NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第155章:見守っていて下さい

バイロインと連絡が取れなくなった後、グーハイはまずバイハンチーに連絡をした。すると、二日間バイロインが実家に帰っていないことが分かった。

グーハイは様々な方法でバイロインのことを探した。しかしバイロインからの連絡は一切なく、バイロインと連絡が取れなくなる前に感じたいくつかの異変を思い出し、彼の心は強い不安に包まれていた。

グーハイは一晩かけて街中を探し回り、眩暈がしてきた。

ーーあのバカ野郎、一体どこ行ったんだよ?どうしていつもこう訳も分からず居なくなるんだ?なんでいつも後先考えないで何かをするんだ。周りがどれだけ心配するか分からないのか?

拳を強く握り、車のハンドルに何度も激しくぶつける。グーハイは心底怒りを感じながら、車を運転してバイロインを探していると、突如知らない番号から電話がかかってきた。

『グーハイ』

聞こえてきたのはバイロインの声だった。彼の言葉を聞いた瞬間、グーハイは手に持っている携帯をぶっ壊してやりたいという衝動に駆られたが、今はとにかく藁にも縋るように携帯を握り締めて、電話口の向こう側に対して怒鳴り声を上げる。

「テメェこの野郎!この二日間どこに居やがったんだ!?」

『今どこにいるの?』

グーハイは呼吸を整えてから、周囲を見回した。そして今いる場所を伝えた後、助手席に携帯を放り投げた。

グーハイは頭をのけ反らせて深呼吸する。幸いにも彼は無事だったようだ。

 

そろそろバイロインが着く頃だろうと思い、グーハイは車から出てバイロインの到着を待っている。

すると五分後、タクシーが近くで止まった。バイロインの姿がタクシーから出てくるのを見て、グーハイは先ほど抑えたばかりの燃え上がる気持ちが溢れ、大股でバイロインのほうへと歩いて行く。

バイロインはジンダーチェンの元を去った後、顔を洗ったり食事をすることもせず、一番に喜々とグーハイを探しに来たのだ。バイロインがタクシーに運賃を払い終えるとすぐ、自分の身体が強い力で引っ張られる感覚がして、身体のコントールを失って後ろに倒れてしまった。

グーハイはバイロインの襟元を強く握り、乱暴に自分の車の脇へとバイロインを引っ張っていく。そして何度もバイロインをドアに押し付けて、怒りで首に青筋を立てながら怒鳴り声を上げる。

「お前はここ何日の間、どこに行ってたんだ?俺が一晩中、お前のことを探し回ってたって、分かってるのか?俺がどれだけお前の心配をしてたか、分かってるのかよ?」

バイロインはグーハイに打ちつけられた痛みを気にする余裕もなく、両手でグーハイの腕をしっかりと握り、興奮した眼差しでグーハイの頬を焼きつける。バイロインの声からは抑えられない激しい感情が漏れていた。

「グーハイ、分かるか?俺はお前のお母さんが亡くなった理由を調べたんだ。お前のお母さんはグーウェイティンの陰謀で死んだわけじゃないんだ。お前は父親を誤解していたんだ……」

この言葉に対してグーハイは顔に少しも驚きや感動を露わにせず、却ってさらに暗い顔になり、グーハイは強引にバイロインの話を遮って、怒りを露わにした。

「俺はただ、この二日間にお前はどこに行ってたんだって聞いているんだぞ?」

バイロインの瞳の中のドキドキしているような興奮は次第に冷めていき、白くなった唇の角は微かに動いていくつかの言葉を吐きだした。

「ジンダーチェンの家に、その…お前の伯父だ…」

グーハイは激昂し、バイロインの肩を両手で掴み、怒号を上げる。

「誰がお前に伯父を探させた?誰が行かせたっていうんだ?」

バイロインは薄い紙を何枚か握っていたが、グーハイの激しい揺さぶりに手からこぼれ落ちて、地面に散らばっていく。バイロインの目は虚ろになり、ただ茫然としている。どうやら二日間凍えた日を過ごした後遺症が今になって現れたようだ。

こわばった指でグーハイの腕を押し返して、少しずつ自分の身体から剥がしていく。

そして体の向きを変えてその場を立ち去ってゆく。

グーハイはバイロインを追いかけることはしなかった。怒り狂って発散した後に残ったのは極度の虚しさと満たされない寂しさだった。頭は真っ白で、もう何かを考える余力なんて無かった。

 

 

グーハイは地面に散らばっている書類に目をやる。一枚ずつ拾い上げるも読む気も起きない。引き裂こうかとも思ったが、そんな勇気も無かった。
居ても立っても居られず、車のドアを足で思いっきり蹴りつけた。ヒステリーを起こして、蹴りつけられた後に残ったのは、足の痛みと鋼板の凹みだけだった。

バイロインはふらふらと街を歩いて、ただ本能に任せて進行方向を決めていた。両足は鉛が入っているかのように重く、頭は首に無理矢理支えられている。ガーン、ガーンと頭の中で何度も音が鳴って、バイロインはそこら辺にあった適当な看板に寄りかかって手で身体を支えて、とりあえずしばらくそこで休むことにする。

そしてしばらく休んだ後、近くにあった食べ物屋さんに入る。バイロインはかれこれ五十数時間食事をしていなかった。ラーメンが目の前に運ばれてきた時には、バイロインはすでに味など分からない状態だった。

無理矢理何口か詰め込んだ後、すぐ外に飛び出して外にあるゴミ箱のそばに吐き出してしまった。頭が混乱してわけが分からなくなる。

ーー苦しい…!

涙が枯れるまで泣いた。

よろめきながら歩いてなんとか実家に辿り着き、寝室に直行する。倒れ込むように頭を乗せたベッドはとても冷えている。

バイロインは濡れた服を脱ぎ、布団を二枚重ねでかけたが、まだ寒さで身体がブルブルと震える。ジタバタした後すぐ、死んだように眠りについた。

 

 

グーハイは次の日、ずっと家に閉じこもっていた。目が覚めても、また眠り、学校には行かず、バイロインにも連絡していない。眠り疲れて、枕元に置いてある資料に手を伸ばして一枚ずつ、一文字一文字頭の中に叩き込んだ。そして読み終えた後、グーハイは静かに座っていた。窓の外を見る瞳の中は枯れており、涙は一滴も出てこない。

 

 

ユエンが自宅のドアを開けると、グーハイの陰鬱な顔が見え、ドキッとする。何日間も心配していた。とうとう『待ち望んで』いたこのグーハイが家に来たのだ。

グーハイはユエンに目を向けることもせず、彼女を避けて二階に直接向かう。

ユエンは部屋の入り口に立ち、充分な準備を整えていた。もしグーハイが何か部屋で異変を見つけて、責任の所在を追及してきたら、全ての責任を背負う覚悟でいた。

 

この三年間、グーハイは何度もこの部屋を訪れていた。いつも部屋に入る足取りは重く、出ていく足取りは寂しげだった。今みたいな瞬間は一度もなかった。冷静で、慎ましく、静かに祈りをささげる……グーハイはやっと現実を認めて受け入れたのだ。グーハイの母親はもういないのだ。

「母さん、どうしてあなたは彼(グーウェイティン)の為に死ぬことを惜しまなかったのですか。俺のために生きようとは思わなかったのですか?」

グーハイは静かに夫人の写真を見つめている。額縁についた細かい埃をちょっとずつ払っていく。

「あなたが心から命を捧げることが出来る男なら、彼はきっと良い父親なんですよね。そうですよね?」

グーハイの頭の中には小さい頃から今に至るまでの思い出が浮かんでいる。グーウェイティンと一緒に過ごしてきた日々。グーハイの埃を被せられ、埋められてきた三年余りの感情が微かに心の底で蘇る。

最初の慕っていた時から、尊敬していた時。その後の憎しみから憎悪まで……一本の架空の導火線が三年前の誤解と痛みを引き起こしたのだ。

グーハイは不意にグーウェイティンの目の中の表情を思い出した。重い悲しみ、深い思いやり、やるせない気持ち……

グーウェイティンが誰にも言うことのなかったエピソードもある。

再婚する前日の晩、グーウェイティンは夫人の部屋で一晩中座っていたのだ。そして明け方、彼は立ち上がって夫人の写真に向かって最大の敬意をもって軍人の敬礼をした。

 

「母さん、他には何もいらない。だから、俺のことを愛しているなら、俺とインズのことを最後まで見守っていて下さい」

グーハイは感謝の気持ちを込めて、夫人の写真に向かって深々とお辞儀をした。最後に目に焼き付けるように写真を見た後、背筋を伸ばして堂々とした姿でこの部屋から出ていった。

 

ユエンは部屋の外でもう何度もグルグル回っていた。

グーハイは部屋から出てきたのを見て、ユエンの表情は緩み、心からホッとしていた。どうやらグーハイは部屋の異変には気づいていないようだ。

「これからは、毎日母さんの部屋を掃除しなくていい。母さんが生きてる時に使ってたものも価値のあるやつだけ残して、他は焼いちまってくれ」

ユエンは驚きを表情に浮かべている。彼女にはグーハイの意図している意味が理解できず、ユエンはまだ”嵐”が来るのだろうと待ち構えている。しかしそんなユエンにはお構いなしにグーハイの足取りは軽く、すぐに彼女の視界からいなくなっていた。

この日の空は晴れ渡っていた。

 

 

もうすぐ学校も終業の時間だったが、グーハイは学校に来ていた。昨日はバイロインに対していい顔ができず、バイロインは腹を立てて何も言わずにどこかへ消えてしまった。今はもうすっかり彼に対する怒りの感情は消え失せて、心の中には感動だけが残っている。グーハイは直接バイロインに感謝を伝えたい気持ちでいっぱいだ。バイロインがグーハイのためにした苦労の全てはグーハイが一生恩に感じるに値するものだとバイロインに伝えたくて仕方がなかった。

 しかし教室に来たが、バイロインの席は空いたままだった。

グーハイは顔色を変え、彼はすぐにバイハンチーに電話する。

『病院にいるよ』

 この言葉を聞いて、グーハイの頭は爆発したようで、火が付いたように大急ぎで学校を飛び出し、タクシーを拾って病院に直行した。

向かう道の途中、グーハイの頭の中では一つのシーンが繰り返し流れていた。

バイロインはこの二日間の成果をグーハイの腕を掴み、興奮した様子で報告している。

バイロインがこれまでに失態を犯したことも無かったし、ここまで追い詰められたことも無かった。

あの時、バイロインは自分に抱きしめられながら、「よくやった」と言って欲しかったに違いない。ただ一つ、グーハイの目にバイロインを肯定する表情さえ浮かべていればそれで充分だったのだろう。それすらもしなかったせいで彼は立ち去ってしまい、ただ失望し、落胆した後ろ姿を見る羽目になってしまったのだ。

病院に着くと、グーハイは急いでバイロインの病室に向かったのだが、そこで待っていたのはツォおばさんだけだった。

「ダーハイ、どうして来たんだい?」

「インズは?」

ツォおばさんが病室の中を指さす。

「寝ているよ」

グーハイがそっとドアを開けて中に入る。バイロインは病院のベッドの上で横になっており、顔は血の気がなく、全身やつれていた。昨日も彼はこんな姿だったのだ。

ーー昨日、こいつはこんな姿で俺のところに来たんだ!なんであの時俺は気づいてやれなかったんだ?なんで俺は頭に血がのぼって、少しもこいつを労わってやろうと思わなかったんだよ…

「インズ」

グーハイが一声そっと呼びかけた。

バイロインはグーハイの声を聞いてわずかに目を開けたが、またすぐに閉じてしまった。

話す余力もないし、話したいとも思わなかった。

グーハイはしばらく黙って座った後、暗い顔をしながら病室から出ていった。

グーハイが二階の階段の前でタバコを吸っているのをツォおばさんが見かけ、彼女は心の中で何かを意識しながら、彼に向かって歩いていく。

「ダーハイ、インズがあなたのことを怒らせたから、インズを外に締め出したのかい?」

グーハイはしばらく表情を固まらせた後、ツォおばさんのことをじっと見つめる。

「どうしてそんなことを?」

「それは……この子が昨日帰ってきた時、すごく高熱があってね。熱のせいでうなされながら寝言を言ってたのよ。『誰々が寝るために部屋に入れさせない』とか『寒くて耐えられない』ってブツブツ言ってたの。私が思うに、ここ二日間あなたのところにインズはいなかったのかなって、だから……えっと、おばさんも当てずっぽうに言ってるし、もし違ってたら気にしないでね」 

グーハイのタバコを持った手がピタッと止まって、吸い殻の半分が地面に落ちた。

そこでバイロインが電話をかけてきた時のことをグーハイは思い出した。

『ちょっと寒くてさ。話そうよ』

『ダーハイ…抱きしめてくれ…』

ツォおばさんがグーハイを見ていると、いきなり彼が二階の階段の入り口から飛び降りて思わず驚愕する。

ーーこの子は一体なんてことするんだい?

まだツォおばさんの理解が追いついていないうちに、グーハイはすでに病院から飛び出していた。

 

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バイロインのしたことは無駄じゃなく、ちゃんとグーハイのためになったんだなと安心しました。

ずっと腑に落ちなかった母親の死について真相を知り、二人を見守っていてくれ、それ以外は何もいらないって…泣いた…

 

:hikaru