NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第139章:金のなる××

グーウェイティンがグーハイに近寄りながらバイロインのことを見る。バイロインが持っている茶碗を見て、なんと彼は珍しいことに口元の笑みを浮かべた。

どうやら先ほどの美しい”兄弟愛”の場面を目撃してとても喜んでいるようだ。

バイロインがおかゆの入った茶碗を近くに置き、苦しそうにしながら立ち上がる。そしてなんとか歩いて少し離れてたところに立つ。

この”ただならぬ親子”が会話をするための配慮だ。

「どれ、見せてみろ。どっちの足を骨折したんだ?」

そう言ってグーウェイティンは布団をめくろうとした。

グーウェイティンの動きを見てグーハイは即座に布団を押さえつける。そして断固として見せるものかという表情をしている。

「別に問題ない…俺は健康だよ」

グーウェイティンの手がそれを聞いて止まる。そしてグーハイの目を見て少しホッとししたような様子で話し始める。

「お前のそんな痛みを恐れない姿勢を私は気に入っている。だが病気であるのなら長引かせてはならない。ソン殿、先ほど電話をした軍医はいつ到着するのかね?」

ソン警備兵は時計を見る。

「間もなくです。渋滞に巻き込まれてさえいなければ十分以内でしょう」

グーウェイティンはそれを聞いて眉をひそめる。

「…この辺りは普段いつ頃渋滞するんだ?」

「それでは……ヘリコプターで向かわせますか」

グーハイは顔色を一気に変える。

ーークソ…俺が本当に怪我したときは普段こんなことしないだろ!ケツが腫れただけでヘリコプターまで呼ばれて、なんでわざわざ一緒に過ごさなきゃいけないんだよ!?

「必要ない!」グーハイはハッキリとした口調で伝える。

「俺は全然病気なんかじゃない」

「では何故病気ではないのに寝ているんだ?」

グーウェイティンが詰め寄る。

グーハイは依然と落ち着いて答える。

「少し調子が悪いだけだ。休みたいからもういいか?」

グーウェイティンがソン警備兵に目配せをする。そして”グーハイの言うことは無視し、自分が前もって指示した通りに動け”と合図する。

合図の後、ソン警備兵は携帯を持って外に向かって歩いて行った。

バイロインが二人の意図を察してソン警備兵を急いで追いかける。そしてなんとか追いつく。

「…おじさん!」

それを聞いたソン警備兵が振り向く。そしてバイロインを見てすぐ笑みを浮かべる。ソンはグーウェイティンからバイロインの話は聞いており、二人が義理の親子であるということも知っているため、敬意を持ってバイロインに接する。

「グーハイは本当に大したこと無いんです。わざわざ医者を呼ぶなんて大ごとにしないでください」

バイロインは説得を試みる。

ソン警備兵はバイロインの手を掴んで握る。そして上下に何度か揺らし、真っすぐバイロインのことを見る。

「ご苦労様でした」

ソン警備兵はそう言ってから、誠意を込めてまた話し始める。

「私は今までシャオハイの成長を見守ってきました。彼の気性は充分に理解しています。二人がベッドであれほど仲睦まじくなさり、兄弟でサポートしている様子を見れて…少将を見てください。あなたには私が少将に代わってお礼を申し上げます」

バイロインのこめかみが二回跳ねる。どんどん事が大きくなっていく様子に思わず、本当は自分に振り回されたせいでグーハイがあんな状態になっているのだと喉元まで出かかった。

「ですが…病気をしているのならば医者に診せねばなりません。例えシャオハイの体が鉄で出来ているかのように頑丈だとしても病気は治さねばなりません。体は資本です。近頃の若者は華奢です。みんなが君たちのようであればいいのですが。これからこの国を守っていくのは貴方達のような逞しい若者です。ですから体は大事にしなくてはなりません」

バイロインは茫然としている。話しをすればするほど、事態はさらに途方もない話に展開していくのだ。

「ご理解頂けましたね?」そう言ってソン警備兵はバイロインの手を離し電話を続ける。

バイロインが説得できていないまま、突然グーハイの叫び声が響く。今はもうソン警備兵を相手している暇はなく、バイロインは急いでグーハイのいる部屋に戻る。

するとそこではグーウェイティンがグーハイの片方の脚を手で曲げて自分の胸に押し当て骨の損傷具合を測っていた。

バイロインは引き裂くような叫び声をまた耳にする。

しばらくしてグーハイは大汗をかき、グーウェイティンがようやく彼の足を離す。

「骨折していないと言っていたが、それならどうしてそんなに痛がるんだ?」

ーー骨折で痛がってるって?

グーハイは厳しい目つきでグーウェイティンのことを見ている。

ーーあんた、本当に良い父親だよ。毎回毎回、俺が痛みに苦しんでいる時にわざわざ追い打ちをかけてくれてありがとな!!

「ソン警備兵、電話は終わったかな?」

するとソン警備兵が隣の部屋から現れた。

「終わりました。間もなく来るかと」

バイロインはすっかり意気消沈して脱力している。もう八方塞がりでグーハイのことを助けることはできない。

 

 

それから十分後、本当にヘリコプターがマンションの屋上に降りてきた。すぐにヘリコプターから軍医二人が降りてきて、全速力でグーハイたちのいる階に降りてきた。そして医療道具が入った大きなカバンを持った軍医二人が部屋に乗り込んでくる。

まず始めにグーウェイティンとソン警備兵に一礼してからグーハイのベッドに駆け寄る。軍医はグーハイに病状について問診する。しかしグーハイは「自分は問題ない」と言い張る。二人の軍医はグーウェイティンの命令に従い、グーハイのズボンを脱がす。そしてグーハイの両足を持って激しく振り回す。グーハイは死ぬほど痛がっている。

しばらく診た後、本当に骨に異常がないことに気づき、今度は腰の骨に異常があるのではないかと疑い、グーハイの腰付近を押す。

軍隊直属の医者なだけあって、普通の医者と違い、患部を押す力に一切の遠慮がない。毎回全力で押してくるためその都度グーハイは叫び声を上げる。

バイロインは本来であれば自身の体も痛いため、長く立っていることができないはずだ。

しかし今、グーハイが受けている仕打ちを目の当たりにして自分の体の痛みなどどこかへ消え失せていた。棒のようにただ呆然と立ち尽している。どうか医者にこれ以上グーハイを苦しめるのはやめて欲しかった。

ーーグーハイ、頑張ってくれ…!……

 

最終的にグーハイの我慢が限界に達し、突然二人の軍医を押しのけてベッドから立ち上がる。

ーー痛くても我慢だ…!とにかくこの二人をさっさと追い出してやる!

グーハイは何食わぬ顔をしながら部屋の中を二周歩いて見せた。その様子は健康な人と変わりなかった。顔色だけは隠せていないのだが。

「これは…」

その行動を見たバイロイン以外の人間が皆一様に驚きを顔に浮かべている。

「なぁ、見ただろ?」

グーハイはそう言いながら軍医二人を憎らしそうに見ている。

「この俺のどこが一体悪そうに見えるんだ、おい?」

二人の軍医は気まずそうな顔をしていたが、片方の軍医が口を開く。

「最初からそうしていれば…我々はこんな検査せずに済んだのではないですか?」

そんなことグーハイが一番分かっている。

ーー痛くてできるかアホ!なんで俺がこんなに苦しまなきゃいけないんだよ…さっきは歯を食いしばって死ぬような痛みに耐えた…わざわざ歩く必要なんて何処にも無かっただろ!

グーウェイティンはなにやら難しそうな顔をしており、ソン警備兵も困った顔をしている。

軍医は突っ立っている。そしてやっとのことで口を開く。

「少将、彼の骨は問題ありません。おそらく神経性の筋肉痛かと思います。なにしろ彼はピンピンしています。トレーニングのし過ぎかもしれませんね。しばらく放っておけば自然に治りますよ」

もう片方の軍医が親切にグーハイに布団をかけて、念を押す。

「風邪をひかぬよう、気を付けてください」

その後、二人の軍医は無駄骨だったことに少し不機嫌そうな様子で立ち去る。しばらくしてからグーウェイティンとソン警備兵もその場を離れていった。

 

 

部屋にやっと静けさが戻った。

バイロインは驚いた表情でグーハイを見ながら質問する。

「どうやってお前の親父はお前の怪我を知ったんだ?」

「…どうしてだと思う?」

バイロインは理由を頑張って考えている。するとグーハイがバイロインに自分の携帯を投げ渡す。バイロインが携帯の画面を開くとリーシュオからのメールが来ていた。

 『親愛なる友 ダーハイ同志。

貴殿が負傷した旨、グー少将に伝えさせて頂いた。

これは吾輩が御二方の間に建設した橋である。この強固な橋を通して父と子の仲を深めて頂きたい所存。

御二方の関係はこれにより穏やかな方向へと向かい、この些細な出来事を通し、貴殿は父上の愛情の深さを知るべし。』

 バイロインは絶句する。

やっとグーウェイティンらが去ってホッとしたのも束の間、悪夢は始まったばかりなのだ。

 

 

夜八時過ぎ、二人が夕食を食べ終わった頃、玄関のチャイムが鳴る。

バイロインは腰を曲げながらドアを開けに行く。そして外の信じられない光景に衝撃を受ける。

玄関の外は人でごった返している。見渡す限り緑の軍服を着た剛健な顔つきをした集団。

まず初めに三人の将校が花束を抱えながら、揃ってバイロインに向かって軍隊式敬礼をする。

バイロインがあっけにとられていると、三人の将校が家の中へと入っていく。

「グーハイ同志!我々、北空七師団六連隊を代表し、貴方のお怪我のお見舞いに参りました!一日も早いご回復を祈っております!」

「…………」

 

 

あの”お見舞い”後、十分も経っていない頃、再びチャイムが鳴る。今度は武装警察部隊から数人派遣されてきた。こちらも花と祝福の言葉を残して去っていった。

間もなくしてまた来客。

様々な大隊、様々な所属の者たちが、次から次へとひっきりなしに訪問してくる。それ以外にも、一体どこから聞きつけたのか様々な部署の役人たちもお祝いの贈り物を持って駆けつけてきた。

さらには学校の教師たちまでもが賑やかに駆けつけてきて、どしどしと家の中に入ってくる……

バイロインは感じた。

ーー少将のご子息のケツの穴はこんなにも価値があるのか!

グーハイの心の中ではリーシュオに対する怒りが絶頂に達していた。

ーーあの野郎さえ余計なことしてなければ、こんなことにはならなかったんだ!!

もしこれが本当に”ちゃんとした怪我”であれば穏やかな心でこれらの祝福や贈り物を受け入れることができた。

その実、人目にはつかない”あの場所”の怪我であって、それを怪我した理由など口が裂けても言えないものだ。

これらの人たちが家に訪れる度に、グーハイは布団を大きく被って隠れてしまいたかった。恥をかくばかりか、こんなにも多くの人に祝福されるのだ。

ーー楽しめるかアホ!!

グーハイが嫁に一晩中犯され続けた、などという真相が伝わってしまったら、死んだほうがマシである。

「おい!もう誰が来ても開けるなよ!!」

グーハイはバイロインに注意する。

それを聞いてバイロインは机に行き、白い紙に大きな字を書く。

”療養中!面会謝絶!!”

その紙をドアの外に張り付けて鍵をかけた。

すると訪問の嵐は収まり、やっと二人は落ち着いて寝ることができた。

 

 

しかし翌日、午前中に電話が鳴り起こされた。バイロインが電話に出る。

『どうもこんにちは、我々不動産会社の者です。御宅の前で大量の荷物が通路を塞いでいると苦情がありまして…すぐに確認して頂けると助かります。そして全て片付けて下さいますようお願いします。ご協力感謝致します。プープープー…』

バイロインはウトウトしながら玄関に向かう。

ドアを開けると、一メートル以上高く積まれたプレゼントの箱の山々が家の中に押し寄せてきた。

バイロインは寝起きで反応も悪く、まだ身体も本調子ではなかったため、避けることができず箱の下敷きになってしまった。箱の中からは果物が散らばり、バイロインの頭には割れたドリアンが被さっていた……

 

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 ※同志という表現について

これは志を共にする仲間、例えば一緒に会社を興して共に頑張る仲間や、軍人が仲間意識を持って同じ軍人を呼びかける際などに使われます。

これ、日本語に直そうとすると「~さん」になっちゃうんですよ。

だからあえて同志と表記して解説することにしました。

ちなみに「同志」は「ゲイ」という意味もあります。日本で言う「お仲間」に近い感じですかね。

ここでの「同志」は前者を意味しますが、場面によっては「同志」という表現は誤解を生むため避けられたりもします。

 

グーハイの災難回が続き同情を禁じ得ないですね…笑

グーパパ、二人が仲睦まじくて嬉しかったんですね。グーハイの不器用は父からの遺伝かよ…笑

 

:hikaru