第24章:変わるもの変わったもの
玄関でのやり取りの後、ご想像の通りそのままいつもの喧嘩へと発展する二人。
今までならグーハイの圧勝だったのだが、今回は混戦の末にバイロインに軍配が上がった。
これはグーハイにとって人生で上位に入るほどの屈辱である。口で言い負かされた事は今までにも何度かあったのだが、純粋な体力勝負で負けたのはこれが初めてであった。
バイロインに押し倒され、ソファーの上で身動きが取れずにいる。
奇襲を狙ってバイロインのパンツの中に手を突っ込み、驚いたところで押し倒すことに成功した。
「ふん。純粋な力なら俺の方がまだ上のようだな!」
そう勝ち誇るグーハイの首を瞬時に絡め取ると、そのまま流れるように体の全てを用いて関節技を決める。
再度劣勢に追いやられたグーハイの体を馬乗りにして鞭のように手で叩いては煽る。
「はん!どうした?グーハイ。俺に負けるのは悔しいか?」
「もっと俺のことをしっかりと押さえつけたら、負けを認めてやるよ!」
戯れ言かと思いながらもグーハイに抱きつくように更にきつめに押さえつけると、二人の顔が鼻先が触れ合うほどに近づく。
「おいッ!」
急いで離れようとするバイロインの頭を手で抑える。
恥ずかしそうにしながらもどこか期待しているような熱のある瞳に、グーハイは自分が蕩けそうにな感覚に陥る。
その大きな手でバイロインの頭を、熱い息遣いがお互いの顔にかかるほどにまでに引き寄せる。
「八年も待ったんだ....もうお前が欲しくて、我慢ができない...」
「.....俺も...。」
その言葉を皮切りに、本気の目つきになるグーハイ。
彼の感情の昂りと連携して下半身のそれも大きくなっていく。
バイロインは久しぶりにそれを見たが、まるで野生の猛獣のような凶暴性を感じて少し怖気付いてしまう。
グーハイの手がスルリとバイロインの鍛え上げられたお尻の方に移動させたタイミングで、一気に二人の上下を交代させた。
さあ、今からというところで顔を両手で覆いバイロインが急に体を小さくしてグーハイを拒みだす。
「おい.....」
指の隙間からグーハイを覗くと、笑顔なのに般若のような怒りを感じる。
かつてない征服欲がグーハイの心の中で沸き上がっていることを感じる。
バイロインは八年前に比べて、更に自分が抑えきれなくなるほどに魅力的になっていた。こいつという薬物を一度味わってしまうと、もう二度と元には戻れなくなってしまうと本能で感じる。
「....そうだ。俺はお腹が空いてたんだ!」
さっきまでの甘い雰囲気を一瞬でぶち壊しにされたが、鼻から長めの息を吐き出すとその言葉に素直に応じることにした。
「ここで座って待ってろ。」
ーー焦るな。焦るな。どうって事ない....俺はこいつの為に忍耐力を身につける必要があるからな....。
バイロインは暇を持て余したので家の外を少し散歩しに行ったが、すぐに飽きて帰宅する。
そのまま台所の方に行くと、そこには荒々しく鋭い目つきで肉を捌いていくグーハイの姿があった。
ーーお、おい。まさか俺のことはそんな風に扱わないよ...な?
料理はしばらくすると出来上がりテーブルに並べられていく。
テーブルいっぱいの料理を見て、バイロインは途端に機嫌が良くなる
「全部俺の好物じゃないか。....おい、まさか俺が家に来ることを知っていて予め準備していたんじゃないだろうな?」
「誰がお前の為に用意してんだよ。いらないなら俺が全部食べてやる。」
そう言ってバイロインの好物を自分の皿の方に移動させる。
反抗してくると思ったのだが、意外にも大人しく自分お目の前にあるお皿から野菜だけを口にするバイロインに深い罪悪感を感じてしまう。
ーーこいつはあの事件以来ゴタゴタが続いてまともな食事を口にしていないはずなのに、俺は何してんだよ!
「まあ、その。なんだ....仕方ないな。お前にもちゃんと食わしてやるよ。俺は優しい男だからな」
言い終わると好物をバイロインの目の前に移す。
しかし、バイロインはそれを無視して離れたお皿から野菜だけを取っては口にする。
グーハイは居た堪れなくなり、バイロインの手を掴む。
「すまん。不快な思いをさせたか?」
無表情なままグーハイを暫く見つめると、片方の口角をチラリと上げて自分の好きな食べ物をとって食べ始める。
その様子を見て安心する。
「変わったな...お前」
バイロインは心の中でどこが変わったんだよ。と悪態をつく。
ーーお前のその態度を崩すためにちょっと意地悪してやっただけだっての!
「なんだかお前に少し同情するよ。」
「同情?俺に?...お前が同情するほどのものなんて俺には無いさ」
「今の自分の顔を見てもそんな事言えるのかよ...酷い顔してるぞ?お前の恋人になれたら、どれだけ心配すると思ってるんだ」
ーー今まで逆に俺のことを心配ばかりさせてきた奴が何を言う!
「今のお前で俺の恋人になることなんて出来ないだろうな」
その言葉を受けてグーハイは内心、今すぐその口を黙らせて襲ってやろうかと考えたがすぐにその考えを捨てる。
ーーダメだ、ダメだ。我慢、我慢。
食事を終えると、口元を拭いてその腰をあげる
「帰るよ」
「帰る?泊まっていかないのか?」
てっきり今日は泊まってくものだと思っていたグーハイは驚きを隠せなかった。
「泊まるなんて一言も言ってないけどな」
一緒にこのまま過ごしたかったグーハイは、自分の中にある様々な優しいフレーズを思い浮かべてはそれを口にしようと思ったが、結局何も言えずに肩を下げるだけだった。
「今日はここに泊まってはいけないさ。未来の恋人のことを考えるなら、もっと自分のことを見つめ直すべきだと思うぞ。違うか?グーハイ。」
そう言ってタバコ箱を胸ポケットから取り出し、一本抜き取るとそのまま火をつけてコートを羽織り、家をあとにした。
バイロインが帰った後、浴槽に浸かって一人で過ごすグーハイの手は震えが止まらなかった。「こいつはそこら辺の薬物より中毒性が高いかもな。」
何を考えても頭に思い浮かべるのはバイロインの事だけ。あの冷たくも魅惑的な小さな目に、すらっと伸びた長い脚。何か不満に思った時に窄める小さなあのあひる口や、服を着ててもわかるあの柔らかなお尻..…
グーハイはこの八年間、エネルギーを蓄えすぎてどんだけ発散しても満足することが出来なかった。
「なんでさせてくれないんだよ!!」
その夜は彼の精が尽き果てるまで自慰を夜な夜な続けるのであった。
翌朝、グーハイはまた“息子”を抱いて出勤する。
その後の数日間、バイロインはいつも退勤前に車で来て、グーハイが帰る時に一緒に家までついて行きご飯を食べていた。
おかげでグーハイは毎日の楽しみを得ることが出来た。それは、毎日定時に窓の外を眺めるとバイロインの車がいつもの場所にあるの見る事だった。
ーーこうやって俺の会社の所に来てくれるなんて...これはこれでいいな
一方で、エンも職場に復帰することになった。
久しぶりに執務室に向かうと、以前より荷物が増えていることに溜め息がつい出てしまう。
「はぁ。やっぱりこうなっているのね....ん?」
グーハイのデスクの上にロバのおもちゃが置かれていることに気づく。
あの男がこのようなものを自分で買うはずがないので、きっと前に言っていた大切な人からのプレゼントなのだろうと察することが出来た。
「きっとあれに触れたら、いくら私でも怒られちゃうわね」
部屋に入ると、その部屋の主は窓の外を眺めていた。
以前にもこのような風景を見たことがある。
私たちには絶対向けることのない優しい目をして眺めるその先に何があるのか気になってしまう。
「社長。失礼します」
気を配り、扉を叩いて入室する。
エンの存在に気づいたグーハイはいつもの冷たい目に戻ると、自分のデスクを指差す。
「書類ならそこに置いておけ」
エンがその通りに書類をデスクに置くと、再びグーハイは視線を窓の外へと向ける。
「何を見てるの?」
つい気になって聞いてしまう。
その言葉にグーハイは少し笑いながらエンを手招き、駐車場でタバコを吸うバイロインを指差す。
「見ろよ。ずっとあそこに立って誰かを待ってるんだ。馬鹿みたいだろ?」
エンは驚きの表情を浮かべる。
ーーなぜ、自分のお兄さんを見てここまで楽しそうにするのかしら?
それにエンはバイロインの行為を見て、どこが馬鹿らしいのかわからずにいた。しかし、グーハイはそれを馬鹿みたいだと笑う。
「えっと。この二日間、いつも彼がここにいるのは見かけていたわ。誰を待っているのかは分からないけどね。」
エンの疑問にグーハイの口元は弧を描く。
「でも彼が来てから、私達の従業員は仕事が終わっても会社の前でうろうろしているのよ。一昨日なんて、うちの従業員が彼と親しそうに話しているのを見かけたわ。連絡先を聞かれていたみたいだったわね」
「....あいつは交換していたか?」
「ええ!」
そう言ってエンは笑みを浮かべる
「あなたのお兄さんはうちの社員に人気者ね!だけど、これが続いたらうちの会社にとっても少し迷惑になってしまうわ。注意してあげてね!」
エンが話している途中からなんだかグーハイの顔色が次第に変わっていく。
先ほどまで笑みを浮かべていたグーハイは、エンの話が終わる頃にはいつも以上の冷たい顔をしていた。
窓の外を見て「あのやろう」と呟くと、そのまま執務室をあとにするのだった。
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あー。また訂正です。沼地の微エロシーンですが、あれは最後までやってないみたいでした。皆さんの想像に任せる部分でしたので、文章の訂正は行わずにそのままでいこうかと考えております。
この三月で30章まで翻訳できたらいいかなと思っています。
4月に入ると恐らくですが、しばらく更新出来なくなってしまうので三月は頑張りたいと思います!
:naruse