NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第53章:明らかとなった真相

重ねて確かめ合ったベッドの上、隣で疲れ果てたバイロインが寝ている間にグーハイはユエンに電話をかけていた。

『もしもし?シャオハイ?』

普段は掛かってくるはずのない息子からの電話に、電話越しでも緊張の様子が伝わってきた。

グーハイは喉を鳴らして端的に要件を伝える。

「インズが怪我をして、今は俺のところで暮らしている」

『どう言う事?!怪我?!』

甲高い女性の焦り声が頭に響く、普段から毛嫌いしていたが機械を通すとなおさら不愉快な音に感じてしまう。

『どこを怪我したの?容態は?!大丈夫なの!?』

「大した事じゃない!」

煩い声につい声を荒げてしまったが、すぐに声を潜めて隣で眠る嫁を起こさないように声を低く抑える。

「任務が激しくて体調を崩してしまってるだけだ。でも、休暇申請を提出しないまま部隊を離れたから本人が戻りづらくなってるかもしれない」

ユエンはすぐにグーハイの意図を読み取る。

『安心して、上司には私の方から伝えておくわ。息子の顔を見たかったから数日間私の家に閉じ込めていたって言えば、彼の妻である私の顔を立てる必要があるでしょ?』

話が早く、満足のいく返事がユエンから聞けたのでグーハイは素直にお礼を言う

「それと、この話はインズには内緒にしておけよ?」

『分かってるわよ』

 

 

電話を切り、鏡を覗き込むと笑顔でこちらを向く自分の顔が映っていた。

「グーハイが彼を助けてくれたのね!」

ユエンは美しい兄弟愛を感じられて満足そうに頷く。

ーーそれより、あの人にはどうやって伝えようかしら...?

噂をすれば何とやら、玄関の鍵が開く音が聞こえたと思ったら後ろに立つグーウェイティンの姿が鏡に映る。

「えーと、今日は会議じゃなかったのかしら?」

ユエンは不思議そうな顔を作り、自分の動揺を隠して振り向く。

「キャンセルしてきた」

「そう...」

数回瞬きをして夫の姿を見つめ、つまらなさそうに再度 鏡の方を向く。

「キャンセルした理由を聞かないのか?」

「...理由は?」

「先ほど軍部から連絡があってだな、バイロインのやつが一週間も無断欠勤しているらしい」

その言葉にピクリと反応すると「そうだった」とわざとらしい相槌を入れながらグーウェイティンの方に体ごと向ける。

「言い忘れていたけど、バイロインなら家にいたわよ」

息子を庇う癖があるユエンのセリフに、疑いの目を向ける

「おかしい。それならなぜ俺と会わなかったんだ?」

「あなたは一週間、ずっと家に帰ってこないで外に居たじゃない!それなのにどうやって息子と会えるのよ?...来た時は、そうね。すれ違いだったのよ...それと、今は実家に戻ってるわ。」

「そうか」と呟きながら、冷たい声である可能性を口に出す

「またシャオハイと一緒にいるのかと心配したぞ...」

毎回そのことを考える夫に、面倒くさそうに長くため息を吐き出す。

「毎回毎回、その事ばかりね。彼らは兄弟なのよ?たとえ一緒の場所に居たとして、何がおかしいの?...さらに言えば、今や協商関係にいるのよ?毎回あなたが二人の名前を出す時は、決まっておかしな言い方をするのね!」

「俺に口答えするのか?」

グーウェイティンも女に意見を言われて不愉快そうな表情を浮かべる。

「お前は軍隊に規律があるのを知らないのか?...毎回自分の勝手で連れ出して、何度も規律を破ってそれの後始末をする俺のメンツを考えた事はないのか?」

「いつもいつも、心配しているのは自分の事ばかりなのね!」

ユエンはその綺麗な顔を醜く歪める。

「自分の息子を心配するのはいけない事なの?!息子が心配で迎えに行って、息子が心配だから顔を見たい。それはいけない事だって言いたいの?!」

グーウェイティンはユエンの小言を聞きたくなくなり、キッチンへと歩いて行き 小腹を満たす為に冷蔵庫からきゅうりを一本取り出して口にする。

「誰がそれを食べていいって言ったのよ!」

ヒステリックに叫ぶユエンに驚きながら、キッチンにお置いてあった野菜籠に目をやると、そこにはまだ大量のストックが用意されていた。

「まだここにこんだけあるのに、なんでそんな声を荒げるんだ?」

「そのきゅうりは太くて状態が良かったの!」

そんなことで大声を出されたのかと呆気にとられるグーウェイティン。

ーーたった一週間 家を留守にしていただけでここまで何か言われないといけないのか?

グーウェイティンが次の一口を食べるかどうか迷っていると、ユエンがキッチンに入ってきてそのきゅうりを手から奪う。

「ほら、他のやつと違って太くて扱いやすいでしょ?」

ユエンの怒りはどこから湧き上がったのか、よく分からないまま切られていくきゅうりを眺めるグーウェイティンだった。

 

 

太陽の日が一番高く輝く頃、グーハイの携帯のディスプレイがパッとつく。

「どうしたんだ?」

バイロインと二人で昼食をとっていたグーハイは、席を立って話を聞かれないようにトイレへと向かう。

『俺の身が危ない。今すぐ迎えに来い!』

「どう言う事だ....よ?!」

グーハイの言葉を最後まで聞く事なく、グーヤンは通話を終了していた。

「はぁ...」

いつも言いたいことだけ言ってすぐに通話を終了する自分の義兄に、グーハイはうんざりしていた。

 

食卓に戻ると、バイロインはまだご飯を食べている最中だった。

「今日は俺の家に帰るけど、ついてくるか?親父にもツォおばさんにも久しく会ってないだろ?」

まさか誘われると思っていなかったので少し驚いた様子を見せるが、すぐに笑顔を作ってバイロインに向かって頷く。

「それはいいな!...久しぶりに会うんだ、もしかしたら俺を“誰だ!”って追い出したりされないよな!?」

バイロインは口に食べ物を含みながら器用に笑う

「そんなわけないだろ!そこまでボケてねぇよ!」

グーハイもつられて笑い声をあげる。

「違いねぇ!」

 

 

食事が終わり、食器を片付けながらグーハイはこの後の予定をバイロインに伝える

「インズ、俺は先に出かけて用事を済ませてくるから、先に会社に向かって待っててくれないか?...それと、分かってると思うが逃げようだなんて考えるなよ?」

「なんで俺を一緒に連れて行ってくれないんだよ?」バイロインは捨てられた子犬のような顔でグーハイを見つめる「逃げ出すのが心配なら、俺も連れて行けよ!」

「少しの間くらい一人で大人しくしてろよな」

グーハイは暗い顔をするバイロインの頬を撫でながら、甘えるバイロインをなだめる。

「わかった...行けよ!」

バイロインも最終的には堪忍して、玄関で手を振りながらグーハイを見送っていた。

 

 

グーハイは急いでグーヤンの居る空軍総合病院へと向かう。その手にはエンから渡されたあの魔法の小瓶を握りしめていた。

この薬の効能は素晴らしく、それはバイロインの傷痕の治り具合から証明されている。グーヤンは綺麗好きなので、自分の体に傷が残ると分かったら機嫌を悪くするかもしれない。

グーハイはそれを危惧して一緒に薬を持って行っていた。

病室に入ると、こちらを笑顔で見つめるグーヤンの姿があった。

「来たか。あんな電話をしたが、俺の身体はとりあえず大丈夫だ」

その笑顔は人を癒すほどの優しさを感じられたが、グーハイはこの男との長い付き合いで、瞳の奥に恨みの炎が空高く燃え上がっている事くらい直ぐに分かる。

「体は大丈夫だが、問題なのは俺がここから出られないと言う点だ。...香港で仕事が溜まっているのにも関わらず、電話でさえ制限されて全く会社と連絡が取れていない」

「何で外に出られないんだ?」

「この部屋の入り口に軍人が仁王立ちしていたのを見なかったのか?」

「...いや、見たけど。何でそんな事に?」

グーヤンはその理由を口にする時、こめかみに筋を浮き立たせて手を震わせる。

「あのくそ師長が俺に執着してやがるんだ...!!」

事情を知ってるグーハイは思わずむせてしまう。

「ンンッ...。で、何だ?俺にその外にいる兵士どもを倒してこいって事か?...それなら無理だぜ、相手は武器を持っているのに俺は素手だからな」

「誰がそんなことをさせるか」

グーヤンはグーハイの手を引いて近寄せると、その耳に小さく呟く。

「お前を身代わりにしたいんだ」

「...身代わり?」

「あいつは俺のことをお前だと勘違いしている節があるからな、別に俺とお前が入れ替わっても気づかれないだろう。...なに、病衣を着てお前がここにいてくれるだけでいいんだ」

グーハイは心の中で冷ややかに目の前の兄を笑う

ーー俺の身代わりで用意されたコイツに、身代わりを要求されるなんて皮肉だな

「安心しろ。お前が変なことをしない限り、あいつは何もしてこないさ」

グーハイは思わず顔を手で抑えて天に吠えたくなる。

今までこの男の嘘に散々騙されてきたが、今回の嘘ほど分かりやすいものはない。今まで同様、自分のことを騙し通せると信じきっている哀れな男に喝を入れてやりたい。

「こうしよう!」

グーハイはまだ温情のある提案を話し始める

「俺が香港に行ってその仕事とやらをこなしてきてやるさ。お前はここに居て、その師長とやらの相手に専念していたらいい」

グーヤンは弟からの提案に顔を青ざめる

「俺を殺したいのか?」

「何とかなるだろ」グーハイはグーヤンの肩を叩いて、小瓶を手渡す「これは知り合いから貰った傷痕を目立たなくしてくれる薬だ。毎日三回、抜糸した後に塗ってやれば綺麗に痕は無くなるだろ」

グーヤンはその小瓶を受け取ると、グーハイから貰った物だという事もあり嬉しさで先ほどまでの話を忘れてしまう。

「もういいだろ? じゃあ、帰るから」

そう言って小瓶に夢中になる兄に背を向け、病室から出て行った。

 

 

 

リョウウンがエレベーターから降りると、一瞬だったが見覚えのある姿が外階段を降りていくのを目視する。

ーー横顔しか見れなかったが、間違いない。グーハイだ!

逃げ出されたと思い急いで病室に向かうと、入り口で待機する部下はいつもと変わらぬ様子で自分に挨拶をしてくる。

「... ...?」

今さっき、確かにこの目でグーハイが出ていくところを見たのだ。自分よりも早く病室に戻って前のように自分を馬鹿にすることは出来ないはず。

呼吸を整えて扉を開けると、そこには私服ではなく病衣を纏ったグーハイ(グーヤン)の姿がベッドにはあった。

ーーど、どういうことだ?俺は生霊でも見たのか?

リョウウンはゆっくりとグーヤンのベッドのそばに歩み寄る。

「お、俺はついさっきお前が外階段を降りていくところを見たんだ。なのに、何でお前はここにいる?!...一体どうなっているんだ?」

グーヤンは息を吸い込み、出せる限りの荒い声でリョウウンに怒鳴りつける

「それは俺の弟だ!勘違いしてるんじゃない!!」

衝撃の事実を告げられ、リョウウンは体を震わせる。

「ふ、双子なのか?」

グーヤンは冷たい笑みを浮かべながら、小瓶をしまう。

「双子ではないが、双子にも勝る容姿だろう?」

リョウウンはふと、数日前のトイレでの出来事を思い出す

ーーまさか?!

「海因科技会社の社長はお前じゃないのか!?」

病人の肩を掴んで前後に揺らすリョウウンの腕を、グーヤンは何とか払い除ける。

「人違いだって言っただろ!?」

リョウウンの顔が次第に青ざめていく

「お前が...グーハイじゃ...ないのか?」

グーヤンは対照的に顔を赤く染めていく

「勘違いして人を攫ったのか!?」

その一言で、リョウウンの顔は完璧に青く染まる。

グーヤンの方も、収穫前の野菜のような気持ち悪い顔をするリョウウンの瞳を見つめ、全てを悟る。

「確か、あなたはシュウ・リョウウンとおっしゃってましたよね?」

リョウウンの体がビクッと反応する。

「その名前はよーーーく覚えました。...そして、改めて私の自己紹介をしましょう。私の名前は“グー・ヤン”、と申します」

リョウウンが何かを否定するように、機械的にその首を横に振る

「バイ、バイロインがお前のことをグーハイだって言ったんだ...!覚えてるぞ、お前が

あの時 俺に向かってみせたあの瞳を!!」

そう言ってリョウウンは、胸ポケットからかつてのメガネをグーヤンの前に差し出す。

グーヤンは全ての事の始まりを理解してはふつふつと怒りが沸き上がり、その怒りは拳へと連動して震えへと変わる。

ーーバイロイン!! お前!!俺をだしにしやがったな!!!

 

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バレましたね。あー、バレましたね。

またしても彼には、災難が降り注ぐのでしょうかね...

 

前回のコメントですが、みなさん恋敵=おもちゃだと知って結構驚いていたようですね!僕も同じくえ??って感じた勢です(笑)

今回のお話はどのように感じたでしょうか?共有できると嬉しいです!

 

:naruse