NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第17章:激戦の後に

わが国の領空に侵入したのは国籍不明の偵察機だった。

バイロインが操縦する戦闘機が発進した後、管制官は速やかにこの偵察機をサーチし、座標確認を行ったが、偵察機は小型で赤外線放射信号が少なく、レーダーで探知したり追跡したりするのが難しかった。

結果、パイロット自身が肉眼で目視しなければならず、些細な位置情報を頼りに敵機へと急速に接近していった。

数秒後、目標を発見し直ちにミサイルを発射したが、敵機も直ぐにチャフを散布し、バイロインが放ったミサイルを回避する。

そのまま二機は中国全土を横断、西部地区まで追撃を続けた。

当初、敵機はずっと避難作戦をとっていたが、バイロインの激しい追撃に痺れを切らし次第に敵機も戦闘に応じるようになってきた。

結果、二機はそのまま真の殺し合いである、空中戦へともつれ込むことになった。

 

低速で飛行していた偵察機が急に加速し、バイロインが操縦する戦闘機の射程に入ったとたんに機関銃を乱射。

バイロインは迅速に回避し、その軌跡は上下左右 三百六十度 空中に描く。

バイロインに掛かる負荷が長時間続き、やがて体の限界を感じる。

全身の血液は重力により全て身体の下方へと流れていき、思考に必要な脳には十分な血液が供給されず、段々と目の前がぼんやりと霞みがかっていく。

しかし、不思議と心の中には何の恐怖もなかった。

突然、バイロインは機上警報のサインを受け、両機は刹那に交差して接触する。

バイロインは最後の力を振り絞り、全集中し卓越したその飛行技術で敵機の後方につくことに成功した。

奇襲により不利な体勢に持ち込まれた敵機は、一気に劣勢へとなっていく。

ここぞとばかりにバイロインは攻撃を開始する。

第一弾のミサイルが発射し、見事的中。敵機の左翼が炎上しているのを確認。

「死ねぇ!!!」

その叫びとともに押されたボタンによって第二弾のミサイルが射出され、敵機の中心部に的中。

轟音と共に機体は爆ぜ、黒い煙が空中に漂いながらその破片が重力に従って地上へと落ちていった。

 

 

任務を終え基地へと帰航しようとした時、機体に突然不規則な揺れがあった。

バイロインは原因を直ぐに探し障害を排除しようとしたが、操縦性能が失効し、機体は垂直自由落下する状態になった。

この時バイロインの頭部は下を向いており、急激な降下に伴い血液が大脳に集中し意識が段々と遠のいていく。

両足は宙に浮いてペダルには届かず、機体を操縦するのはもう難しい状況に陥っていた。

しかし、意識が朦朧とし始める寸でのところ、後方に沼地を目視していたバイロインは瞬時の判断ですぐさま緊急脱出を行う。

緊急離脱をしてパラシュートを開いた瞬間、ついさっきまで自分が乗っていた戦闘機が目の前で爆ぜるのが見えた。

機体は眩い光を放ちながら炎上して落ちていく。

 

瞬間。八年前のあの事故を思い出した。

 

心の中に秘めていた。何重にも重ねて心の奥底に隠していたあの時の感覚が瞬時に引き起こされる。

 

ーーあ、俺。死ぬのかな。

 

初めて死への恐怖を感じた瞬間だった。

 

 

 

美しい服を着た司会者がグーハイの元へと駆け寄る

「そろそろお時間です。始めてしまってもよろしいですか?」

満員になった会場を見る。しかし、彼の手元にある参加者リストの中にはあの男の名前がまだ書かれていない。

「いや。もうしばらく待ってくれないか?」

 エンはずっと母親の側にいた。母親は今回の主役である彼女より緊張しているように見える。「まだなの?まだ始まらないのかしら?」

なんどもそう母親に聞かれるので、自分も気になり入り口に立つグーハイの元へと駆けて行く。

「まだ来ていない人がいるの?」

グーハイの深い色をした瞳がちらりとエンを見ると、静かにその五文字を紡ぐ。

 

「バイロイン」

 

「えっと…」

エンは顔色を変える。

「そ、そうなのね。ならもうちょっと待とうかしら....」

大体の来賓者は皆、席についていた。ホールのスタッフとカメラマンなどを除けばグーハイだけがまだロビーでぶらついている状態だった。

彼はどこか焦っているように入り口を行ったり来たりしながら、何かブツブツとつぶやいている。

まだスタートさせないで入り口に立っている息子に、グーウェイティンは痺れを切らして駆け寄る。

「何をぐずぐずしているんだ!?」

「...バイロインがまだ来ていないんだ。」

こんな時でも息子の口からあの男の名前が出てきたことに多少の不快感を覚える。

「まさかとは思うが、たった一人の男の為だけにこの式を遅らせるつもりか?!」

グーハイがエンの母親をちらりと見ると、彼女の顔色が少し前より悪くなっているように見えた。それもそうだろう、このような騒がしい場所に長い間居たのだ。

「....わかった。」

そう言って会場に入ろうとした時、入り口の方に人影が見えた。

そこに立っていたのは、ずっと待ち望んでいた人ではなく同じような軍服をきた別の将校だった。

将校はグーウェイティンの元へと駆け寄り、彼の耳元である事を囁く。

その瞬間、グーウェイティンの顔色が急変した。

そしてグーハイの方を見たが、すぐに視線を逸らす。

その行為、このタイミング、彼らの関係性から一つの想像をしたグーハイの胸は一気に騒めき立つ。

二人の側に近寄り声を潜めて尋ねる。

「何があったんだ?」

「お前は気にしなくていい。」

そう言う親父は暗い顔をしていた。

「ちょっと軍部の方で問題があっただけだ。俺はこれからそこに向かわなければいけなくなったが、この式はそのまま挙行するように。それと...」

「インズに何かあったのか?」

グーハイは話を遮って問い詰める。

「これはこちらの話だ。お前には関係ない。」

「バイロインなのかって聞いてんだよ?!!」

緊迫した表情で会場中に響くほどの怒声を父親に浴びせる。

それでも頑なにグーウェイティンは話をしようとはしなかった。

賑やかだった宴会場は一気に静まり返る。入り口で今日の主役が自分の親に向かって怒鳴っているのだ、みんなは何が起こっているのかよくわからない表情をしていた。

しかし、エンだけはグーハイの様子から何か異常事態が発生したのだと言うことを読み取れていた。

こんなに自分の心臓が緊張するのは、決まってあの男が絡んだ時の怒声だったからだ。

 

グーハイは会場を背にして入り口へと向かい出て行こうとする。

「戻ってこい!!」

グーウェイティンは出て行く息子に向かって声を荒げる。

しかし、その声に反応もせずにグーハイは歩を進める。

「奴を止めるんだ!!」

グーウェイティンのその命令と同時に二、三人の警備員と数人のスタッフが一斉にグーハイを追いかけだした。

 グーハイは鍛え上げられた身体能力を駆使して、誰にも追いつけられないほどの速さで廊下を駆け抜け、三階の窓から外に向かって飛び降りていった。

警備員らがその窓の元まで駆けて行くと、グーハイはすでに地上を走っていた。

「ここ...三階だよな?」

「あ、ああ。」

「人が成せる技か?」

 少し遅れてグーウェイティンが追いつくと、警備員の一人が驚いた表情で口を開く。

「か、彼は、ここから飛び降りて行きました...」

「何だと!?ここは三階だぞ!?」

グーウェイティンは真っ青な顔で窓に駆け寄り、窓から顔を出して外を見る。

飛び降りた息子はもうすでに車に乗り込んでおり、出発するとこだった。

また少しして、エンが焦ったっように走ってきた。

「おじさん、いったい何があったんですか?」

エンの問いかけに声を低くして答える。

「ちょっとした家庭事情があってね。私の愚息は、自分の義兄のことが心配になって私より先に軍部に行ってしまったようなんだ。私もすぐに駆けつけないといけなくてね....あなたのお父様とお母様には謝っていてくれないかい?とても恥ずかしい事だが、全てを終えてから改めてそちらに謝罪のお伺いをしますと」

「お義父様!そんな事おっしゃらないでください!さあ、早く行ってください。家族の命は何よりも大切なのですから!」

「ありがとう」

そう言うとすぐに連れの将校と一緒に会場を後にした。

 「....やっぱり人を騙して嘘をつくなんてことをしていたら良くないことが起こってしまうのね....。」

一人になったエンは人知れずため息をつくのであった。

 

 

グーハイが現場に駆けつけた時にはもう辺りは暗くなっており、現場は数名の監査官、将校を除いて立ち入りを禁止している状況だった。

 風が吹いていた。

その風が足に纏わりつき粉々になった機体に近寄ろうとする自分の歩みを鈍くさせるようだった。

グーハイの姿を見かけて一人の将校が近づいてくる。

その表情は暗く、現場の悲惨さと相まって余計に心をぐちゃぐちゃにさせてくる。

「その...バイロイン少佐は緊急で我が国に不法侵入してきた敵機と交戦していたんです。それで、こちらが私たちが監視していた最後の映像になっています。無事に敵機を撃墜したのですが、そのあとに異常が発生したようでして...」

「そんな細かいことはいらない」グーハイの瞳は暗く染まっている「結果だけ教えてくれないか.....」

将校は唾を飲み込み、沈んだ声で事実を告げる

「...墜落した戦闘機ですが、それに搭乗していたパイロットは現在行方不明になっています」

ーー行方不明...??

昔から今まで、多くの勇敢なパイロットが様々な事故で行方不明になり、現在も消息がない。故に、戦闘においての行方不明の報告は“死”を意味するのだ。

「で、ですが!戦闘機が爆発する直前、少佐は緊急離脱を試みていました!しかも、安全高度の範囲内です!以上の観点から、生存の可能性が高いと思われます!」

「どこで離脱したんだ?」

いたって冷静に尋ねるグーハイ。

将校はバッと頭を下げ、消え入りそうな声で答えた。

「申し訳ございません。まだ確定はしておりま....」

「どこで離脱したんだって聞いてんだよ!!」

グーハイの怒号は、十分に戦闘訓練を積んだ将校たちですら一瞬で凍りついてしまうほどのものだった。

頭を下げている将校は体を震わせながら、素直に答える

「.....ぬ、沼地の方かと推測しております」

グーハイの身体は怒りで震えていた。

彼から発せられるオーラは、今にもこの場にいる人間全てを殺し尽くしてしまうほどの狂気性を帯びており、強く握りしめられた拳からは爪が食い込んで血が流れていた。

 「なんであいつにこんな危険な任務をさせたんだ!!お前ら全員殺してやろうか!?なんで、他にたくさんのパイロットがいたのに....いたのに..なんで、なんであいつだけが死なないといけないんだよ!!ああ!?」

 今のグーハイは理性を失った野生のライオンのようで、近寄れば噛み殺される勢いがあった。

将校はあわてて弁明する

「わ、私は関係ないですよ!!私はここの現場検証だけを任されている身なので、わ、私は本当に関係ないんです....よ」

周囲を見渡すと、人が死んでいるのかも知れないというのに皆、自分は関係ないという顔をしていた。

ーーこのままこいつらの顔を見ていたら、本当にみんな殺してしまいそうだ!

「げ、現在、全隊員は最優先事項として少佐の捜索を大規模で展開しております!絶対に、この二日以内に少佐を探し出すことを保証致しますので!!」

 今すぐにでも安否を確認したいグーハイからしたら、口上だけの慰めなんて糞食らえだった。

沼地に向かってグーハイは走っていく。

沼に足がハマってもお構いなしに走っていく。

「絶対俺が助けてやるからな!!!!」

 

 

 

落下中のバイロインはその数秒しかない刹那の時間で多くの計算を弾き出す。

着地したとして沼の中に自分の体がどの深さにはまるかを考えなければいけない。

 

ーー胸から下で留まる事ができたなら、生きていける可能性がある。胸より上首より下なら、運次第で助かる。頭全体まで沼にハマったら、そのまま死ぬしかないな

 

次の瞬間、衝撃を感じた後に全身に激痛が走る。

衝撃による身体の痺れが少しずつ治り、バイロインは新鮮な空気を吸い込む。痛みがおさまってくると、彼はやっとおかしい事に気づいた。

「ん?どういう事だ?沼地じゃない?」

バイロインは地面に座って手で地面を押したが、それはとても硬かったのだ。

 

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グーハイの怒った時の表現ですが、中国と日本じゃ表現が違くてボキャ貧の僕はいつもどうやって表現しようか悩むんですよね。

あ、そういえば最近初期の方の翻訳を見返していたら結構誤字があったんですよね...もしよければ、それに気づいた読者の皆様コメントで教えていただけないでしょうか?

自分でも注意はしているのですが、どうしても漏れがあるようで・・・(汗)

ってな事で、今回何やら大変なことになりましたが次回はどうなるのでしょうか!?

 

:naruse

 

202004追記:加筆修正。はいはい、みなさーん。ここから甘くなりまーす(笑)