第126章:裏で糸を引く者
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この章を読むにあたって
※バイロインとバイハンチーの会話に出てくる人物 「モンジェンチー」について
モンジェンチーはツォおばさんの元夫です。ドラマだと全カットされているんですが、時系列でいうと、ドラマ13話後半のグーハイがバイロインの足にできた青あざを見てキスするシーンの数日後に登場します。(原作98章~)
モンジェンチーについて要約するとクズでグーハイにボコられます。
いずれ(数ヵ月以上後ですが)第一部第2章~第117章もNaruseさんと協力して翻訳しますので、しばらくお待ちください。
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バイロインとバイハンチーはバイロインの寝室でベッドに腰をかけている。
「親父、ちょっと話したいことがあるんだけど…」
バイハンチーがバイロインを見ると、彼はとても深刻な表情をしている。その様子からバイハンチーも緊張してくる。
父が緊張している様子を見てバイロインは困ったように話す。
「どうしてそんな顔しているんだ?俺は世間話がしたいだけだよ」
「あ…あぁ、そうか」
バイハンチーの緊張はすぐに解ける。
「全く…インズ、そんな顔してるから国家の一大事でも話すのかと思ったよ」
ーーそんな国家の一大事なら親父じゃなくて警察に話すだろ…
バイロインは心の中でツッコむ。
「聞きたいんだけどさ…グーハイはどんな人だと思う?」
バイハンチーは人差し指でバイロインのおでこを軽く小突く。
「お前、そんなこと聞いて…またダーハイと何かあったのかい?」
バイロインは一呼吸置いてから答える。
「それはとりあえず置いておいてさ。グーハイのことをどう思うか客観的な意見を聞きたいんだ」
「まったくこの子は…俺が言うことは何もないよ」
バイハンチーは親指を立てる。
バイロインはベッドにうつ伏せになり、枕に顎を置き静かにバイハンチーの話の続きを待っていたが、バイハンチーは「うんうん」とだけ言い、一向に質問に答えない。
「え…それだけ?」
「あぁ。他になんて言えばいいんだ」
バイロインはあっけにとられた様子でバイハンチーを見る。
「例えば人柄とか、性格とかさ。人としてどうとかさ…」
バイハンチーは真剣に考えて答える。
「人柄は問題ないな。性格もいいし、人としてしっかりしていると思うし」
ーー聞きたいことはそういうことじゃないんだ…もういい。やっぱりやめておこう。聞いても無駄なんだ。
バイロインは掛け布団をかぶり目を瞑り、そのまま眠りにつこうとする。
バイロインは諦めたが、バイハンチーはそのままゆっくりと話し始める。
「ダーハイはな、生まれは良いが威張ることはせず、気概もある。人のために苦労を惜しむことはしない子で、気前がいいんだ。俺は他の家の子で一番ダーハイのことが好きだよ。前までは他の家の子供のことなんて気にしたことがなくて、皆一緒だと思ってたんだが、あの子は違ったんだ。最近の子は気が多くて、はっきりとしないことが多いんだ。でもダーハイという子はね、素直で嘘がつけない子なんだ。好きなものは好き、嫌いなものは嫌い。好き嫌いがはっきりしていて決して嘘をつかないんだ」
バイロインは静かに話を聞いていた。そして目を開けて質問する。
「あいつは人として間違ったことはしないかな?」
「もちろんするわけないさ。お前ほど賢くはないけど、人として見たらお前よりも正しいよ。俺が一体どれくらいの年数生きてきて今までどれくらいの人と関わってきたと思う?お前はまだ今までに会ってきた人なんて指で数えられるくらいしかいないだろう?」
バイロインは別の質問をする。
「グーハイみたいなやつは、もし頭に血が上ったらどんなことでもやると思う?」
「例えばどんなことだい?」
「例えばあいつに気に入らない女の子がいたとして、その子を痛めつけるために人を使うとか」
「まさか、そんなことするはずないよ」
バイハンチーはあっさりと否定する。
「ダーハイはね、芯がしっかりとしていて絶対に間違ったことなんかしない正しい子なんだ。そんな悪いことできるわけないよ」
「その女の子のことが大嫌いでどんなに憎くても?」
「あの子がいくらその女の子のことを嫌ってたとしても、お前のお母さんに対する恨みよりはマシだろ?それに”モンジェンチー”だって相当酷かったがダーハイはボコボコにしても、殺しまではしなかっただろ?」
バイロインはゆっくりと壁に目を移し、黙り込んだ。
少しの沈黙が続き、バイハンチーは眠くなりバイロインの隣に横になる。そして話す。
「俺はダーハイはそんなこと絶対やらないって賭けられるよ。そんなに色々思い詰めないで、早く寝るんだよ」
ーー俺はグーハイのことを本当に誤解してたのか…?
そしていろいろと考えているうちにバイロインは眠りについていた。
夜もかなり深くなった頃、耳のそばでバイハンチーのいびきが響いており、バイロインの睡眠は非常に浅い状態にあった。夢を見ているのか過去を思い出しているのかどうか区別はつかない。バイハンチーの結婚式の後のことだ。
グーハイは自分をビルの屋上に背負って連れていき、抱きながら優しく囁いた。
『インズ…お前の親父さん以外に俺よりお前のことを愛しているやつはいないって約束してやる』
ソン警備兵の再三に渡る説得の末、グーハイはグーウェイティンと一緒に家に帰り新年のお祝いをすることに承諾した。
気づくと日付は十二月二十八日になっていた。街はすっかり寂しい状態になっており、渋滞も全くと言っていいほど無くなっていた。北京は毎年春節(中国の新年)の季節になるとゴーストタウンのようになるのだ。しかし伝統や習慣は年々少なくなり、人工物の飾りが増え、風情がどんどん無くなってきている。
グーハイは約二週間ほど自分の自宅に帰っていなかった。実家に行く前にいくつか荷物を持っていくために先に自宅に寄った。
駐車場につくと、そこにはまだバイロインに買った車が残っている。グーハイはそれを視界に入れないようにしてエレベーターに乗る。
エレベーターがどんどん上がっていくなかで、自分がここ二週間全く人間らしい生活をしていないことにふと気がつく。
毎日、最低限の食事と睡眠以外はずっと訓練ばかりして、一人で考え事をする時間を徹底的に無くしていた。
気が抜けて考え事をしそうになると、退役軍人の元を訪れた。その人の従軍経験談を聞いて自分に考え事をする暇を与えなかった。
ーーこんな生活…トレーニング場で訓練されてる犬と何が違うんだよ…!
と自分の状況を皮肉る。
グーハイは自分の部屋に入ると、実家で着るための何日分かの服を探すためタンスに向かう。
バイロインとの一件以降、グーハイの心は何も感じなくなってしまっていた。以前は一緒に暮らすぐらいなら死んだほうがマシだと思っていたユエンとこれから同じ家で数日間暮らすことにも抵抗が無くなっていた。
グーハイがタンスをひっくり返すと、ケースに入り丁寧に畳まれた制服が出てきた。それは、バイロインが自分の手で洗ってくれたグーハイの制服だった。
当時、バイロインが自分のために彼の手で洗ってくれた制服を着てしまうのはあまりにも勿体なかったので、ケースに入れておいたのだ。
グーハイはそれを見て一瞬凍り付く。そしてすぐにそのケースを壊し、制服を地面に放り投げ、何度も繰り返し踏みつける。
踏みつけていると、まるで自分の心を踏みつけている感覚に陥った。しかしどんなに心が痛くても足は止まらなかった。
すると急に胸に穴が開くような感覚がして、その衝撃から体勢を崩し頭を壁にぶつけてその場に倒れ込む。
ーー…バイロイン!お前はなんて馬鹿な奴なんだ!せいぜいあの女と楽しく暮らせよ!騙されているとも知らずにホント馬鹿な奴だ…いつか痛い目を見ればいいのさ!
「明日は大晦日ね」とシーフイ言った。
バイロインは静かにシーフイのことを質問する。
「お前、いつ帰るんだ?」
「帰る?どこに?」
シーフイの瞳はキラキラと光っている。
「留学だよ。いつまでもここにいたらさすがに高校退学になるだろ?」
シーフイは平気な顔して話す。
「別に退学になっても構わないわ。とにかく私はあなたのそばにいるから」
「お前…」
「…何も言わないで!」
シーフイは耳を塞いでわめく。
「嫌!聞きたくないっ!聞きたくないの!」
バイロインはタバコに火をつけて、黙って吸い続ける。
シーフイはバイロインをじっと見る。ここに座ってからもう五本目のタバコだ。男がタバコを吸うのは時間を潰すためだとシーフイは誰かから聞いたことがあった。
ーー…バイロインにとって私といるのは耐えられないことなの?
そんなこと考えたくもなかったが、実際ここに来てからバイロインの表情はどんどん陰鬱としてきて、口数もほとんどなくなっている。
バイロイン自身もあんな酷いことがあったシーフイに対し同情してなんとか慰めようと努力するが、どうしても関心が湧かず話が続かなかった。
何度かシーフイは自分に無関心なバイロインに対して疲れて諦めようとも思った。しかし、今までに使ったエネルギーと愛情を無駄にはしたくなかった。たとえ他の誰かに恋愛感情を抱いてもその相手はバイロインではない。それはもはや無意味なのだ。
「バイロイン…私と一緒に留学しましょうよ。そうしたら私も退学にならないで済むし。あなたにとってもプラスになると思う。以前はあなたの家庭の事情で留学できなかったけど今ならできるじゃない。留学しない理由なんてある?…ねぇ、知ってる?海外の高校生活はとても楽しいのよ。今のあなたの暮らしは酷すぎるの。もしあなたが留学しないなら私は戻るつもりはないわ。考えてみて…どう?」
グ家三人で食事をしている時、ユエンは嬉しそうに話し始めた。
「ねぇ、聞いてちょうだい。ロインが留学に行くかもしれないの」
グーハイの表情が変わる。聞いていないふりをして食事を続ける。
「あの子は自分で納得しているのか?」
グーウェイティンが尋ねる。
「ええ。ほとんどね」
ユエンは嬉しそうに話しを続け、グーハイに話を振る。
「シャオハイ、あなたも一緒に行って欲しいの。兄弟二人なら安心できるわ」
「いい。俺は行かない」
「あなたたち、とても仲がいいじゃない。離れ離れにはしたくないの」
グーハイは冷たく返す。
「行きたくないんだ」
ユエンは話を続けようとしたが、グーウェイティンがそれを遮る。
「行きたくないと言っているものを無理に行かせようとするんじゃないよ。それにこいつは軍隊に入って軍人になるんだ」
「ええ…そうね、確かにそうよね…」ユエンはそう言って笑い、口を閉じる。
グーハイがそれに対して口を開く。
「俺は軍にも入らない」
「…ん?入隊しないだと?」そう言ってグーウェイティンは眉を吊り上げる。
「何故入隊しないのだ?お前は小さい頃から軍隊で育った。俺はお前に問題がなければ入隊させるつもりだった。もし入隊しないというのなら一体何をするつもりなんだ?」
グーハイは静かにグーウェイティンを見つめ、表情を変えずに話す。
「別に俺は好きで軍隊にいた訳じゃない」
そう言い終えるとグーハイは箸を置いて自分の部屋に戻った。グーウェイティンもすぐ立ち上がり追いかけようとしたがユエンに止められた。
「あなた…正月なんだから揉め事はやめましょう。もし言いたいことがあれば年が明けてからでいいじゃない」
そう言い終えるとユエンの携帯が鳴る。ユエンはグーウェイティンに、
「私、ちょっと電話に出てくるから…あなたはゆっくりご飯を食べていてね」
と言い、その場を離れ電話に出る。
携帯に耳を当てると甘い声でお祝いの言葉が聞こえてきた。
『おばさん、新年おめでとうございます』
「あら、シーフイね」
ユエンは笑顔になる。
「私はちょうど食事が終わったところよ。あなたの家族にもよろしくと伝えておいて」
『わかりました、おばさん』
「あぁ、そうそう。ロインとの話はどうなったの?前にあなたと話した時に一緒に留学するかもしれないって言ってたわよね?」
『それが一つ困ったことがありまして…バイロインが彼のお父さんが留学は嫌がるだろうって言ってました』
ユエンは眉をひそめる。
「あの人が留学の邪魔になることは私も考えていたの…でも、大丈夫よ。安心してちょうだい。後で私が直接会ってあの人に考えを改めてもらうわ」
『おばさん、すごいですね』
「何を言うのよ。すごいのはあなたのほうよ。以前ロインは私が話しても無視していたけど今は留学について真剣に考えてくれている…全部あなたのおかげなのよ」
『別に私はあまり役に立てているとは思えません』
「私のラッキースターさん、あなた凄腕よ。しっかり説得すれば彼もあなたの話をちゃんと聞いてくれるはずだわ。とにかく彼の父親のことは私に任せて。一緒に頑張りましょ」
『はい。おばさんの期待に応えられるように頑張ります』
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バイハンチー、グーハイのことしっかり見てるんですね。元妻の再婚相手の子供に対して偏見なく、わが子のように愛することができるなんて立派だなぁ。
そしてシーフイはユエンにけしかけられて、こんなに必死だったんですね。
そうだとしてもシーフイがやりすぎなのは否めませんが。
自分、グーパパとバイパパって結構相性良さそうだと思うんですよね。
バイハンチーのグーハイべた褒めを聞いたらグーパパ、わかるマンになってそう。
:hikaru