NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第149章:探りを入れてみる

ソン警備兵はバイロインがまさか自分を誘ってくれるとは思ってもみなかった。彼は一度しか会っていないこの青年に対してずっと興味を抱いていた。ソン警備兵自身、ユエンと会うことは少なく、彼女については聡明な女性だと知っていたのだが、バイロインに関してはすべてグーウェイティンの口から漏れる言葉から認識を得ていた。

二人が椅子に腰を掛けた後、最初に口を開いたのはソン警備兵だった。

「学校での授業は疲れましたか?」

「まあまあです」

 ソン警備兵は優しく笑った後、お茶を持ち上げて一口飲んだ。

「私の娘は中学三年生なのですが、一日中宿題をやっていますよ」

バイロインは微笑む。

「卒業前の三年生なら仕方ないですね」

 ソン警備兵はバイロインがグーハイに比べて穏やか性格であり、同年代の男の子と比べても随分落ち着いている印象を受けた。

「私は長年軍隊にいますので、一番関わるのはやはり軍人です。そのせいで発言や行動がどうしても激しくなってしまい、こうやって落ち着いて話をする機会も極めて稀なため、普通にお話しするのが苦手なんです。特にあなたのような年頃の青年は私たちとは考え方も随分違います。ですからもし私があなたを不快にさせることを言ってしまっても大目に見てください」

「ソンおじさん、遠慮しないでください。あなたは目上の人ですし、そもそもこういった話は私からすべきです」

ソン警備兵はハハッと笑い声を上げて、バイロインの肩を叩いた。

「まぁ、そんなことはとりあえず置いておきましょう。ただ談笑をするためだけに今日、ここに来たわけではないのでしょう?」

バイロインは真剣な表情でソン警備兵の顔を見つめており、その目つきは明るい。

「はい。少しお聞きしたいことがあるんです」

ソン警備兵は興味深そうにバイロインを見ている。

「私に聞きたいことですか?誰についてですか?少将ですか?」

バイロインはビシッとした姿勢で答える。

「少将の亡くなった奥さんについてです」

ソン警備兵の表情が固まり、目つきが一瞬にして曇る。

「グーハイのお母さんについて聞きたいんです」

 バイロインは質問を繰り返した。

ソン警備兵は数秒の沈黙の後、ぎこちなく笑った。

「どうしてこれを聞こうと思ったのですか?」

バイロインは冷静に答える。

「自分はグーハイと彼の父親との間には大きな隔たりがあると感じています。その隔たりは彼の母親の事件が関係していると思います。グーハイは心の中で、彼の母親の死には父親が直接関係しているんだと思っています。だから自分はグーハイの母親がどうやって亡くなったのかはっきりさせたいんです。そしてグーハイの心のわだかまりを取り除いて父親を認めて欲しいんです」

ソン警備兵はどうしようもないという表情を顔に浮かべている。しかし、バイロインを見る彼の目にはバイロインに対する称賛が見て取れる。

「あなたはとても聡明なのですね。私から情報を得るためにこのような扇動的な言い方をなさったのですね。あなたの考えは素晴らしい。しかし私はお力になれません。私自身も多くを知らないのです。私から何度もシャオハイに話をしましたが彼は一切聞く耳を持ちませんでした。かと言って少将の身の潔白を証明しうる確実な証拠もないのです。だから、私の口から話すのはやめておきましょう。こんな些細なことであなた達兄弟の仲を壊したくはないです」

「あなたが話すのと、自分がグーハイに話すのとではまた訳が違ってくると思います。もし自分が彼の父親の無実を信じれば、きっとグーハイも父親の無実を信じるはずです」

バイロインの話す声には重みがあり、それは全く身の程を知らないただの子供とはかけ離れていて、胸の中でしっかりとした考えを持っている賢人のようである。

ソン警備兵は両目を細め、バイロインに対して微かな驚きを抱いた眼差しを向けている。グーウェイティンがバイロインと会った際、バイロインのことが彼の心に刻まれた理由が少し分かった気がする。

 「これについて事情を知りたいのであれば、なぜシャオハイに直接聞かないのですか?私が知っていることは全て、彼も知っています。だから私に聞くのも彼に聞くのも変わりはないですよ」

「あいつを説得する前に、自分がこれについて調べていると知られたくはないんです」

ソン警備兵は一呼吸ついてから妥協したような笑みを浮かべる。

「いいでしょう。あなたにお話し致します。そもそもあなたも少将の家族なのですから。長い年月が経っていますし、機密というほどのことでもないので」

落ち着いていたバイロインの心が、いざこの瞬間を迎えて、一気に緊張していた。

ソン警備兵がグーハイの傷口を再び開く。バイロインがグーハイの代わりにこの痛みを追体験する。

「事件は三年前に発生しました。その時、少将は武器開発のプロジェクトを担当していたのですが、海外の軍事大手企業の人間が軍事情報を探るために聞き込みに来たのです。少将にこの軍事機密を売却してもらうために交渉しに来て、様々な手厚い条件を提示してきたのですが、少将は一切情報を売ろうとはしなかったのです。その後、少将はこの機密情報を自ら運搬するために、二種類のルートを計画しました。その内一つはダミーの車を用意したのです。そのことは誰も知らず、護送担当の将校にさえも秘密にされていました。だからこのダミーの車が本物であると誰もが思っていました。本物の機密情報は少将の手に握られており、彼は私服を着てタクシーで運んだのです。『一番危険なところが実は一番安全なところだ』なんて言われたりするでしょう?だから誰もこのタクシーには気がつかなかったのです。少将は楽々と機密情報を安全な場所に送り届けることができました。しかし、ダミーで用意した車が事故に遭ったのです。このこと自体は少将も想定してしました。海外の軍事企業も諦めるはずがないと考えて、このように二つのルートを計画したのですから。しかし、少将にとって思いもよらなかったのが、グー夫人がその車に乗っていたのです。しかも交戦の際、大怪我を負ってしまい、病院に着く前にはすでに呼吸が止まってしまったのです。その時、シャオハイはまだ十四歳で、彼は母親の死の知らせについて全く信じていませんでした。その際、部隊の中では様々な情報や噂が飛び交っていました。あなたのお母さんと少将についてもその時から噂が立っていました。こういった情報もあり、シャオハイは猜疑心をより一層深めてしまいました。彼は母上が車に乗るはずがないと考えて、全ては少将が仕組んだのだと思っています。あなたのお母さんと少将が結婚するために仕組んで、悪意のある計画で殺害したのではないかと考えているのです」

この話を聞いて、バイロインはどうしてグーハイが自分のことをユエンの息子だと知った瞬間、理性を失って人を傷つけるようなことを言ったのか、その理由を完全に理解した。

もともと、彼の頭の中では不共戴天の恨み(この世に生かしておけぬほどに憎悪)をユエンに対して抱いていたのだ。

 「どうしてグーハイの母親はこの運搬に関する情報を知ったんですか?なぜ車の出発に間に合って乗ることができたんですか?軍事的機密情報を護送するような車であれば専門的にルートを作るべきでは?なぜこんなにも簡単に彼の母親が知ることができたんですか?」

バイロインはいくつかの不審な点に対する疑問をソン警備兵にぶつけた。

「事実というのはこのように分かりづらいのです。我々も多くの捜査を重ねましたが何一つ解明には至りませんでした。私もこの程度しか理解できていないのです。その時、夫人は突然テレパシーで少将の危険を感じ取って会いに行ったのかもしれません。もちろんこんな理由が信じられないということは重々承知しています。本当に馬鹿げていますから。しかし幾ら話をして理解が得られないとしても、私は少将の身の潔白を信じております。それを保証するためなら私は自分の命さえ惜しくはありません。これは絶対に少将が前もって計画したものではありません」

バイロインは納得いかない様子で語気を尖らせる。

「しかしあなたの考えではグーハイを説得することはおろか、私を説得することさえできませんよ」

ソン警備兵は少し苦笑いをする。

「これは先ほど既にお話しましたが、私ではお力になれないのです。私が知っていることをあなたにお伝えしても、このように猜疑心を与えてしまうだけなのです。ですから、この件についてはもう成す術がありません。いつかシャオハイが少将の苦しみを理解し、この謎が自然と解けることを私は期待しているのです」

バイロインはソン警備兵がこの場を離れるまでとても重い気分に苛まれていた。

ソン警備兵と話しを終えた後、大急ぎで学校に向かった。幸いなことにまだ学校は終わっていなかったが、おと二時間ほどで終業の時間だ。

教室の入り口の前に立って、バイロインはゆっくりと深呼吸をした。気持ちを落ち着かせてから何食わぬ顔で中に入っていく。

「担任は何をお前にさせてたんだよ?」

「あぁ、別に大したことじゃない。それよりも”資料”を書かせてくれよ」

終業のベルが鳴ったあと、グーハイは荷物を片付けながら質問する。

「なんの資料だ?」

「俺たちのクラスは優秀な人を選出するんだろ?だからクラスの基本状況を紹介する資料が必要なんだ。クラス担任は俺の書く字が良いと思ってるだろうし。ちょっと頼むよ」

グーハイは陰気な顔をしている。

「全く、あの担任は生徒をロバだとでも思っているのかよ?なんでそんな好き勝手にこき使うんだ?!」

バイロインは何も答えず、カバンを持ってグーハイと一緒に外に出た。

グーハイは歩きながら話している。

「今後あの女に仕事を頼まれても、もう受けるな」

「どうしてだよ?」

バイロインはグーハイがあまりにも自分のことを管理しすぎだと感じていた。

グーハイは不快感を露わにしている。

「どうしてかって?あの女がお前に何か仕事を押し付けても、他の先生にその仕事を任せているって言わないだろ。だから他の先生もお前に普通の生徒と同じように宿題を出すじゃねぇか」

「大丈夫だよ。俺は字を書くのが早いほうだし、終わらない分は家でやれば問題ない」

「たかだかそんなことのために時間をかけることないだろ?そもそも自由な時間なんて少ないし、宿題にだってすげぇ時間かかるだろ」

前にも後ろにもいるクラスメイトが邪魔でグーハイは本当に思っていることを言えずにいた。

ーーお前が三十分宿題をすれば、俺たちは三十分イチャつく時間を失うんだ。俺たち二人のベッドでの時間を奪うやつは、例え誰だろうが許さねえ!

 

 

 

バイロインはグーハイの不依不饶(思い通りにいかず、しつこく要求を通そうとする)様子を見て、気づけば口から言葉が出ていた。

「やめろよな?ネチネチして、女々しいぞ…」

「お前、俺のこと女々しいって言ったのか?」

グーハイは自分の必殺技を使おうとして、バイロインのヒヨコ(俗:おちんちん)を突く。するとバイロインは素早く反応して走り出す。そして走りながらグーハイのほうに振り向くと、グーハイもバイロインを追いかけてきた。

 

 

帰り道、二人は笑ったりおしゃべりしている。グーハイが今日は怠けたい気分になり、外食しようと提案する。するとバイロインは興奮を露わにした。

実際にはバイロインは今、食欲が無くて何を食べても彼のとっては全て一緒だった。しかし、グーハイにそれを悟られないためにバイロインは無理矢理、茶碗三杯のご飯をかけ込んだ。そしてお菓子を山ほど買って、二人で食べながら帰路についた。

 

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原作とドラマの相違点が出てきましたね。

ドラマだとお互いの親の再婚を知ってブチギレたのはバイロインのほうなのに原作だとどうやらグーハイも暴言を言っていたんですね。

 

SNS内での原作のネタバレを含む投稿について(注:ややシリアスな内容です)

原作のネタバレをTwitter内でどう扱うかについてですが、この作品は未だに原作完走していない方が多く、原作のボリュームも計300章以上、文庫本換算で10~12冊程度と激厚なものとなっています。

Twitterのアカウント(@Naruse_hikaru)を作成してから、数多くのネタバレを目にしてきたのですが、やはりネタバレを嫌う方は多いですし、その辺は作品のファン同士でお互いに上手く配慮していきながら作品を楽しめたら自分は嬉しいです。

例え話をすると、ドラマ15話を見終わった人がいたとします。

その人は「え、続きは??」となって「ハイロイン」と検索します。

その時に「シーフイとはこうなるんだ」「グーハイのお母さんは実はね、」なんてツイートを不意に目にしてしまったら悲惨だと思います。原作の詳細な描写を飛ばして得た物語の核心となる情報、そしてそれを見た後に読む原作は言うなれば「メインディッシュを奪われたコース料理」です。

実質的にそれらの投稿はメインディッシュを奪い去る行為になり兼ねないのです。そこはやはり配慮が必要かなと個人的に思います。

ツイートに「原作ネタバレ」の文字を含ませたり、過度なネタバレを含む場合はプライベッターを用いるなど。

溢れんばかりの熱量で感想を吐露したい気持ちも分かるのですが、公式が原作の日本語訳を出版していない以上、読める手段というのは大幅に制限されています。

ですので、過度なネタバレ、物語の確信をつく内容に関しては配慮してもらえたら非常に嬉しいです。

そしてドラマの続きが気になって夜も眠れないハイロイン難民の方に静かに訳者情報を差し出すような、そんな界隈になってくれたら私は幸せです。

 

:hikaru