第39章:溢れた言葉
『ーーあの晩、本当は何をされていたんだ?』
グーハイの真剣な眼差しに、思わず心が締め付けられる。
「...本当に知りたいのか?」
「早く言えよ!」
「話しても...怒らないでくれるか?」
正直、グーハイはバイロインの身に何があったのか、薄々気づいていた。
しかし、バイロインに話しの続きを促す為、苛つきを顔には出さず、心の内で燻る火の種をなんとか抑えつけながら、冷静さを保っていた。
グーハイが頷き、自分の約束に了承したと感じたバイロインは、静かに話し出す。
「師団長から罰を受けていたんだ...」
その言葉を聞いた瞬間、グーハイは怒り狂った獅子の如く吠える。
「なんでお前ばかりなんだ!? 他の奴はそんな事されてないんだろ?!」
真実を話せばグーハイが怒り狂う事くらい、バイロインにだって予想が出来た。
しかし、ここは病室だ。
約束した事は守ってくれると期待していた分、自分の予想通りの反応が返ってきて不快な思いをする。
「なんで怒鳴るんだよ!約束したじゃないか!?」
「バイロイン!」
「なんで彼が俺だけに罰を与えたって分かるんだ!? 他の人にだって与えてるかもしれないだろ?!」
「他の奴の事なんてどうでもいいんだよ!...お前だけが心配なんだ!」
薄明かりの中、グーハイの瞳が真っ直ぐにバイロインを捉える。
「なんでお前は、そんなに厄介事に巻き込まれるんだ?...少しはおとなしく出来ないのかよ?...毎回毎回、お前は緑の帽子を身に付けて俺の前をちょろちょろしやがって!」
グーハイからそんな事を言われるとは思っていなかったバイロインは、一瞬にして沸点まで怒りが到達する。
「はぁ!?俺が緑の帽子を被ってるだと!?....ならお前にも緑の帽子をプレゼントしてやるよ!ああ、お前は一つじゃ足りないか?...そうだな、後はお前の為に緑のマンション購入してやるし、緑のスーツも緑のパンツも買ってやる!...ついでに、お前の髪も緑に染めたらどうだ!?」
最近は大人しかったバイロインだが、一度 本性を現すとレベル最大の毒舌者に早変わりである。
「五月蝿い口だ」
そう言い、グーハイはバイロインの唇を塞ぐ。いつもの様な優しいキスではなく、激しく暴力的なキスだった。
バイロインの下唇はグーハイに噛まれて、血が流れ出る。
溢れた血を舌で拭うと、そのまま自分の中へと飲み込んでいくグーハイ。
痛みと、激しいキスで上手く呼吸が出来ないバイロインは、グーハイを強く押し退ける。
「お前は俺のものだ...お前の血の一滴まで、俺のものなんだよ...!」
新鮮な空気を吸おうと、バイロインの肩は激しく上下する。
「お前、何すッ....!」
再び唇を覆われ、その言葉を遮られる。
今度はグーハイの方から離れたが、その瞳には強い意志が宿っていた。
「インズ、覚えておけ。....お前が誰かに殴られるのも、怒鳴られるのも、罰を与えられるのも...全部 我慢出来ないんだ!本当は俺以外の奴に、指一本でもお前の体に触れられたくないとも思ってる!...俺の心は鏡だ、お前の体と連携している。...お前の体が傷つく度に、俺の心も強く抉られるんだ!...分かってくれよ、もう...お前無しでは生きていけないんだよ....」
グーハイが切に語る間、バイロインの瞳は冷たく意志のないものになっていく。
言葉が途切れた瞬間、何を思ったのか バイロインは机の上に置かれていた果物ナイフを素早く取ると、自分の腹に向けて突き刺すーーーところを、寸の判断でグーハイ止められる。
腹に向けたそのナイフを持つ腕は、グーハイでさえ青筋が浮かび上がるくらいの力を込めなければ止められなかった。
バイロインの手が緩み、ナイフが落ちる。
床とぶつかる金属音が、静かな病室に響いた。
「...何してんだよ」
バイロインの瞳にも何か強烈な想いが宿っていた。
「俺はずっとお前に守られていなきゃ駄目なのか?俺は...お前の荷物でしかないのか?...お前の横には立てないのかッ....。なぁ!...俺は、俺は......。お前のことを傷つける事しか出来ないのかよ!!」
窓から差し込む月夜の明かりで、光る透明な軌跡が一筋...
「...生まれてくるんじゃなかった!!」
目の色が変わったグーハイは、バイロインの服を破りだす。
上半身が露わになると、首筋に、胸部に、腰に...あらゆる所に噛み付くグーハイ。
あまりの痛さにバイロインも暴れるが、片脚を怪我している男の抵抗など、本気になったグーハイの前では意味を為さなかった。
噛み付かれた箇所は血が出る程、綺麗な痕がつく。
バイロインが抵抗すればする程、グーハイの加虐心は昂ぶっていく。
グーハイの行為から逃れようと身を反した時、バイロインは怪我をしている方の足をベッドの角にぶつける。
「ああああ!!!!」
急に叫び出したバイロインの声で、グーハイは冷静さを取り戻す。
「どうした?!インズ!」
バイロインは足を抑えながら、ベッドの上で苦しそうに丸まっていた。
医者が急いで駆けつけ、処置を施し大事にはならなかった。
「骨まで響いていなかったのが、不幸中の幸いですね」
ベッドにぶつけた衝撃で、縫い付けてあった箇所が少し破れたみたいだった。
改めて二針縫い直し、医者は「安静にしてくださいよ?」と念を押して去って行った。
病室に静寂が訪れる。
グーハイはバイロインの隣に座るのではなく、ベッドの真向かいに椅子を用意して、そこに座る。
どのくらい時間が経ったのか分からないが、グーハイの方から重く口を開く。
「...痛むか?」
バイロインは目を閉じて黙っている。
彼の隣にグーハイは移動し、ベッドに並んで座った。
隣に座る男の耳は凍傷の跡がある。その顔には裂傷痕がある。ボロボロになった手は、何かに怯えるように毛布を強く握っていた。
ーー俺は...何をしてたんだ....。
グーハイはもう、バイロインに転職を勧める事はしないと心に決めた。バイロインにだって男としてのプライドがあるのだ。
しかし、苦しむバイロインを見ても、何もしてあげられない自分にグーハイは怒りを覚えてしまう。
バイロインの頬に手を当て、優しく撫でる。
「お前を信じていないわけじゃない。...ただ、本当に心配しているだけなんだ」
バイロインは強く瞼を閉じたまま、口を一の字から動かさない。
グーハイはバイロインの右頬に自分の頬を擦り合わせ、反対側を大きな手で優しく包む。
「俺に触れるな!」
やっと口にした言葉は、冷たいものだった。
しかし、バイロインが強い言葉を口にする程、グーハイはその行為を頑なに止めようとしなかった。
頬に添えていた手を首筋から腰まで下ろして、そのままズボンの中に潜り込ませる。
バイロインは己のそれに辿り着く前に、グーハイの腕を掴む。
「そこはもう穢れてる。...汚いのは嫌いなんだろ?」
そう言われて、グーハイは動きを止める。その事実にバイロインは心が締め付けられた。
ーーやっぱり...
ズボンから手を抜き出したと思えば、今度はグーハイが床に膝をついて バイロインのズボンを完全に脱がせる。
そのまま、普段はそんな事をしないグーハイがバイロインの息子を口に咥える。
グーハイの奉仕に慣れていないバイロインは、すぐに快感を覚えてしまった。
ーー俺の宝贝(ここでは下ネタ、babyみたいな意味がある)、お父さんが必ず仕返ししてやるからな...
白濁の液体が溢れる肉棒に、そっとキスをした。
その後の数日間、バイロインは充実した日々を送っていた。
自分に対する見舞客を相手にする事以外の時間は、すべてグーハイと過ごすことが出来たかだ。
グーハイも仕事があるので日中は会社に戻るのだが、暇さえあれば何度でも病室に戻ってきていた。
ある日、バイロインがおじいさんのように寝ながら、窓から差し込む太陽光を浴びていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「開いてる!」
「失礼します」という礼儀正しい挨拶とともに開いた扉の向こうに立っていたのは、リュウチョウだった。
彼は左手にバスケット、右手にサプリメントを持ち、背中にカバンを背負って入ってきた。
バイロインはリュウチョウの顔を見て少し驚く。
ーーなんで一緒に戻ってきたはずのリュウチョウの方が、俺よりボロボロなんだ?...こいつも休みをもらっていたはずだろ?
そう考え事をしていると、廊下からもう一つの声が聞こえて部屋に入ってくる。
「持ってきたぞ〜! 熱いうちに食べろよな!」
グーハイはお盆におかゆを乗せて運んできたが、リュウチョウの姿を見てその顔を曇らせる。
「えっと、あ。グーハイさん!...あなたも隊長のお見舞いに?」
「ずっと付き添ってる」
「えっ?」リュウチョウは驚く「会社の方は大丈夫なんですか?」
相手にするのが億劫になったグーハイはバイロインの側に座ると、スプーンでおかゆをすくって口元へ運ぶ。
いつもなら嬉しい事だが、今は目の前に部下がいる。そんな部下の前で、グーハイと居る時の普段の姿は見せられない。
「いい、自分で食べれる」
バイロインが部下の前で自分に世話されるのが嫌いな事くらい分かっていた。
ここに居る部下が知らない奴だったら、まだ我慢できた。しかし、今ここに居るのは何度もグーハイの前に現れるリュウチョウ。
ーー本当ならお前の顔面に、今すぐこのおかゆをぶちまけたいんだけどな...!
内心とは違い、穏やかな表情でしかし、どこか強い語気でもう一度 口に運ぶ。
「ほら、食べろって」
何度されても結果は同じ。バイロインの口は固く閉ざされたままだ。
リュウチョウは二人の殺伐とした雰囲気を感じ取り、間に割って入る事にした。
「グーハイさん、あなたがそんなことする必要はないです!」
そう言ってグーハイからお椀とスプーンを奪い取ると、その反対側に座る。
「隊長、俺なら部下ですし...気にする必要はないですよね?」
しかし、リュウチョウを相手にしてもバイロインは意志を曲げない。
リュウチョウは自分からそのおかゆを食べ、バイロインを安心させようと笑顔を作る。
「ほら、熱くないです!美味しいですよ?」
ーー何やってんだお前!!クソッ!...そんな顔でインズに食べさせようとしてんじゃねぇよ!
我慢が出来なくなってきたグーハイが、鋭い目つきでリュウチョウに命令する。
「そこに置いておけ」
グーハイの様子に戸惑うリュウチョウ。どこで、彼の機嫌を損ねたのか見当もつかなかった。
「...誰がお前を見舞いに向かわせたんだ?」
グーハイの質問に真面目に答える。
「いえ、自分の意思でここに来てます!」
「お前がこいつの世話をする資格なんてねぇよ」
その言葉に反応して、リュウチョウの表情も歪む。
「いえ。隊長をお世話する資格は、俺に一番あると思います。もし、俺が怪我をした時に隊長がいなかったら...俺は....」
そう語るリュウチョウの拳は、固く握られていた。
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白色と緑色は中国で嫌われている色です。
緑色の帽子をプレゼントで渡すのはタブー視されいます。(特に恋人、夫婦間で)
諸説ありますが、昔話で不倫をするときの合図として女が緑の帽子を被っていたそうで、そこから発展して現代では、不吉な色、不倫の色と認識されてるっぽいです!
なので、グーハイが言ったことに対してバイロインはあそこまで怒っちゃったわけですね!
あと「生まれてくるんじゃなかった」の部分ですが、直訳ではグーハイに対しての罵詈雑言になっています。しかし、情景的にバイロインに視点を当てた方が効果的だと思い意訳(異訳)しています!原文を読んでる方がいましたら雰囲気が違うと思いますが、ご了承ください!
てか、シリアスなシーンからのエロシーンって...どう訳したらいいんですか(泣)
:naruse