NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第34章:痕の意味

グーハイは今回の出張にエンを選び、二人だけで出張先の深圳へと出向いていた。

二人が目的地に着いた頃には、綺麗な夕日が姿を隠すところで、辺りが暗くなろうとしていた。

出迎えが二人を拾いホテルへと案内する。用意されていた部屋は、目を惹くようなスイートルームが一室。

このように、他の人が二人を恋人だと誤解してしまうのも無理ない。そのくらい、二人はどこに行っても目を惹く組み合わせだったのだ。

長年の付き合いの中で、このような勘違いは幾度となく経験してきた。

偽の夫婦関係は、上流社会ではよくある暗黙の手段。

加えてこの二人は、結婚披露宴こそ失敗に終わったが事情を知らない人からしたら、もう結婚を目前にする男女にしか見えなかった。

デマを打破する一番いい方法はデマを現実に変えること。

けれども残念なことに、エンはこの状況を打破する妙案を思いつけなかった。

それもそのはず。

グーハイの心は既にバイロインで埋め尽くされており、そこにエンが立ち入る隙などないのだから。

...とは言っても、そもそもエンは未だにグーハイの意中の人が義兄だと思ってもいないのだが。

グーハイはバイロインから貰ったロバのおもちゃを出張先へと持ってきていた。

ーーはぁ、またあのおもちゃを持ち運んでるの?

エンはいつもあのロバのおもちゃを見ると、少しだけ切ない気持ちになる。

荷物を片付け終わると、もう夕食の時間になっていたので、二人はホテルで簡単に済ますことにした。

グーハイの向かいに座ったエンは、食事中 目の前にいる男の首筋をチラリと見る。

そこには、バイロインが付けた痕が赤く残っていた。

「彼女にはちゃんと言い聞かせないとダメよ〜」

エンが突然話し出す。

「彼女?」

話の意図が見えないグーハイは、眉間に皺を寄せる。

「あなたの首筋にある痕の話よ....虫に刺されたわけでもないんでしょ?」

そう言って痕が残る箇所を指差すエンを見て、グーハイはジワリと笑みが広がる。

「あなたの彼女さん。私と一緒に出張することに随分と反対されているようね」

「...いや。別に今回は誰と出張に行くのかなんて伝えてないが」

「彼女にマーキングされてるのに何言ってんのよ」

グーハイは未だに理解していないようだった。

「あのね...いい? その痕には、“この人は私のものだ”って意味が込められてるって事なの。...ちょっと、私にそんな事説明させないでよ」

エンの説明で悟ったグーハイは、心の中で歓喜の舞を踊る。

 

グーハイから反応がないという事は、やはり彼女につけられたのだと認めてるようなものなので、少しだけ寂しい気持ちを感じる。

ーー経営者としては最高の頭脳を持っているのに、なんで恋愛になると殊更 鈍くなるのかしら?

誰が見ても分かるほどの才能に早いうちから目を付けていた。

長い事関わっていたら、自ずと相手の方から私に声が掛かると思っていた。

ーーしくじったわ。もっと早くに手を出していたら、私が彼女になれていたのかしらね。

 

グーハイは嬉しさから、衝動的にバイロインへと電話をかけていた。

「彼女に電話でもしてるの?」

エンの問いかけに、素直に頷く

「でも、取らなかった。きっと俺に怒ってるんだな」

「怒る?」エンは少し期待の目を向ける「なにかしたの?」

「ここに向かう前に会ってきたんだが、二発殴ってしまった...」

「あなた...!彼女にまで手をだすの!?」

「...人の話を聞かなかったからだ」

エンはもちろんグーハイが本気で女性を殴るような人ではない事を知っているが、それでも彼女はそんなグーハイを想像できなかった。

ーーなんでそんな特別な恋愛をしてるのかしら?

エンの中でのグーハイは、恋愛面に関しても感情より理性が勝り、そこまで恋人に執着しないものだとばかり思っていた。

一体どういう女性なのか、どうやってグーハイをここまで虜にしているのか。

エンは嫉妬を覚えながらも、好奇心に駆られていた。

「彼女は小鳥のように誰かを頼って生きてくタイプの人なの?」

突然の質問に、グーハイは口に入れたばかりのスープをもう少しで吐き出すところだった。

「小鳥だぁ?...そんなヤツじゃない」

「……じゃあ、単純な人なの?」

「単純?」グーハイはまた意味深な笑い声をあげる「むしろ、複雑だ」

エンは頰杖をしながら問い詰めていく

「優しい?」

「その言葉とは無縁だな」

「まめな人?」

「誰よりも怠け者だ」

全然 当てはまらない事に次第に怒りを覚えてくる。

「じゃあなんで彼女と付き合ったのよ!全く良いところがないじゃない!」

「誰が良いところがないなんて言った?」

グーハイは不満そうな表情をする。

「じゃあ教えなさいよ、彼女の長所を」

「は? さっきの言ったことは全部長所だろ?」

「......」

真顔で返事をするグーハイと、別の意味で真顔になるエンであった。

 

 

夜 十一時時過ぎても電話が繋がらず、やっと異変に気付いたグーハイ。

知り合いの将校に電話掛け、バイロインが今どうしているのかを探らせる。

十二時過ぎに一人の将校から、折り返しの電話が掛かってきた。

『隊長は訓練をされているようでした』

「こんな遅くまでか?」

仕方ないだろと言わんばかりの小さな笑い声が聞こえた後に、その答えをグーハイに伝える。

『シュウ・リョウウンという人物はご存知ですか? 最近我が部隊に着任しまして、今は彼が指揮を執っているんです。彼はスパルタで有名な人物で、彼の手によってボロボロにされた兵士は山ほどいると聞きます。』

「....シュウ・リョウウンか」

『はい。それで、我々も初日から根をあげる者がいたのですが。その中でもバイロイン少佐が特に目を付けられたようで...』

その言葉で目の色を変えるグーハイ

「何であいつが?!」

『それは...リョウウン様は昨夜、すべての兵士と将校に訓練場で小便をさせたんです。その時に少佐は命令を素直に受け入れなかったので、見せしめに名指しで命令されていました』

「...それで?あいつは脱いだのか?」

『もちろん脱ぎましたよ!』将校はグーハイが発する怒りに気づく事なく、楽しそうに話し続ける『あのまま脱がなかったら、リョウウン様の手によって直接 脱がされていたんじゃないですかね!ハハハ!!....』

 

 

今までの警報は、敵襲の合図のみだったため覚悟が出来ていたが、今の状態では何をされるのか分からない為、精神的にキツイ状況だった。

眠くてしょうがないはずなのに、音が気になって上手く眠れない。

少しでも物音がしたら、合図なのではないかと気が気ではなかった。

実のところ、リョウウンも彼らを安心して眠らせるつもりはなかった。

何度か幻聴が聞こえた後、本当のサイレンが鳴る。

一睡も出来なかった者たちが、わらわらと訓練場に集合してくる。

 

「先ほど、寮を見回ったのだが。上手く寝れていない奴が何人もいたようだな。....集合が遅いのが証拠だ」

スーッと息を吸い込む

「お前たちは本当にやる気があるのか!?」

リョウウンの覇気がある怒号に、全員身を竦ませる。

「どうした?興奮して声が出なくなったか?」

リョウウンは満足そうな笑顔を見せる。

「なら、本格的に訓練を始めようじゃないか」

 

命令とともに,千軍万馬が西北のゴビ砂漠へと向かった。

休みなしに飛び立つ彼らは、夜の間に到着することは大前提。しかも、途中に妨害工作がある難所を突破していかなければならなかった。

リョウウンの発案だった。

自分の命令に不満そうなこのパイロットたちがどこまでやれるのか確認したかったのだ。

彼らは初めこそやる気がないように振る舞っていたが、戦闘機に搭乗すると態度を変える。真面目に取り組まなければ、最悪の場合墜落する。つまり、訓練であっても死ぬ可能性があるのだ。

誰も自分の命を軽く見る軍人はいない。

結果、皆はリョウウンの命令に従うしかなかった。

 

敵機を撃退していく度に、チームの士気は上がっていく。

皆、リョウウンに自分たちの実力を分からせようと躍起になっていた。

各戦闘機は二人一組で搭乗し、一人は運転を担当し、一人は指揮を担当する役割がある。

バイロインの戦闘機も例外ではないのだが、彼の後部座席にはリョウウンが乗っていた。

つまり、これは彼が単独で飛行しなければならない事を意味する。

なぜならば、リョウウンは搭乗した瞬間に目を閉じてイビキをかき始めたからであった。

ーーこいつ...ここから突き飛ばしてやろうか!

そう思った瞬間に後ろの席から鼻で笑う音が聞こえる。

夢の中で笑ったのだろうか。はたまた、バイロインの思考が読み取られていたのかは分からなかった。

 

 

出発してから七、八時間が経ち、部隊はついにゴビの奥地へと到着する。

その瞬間、突然強い電磁妨害に遭ってしまう。

 

今までの連戦と寝不足から集中力が持たず、敵の正確な位置が割り出せない。

百戦練磨のベテランも、百発百中のルーキーもこの時ばかりは真価を発揮できず、近くに不時着する事を余儀なくされた。

失敗した事に対する悔しさや、疲れ、理不尽さ…あらゆる負の感情が連鎖して、戦闘機から出てきた時、多くの兵達はその頰を涙で濡らしていた。

バイロインも戦闘機から降りたが、その瞬間に夜の砂漠の風が吹き荒れ、上手く呼吸をすることすらままならない。

ここは海抜四千メートル以上のある高所。気温は零下三十度だった。

そんな極寒の地に降り立った彼ら航空兵達は、戦闘服の下に十分な防寒を施していない状態だった。

 

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お知らせです。

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Twitterの方でもお知らせしましたが、ハイロインのドラマの続き。つまり、バイロインの彼女が学校に訪れる場面(第一部の最後あたり)からの翻訳も、第二部と並行して更新していく事になります!

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これによって、ドラマを見終わった方はそのすぐ続きを楽しめる事になりましたね!

僕が翻訳している第二部は、ドラマの後。そこから八年後の大人になった彼らのお話ですが、第一部はまだ高校生のお話なので、第二部と比較して成長を感じるのも面白いのかもしれません!

更新は並列して行っていくので、一週間のうちに更新されるお話が多くなるのも読者としては嬉しいことではないでしょうか?(だといいのですが...)

どちらも定期更新ですが、話数は週によってまちまちです。(二話ずつだったり、三話だったり...)

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