第147章:もっとお前のことを知る
疲れていたせいか、バイロインは風呂から上がって間もないうちに眠りについていた。
グーハイはバイロインが寝ている隙に彼のお尻を開いて見てみる。
幸いなことにも少し腫れているくらいだったので、あらかじめ買っておいた薬を塗って、安心した様子でベッドに横になる。
バイロインのぐっすりと寝ている顔を見て、グーハイは心の中で言葉では言い表すことのできない感慨を覚える。
この感情はずっと心の中で押さえつけていた多くの後ろめたさを拭い去り、重厚な誇りへと置き換わっていく。
このバイロインという人はついに完全な意味で自分のものになったのだ。
彼の心も身体もグーハイのラベルが貼られており、もうバイロインはどんな美人にも奪われる心配などない。
このような思いをずっと巡らせ、バイロインをぎゅっと抱きしめながらこっそりと幸せな夜に浸っていた。
朝、バイロインが目を覚ました時、すでにグーハイは三十分近く彼のことを見つめ続けていた。
「まだ痛むか?」
グーハイが尋ねる。
バイロインは身体を起こしてみたが、少しの疲労感以外には本当に全く何も感じなかった。
前回のあの残酷な拷問の後の心に沁みる痛みに比べれば、今回、文字通りVIP待遇を受けていた。
昨日のあの目まぐるしい場面を思い出すと、まだ少し怖い気持ちになり、これからもあのようなひどい目に遭い、グーハイに食べられ続けたら、バイロインは死んでしまうのではないだろうか。
バイロインの表情を見たグーハイは彼が痛みを感じていないことを確信する。そして心の中で自慢げに吠える。
ーーどうだ?やっぱりお前の夫は凄いだろ?俺の言った通り、痛くないんだし、起きた時もスッキリとした気分だろ。だからこれからは大人しく夫の股間を喜んで受け入れるんだな、ハハハッ……
バイロインはまだ考え事をしていた。しかし突然ペンチのような大きい手に握られる。
顔に何度かキスをされて、口の中で音を立てる。唇を塞がれて何度か吸われる。それから耳、首に……
グーハイはまだ正気に戻っていなかった。あそこはすでに手が付けられない状態だ。
バイロインがグーハイの頭に手を置いて、目一杯力を入れてやっと五センチほど引き離せた。
「何すんだよ?」
バイロインは呆れて怒った様子で返事をする。
「こんな朝早くに一体何してんだよ?」
しかしまたグーハイはバイロインにくっついて、恥を忍ばずバイロインの頬に密着しながら嬉しそうに話す。
「俺はお前のことが好きなんだ。見れば見るほどもっと好きになっていく。どうしてお前はこんなにも人を好きにさせるんだぁ?」
バイロインはぎょっとしてグーハイの下腹部に一撃お見舞いする。
「あっち行ってろ!」
朝ごはんを食べているとグーハイはバイロインに質問してきた。
「なぁ、戸籍簿を取りに実家に帰るんだけどよ。お前も一緒に行かないか?」
バイロインは本音を言うと行きたくなかった。なぜならそこはグーウェイティンとユエンの家だ。
しかし、そうであると同時にその家はグーハイが子供の頃から住んでいたところでそこには多くの彼の思い出が詰まった家でもあるのだ。その点ではバイロインは強い興味を抱いていた。
「あぁ、行くよ」
それを聞いたグーハイの瞳の中に笑いの色が浮かぶ。
「一晩中気持ち良くなったせいで、もう俺から離れられないのか?」
バイロインはすぐに顔色を変えて、突然立ち上がり身体の向きを変えて急な出来事に反応できないでいるグーハイをソファーに押し倒してゴツいブラシを持ってグーハイの腰から尻にかけて思い切り十数回引っ叩いた。
ドアを閉めて出かける際、グーハイはグチグチ小言を漏らす。
「てめぇ、ホントやることが酷ぇんだよ…」
二人は車で軍の基地内にあるグ家の別荘に向かった。
別荘に着いて車から降りると、そこは一種の厳粛で寂しい空気に覆われているような重い空気を纏っていた。
バイロインがふとグーハイに目をやると、彼はニコニコした表情から冷たい無感情のような顔つきに変わっていて、バイロインは一気に緊張する。そこで突然、とある考えが頭をよぎる。
グーハイがバイロインを連れてきた理由は、ただ家を見せたかったわけではなく、本当はバイロインと一緒にいることで気分を落ち着かせたかったのではないか。
グーハイがドアの鍵を開けて二人は家の中に入る。
家には誰もいない。部屋の内装は古風で上品だ。至る所がビシッと整頓されており、床はピカピカに磨かれている。まるで人が住んでいる家とは思えないほどだった。こういった部屋は見る分にはとても素晴らしいが、非常に圧迫感があり、バイロインのような奔放な人からすればこのような家で落ち着ける場所はどこにもない。
「俺の部屋、見てくか?」
グーハイが質問する。
バイロインは黙ってグーハイの後ろについていき、部屋に入っていく。
部屋の中はきちんと整理されており、ポスターすら一枚も貼ってない。ベッドもきっちりと整えられており、シーツにシワもなく、グーハイが住んでいた軍の寮を思い出す。
ここ何か月もグーハイは帰ってきていないというのに、部屋の中は相変わらず綺麗なままで、窓のそばに置かれている鉢植えの花から淡い香りが漂う。
明らかにこれは、毎日誰かがこの部屋を掃除しているのだろう。
グーハイはしゃがみこんで、戸棚の中から自分の戸籍簿を探している。
バイロインはその間、部屋の中をプラプラしたり本棚にある本を眺める。
有名な本や参考書以外は全て軍事書籍だけだった。
本棚の一番上段にひときわ目を輝かせるカバーの本がある。見たところ軍用書籍とは関係がなさそうだった。
バイロインがそれを手に取ってみるとそれはアルバムだった。
アルバムを開いてみると色んな時期のグーハイの写真が貼られていた。中には百日宴(※後書き解説有)の写真もある。グーハイがこんなにも澄んだ瞳をしていたことは想像できなかった。
それからグーハイの少年時代の写真、軍区の集合住宅の子供たちとの写真。
中には写真から覇気が漏れ出ているものもある。部隊の将兵と一緒に撮っているものや、兄弟と一緒に街で撮った写真も……
バイロインは気づく。写真の中のグーハイは子供の頃から大きくなるまでどれも同じ姿勢をしているのだ。表情を強張らせていて一見すると思わず笑わってしまうような写真なのだが、見ていてなんだか少し胸が痛くなってくる。
バイロインはグーハイが以前に自分は真面目な人間だったと言って、その時は彼を鼻で笑った。
これらの写真を見た今、バイロインは想像することができる。
バイロインが知り合う前のグーハイは本当に彼が言った通りで、生活は堅苦しく、気持ちは無感情で、性格は当然落ち着いていて……
ペラペラめくっていくと、バイロインは一枚の写真に目を奪われる。
この写真のグーハイは三才、あるいは四才くらいだろうか。一人の女性にもたれて大人しい息子という感じだ。
写真の女性の身なりは端正で、とても穏やかな雰囲気で、眉間辺りがグーハイといくつか似ているようだ。
バイロインはこの女性を今は亡きグーハイのお母さんだろうと推察する。
多くある写真の中で、この写真だけはグーハイが笑顔で写っているのだ。
バイロインがあっけにとられていると、突然手に持っているアルバムを引っこ抜かれた。
「何をジロジロ見てんだよ?」
グーハイはそう言ってバイロインに対して怒ったフリをする。
「誰が見ても良いって言った?」
バイロインは黙り込んでいる。
「なぁ、すげぇイケメンだろ?」
バイロインはたった一言返す。
「すげぇ間抜けだよ!」
グーハイはそれを聞いて笑いながらアルバムを本棚を戻す。
「戸籍簿は見つかったのか?」
グーハイはバイロインの質問に対して手に持った茶色のノートを高く掲げる。
「ここにあるぜ」
「じゃあ出るか」
バイロインは部屋のドアを開ける。
するとグーハイが少し躊躇した様子で口を開く。
「俺、母さんの部屋をちょっと見ていきたいんだ」
バイロインは頷く。
「わかった。じゃあ外で待ってるから」
バイロインはそう言ってグーハイの手から戸籍簿を受け取る。そして彼が母親の部屋に入っていくのを黙って見ている。ドアが閉まった時、バイロインの気持ちが途端に重くなる。部屋の中に漂う悲しい雰囲気を感じたのかもしれない。
最初から最後までグーハイは自分の母親の話を一切しなかった。バイロインはグーハイのお母さんが亡くなったということしか知らない。いつ亡くなったのか、どのようにして亡くなったのか、バイロインは何一つ分からない。
それに比べてバイロインの家庭の事情についてはグーハイも良く知っていて、いつも慰めてくれていた。
今、バイロインはグーハイが自分なんかよりもずっと苦しい思いをしているのではないかとふと思った。
グーハイは母親の愛情をほんのわずかしか受けていないのに対して、バイロインの母親は健在である。もし寂しくなって会いたいと思えばいつだって会うことができる。
グーハイはそんな温もりのある世界から無理矢理引き剥がされて、明るい昼から直接真っ暗な夜に落とされたのだ。
バイロインは一歩、一歩とできるだけ音を立てずにゆっくりと下の階へと降りていく。グーハイとお母さんが静かに過ごすための空間を邪魔したくはなかった。
下の階のリビングルームに着いた時、突然玄関のドアが開いて一人の秀麗な姿の人影が入ってきた。
バイロインを見た瞬間、ユエンの暗かった顔つきが一瞬にして明るくなり、まるで以前息子が自分に対して言い放った失礼な言葉などすっかり忘れてしまったかのようだ。今、バイロインのことを見て、彼女の心の中には喜び以外には何もなかった。
「ロイン、どうしたの?」
バイロインは無感情に答える。
「グーハイが戸籍簿を取りに来たいって言ったから一緒に来たんだよ」
「そう、戸籍簿ね!それならあの子の部屋にあるロッカーの下から二番目の引き出しにあるわ。確かファイルの中に入ってるから私見てくるわね」
そう言ってユエンが上の階に行こうとする。
「あいつがもう見つけたよ」
それを聞いてユエンは足を止めて思わず笑う。
「そう、それは良かった」
バイロインはそれ以上口を開くことはない。
ユエンはバイロインを見つめながら探りを入れるように尋ねる。
「お昼は…ここで食べていかない?」
「いい。すぐにグーハイが降りてくるからそしたら俺たちは帰る」
バイロインはそう言い終えると真っ直ぐドアから出ていく。
家の入り口のすぐ近く停めてある車の中、バイロインは座席に座りながらグーハイが来るのを待ちながら、窓から別荘の中を覗く。
ユエンの姿が広々とした部屋の中で頻りに揺れ動いており、それは鮮明であったりぼやけていたりしている。
彼女はやることをほとんど終え、窓際のテーブルの前にただ静かに腰を掛けて外を眺めている。しかし、表情はよく見えない。
バイロインは推測する。
ーーあの女は毎日何をやっているんだ?こんなに大きな屋敷の部屋を片付ける以外はずっとこうやってボーっとしているのか?退屈じゃないのか?虚しくないのか?それとも目の前にある高価な家具や置物を見ていれば、それで満足なのか?
ユエンはバイハンチーの元を離れ、グーウェイティンと結婚したため、バイロインはずっとユエンはお金を愛しているのだと思っていた。
しかし今。ユエンが一人寂しくこの空っぽな家の中で座っている姿を見て、急に別の気持ちが浮かんできた。
もし本当にユエンが贅沢の暮らしを望んでいたのだとしたら、別に金持ちの社長に近づくのでも良かったのではないか。なぜわざわざ軍人を選んだのか。ユエンのように賢くて利己的な女性であれば、軍人の妻がどれほど辛いものか知らなかったなんてことがあるのだろうか。
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※百日宴(百日祝い)について
中国では赤ちゃんの生後100日をお祝いする文化があります。
日本の「お食い初め」という生後100~120日で行う行事に似ています。
百日宴では家族や親友、同僚などを招き、赤ちゃんの今後の長寿を願う、百歳まで健康に生きられますようにという行事です。
主催は食事を振る舞い、招待客はお祝い金を包んだりプレゼントを持ち寄るのが一般的のようです。
生活レベルによってそのお祝いも豪華さを増し、お金持ちの百日宴は絢爛豪華になるでしょうからきっとグーハイの百日宴も華やかだったのでしょうね。
ユエンがグーウェイティンと結婚したのにはなにやら理由がありそうな感じが出てきましたね。
自分ユエンのことめっちゃディスってたけど、本当はいいやつだったどうしよ…笑
グーハイも母親のことを一切話さなかった(バイロインが聞いてこないから話さなかっただけかもしれないけど)から、アルバムも本当は見られたくなかったんですかね。
見たのがバイロインじゃなかったらブチギレ案件ですよねきっと…
これからエモい回が続きそうな予感です。
:hikaru