NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第143章:嘘はそう長く続かないのだ

週末は元々、二人の家で過ごす予定だったがバイロインが実家に用があるということでグーハイは家に一人で残ることになった。

 

金曜の午後、学校が終わるとバイロインはウキウキしながらカバンを持って家に帰ろうとする。

週末に実家でゆっくりと過ごせるということは、グーハイにつく嘘をあれこれと考える必要がなくなる。それに自分の嘘で落胆したグーハイの顔を見なくて済むのだ。そう思うとバイロインは身体が軽くなっていた。やっと平穏な二日間を過ごすことができるのだ。

「お前、なんでそんな嬉しそうなんだ?」

ヨーチーが質問してきた。

バイロインは表情をこわばらせながら聞き返す。

「俺が嬉しそうに見えるのか?」

ヨーチーは素直に答える。

「お前最近様子が変だぞ」

グーハイは二人の会話を後ろで聞いている。彼自身、心の中で少し思うところがあったが、ヨーチーの言葉からバイロインの様子が変だと分かり、グーハイはバイロインをじっと見つめる。彼の様子の異変に自分が気づかないわけがない。

毎日すごくご機嫌な様子で学校に登校しており、別に朝も昼も異変はなかった。そして間もなく学校が終わろうとしている頃、バイロインの家庭事情で悪いことがあったため、普通であれば心配そうな顔をするはずだ。

グーハイは時々感じていたことがあった。

ーーこいつ、わざと俺のこと避けているのか…?

しかし、バイロインが自分のことを避ける理由がどうしても見つからない。それにこの間の事件があったばかりだ。グーハイは簡単にバイロインを疑う勇気など持ち合わせていなかった。

バイロインが”この嘘”をつき始めた時にはすでに、グーハイはバイロインのことを”信じる”と心に刻みつけていたのだ。

疑うよりも信じるほうが絶対良いに決まっている。

学校の正門に着き、グーハイが口を開く。

「もう少し一緒に行こうぜ」

バイロインは別に何も嫌な態度をする様子はない。

二人は歩きながら話をしているが、バイロインはずっとニコニコしている。いとこの事件は一切話題に出てこない。

帰り道も半ばまで来た頃、バイロインが切り出す。

「お前は週末の二日間、何をする予定なんだ?」

グーハイは考える。

「実家に帰ろうかなって思ってる。先生は戸籍簿を提出させるよな?戸籍簿が家にあるから取りに帰りたいんだ。日曜は…特に用事もないし叔母さんのところに行くか、何人か誘って遊びに行くかもしれないな」

バイロインは足を止めて、グーハイの肩を叩く。

「お前が羨ましいよ。俺はまた伯父さんの家に行かなきゃいけないんだ…」

しかしグーハイにはバイロインの目の中に羨望の感情は見えなかった。むしろ哀れみすら感じる。

「この二日間、家には全く帰ってこないのか?」

バイロインはため息をつく。

「あぁ、多分帰らないと思う。学校が始まるまでには帰るよ。この休みは俺にとって辛いものになるだろうな…どうやってしのげばいいかな…はぁ…」

「伯父さんは金持ちじゃないのか?わざわざ行かないとダメなのか?」

バイロインは真っ直ぐな眉を芸術的にねじる。

「俺そんなこと言ったか?まぁ、普段はお金はあるだろうけど事故のせいで貧乏になったのかもしれないな。いとこの医療費も俺の親父が立て替えたみたいだし」

グーハイは頷く。

「じゃあ、”家でゆっくり休んでくれ”」

バイロインはその言葉に返事しそうになった口をなんとか力を入れて押さえる。

二人はしばらく顔を見合わせて気まずい雰囲気になる。

バイロインはそろそろ頃合いだと感じ、催促する。

「そろそろ帰れよ。車だろ?遠いし」

グーハイはとても惜しそうな顔をしている。

ーー俺たち、これから二日間会えないんだぞ…?

「いや、もっと先まで送る」

バイロインは優しく忠告する。

「やめとけよ。もし俺の親父がお前を見つけたら意地でも帰れないぞ」

それを聞いてグーハイは口角を上げる。

「だったら丁度良いな?」

バイロインは黙り込む。

グーハイはバイロインの頭を指で突いた。

「じゃあ本当に行くからな!」

バイロインは頷く。

「本当に行ってもいいんだな!」

しかしグーハイまだバイロインの返事を待っているようだ。

そんなグーハイの脛にバイロインが蹴りを入れる。

「お前、はっきり言わないと分からないのか?」

そんなやり取りの後、グーハイが帰る前に振り向く。バイロインの目には明らかに異様な表情が浮かんでいたのだ。

 

 

夜寝る前、トンテンはグーハイがくれた銃のおもちゃを弄っている。爪で銃の模様をカリカリとやっており、嫌な音を立てている。

バイロインにとってそれはとても不快な音であり、聞くたびに鳥肌が立つ。

「おい、おとなしくしろよ!早く寝るんだ!」

バイロインがトンテンを引っ張った。

トンテンが布団に倒れ込み、引っ張られた所を痛がっている。しかしすぐに危険を恐れず、目を光らせて、天井に向けて銃を構える。

そして満足した様子で銃を置いてバイロインに質問する。

「グーハイお兄ちゃんはいつ来るの?」

バイロインがトンテンをちらっと見る。

「今週は来れないよ」

「うーん……」

トンテンは肩をすくめる。

「前はいつも週末にグーハイお兄ちゃんが新しいおもちゃを持ってきてくれたよ。お兄ちゃんが来ないと宿題やる気がでないよ」

「あいつが来たって遊んで宿題しないだろ!」

トンテンはこっそりとバイロインを睨む。

バイロインはそこで何かを思い出した様子で、トンテンと手を引いた。

トンテンは至って素直にバイロインの身体に上る。

「もしグーハイがここに来て、”ここ数日間どこにいたんだ?”って聞いてきたら俺とトンテンが一緒に寝てたって言ったらダメだからな。いいな?」

「なんで?」

トンテンは目をパチパチとしている。

バイロインは強い口調で答える。

「別に構わないぞ。でもトンテンがグーハイに本当のこと言ったらもうグーハイとは会えないぞ?」

「えぇっ!?」

トンテンはびくびくした顔をしている。

「わかった!絶対言わない!」

バイロインはそれを聞いて安心して電気を消して眠りにつく。

 

 

そして翌日。バイロインは実家にこもっているのも少し退屈になり、午前中はボール遊びをした。そして午後はヤンモンを探して遊んだ。

夕方になり、家に帰り食事を待っている。

毎週土曜日になると、ツォおばさんはテーブルいっぱいに料理を作るのだ。どれも文句のつけようがないくらい美味しく、彼にとって土曜日になると夕飯が一番の楽しみになっていた。

この日も例外でなく、バイロインは手を洗ってテーブルの前に座り、並べられた多くの美味しそうな料理たちを眺めている。

「今日はダーハイは来ないの?」

ツォおばさんが質問する。

バイロインはそれに頷いて料理に箸を伸ばそうとした瞬間、携帯が鳴る。

『インズ、もうすぐお前の実家に着くぞ』

バイロインは心臓がギュッとなる。

「俺、来るなって言ったよな?」

『お前、実家にいるのか?今日は伯父さんの家に行くって言ってなかったか?』

バイロインは不機嫌に答える。

「伯父さんたちは家族で外食に出かけたんだ。だから俺は今、家に帰って食事をしてるんだ。終わったら戻るんだよ」

『丁度いい。お前にも会いたかったし。もう着くぞ』

バイロインはまだ言いたいことがあったがグーハイはすでに電話を切っていた。

バイロインは惜しそうにテーブルに並べられた美味しそうな料理を見ているが急がなくてはいけない。

ーー 一体なんなんだよ…

もしこの豪華な料理の数々をグーハイに見られでもしたら、”あんな事件”があったのに不謹慎に家族でご馳走を食べているとなると、不審に思われてしまう。

「おばさん、早くテーブルの上の料理を片付けて!グーハイがもうすぐ来るって言ってるんだ。これと、これと、これと……全部棚に仕舞って!グーハイが帰ったら食べよう」

そう言って、バイロインは慌ただしく肉料理を運ぶ。

ツォおばさんはその様子にあっけにとられる。

「インズ、なんで下げてるのよ?ダーハイが来たんだったら丁度いいじゃない!もう何種類か作るわねっ!」

トンテンも傍で騒ぐ。

「お肉食べたい!」

説明している時間もなく、彼らが協力してくれないのであれば自分一人で下げるしかない。少し考えてまずスペアリブを手に持つ。

ツォおばさんはぼんやりしながらバイハンチーに尋ねる。

「この子、一体どうしちゃったの?」

「知らないよ…もしかして、グーハイに食べさせる分が惜しくて隠してるのか?まさか…?」

バイロインはテーブルにまた戻ってきて、今度は炒め物の皿を二皿持っていく。そしてもう一度注意する。

「あの日話したことを覚えてるだろ?あいつにバレたくないんだ」

ツォおばさんはさらにポカーンとしている。

バイハンチーがツォおばさんの肩を叩く。

「今時の子供は勉強のプレッシャーが大きいんだろ?これもきっと息抜きの一つだろう。自由にさせてあげよう」

それからすぐにトンテン以外の三人で協力してお祖父ちゃんとお祖母ちゃんの部屋に美味しそうな料理の数々が運び込まれていく。トンテンはどうしても食欲を我慢することができず、祖父母の部屋に飛び込み、そこかしばらく出てこなかった。

 

 

グーハイがバイロインの実家に着くと、バイ家の食卓は陰鬱とした雰囲気が漂っていた。

バイロインとバイハンチー、それとツォおばさんの三人で大きなテーブルを囲んでいる。しかし、その大きなテーブルの上にはおゆ一つと小皿二つの漬物が乗っているだけだった。

バイハンチーはぎこちない様子でグーハイに挨拶する。

「ダーハイ、来たんだね…」

グーハイは笑って頷く。

そばにいるツォおばさんはしきりにため息をついている。

「ダーハイ、おばさんホントに申し訳ないよ…せっかくあなたが家に来たのにおゆだけでもてなすなんて……」

グーハイはツォおばさんを慰める。

「おばさん、大丈夫ですよ。おばさんが作ったやつならおゆも肉の味がしますよ」

ツォおばさんは顔をこわばらせながらぎこちなく笑う。

「あなた…本当に口が上手なんだから」

「別に冗談じゃないですよ」

そしてグーハイは真剣な顔で話す。

「本当に肉の匂いがしますね」

バイロインはもう少しで口の中のおゆを吹き出すところだった。

 

 

二人は庭で話している。バイロインはグーハイが視察に来たのだと思っていた。しかし話をしていると、本当にただバイロインに会いに来ただけだと分かってきた。グーハイはわざと時間を引き延ばしたりもせず、疑うようにキョロキョロと周りを見るようなことも一切しない。

グーハイの注意はすべてバイロインに向けられており、充分に彼の姿を目に焼き付けたら帰るつもりのようだ。

 

グーハイが家の門を出てから、バイロインはやっとほっと一息つく。

バイロインが台所に戻りツォおばさんに言った。

「もう料理を出して大丈夫だよ」

バイハンチーがバイロインの後頭部を叩く。

「全くこの子は…なんて落ち着きがないんだ」

「トンテンがまだお義父さんたちの部屋にいるわね。私呼んでくるわ」

と、ツォおばさんが言った。

バイロインとバイハンチーが二人で料理をすべてテーブルに並べた。

ツォおばさんが祖父母の部屋に行ったがトンテンの姿が見当たらない。バイお祖父ちゃんがゆっくり話し始める。

「あの子はさっきダーハイを見て追いかけて行ったよ」

ツォおばさんはトンテンがグーハイにくっつくのが好きだと知っていた。ツォおばさんはこれ以上なにも尋ねることはせず、食事をしにリビングに戻る。

 

 

「グーハイお兄ちゃん!」

トンテンが一声叫んだ。

グーハイが振り向くと小さな体が弦から放たれた矢のように突進してきた。

グーハイは素早くしゃがんでトンテンを受け止めて抱き上げる。

「ハハハ……」

グーハイはトンテンの頬を優しくつねっている。

「なぁ、さっきは見かけなかったけど、どこにいたんだ?」

「ずっとおじいちゃんとおばあちゃんの部屋にいたよ」

 

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※『祖父母』の取り扱いについて

これ”誰にとっての”お祖父ちゃんお祖母ちゃんなどと、表現をいちいち変えてると汚らしい文章になりますので、以下のように統一します。

「バイ家の人から呼ばれるお祖父ちゃん・お祖母ちゃん」はすべて「バイロインから見てのお祖父ちゃん・お祖母ちゃん」です。

(バイハンチーからすれば両親だし、ツォおばさんからすれば義理の両親、トンテンからすれば義理の祖父母にあたります)

 

さて、面白そうな展開になってきました。

「本当に肉の匂いがしますね」はさすがに草

こっちもお茶吹きそうになったわ笑

 

:hikaru