NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第16章:その時は誰にも分からず突然に

グーハイがエンとの偽装婚約を手伝うことに決めた翌日、このことを父親に報告することにした。

グーウェイティンはそれを聞くと大変喜んだ。

息子が自分に断りもなく勝手に決めたことだったが、その事については一切怒ることはなく、むしろ嬉々としてその婚約相手の女性についての話を聞いていた。

女っ気のない息子から突然このような話が舞い込んできたのだ、内心ホッとしていたのだろう。

グーハイは長いこと父親がこんなに笑顔になっているのを見たことが無かった。

グーハイの知っているグーウェイティンという男は傲慢で厳格だった。

ーー親父も老いたな...

グーハイの言う老いとは何も外見的な話だけではない。それは息子である自分に対する態度の話である。

グーハイは父親が今までどれくらい自分に怒鳴り散らしてきたのか、もはや覚える事が出来ないほど回数を重ねてきていた。

それがどうだ。今回のように両親に確認せず勝手に婚約の話を決めたと言うのに、怒鳴られることはなかった。まさしく、老いである。

 

 

エンの母親は婿親に好印象を与えるため病院から出る前に化粧をしたが、顔に出る病状の重さまでは隠す事が出来なかった。

エンの父親も山東省の高級官吏で、グーウェイティンと会ったことがあったが、それも数年前のこと。お互いはよく覚えていなかった。

二人を囲んで席に着いた両家は、皆笑顔だった。

グーハイはエンの手を取り立ち上がると、自分の両親の方を向き紹介する。

「こちらが俺の婚約者である、エンです。」

紹介されたエンは少し緊張した様子で「お義父様、お義母様。初めまして」と軽く挨拶をした。

「まさか、あなたのお相手がこんなに綺麗な方だとは思わなかったわ!」

ユエンは嬉しそうに二人に拍手を送る

「そんな、お義母様。...ありがとうございます」

エンは謙遜しながら素直に賞賛を受け止める。

グーウェイティンは将来のお嫁さんに優しく話し掛ける。

「こいつは大した奴ではないし、性格も素直じゃない。自分の気持ちですら時にはコントロールすることも出来ないで怒鳴る時もある。でも、これは不肖な事に親である自分の所為でもあると感じているんだ。これから二人で生活していくと、どうしてもぶつかり合うことがあるだろう!...その時は少し大目に見てやってくれないか?」

その言葉に対してエンの父親が口を挟む

「どうかそんなご謙遜を言わないでください!お世話になるのはこちらの方なんですから。あなた方の家に嫁ぐことができるのは、私たち夫婦にとっても娘にとっても幸せな事なんです」

そう言いながら、エンを優しい目で見つめる。

「エンは私たちの一人娘なんです。お恥ずかしながら正直に話しますと、幼い頃から沢山甘やかして育ててきました。そのせいなのか、この歳になっても未だに一人でお米さえ炊く事が出来ないんです。逆に、そんな娘をお宅から追い出されないかと心配していますよ!」

エンの母親はその話に頭を押さえながら苦笑していた。

今度はエンがグーハイを自分の両親に紹介すると、グーハイは立ち上がって義父に一杯の酒を注いで盃を交わす。

エンの父親はこの娘婿に非常に満足していた。

ーーさすがに少将の息子だけあって、一挙手一投足に覇気が感じられるな。傲慢でもなく、教養もあり、言葉が適切で行動が落ち着いている。娘を預けるのには最適だ!これでやっと私も安心できる。

 

食事の時、ユエンは夫をつついて、笑いながら耳打ちする。

「あなた、彼らを見てよ。見れば見るほどお似合いじゃないかしら?」

その言葉に返事こそしなかったが、表情は笑顔を保ったままだった。

「ユエンさん、そういえば御宅にはもう一人息子さんがいらっしゃらなかったですか?」

「ええ、今は軍部にてパイロットの職についているんです。今年で二十六なんですよ」

エンの父親は優秀な息子が揃っている事に羨望の眼差しを向ける。

「ご結婚は?」

「...お恥ずかしながら、まだなんです。でも、もう少しだと思います」

口元を手で隠しながら困ったように笑って話すユエンに鋭い眼光を放つ男が。

エンの母親が乾いた声で問いかける

「あら、もう少しだとおっしゃるなら、どうして今回と一緒にお祝いをしなかったのですか?そうしたら全てが済みますのに」

「うちの息子の心配なんてしなくてもいいですよ!...今は少し仕事が忙しくて生活が安定していないので、後回しでも大丈夫なんです。それよりも、今はシャオハイのことを急がないと!もしこのお話が遅れてしまったら、私ども夫婦の間で心残りになってしまいますからね」

「そうでしたか。....では私の体もあまり良くないので、元気なうちに娘を送り出さないと」

「娘さんが結婚したのを見たら、嬉しさで回復なさるかも知れませんね!」

 

お互いが冗談を言い合えるほど、両家の雰囲気はとても良かった。

両親同士が会話をしている間も、エンがグーハイの料理を取り分けてあげるなどしており、その見た目は偽装婚約とは思えないほどに仲睦まじかった。

グーウェイティンは久方ぶりに酔いが気持ちよく回るほどにお酒を飲んでいたので、トイレに向かおうとする時には足がふらついていた。

そんな父親をグーハイが肩を貸しながらトイレへと連れて行く。

二人は一緒に並んで手を洗い、グーハイが先にトイレから出ていこうとするとグーウェイティンは突然息子を呼び止める。

「.....なんだよ」

親父はいつもの鋭い眼光を潜め、今やただの酔っ払いへと化していた。

「俺は....お前に..この八年間苦労をかけさせたな....」

素面なら絶対口にしないであろう言葉は、水道から流れる水の音と共に親父の口から吐き出された。

「親父。飲み過ぎだ。早く帰ろう」

「俺は飲み過ぎてなんかいねぇよ!」

グーハイの手を振り払おうとする酔っ払いを強引に引っ張り出し、二人はみんなの元へと帰って行った。

 

 

 

師走の二十八日は、飛ぶような忙しさだった。

この日の朝早くから、エンは化粧室に閉じ込められ、花嫁のための化粧を受ける。

彼女が化粧室から出てくると、周りから驚きの声が聞こえてくる。

それらの多くは招かれた女性社員から発せられたもので、彼女たちは用意していたカメラでエンを撮影しては、仲間同士で写真を交換するなど、宴会場は盛り上がりをみせていた。

十時を過ぎて、お客さんが続々とやってくる。

グーハイは分かりやすいように入り口から近い位置に立ち、親しい友達や目上の人に対して挨拶を交わす。

彼はずっとある男を待っていた。

なぜ自分がそいつを待ち続けているのかわからない。

実際に来たとして何を話せば良いのだろうかも分からない。

そんなことを考えていると、よく知っている二つの姿がグーハイの視野に入る。

心の準備はしていたが、実際にその姿を見るとなんだか苦しくなる。本当に久しぶりに会う二人は、バイロインの父親とその再婚相手。よくお世話になった懐かしい二人だった。

バイハンチーは明らかに老いていた。歩く姿は年寄りのように猫背になってはいたが、その顔は昔と変わらず温厚な笑顔なままだった。

ツォおばさんはまだ質素な様子で、夫のそばにしっかりとついていていた。会場に気圧されているのか、時々緊張した顔を見せていた。

二人もグーハイのことを見つけると、近くに寄ってきた。

 

昔は手のかかる二人の息子のようだったグーハイも今では立派になっていた。

昔は息子のために色んな人に膝をつき、息子の為にひもじい思いをしていたおじさんも今では再婚をして円満な家庭を送るほど安定した生活で暮らしていた。

「おじさん、おばさん、来てくれたんですか」

そういって二人の手を握り挨拶を交わしてきたグーハイを見て、二人は驚きの表情を見せる。

「お、お前は本当にダーハイかね?!」

「俺が本物ですかって?ハハッ。気にしなくても大丈夫ですよ!」

昔とは打って変わり、礼儀正しくなっていたグーハイに対して仕切りに興奮するツォ。

「この数年見ない間に立派な男になったもんだねぇ!昔は、朝早くに私のお店に朝ごはんを買いに来る粗相が悪い高校生だったっていうのに!」

バイハンチーはグーハイの肩をたたいて、嬉しそうにする。

「息子よ!おじさんが祝いに来たぞ!」

その行為でグーハイは思い出す。

八年前、グーハイとバイロインがバイハンチーに関係を告白した時、そうかそうかと、ただ自分たちの肩を叩いていたことを。

グーハイは自分の中で渦巻いた感情を収め。二人を中へと招待する。

会場へと向かう途中、グーハイはツォおばさんに疑問をぶつける

「そう言えば。息子さんは、今日は一緒ではないんですか?」

「あらやだ。恥ずかしいんだけど、そろそろ息子の高校で期末試験があるのよ!息子ったら、少し成績が悪くてね。...勉強のために今日は連れて来なかったの。ごめんなさいね」

「そうでしたか。いえ、気にしないでください」

会場へ向かう途中、会話を繋げようとグーハイは気を遣う。

「あ、おじさんとおばさんの体調はどうですか?」

バイハンチーはその質問には淡白に答えた。

「相変わらずさ」

心の中で思う事もあったが、グーハイもこれ以上は質問をしなかった。

 

 

 

 

バイロインは洗顔を終えると、軍服に着替え鏡の前に立ち、気合いを入れる。

宴会場へと向かう車はすでに用意されており、外には運転手が待っていた。

机の上に置かれた招待状を手に取り、グーハイの字で書かれたそれをしばらく見つめていた。

ーー外の寒さは体にこたえるな...

急いで乗車しようとした時だった。見知った二人が急いでバイロインのそばを駆けていく。

「おい!!ちょっと待て!こんなに慌てて何をしに行くんだ!?」

二人はバイロインの事を見向きもせずに離れていく。

「緊急か?!おい!」

バイロインの問いかけに返事もせず、どこかへと向かっていった。

「ちょっと待ってください!」

バイロインは財布を運転手に渡し、その二人を追いかけていった。

 

 

 

「現在、アンノウンがわが国の領空に不法侵入してきた!直ちに二機の戦闘機を出動させて交戦しなければならない!敵機の情報が不十分なため、お前たちにはいつでも危険が発生する可能性がある!今回はまさに、お前たちの訓練の成果を試す時が来たという事だ!出動に際し、急いで遺書を書け!!」

その言葉を聞いて二人の男は顔色が変わる。

実践演習を何度もこなし、経験豊富で屈強な男たちであったが命が関わるかも知れない任務を前に、本能で怖じ気づいてしまう。

「どうして行動しない!?まさか...命令に逆らうつもりか?」

参謀長が怒りを露わにする。

 二人の心が完全に沈みきった時、背後から突然声が聞こえてきた。

「俺が行きます」

参謀長が声のする方へ視線を移すと、そこにはこちらに向かってくるバイロインがいた。

「俺が行きますよ。それと、遺書なんて必要ないですから。」

そういって準備に取り掛かる彼の表情は非常に穏やかだった。

 

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色々と動き出していますね!

実は僕、タイのblドラマも見ているのですが日本語に翻訳して字幕をつけてくださる皆様って本当にありがたいですよね!!

僕もこれを翻訳していて、皆さんが読む量的には少ないこの記事一つにしても最低で三時間は翻訳に時間がかかるわけです。僕が中国語をできないというアドバンテージも関係するとは思いますが、それでも物語の背景から登場人物の台詞の言い回しや日本式な言い方に変換しながら翻訳しないといけないわけで。それでさえ大変なのに、ドラマではそれに加えて字幕の編集や場面に合わせて見やすくしたりなど僕より大変ですよね。

同じ翻訳するもの同士。ありがたみが倍に感じる日々です!(笑)

 :naruse

 

202004追記:修正。今更ながら、参謀長ってバカ偉いんだと気づいた春。