NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第40章:リュウチョウの惨劇

「何で来たんだ?」

このままこの二人と会話を続けさせていたら、喧嘩に発展してしまう。

それを恐れたバイロインは、何かを言いかけたリュウチョウの言葉を遮った。

「気になったからです....俺、あなたの事が心配で」

その想いに感謝はするが、今はグーハイが側にいる。バイロインは心を鬼にしてリュウチョウを怒鳴りつける。

「そんな事でここに来たのか!? 訓練をサボってこんな事しやがって!今すぐ帰るんだ!」

「そんな事ってどうして言うんですか!?」リュウチョウの瞳は濡れていた「隊長はいつもそうです。俺に何かあった時は第一に気遣ってくれるのに、あなたに何かあった時は俺を遠ざけるんだ!」

 バイロインは眉を捻って厳しい表情を作る

「いつお前の事を気遣ったんだ?...俺と二人きりの時はそんな冗談を言ってもいい。けど、今はツレがいるんだ。そんな事を口にしないでくれ」

「バイ隊長!!」

リュウチョウは怒りで衝動的に大声を出す。

「....わかりました。お陰で目を覚ますことが出来ました。...もう、あなたの言う事を素直に聞かないようにします。...もし俺の身に何かあっても、構わないで下さい。もちろん、あなたの身に何が起きても関わらないようにしますので...」

バイロインは心の中に感じる重みを吐き出すように、深く息を吐く。

ーーこれは部隊として関係を正常に保つため...グーハイの為だ...

 

グーハイは二人のやり取りを側で静かに観ていた。しかし、うまく収束しなさそうな雰囲気を感じてようやく口を開く。

リュウチョウ...とか言ったか?」

リュウチョウの昂ぶった感情は冷めていなかった。グーハイが何度か声を掛けて初めて、自分が呼ばれている事に気づく。

「グーハイさん!...前に俺のことを優秀だって褒めてくれましたよね?....俺の事を会社で雇ってくれませんか?!」

突然の言葉に驚くグーハイ。

「...どうしてだ?」

「...俺は隊長に返しきれない程の恩があります。でも、隊長はそれを無かった事にするんです。俺の事をここまで拒絶する上官の元で働く事に意味がありますか?!」

グーハイは思わず冷たい笑みをこぼす。

ーーまさに、“恩を仇で返す”だな...

「その返しきれない程の恩とやらを聞かせてくれよ。聞かせてくれたら、考えてやらないでもない」

バイロインの身体がビクッと揺れては、固まる。

リュウチョウが口を開こうとした時、この場の全ての音を掻き消す程の怒鳴り声をあげた。

「出て行け!!!」

驚きのあまりに口を開けっ放しになるリュウチョウ。グーハイとバイロインの顔を交互に見た後に、再度話し出す。

「隊長?...グーハイさんの質問は別に変な事じゃないですし、何でそんな事言うんですか?」

「消えろって言ってんだよ!」

「えっと...」

リュウチョウは呆気にとられる。

ーーバイロインの様子を見る限り、この二人の間には何かあるな...

バイロインが何度も話を妨害する行為に、疑惑の種が生まれたグーハイ。

リュウチョウはと言うと、バイロインに何度も怒鳴られしょげている様子。顔を下に向けて、背負ってきた大きなリュックのベルトを手で弄る。

「...もう分かっただろ。帰るんだ...俺もあと二日で退院できるし」

リュウチョウは背負っていたリュックから、自分の日用品と着替えを取り出し、バイロインに見せつける。

「嫌です!もう部隊には休暇届けを提出しました!...俺はここに泊まるんです!」

ーー最悪だ!!!

バイロインは頭まで毛布を被り、隠れようとする。

リュウチョウはバイロインが動揺したと勘違いし、優しく緊張を解そうと話しかける。

「隊長?...ほら、グーハイさんが幾ら仲の良い人だと言っても、外部の人に違いはないじゃないですか。...その点、俺は...その、ほら! 身内っぽいですし、気を遣わないでしょ?」

ーー終わった!!

バイロインはこれから自分の身に訪れるであろう災難に恐怖を抱く

リュウチョウはグーハイに近寄り「お世話、お疲れ様でした」と笑顔で握手を求めた。

グーハイはそれに応じると、笑いながら肩を軽く叩く。

「お前は本当にいい根性をしてるな」

「褒めすぎです」リュウチョウは恥ずかしそうに笑い、ドアノブに手をかける。

「グーハイさん。俺が送って行きますよ」

その言葉通り、本当に二人で病室の外へ出て行った。

ーー世界の終わりを感じる....

バイロインは毛布の中で震える事しか出来なかった。

 

 

「ちょっと聞いてもいいか?」

グーハイの呼び掛けに、軍で培った反応速度で反射的に立ち止まり、振り向く。

「何でしょうか?」

「普段からお前はあいつにあんな態度で接してるのか?...いくら恩があるって言っても、大袈裟すぎないか?」

この話をすると,リュウチョウの涙腺はまた弛み出す。

「この間...俺たちはゴビ砂漠で軍事演習を行ってたんです。そこで、俺が原因で師団長と喧嘩になった隊長は、罰として二百本のポプラの木を登るように命令されたんです。」

「...それで?」

「それで...その時に隊長は沢山の怪我を負ったにも関わらず、俺が体を冷やさないようにって、毎晩 抱き締めて寝てくれたんです。もし、あの極寒の夜を隊長が暖めてくれていなかったら、俺は今頃 脚に後遺症を抱えていたかもしれません...」

話を聞くグーハイの笑みの中に隠された殺意を感じる事なく、リュウチョウは最後まで自分に酔っていた。

「だから、凄く感謝しているし!お世話もしてあげたいんです!」

「...なら、そうしてやれよ」

肩を叩くグーハイも、話してスッキリしたリュウチョウも、お互いがニコニコと笑っていた。「じゃあ、玄関まで送って行きます! 早く戻らないと、隊長が心配ですし!」

「そうだな、行こうか」

グーハイは両手を広げて、彼と階段を降りていった。

 

 

扉が開いた。

ーー絶対 グーハイだ...はぁ....

気持ちが悪くなるバイロインの予想と反して、そのドアを開いたのはリュウチョウだった。

「....あれ。グーハイは?」

困惑するバイロインを横目に、リュウチョウは自分の荷物を片付け始める。

「彼なら帰りました!今日から二日間は俺が世話係です!」

鼻唄を歌いながらご機嫌な様子でトイレの方へと向かう。先にシャワーを浴びるようだった。

リュウチョウがシャワーを浴び終わり、爽やかな香りを漂わせながら部屋に出てくる。

それと同じタイミングで、病室のドアも開く。

入り口に立っていたのは、鬼の形相をしたグーハイだった。

「あれ?グーハイさ...ッ!?」

リュウチョウが反応しきる前に、素早い行動で彼の手に持つロープで縛り付ける。

慣れた手つきでリュウチョウを縛り上げたグーハイは、そのまま天井へと吊るす作業に移り、吊るされたリュウチョウの真下に温度を高くしたストーブを配置する。

リュウチョウはなぜ自分が吊るされているのか、なぜこんな仕打ちを受けているのか理解出来ないまま、気付いた時にはまるで拷問を受けているかのような体勢になっていた。

ストーブの熱が上えと伝わり、吊るされているリュウチョウは十分もしないうちに全身から汗が噴き出していた。
「た、隊長!助けてください!...熱いんです!!」

バイロインは部下の酷い仕打ちを静観出来なかった。グーハイがトイレへ立ち上がった隙に、リュウチョウの縄を解いてやろうとする。

「ん?バイロイン。どうしてベッドから降りてるんだ?」

解こうと手を伸ばしたタイミングで、肩を強く掴まれる。

「グ、グーハイ...」

「なんだ。こいつの火力を上げようとしてたのか!...それなら別にお前がやらなくてもいい、ベッドで待ってろ。な?」

言い終わると、グーハイはストーブの温度を更にあげる。

熱波がすでに冗談では済まない温度で伝わってくる。リュウチョウは悲鳴をあげながらその熱波から逃れようと暴れる。

暴れるリュウチョウを抑えると、その頬をペチペチと笑顔で叩く。

「お前の尊敬する隊長さんは、温度を上げてこの“火療”でお前の骨を回復させようとしてくれたんだよ。分かるか?...感謝しないとなぁ」

リュウチョウは苦痛と熱さから、凄まじい数のシワをその顔に刻む。

側でまだ見ていたバイロインの肩を力の限り強く掴むグーハイ。

「ん?まだベッドに戻らないのか?」

 

バイロインは恐怖で動けなくなっていた。

ーーと、取り敢えず、リュウチョウからこいつを離さないと...

「グ、グーハイ? 火力を上げる為に布団から綿を取ろう...ぜ?」

そう言って強引にベッドへと引っ張っていくバイロインであった。

 

 

あれから十二時間近くも吊るされたままにされていたリュウチョウは、やっとの事で解放される。しかし、未だに縛られた状態は続いていた。

グーハイはパンツ一枚のほぼ全裸状態になると、バイロインの布団の中へ潜り込んでいく。

見せつけるように両手両脚を使ってバイロインの体に抱きつき、甘えた顔で頬を体に擦り付ける。

ーーこいつは俺のだ!!

グーハイの意思はリュウチョウへとしっかり伝わったようで、リュウチョウの胸はかつてないほどにムカついていた。

リュウチョウの不満げな顔を見たグーハイは「もう充分に暖まっただろ?これで誰かに抱かれて寝なくてもいいわけだ。...それともなんだ?もっと暖かくしてやらないとダメか?」と脅しをかける。

リュウチョウは慌てて首を横に振り、降参のサインを見せた。

バイロインは歯軋りをしてグーハイを睨む。

「何でこんな事をしたんだ!?あいつの怪我はまだ完璧に治ってないのに、こんな事をして後遺症が残ったらどうしてくれる?!」

「お前はあいつの所為で極寒の中、木を何往復も登らされ全身をボロボロにして、傷だらけになりながらも寒さから守るため何時間もあいつを暖めたんだろ?...あいつを痛めつけて何が悪いんだ?」

「...最ッッッ低だな!」

「お前にされた事ほどじゃない」

バイロインはベッドから起き上がろうとしたが、それをグーハイに止められ引き寄せられる。

「逃げるな。もし動いたら、部下の前でお前の威厳がなくなるほどの激しいセックスを見せつけてやるぞ...?」

耳元で囁かれたバイロインは、その言葉を聞いて硬直する。ベッドの上では、グーハイは常に支配者の立場だった。

指示通りに、元の位置に戻るバイロインであった。

 

 

深夜二時。バイロインは眠れず、ずっとリュウチョウを見つめていた。

彼の髪は熱波で縮れ、顔も見えないほど深く下ろした顔から、床に向かって何度も水滴が垂れる。声は押し殺しているようだった。

ーーリュウチョウ....

バイロインの心は握り潰されると思うほど、苦しくなっていた。

グーハイもまた起きていた。

部下のことをずっと心配するバイロインに、どうしてもイラついてしまう。

「そんなに部下が可愛いのかよ?」

「おかしいのはお前だ、グーハイ。...俺はお前がこんな事をされていたら、全てを賭けて助けるよ....」

バイロインのこういった面に惚れているグーハイは、思わず口元が緩む。内心、許しても良かったのだが、まだやり残した事がある。

「俺とこいつを同じにするな。比べるのもダメだ。....俺だけの事を考えろ」

「....分かった。分かったから、放してやってくれ.....もう、こんな誤解が生まれないように過ごすから」

グーハイが聞きたかったのはこのセリフ。言質を取れたことに満足したグーハイは、満面の笑みを浮かべてリュウチョウの縄を解く。

解かれたリュウチョウは長時間の痺れから、上手く立てずに床へと倒れ込む。

顔を上げてグーハイを睨むと、相手は冷たい瞳でこちらを覗いていた。

「覚えておけ。バイロインが友好的にお前らと接するなら、俺はもうそれに文句は言わない。....けどな、もしアイツが自分を犠牲にしてお前らに接するような事があれば....そいつら全員、ブチ殺してやる...」

沈黙が場を支配した。

 

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最初、リュウチョウ拷問シーンは夢オチかなぁとか思ってました(笑)

けど、まさかの現実で一から翻訳しなす羽目に...原文ではストーブではなく、焚き火のような炎が上がる装置?みたいなのを使っていますが、現実...しかも病室でそれはなぁと思ったので、ストーブとその熱波って訳す事にしました!

がっつり文章改竄してますけど...許してください!(笑)

 

:naruse