NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第132章:柔らかくて甘い元宵

半月近く静まり返っていた北京の街もようやく賑わいを取り戻した。

バイロインとヤンモンは朝早くから北京城の前門に向かった。前門通りは伝統的で鮮やかなイルミネーションで飾られており、まるで光の海のような美しさである。周りを見回すと演劇、マジック、サーカスなど様々な催し物で賑わい、その他にも北京の伝統的な物で溢れかえっている。

通りの屋台ではとても美味しそうな料理達が振る舞われている。バイロインとヤンモンは食べ歩きをしていると、すぐにお腹いっぱいになった。

「ねぇ、インズ!面白そうなゲームやってるよ!」

目の前には謎解きが書かれたボードがあり、上には赤い紙が貼られている。力強い筆の字でたくさんの難しいクイズが書かれている。もし全部正解できれば一袋のお団子か元宵(茹でて食べる餡入り団子)が無料で貰えるが、クイズを一つでも間違えると二度目は挑戦できないというものだ。

バイロインの順番が来ると彼はあっけなくほとんど全てのクイズを簡単に当ててしまう。ヤンモンは惜しいところまでいったが最後の一問を前にして間違えてしまった。

一日かけて行う予定だった全十五問のクイズを五分もかからずに最後の一問まで解かれてしまい、スタッフはつい恥ずかしそうな顔をする。

「答えは…勝友如雲!(中国の諺:良き友が一か所に集まること)」

バイロインがそう答えると、答案担当の少女が困り果てた顔をしてスタッフに耳打ちする。そして司会のスタッフが言う。

「不正解です!次の方!」

「…おいっ!そんなわけないだろ!」

バイロインは自分の回答に絶対の自信があり、少女から答案表を奪い取る。そして確認するとやはり正解していた。

「ねぇ、なんでこんなことするの?僕たち正解なのになんで不正解なんて言うの?」

ヤンモンは虎の威を借る狐のように隣で喚き出す。最終的に責任者が出てきて、笑いながらバイロインとヤンモンを見て話し出す。

「新年とはめでたいものです。私達もあなたに景品を差し上げたいのですが、もっと多くの方にこのクイズにご参加頂きたく思っているのです。あなた達イケメンが博識であることは分かりました。プレゼントが欲しくなってクイズに参加すればきっと幾らでも獲ることができるでしょう。でも周りをご覧下さい。多くの方がお待ちでしょう?その方々にもチャンスをあげようとは思いませんか?」

バイロインは少し腹が立ったが大人の対応を取り、二人は体の向きを変えてそこを立ち去る。しかし、少し歩くと後ろから何者かの声がする。

「ねぇ、待って!これ持っていって!」

バイロインは声がする方を向き、何かが飛んでくるのを見てそれをキャッチする。

何かと思い、よく見てみるとそれが何かすぐに分かった。ヤンモンは思わず声を出す。

「インズ!これ元宵だよね?すごく大きいね…これ、もう茹でてあるのかな?」

バイロインはしばらくじっと考えた様子でいたが、どういうことかすぐに理解して受け取ることにした。そしてそのまま祭りを楽しんだ。

日が暮れるまでに街の全てのイルミネーションが点灯された。バイロインとヤンモンは街頭に立ち、とても綺麗にライトアップされた美しい夜景をしばらく楽しんで、満足そうに家に帰った。

 

 

バイロインが帰宅すると食事がすでに用意されており、家族皆がバイロインの帰宅を待っていた。トンテンがバイロインを見て素早く椅子を持ってきて、「早く座って」と言ってきた。

「ほら、早く座りなさい。よし!食べるぞ!」バイハンチーが食事の合図をした。

各々がお酒やジュース、お茶などが入ったコップを掲げ、乾杯する。

「さぁ、食べて食べて!」

「いや、先に元宵を食べるよ」

「あぁ…そうだね、それがいいよ」

一家はテーブルを囲んで賑やかに食事している。皆それぞれが幸せそうな表情を浮かべている。先日の慌しかった一連の出来事など全く気にしていない様子だ。この日は今年最後の日であり、嫌な話をするのは無粋である。楽しい話だけをして楽しい雰囲気のまま、新しい年を迎えるのだ。

バイロインは静かに皆の笑顔を眺める。彼らがお互いに楽しい話をしているのを聞いて、とても柔らかくて甘い元宵を食べている。深い温もりが心の底まで沁み込んでくるのを感じる。

バイロインは今まで母親のせいで不幸に感じていた。しかし今は幸運なことにこのように彼を暖かく包み込んでくれる家族がいるのだ。

バイロインの瞳の中で光の波が煌めく。そして静かに箸を置いて立ち上がり、その場を離れる。

バイロインが立ち去るのをツォおばさんが一番に気づいてバイハンチーを突いて聞く。

「ねぇ、インズどうしたのかしら…全然食べないし、お腹空いてなかったのかな?」

「…ちょっと見てくる」

そう言ってバイハンチーはバイロインを追いかける。

 

バイロインは自分の部屋に行き、衣服などを簡単にまとめ、スーツケースに詰める。そしてとても大きな元宵がいくつか入った袋を手に持って部屋を出る。

丁度部屋から出てきたバイロインを見つけ、バイハンチーはびっくりした表情で彼を見ている。

「おいおい…もうこんな夜中だぞ?どこに行くって言うんだい?」

バイロインは穏やかに答える。

「親父…俺もう帰るよ」

「今日は年越しだぞ?年が明けてから帰るんでいいんじゃないか?」

バイハンチーが促すもバイロインは動かない。

バイロインの顔は決意に満ち溢れており、どうしても行くつもりなのだとバイハンチーもわかったが、どうしても引き止めたかった。

「もし…どうしても行くっていうのなら、せめてご飯を食べてからでどうだい?」

バイロインは心苦しくなりながらもバイハンチーに答える。

「もうお腹一杯なんだ。二日で帰るからさ、おばあちゃんたちに伝えておいてよ」

バイハンチーはため息をつき、聞き分けのないバイロインに少し呆れながらもバイロインの肩に手を置いて一つアドバイスをした。

「わかったよ…行きなさい。ここには家族全員揃っているんだ、一人足りなくても問題ないだろう。それにダーハイのお父さんは軍の基地に行ったみたいだし、あの子を一人で年越しさせるのは可哀そうだろう」

 

”子を知ること親に如かず”(子供の知っていることはその子の父が一番知っている)

バイロインは何も言わず、背を向けて家を飛び出した。

バイハンチーは北風が吹きすさぶ中に立っている。バイロインの後ろ姿がどんどん小さくなってくる姿を見て、思わず涙を流さずにはいられなかった。

ーーあぁ…”成長した子は家に置くな”なんて言うが…そんなの辛すぎるだろうが…

(中国の諺:女大不中留”成長した娘は家に置くな”  娘は生家を支えることができないため、なるべく早く嫁に行かせろという意味)

 

 

グーハイはソファーで目を覚ます。部屋の電気はつけっぱなしのままだった。カーテンは閉まっていて今が昼なのか夜なのかもわからない。もっと言えば今日が何日かさえ定かではない。

ここのところずっと抜け殻のような生活を送っている。めまいがしながら回りを見回す。部屋の中は酷く散らかっていて、酒の空き瓶が多くが散乱している。中に酒が少量残っているものもいくつかある。胃の中はアルコール以外何もなく、何日も食事をしていなかった。いつも胃が燃えるような痛みがし、そこに冷えたビールを何本も流し込む。すると次第と感覚が薄れていった。

グーハイは立ち上がる。全身の筋肉と骨が痛み、ふらふらになりながら窓まで行きカーテンを開ける。外は既に日が落ち暗くなっていた。

虚ろな目で外の街の景色を見下ろす。外の明かりがとても明るく、多くの人で賑わっている。一つ一つ小さな光の玉が空に伸びていくつもの大きな花が咲いて夜の空を彩っている。

グーハイはボーっとしながらカーテンを閉めて冷蔵庫を開けるが中には何も入っていない。

目で床に落ちている酒瓶を見回す。そしてまだ未開封の赤ワインのボトルを見つける。ソファーのすき間を使ってワインのつまみを少し捻り出し、後は何度か手でねじり栓を抜く。そしてそのまま直に飲んだ。

ゴクッ、ゴクッ、と二口飲んだところで玄関のチャイムが鳴る。

一度飲むのを止めたが聞こえないふりをしてまた飲み続ける。

またチャイムが鳴る。

グーハイは不意にワインボトルをテーブルに落としてこぼした。立ち上がり、ふらふらになりながらなんとか玄関に向かう。

頭がチクチク痛む。何日もろくに動かすことのなかった指では上手くドアノブを開けることができず、最終的にどうやってドアを開けたのか自分でも分からなかった。

 

外に一人の男が立っている。

 

グーハイは状況が理解できず完全に固まる。

 

バイロインの姿を見ると、彼は最後に別れる前に着ていたダウンジャケットを着ていて、グーハイが渡したスーツケースを引いている。手にはクリスマスイブにグーハイがプレゼントした手袋をしている。

 

時間が止まる。

 

二人は口を開かず、お互い静かに見つめている。

 

そしてついにグーハイは外に大きく一歩踏み出し、バイロインを懐に強く抱き込む。

もう二度と触れることすら叶わないと思っていた人をまた抱きしめることができたグーハイの感情は何にも形容することはできない。

グーハイの心が受けた衝撃は誰もわかるはずがない。

今のバイロインがグーハイにとってどれほど得難い存在であるか誰一人として知る人などいない。

グーハイは片方の腕をしっかりとバイロインの背中に巻き付けて離さない。まるで自分の体に取り込んでしまうかのように強く抱きしめている。もう片方の腕から伸びる手で優しくそっとバイロインの頭を抱いている。交差した顔が触れる。グーハイの唇がバイロインの耳がこすれ、バイロインの体温が伝わってくる。

元々、ここに来るまでバイロインの心はとても落ち着いていた。チャイムを鳴らす時でさえ冷静だった。しかしグーハイに抱きしめられた瞬間、色んな感情が一気に湧き上がってきた。

 

そして、どれほどの時間が過ぎただろう。やっとバイロインが口を開く。

「グーハイ…俺はお前がやったこと、忘れてないからな」

グーハイの体が強張る。しばらくしてバイロインを離し毅然とした眼差しで見つめる。

「…”借り”はちゃんと返してもらうからなっ!」

バイロインはいやらしく微笑む。そしてすべての問題が無くなったかのような態度でグーハイに持っているものを差し出す。

グーハイはバイロインが手に持ってる袋を見て質問する。

「これは…なんだ?」

「元宵だよ。クイズの景品で貰ったんだ」

グーハイは急いでカレンダーを確認する。やっと今日が元宵節であることに気づく。そして一瞬で心の中に幸せな気持ちが溢れ出す。

 

 二人は部屋に入り、リビングで少しくつろいでからすぐにグーハイがバイロインに話す。

「じゃあ俺、元宵茹でて来るからさ、お前はここで座って待っててくれ」

そういってグーハイはキッチンに行き、鍋に水を入れて火をかける。するとすぐバイロインがキッチンに顔を出す。

「グーハイ、一つ忠告だぞ。一度に全部茹でろ。もし一個ずつ味見して捨ててたら俺たちが食べる分が無くなっちまうからな」

 

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あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙

む゙り゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙

グ゙ー゙バイ゙ー゙ー゙ー゙ー゙ー゙ー゙ー゙ー゙ー゙ー゙ー゙ー゙ー゙

イ゙ン゙ズ゙ー゙ー゙ー゙ー゙ー゙ー゙ー゙ー゙ー゙ー゙ー゙ー゙ー゙ー゙

 

泣いた。

 

もうここでfinでよくないですか、ダメですか?

 127章で心へし折られた人に早くこの章の存在をお知らせしたかったです…

 

茹でて食べる餡入り団子『元宵』気になった方は是非調べてみてください。結構美味しそうなんですよね。ただ砂糖を大量に使うためカロリー爆弾らしいです(._.)

 

”バイロインの瞳の中で光の波が煌めく。”

ここの表現とても素敵で好きです。

 

※バイハンチーが泣いたところの補足説明

中国のことわざ:女大不中留”成長した娘は家に置くな”

これは本来、娘に使うことわざですがバイハンチーはバイロインに対して使っています。この章の原題は”儿大不中留”となっていて、”女”の部分が「子」の意味である”儿”に置き換わっています。しかし、章中のバイハンチーの心の声は”女”大不中留と言っています。もしかしたらバイロインがグーハイと兄弟を超えた関係であることに無意識のうちに薄々気づいていたのかも知れません。そうなるとバイロインの嫁ポジはバイハンチー公認なんだよなぁ…(推測を含むため、間違っていたらすみません) 

 

:hikaru