NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第140章:厚い面の皮

二人は三日にわたる禁欲生活を余儀なくされていた。

その甲斐もあって、バイロインの”きゅうり”とグーハイの”菊の花”は正常に使えるまでに回復していた。

そして回復と同時に冬休みも終わりを迎え、楽しむための日々から、また朝早くから夜遅くまで勉強漬けの日々が始まる。

 

早朝、グーハイは朝食の買い出しのために車で出かけて、すぐに帰宅する。その間バイロインはずっと布団の中でぐっすり寝ていた。

「ほら、ベイビー。起きろ起きろー」

バイロインはそれに「うん」と返事をしたのだが、どうしても目を開けられずにいた。肩を揺さぶられながらもグーハイの甘い声に頭をダラリと垂らしている。

グーハイが手を離すとパタリとベッドに倒れるように横になった。

ーーどうするか…

グーハイは少し心配していた。

彼を無理矢理起こそうとすれば、手が塞がってしまう。

グーハイがどうしたものかと考えているとその隙にバイロインはまた寝てしまい、軽いいびきをかき始めた。

 グーハイは心の中で”悪い教育制度”を悪態をつく。朝から晩まで勉強漬けで体を壊し、魂を殺す最悪の制度。

ーーお前たちのせいで俺の嫁が寝不足してるんだぞ!!

そっとバイロインことを支えながら、服を一枚ずつバイロインに着せていく。

そして靴下を履かせようとした時、バイロインが無意識でグーハイのことを蹴飛ばしてきた。

 

プッツン

 

「朝飯買ってきてもらって、服を着せてもらって…それに対してお前は俺を蹴飛ばすのか!?お前のこと甘やかしすぎたな!!」

グーハイはそう言って拳でバイロインの足を殴りつけた。そしてその痛みでバイロインは目を覚ます。

バイロインはむしゃくしゃした様子で靴を履いて、釈然としない感じで顔を洗い、不満そうな顔で歯を磨いて、憂鬱な表情で朝ごはんを食べて家を出る。

二人は走って学校に向かう。道すがらバイロインが口を開くことはなかった。暗い表情で顔を下げている。

グーハイはそんなバイロインを見て詰問する。

「朝飯買ってきてもらって、服を着せてもらって、俺の足を蹴飛ばした。これでもまだ不満でもあるか?」

「違う…」

「じゃあなんでそんな渋い顔してるんだよ?」

バイロインがグーハイをチラッと見る。

「お前のせいじゃない…学校に行きたくないんだ」

ーー子供かよ…

グーハイは笑いながらバイロインの顔をつまむ。

 

 

二人は学校の正門に着いた。そしてバイロインがヨーチーを見つける。ヨーチーは学校の寮に住んでおり、昨日の午後に実家から寮へと戻ってきた。そして今は寮から教室に向かっている。

まだ夜も明けきらない薄暗い中、学生たちは群れを成して学校の中にぞろぞろと流れていく。

その中からバイロインはヨーチーを一目で見分けた。それもそのはず。彼の歩き方やカッコつけは良く知っているのだ。

「ヨーチー!」

バイロインは大きな声で呼ぶ。

ヨーチーは自分を呼ぶ声が聞こえて、足を止めて学校の正門に目を向ける。

バイロインは早歩きでヨーチーのもとへ向かう。

グーハイはバイロインの後に続きながら心の中で不満を垂れる。

ーーお前さっきまで暗い顔してたのに、今はそんな嬉しそうな顔するんだな!

ヨーチーはバイロインを見て、冷めた顔に笑顔を浮かべる。

「おぉ、久しぶりだな。寂しかったのか?」

それを聞いてバイロインは肘でヨーチーのお腹を小突いた。そして普段の仲良しの口調で返す。

「寂しかったよ、当たり前だろ?」

「やめろよ。俺、お前にたくさんメール送ったのに一通も返してくれなかっただろ」

バイロインは作り笑いする。

「知ってるだろ、俺はメールが大嫌いなんだ」

ヨーチーはバイロインをじっと見つめる。そして不思議そうに尋ねる。

「なんかすごく痩せたように感じるんだけどなんでだ?普通正月なら太るだろ?どうやって痩せたんだ?」

「そうか?」

バイロイン自体は自覚がなかった。

ヨーチーはバイロインの腕を握る。以前とさほど大きな違いはない。しかし輪郭はシュッとしている。

二人は他愛ない会話をしながら、後ろにいる人間を完全に無視していた。ヨーチーはグーハイにも話しかけたいのだがどうしても話しかけられなかった。なぜならグーハイから強い敵意のオーラが漏れていたからだ。

 

 

教室に着いて生徒たちは授業が始まる前に自習している。そして各科目の係は宿題を回収し始める。

グーハイとバイロインは自分たちのクラスの担任であるルオシャオユーの英語の宿題だけはしっかり終わらせていた。だが他の科目は結局終わらせることができず、全部中途半端のままで提出した。

 

第一時限の授業が終わり、ヨーチーはバイロインの席に振り向く。バイロインとの中断された会話の続きを始める。

グーハイはバイロインのカバンを取ってバイロインの携帯を取り出す。そしてつまらなそうにメールの一覧を見ている。

シーフイからのメール以外残っており、ほとんど開封マークすらついていない。

なぜこんなにもメールを嫌がるのかグーハイは不思議に思った。返事するのが嫌だと言っていたが、実際はどうだ。バイロインはすこぶる気分がいい時は直接名前を見ることはするが、気分が悪い時は彼にとって携帯は置物も同然だ。

しかし、この点についてはグーハイは誇りに思っている。グーハイがバイロインに送ったメールは全部開いており、ちゃんと全てに返信しているのだ。バイロインは一日中グーハイにうんざりすることがないのだ。

なんでも言いなりにならずとも、ちゃんとそういう分別があればグーハイは満足なのだ。

グーハイはヨーチーがバイロインに送ったメールを見つける。

なんの変哲もないお祝いのメールだ。お正月に送られており、ほかのもただの他愛のない内容のものばかりだ。

どのメールも十文字以内で内容が変なものはない。

ただ一つだけ、気持ちのこもった内容のメールがあった。

『インズ、ちょっとお前が恋しいよ!』

ーーちょっとお前が恋しい…?

グーハイはこの言葉を心の中で繰り返し、意味も無くヨーチーのことをちらっと見た。

 

 

第二時限。国語の先生の顔は三角の形をしている。そして丸く膨らんだ頬が教壇の下の学生一人一人に向けられる。

「私は作文の宿題を出しました。しかし残念なことに二人の生徒がちゃんと終わらせないまま提出しました」

生徒たちは周りを見回して、その”二人の生徒”が誰なのか疑いの目で探している。

再び国語の先生が話し始める。

「あなたたちの名前を読み上げることはしません。もし自分だという自覚があるのなら、教科書を持って自分から教室の外に行って立っていなさい」

バイロインとグーハイは起立し、無言の了解のもと、教室の外に出た。

廊下には二人以外誰もいない。多くの教室でそれぞれの先生の授業を行う声が聞こえている。

ごちゃごちゃと、男の声、女の声、高い声、低い声、メリハリがある声たちが途切れ途切れに…

数年後にはこれらの記憶に刻まれた雑音さえも突然美しくなるのだ。

グーハイは黙ってバイロインのことをずっと見つめている。そして見つめているだけでどんどん時間は過ぎていく。

彼にとっては教室にいるよりもこうしてバイロインを見つめているほうが時間を潰せるようだ。

バイロインはグーハイのずっと自分に向けられている視線を感じていた。

内心ソワソワして”何見てんだよ”という表情でチラッとグーハイに顔を向けてまた正面を見る。しかし、いつまで経ってもグーハイからの視線を感じるため、再度警告するような目つきでグーハイのことを見る。

グーハイはこのとき密かに考えていた。

ーーなんだその目つきは?これって明らかに俺のこと誘ってるんだよな!

バイロインはグーハイから一歩離れる。するとグーハイがバイロインを追うように一歩近づく。結果元通りだ。

第二時限が終わろうという時、バイロインは堪らず質問する。

「お前は一体いつまで俺を見てるんだ?」

「お前ってホント可愛いよな」

バイロインはすかさず、

「お前言うことがホント下らないんだよ」

と言ってグーハイから顔を背ける。

すると突然、グーハイが手を伸ばして”ちびインズ”に触ってきた。

「ここはまだ痛むか?」

バイロインの顔が燃えたかのように真っ赤になって、すぐにグーハイの手を叩き払い大きな声で怒鳴る。

「それが痛ぇよバカ野郎!!!!」

この怒鳴り声は廊下全体に響き渡り、この階の教室にいる者すべての耳に入ったであろう。

バイロインは怒鳴った後に自分のあまりの声のデカさに焦っていたが、もう手遅れである。

国語の先生が厳粛な面持ちでゆっくりと教室から出てきた。

「廊下にいることが不満なの?行きなさい…だったら外の旗の下にでも行きなさい!早く!!」

哀れな二人組はやっとのことで体調が戻り、落ち着けると思った矢先、冷たい風が吹く屋外で震えていた。

グーハイはバイロインが風邪をひかないように上着を脱いでそれを被せようとしたがバイロインはどうしても嫌がる。

するとグーハイはバイロインの隣に行き、ぴったりとくっついてバイロインの手を握って自分のポケットの中に入れた。

誰も見ていないし、例え見られたとしても構わない。ただ単純に自分の手で彼の手を繋いでいる。このことがとても形容しがたいほど満足な気持ちで堪らなかった。

結果、神様はグーハイの願いを叶えたのだ。

 

その後、授業ごとに各授業の先生は宿題を終わらせてこなかった生徒に対して、外に立っているようにと罰を与えた。

クラス担任のルオシャオユーだけはそのような罰を科さなかったが、よりによって唯一完成させた宿題はこの担任の科目だけだった。

午後になって学校が終わり、二人は氷のかけらを身体につけて教室に戻った。

荷物をまとめて帰ろうとしたところ、バイロインがヨーチーに呼び止められる。

「これやるよ。俺のお母さんの手作りなんだ。油で揚げて食ってくれ。天津のお土産だぞ!」

そう言ってヨーチーはバイロインに油で濡れている紙袋を手渡した。

バイロインはその紙袋を持った瞬間、とても美味しそうな匂いがしてニコニコと嬉しそうな様子でヨーチーの肩を叩く。

「お前、マジで親切だな!」

グーハイが無表情でぼやく。

「ちょっと大げさじゃないか?他の人からもらった物がそんなに美味しいのか?」

「少なくともお前が作る物よりはずっと美味いだろ」

グーハイは牙をむき出しにして怒りを浮かべる。

バイロインはグーハイのことはお構いなしに振り向いてヨーチーに喜びを隠せない様子で話す。

「代わりにおばさんにお礼を言っておいてくれよ」

「あぁ。美味かったら今度は天津の実家に食べに来いよ。お母さんが御馳走するよ」

バイロインは考えることもせず即答する。

「もちろん!」

 

 

 (豆香斋牛肉香圈:新鮮な牛のひき肉を皮で包んで揚げる。天津料理。)

二人は家に帰り、グーハイは台所に行ってラーメンを作っている。そしてバイロインはヨーチーから貰った美味そうな物を思い出して、”豆香斋牛肉香圈”の入った袋をグーハイに渡す。そしてグーハイに念を押す。

「これは揚げて作るんだぞ」

バイロインはそう言い終えると寝室に行き宿題をやり始めた。

 

グーハイは憎らしそうに目を細めて手に持っている袋を見つめている。できるのであればごみ箱に捨ててしまいたい。

しかし、グーハイはそうはしなかった。お腹も空いているし、確かにこれはとても美味そうである。

そこで、鍋に油を半分くらいまで入れて、油が充分に温まったところで”豆香斋牛肉香圈”を入れた。

揚げていると、なんとも言えない美味しそうな香りが漂ってくる。グーハイは我慢できず、いくつかすくい上げて食べる。

 

 

バイロインが美味しそうな匂いにつられて台所に来た。しかし、台所につくともうその牛肉の香りはしなくなっていた。

「なぁ、ヨーチーがくれたあの袋の中身はどこに行ったんだ?」

それを聞いたグーハイが指さす先には黒く焦げた物が乗せられた皿があった。

「これだよ!」

「お前…明らかに揚げすぎだよな?」

バイロインは苦虫を嚙み潰したような顔をしている。

「おい、貰った時は確かに黄色だったよな!?」

「俺を責めるな。最初から黒かったぞ」

バイロインは信じられず、とりあえず焦げたそれを一口食べてみる。苦くて中からかすかに焦げた臭いがする。これは食べるよりも、匂いを嗅ぐだけで留めておいたほうが良さそうだ。

グーハイはおちょくるようにバイロインのこと見ている。

「味はどうだ?」

バイロインは未だに疑った様子でグーハイに問いかける。

「あの美味そうな匂いがしてた物がこれだって言うのか?」

グーハイは厚無恥に答えた。

「お前勘違いしてるぞ。さっきの匂いは俺が作ったラーメンの匂いだからな」

 

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『バイロインは”むしゃくしゃした様子”で靴を履いて、”釈然としない感じ”で顔を洗い、”不満そうな顔”で歯を磨いて、”憂鬱”な表情で朝ごはんを食べて家を出る。』

ここ、”烦闷”「(形)気持ちが晴れない」が四回連続で書かれてるんですよ。

ただ同一単語を連発したらしつこくなるし、日本語の良さを出してみました。

訳者によって描写が異なるポイントだと思います。

 

推しを眺めて時間を潰すグーハイ、我々と一緒じゃんw

そしてジェラ爆発したグーハイはやることがえげつないw

ドラマ以降部分でヨーチー初登場ですね!

自分、ドラマ見てたときヨーチーはバイロインのことが好きなのかなって思ってたんですよ。生殖器検査で覗き込むし、クリスマスにはプレゼントあげるし。

今後どうなるのか楽しみです。

 

:hikaru