、翻訳を再開させてみました。

また、このブログの総アクセス数が100万回を超えたことも、更新に至った理由の一つです。

まだ、このブログを訪れてくれる人のためにも、ひっそりと続けて行きたいと思います。

中国やタイなどBL界隈の状況は全くわかりません。今から無理して追いかけようとも思いません。ただ、まだ僕のことを覚えてくれる人がいたら、ゆっくりと付き合って行って欲しいです。

 

翻訳に関しても、物語を忘れているので口調などおかしい点があるかもしれませんが、お付き合いください。

また、何か粗相がありましたら、何なりとお申し付けください。

 

ps.最推しのOhmくんが来日するそうですが、チケット代が高くて買えなかったです、、。

それと、男性一人で参加するのが怖かったというのも断念の理由です。

もし何か、イベントがありましたら、一緒に参加してくれる優しい方を募集しています!

 

:naruse