第130章:答え合わせ
バイロインが不在だった間、バイ家は激動の五日間を送っていた。
ユエンはバイロインの留学の準備を既に全て済ませていた。留学先の学校とも連絡を取っていて計画は着実に進行していた。バイハンチーとも会い、自分の考えを話していた。バイハンチー自身は良いとも悪いとも言わず、息子の考えを尊重すると言った。
そしてこの段階になって、バイロインがどこかにいなくなってしまったのだ。どこを探しても見つからない。
ユエンはシーフイやヤンモンにバイロインがどこにいるか知っているかと聞いたが誰も知らないという。
そしてユエンは再びバイハンチーの家を訪ねる。ユエンはバイハンチーが息子を匿って隠しているのではないかと疑い、バイハンチーを追及する。バイハンチーがどんなに説明してもユエンは聞く耳を持たない。
ついにユエンは警察を呼ぶ。そして耳を疑うような嘘をつく。
「この人が息子を誘拐したんです!逮捕して下さい!」
このせいでバイハンチーは少しの間、逮捕されてしまうことになった。
そしてバイハンチーが不在の中、バイロインのおばあちゃんは体調が悪化してしまい、入院してしまう。
ユエンはバイロインを探すことに躍起になり、多くの人をバイ家の周りに送り込み、釈放されたバイハンチーを監視させ、バイロインの出入りがないかを監視させていた。
ユエンが騒ぎ立てるため、近隣住民は大変迷惑していた。警報音がいたるところで昼夜構わず響いており、眠ることさえできない状態だ。せっかくの正月が台無しである。
しかしバイハンチーにとって一番気がかりだったのは、バイロインのことだった。バイロインと同時にグーハイも行方不明になり、どちらも音信不通でどんなに探しても見つかることはなかったのだ。
気づくと日付は一月十五日になっていた。周りの人はのんびりと元宵(元宵節に食べる餡入り団子)を買いに行っているが、バイハンチーにはそんな暇などなかった。毎日入院したおばあちゃんのお見舞いに行って世話をする必要があった。家に帰ればあの”賊”達が騒がしくするのを必死に止めて、近所の人たちに謝って回る。しかしこんな騒ぎの中でもバイハンチーにとって一番重要なのはバイロインの所在だ。
ーーあの子…なんで何も言わずに出ていってしまったんだ…
実はこれはグーハイの不注意が原因だった。バイロインがあんなことになってしまうとは思ってもいなかったため、動揺してバイハンチーに連絡するのをすっかり忘れていたのだ。
バイロインは自分が目覚めなかった間に、グーハイがすでにバイハンチーに適当な嘘で誤魔化しているものだと思っていた。
翌朝、バイハンチーは揚げパンをいくつか持って早めに家を出た。お見舞いを早く済ませて少しでも長く息子を探す時間を作りたかった。しかし家を出るとユエンが現れた。
ユエン自身もここ数日間、息子を探すのに必死になり、疲れ切っていた。バイロインのことが心配で堪らなかった。
「あの子は…ロインはどこなの?!」
バイハンチーは毎日ユエンからこの言葉を電話で聞かされ続けていた。いくらバイハンチーが優しい人だからとはいえ、何度も同じ質問をされたら辟易してしまう。
「だから…あの子は家にはいないって何度も言ってるだろ?俺も探してるんだよ…他に用がないならもう行ってもいいか?」
「…話にならないわ!もういいっ!」そう言ってユエンは手に持っているカバンをバイハンチーのにぶつけて喚きだした。
「あなたもロインを探してるって?…じゃあ今まで何してたのよ!あの子がいなくなった日は一体何をしてたの!?全部あなたが悪いんじゃない!本当はあの女(ツォおばさん)と一緒になってあの子のことを追い出したんでしょ!?」
「じゃあなんでダーハイも一緒にいなくなったんだよ!?お前だって怪しいよな、おい!」
バイハンチーは我慢が出来なくなり、怒鳴ってユエンをにらみつける。
それを聞いたユエンの顔色が変わり、何万円もするブランドバッグを地面に叩きつける。言葉を発することはなく、呼吸は荒々しくなっている。
バイハンチーは軽蔑した目でユエンを見る。
「あの子はもう十七歳で、すぐ十八歳になる。もしあの子が自立したとしても自分の面倒は自分で見れる。だからわざわざこんな騒がしくする必要なんてないだろうが」
「バイハンチー…あなた本気でそんなこと言っているの…?」
ユエンの綺麗な顔は怒りに歪んでいる。
「あなた…一体息子をなんだと思っているのよ!?あなたたちの家で飼っている豚小屋の一匹のブタだとでも思っているの?好き勝手に放し飼いして、気分で囲い込んで!今まで長い間、あなたがちゃんとあの子の面倒を見たことはあった?そんなだから今あの子がこんなことになってるんじゃない…違う?非情で分別がなくて…自分の母親の見分けもつかなくなってるじゃない!」
バイハンチーは手に持った揚げパンを思いっきり地面に叩きつけて、怒号をあげる。
「それはお前のせいだろうが!!」
そう言ってその場から離れるバイハンチーをユエンは追いかけ、止めようとしてバイハンチーの前に立ちふさがるがバイハンチーに突き飛ばされユエンはよろめいて地面に倒れる。
すると近くに停まっていた車から二人の男が出てきて、バイハンチーを無理矢理車の中に押し込む。ユエンは二人の男に泣きながら叫ぶ。
「その人に手だけは出さないで…!でないと息子が私のことを殺してしまう…」
午後になってバイロインはやっと帰宅する。そして家の様子が何か変なことに気づく。
家族が誰一人としていないのだ。いつも家にいるはずのおばあちゃんでさえおらず、アランがずっとケージに入れられて吠え続けている。
バイロインはアランの頭を撫でて落ち着かせる。しかしアランはすぐに入口に向かってまた吠え始める。
様子を見るためにバイロインは立ち上がりドアに向かって歩き出す。すると三つの人影が西に向かって走っていくのが見えた。
ーー…ん?何事だ?
そう考えていると、反対側から近所のチョウおばさんが歩いてきた。バイロインはおばさんのところへ駆けていって質問する。
「おばさん、僕の家族たちがどこに行ったか知りませんか?」
チョウおばさんはバイロインを見るなり血相を変えてバイロインの両肩を掴む。
「このバカ者!アンタ、なんで何も言わないで出ていくんだい!この二日間アンタの父親は必死でお前を探してたんだよ。アンタのおばあさんも入院しちゃうし…」
バイロインは目の色を変えてすぐにバイハンチーに電話する。しかしバイハンチーは出なかった。ツォおばさんに電話するとおばさんは病院にいると言ったためバイロインは急いで病院に向かった。
病院に着き、急いで病室に向かうとそこにはツォおばさんとおばあちゃんの他にバイロインのおじいちゃんとトンテンもいた。
おばあちゃんはバイロインの姿を見て嬉しそうに笑っている。
「インズ、あなたお父さんには電話した?」とツォおばさんが聞いた。
バイロインは首を横に振る。
「まだ話せてなくて…電話が通じないんだ」
「もう一回かけてみて」
ツォおばさんは焦った様子でいる。
「なんで繋がらないのかしら…もしかしてあの人、また携帯を忘れて出てきてしまったのかしら…」
バイロインは再びバイロインに電話をかける。
バイハンチーはユエンに誘拐されて、とある一室に閉じ込めらていた。彼の携帯はユエンに奪われており、先ほどバイロインが電話した時、ユエンは席を外していて気付いていなかった。そして丁度戻ってきたところで電話が鳴る。携帯の画面を見るとそこには”バイロイン”と表示されており、興奮して思わず携帯を落とす。
ーーやっぱり思った通り…この人がいなくなったらすぐあの子から連絡が来たじゃない…
『ロイン、やっと見つけたわ。心配でお母さん死にそうだったのよ』
ーー…?は…?なんでこの女が出るんだよ?
バイロインは不思議に思いながらもツォおばさんにユエンの声を聞かれることがないように急いで病室を出た。
「…親父は?」
『あの人は今、私と一緒にいるの。彼に会いたいならこっちに来てちょうだい。迎えを寄こすから』
すぐに迎えが来た。そして二十分後、バイロインはユエンのいるところに着く。
ユエンはバイロインを見ると号泣しながら抱きつく。
「ロイン…今までどこに行ってたの?すごく心配したんだからね…」
バイロインはそれには答えず質問する。
「親父はどこにいるんだ?」
そう話しながら、部屋の入口を見るとそこにはバイハンチーが立っている。バイロインを見て怒りを顔に浮かべている。バイロインがバイハンチーのところに行くと、バイハンチーは彼を叱りつける。
「お前…今までどこで何をしてたんだ!」
バイロインが答えられない様子でいると、ユエンが口をはさむ。
「なんであなたがこの子に怒鳴るのよ!?」
バイロインはユエンの話を無視してバイハンチーに質問する。
「親父、なんでこんなところにいるんだよ?」
バイハンチーはユエンの目を見る。そしてバイロインに向かって話す。
「息子よ、その話はまた家に帰ってからだ」
そう言って二人はこの場から離れようとする。ユエンは二人の前に立ち、強い口調でバイハンチーに向かって話す。
「あなたは行っても構わない…でもロインは置いていきなさい!」
「お前…この子が残ると思うのか?」
ユエンは半狂乱になりながら喚く。
「こんなに苦労してやっとロインに会えたっていうのにみすみす帰せっていうの!?それじゃあ私は何のためにここに来たのよ?お茶でも飲みに来たとでも思う?また彼のこと私から匿うつもりなんでしょ?!五日間も会えなかったのよ?バイハンチー…あなたあまりにも人でなしだわ!」
「ユエン、お前…人を馬鹿にするのも大概に…」「親父!」
バイロインの一言でバイハンチーの言葉が遮られる。
「親父、先に帰っててくれよ。この女が何をしたいのかちょっと気になるんだ」
「インズ…お父さんはお前をここに一人にするなんてことできないよ」
バイハンチーはバイロインのことを心配する。バイロインはバイハンチーの目を見て話す。
「親父、心配しないでよ。俺もすぐ家に帰るからさ」
ユエンはバイハンチーをチラっと見る。
「…早く行きなさいよ」
バイハンチーが行った後、ユエンはバイロインと一緒に部屋に入ってここ数日間の”自分の成果”を見せた。三つ話をするたびにシーフイの名前が出てくる。息子を説得するために秘密兵器とでも思っているかのようだ。バイロインはユエンとシーフイが結託していることは知らなかった。そしてユエンは何とか様々な手を用いてバイロインのことを騙して留学させようとしているのだ。話を聞いているうちにバイロインの中で疑問に思っていたことすべてが徐々に判明していく。
バイハンチーがここに連れて来られた理由、おばあちゃんが入院した理由、さらにバイ家に誰もいなかったこと、なぜアランがケージに入れられて吠えていたのか分かってきた。そしてなぜグーハイがあんな"馬鹿なこと"を決行したのか、ぼんやりと理解してきた。
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バイロインとバイハンチーの親子愛とバイロインのユエンへの塩加減ホント好き。まるで漫才を見ているみたいですね。
ユエンさん、警察に嘘をついたというより、「この人が息子を出さないなら逮捕して」って言ってるんですよ。軍の幹部婦人の権力を行使したのかとも思ったんですけど、バイハンチーは結構すぐに釈放されるんですよ。ここについて詳細な描写がなかったので本文のように意訳しました。
:hikaru