NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第19章:告白

バイロインは食事の最中にふと思い出す。

「嫁さんもこんな所に来てるのか!?」

ーー嫁さん?あいつは一体誰のことを言ってるんだ?

「誰の嫁だよ!?」

「は?お前、結婚したんじゃないのか?」

「結婚?」

ーーなるほど。あの野郎は俺が結婚したんだと思ってるんだな

「お前をこんな状況に合わせたのに、何で俺が結婚なんてしてられるんだよ!お前が助けを求めているだろうと思って急いで来てやったんだぞ」

結婚していないと言う言葉を聞いてバイロインの心の中は明るくなる

「何だ、結婚していないのか?じゃあなんだ、あの招待状は嘘だったのか?」

「ああ!お前のような馬鹿を驚かすためのな!」

カチンときたバイロインは沼地に向かって叫びだす

「このクソやろーー!!」

「俺が悪いのか?」

そう言って悪そうに笑う

「ああ!全部お前が悪いんだよ!お前に付き合わされた彼女が可哀想だ」

そう表面では悪態をついているが、内心は喜びの舞を踊っていたりする。

「彼女のところに居てあげなくて良かったのかよ」

それをきっかけにグーハイの怒りは沸点に達する

「なるほど。お前は俺のことをあまり大切に思ってないみたいだな!お前がこうやってここに着地してから最初に見つけたのは誰だと思ってるんだ?!どんだけ訓練された兵士がお前のことを探していたとしても、最初に見つけたのは俺なんだよ!お前の戦友たちはどうだ?あのお前に餃子を持ってきて、おまえのベッドで寝ていたあの男はどうだ?...誰もここにはいないだろう!?」

 機関銃のように捲し立てるグーハイに思わず叫び返す

「わ、分かったから!落ち着けって!」

しばらくして、黙る。

辺りを囲う大きな沼地、その表面からは気泡がプクプクと泡立っている。周りは霧がかっておりその中で二人はあぐらをかいて座っていた。

静かになったら静かになったで何だか居心地が悪い

「...どうやってここまできたんだ?」

こんな季節の沼地だ。もし一歩間違ったら探しに来たグーハイだって戻れなくなるかもしれなかった。しかし、そんな危険な事をした事を感じさせないような一言を自信満々に言い放つ。

「才能!」

そんな答えあるのかよ。と思わず目の縁を濡らしては指で拭い去る。

この数年であいつは人となりが変わり、職業が変わり、身分が変わり、そして接し方すら変わってしまった。

ただ、ずっと昔から変わらないものがある。それは、自分に対しての一直線な想い。それだけが心の中心にあってこの八年間を過ごしてきたのだろうか。

バイロインは空を見上げる。その空は一面 灰色だったが、自分の気持ちは明るかった。

ふと横を見ると、グーハイが気持ちよさそうに横になっていた。自分がいる場所は余りにも狭すぎて横になることすら出来ないというのに、隣でそんな態勢を見せられたら羨ましくなる。

 バイロインも横になることにした。

しかし、当然のことながら半身は沼地に浸かってしまう。

「おい!何してんだよ!」

自殺行為に近い態勢をとるバイロインに悲鳴をあげる

「この場所じゃ碌に足も伸ばせないんだ。もうずっとこの姿勢でいい加減辛いんだよ」

 大丈夫だと言わんばかりの様子で手を振る

「お前もこの場所が辛いなら、一旦帰ってもいいんだぞ」

「は?やっとお前に会えたっていうのに俺に帰れって言うのか?」

「大丈夫さ。ここで長いこと過ごしたんだ、あと数日増えたってどうって事ない」

そう言い終わると同時にグーハイがこちらに向かって動いてるのが見えた。

「ばッ!馬鹿!何やってる!そこを動くなよ!!」

そう言うバイロインの制止をも聞かず、グーハイの半身はもうすでに沼に嵌っていた。

もうそこまでくると、あとは何処かにすがって元の場所に戻るしか脱出する方法はない。たとえ、バイロインの元まで辿り着けたとしても何時間もかかるかもしれない。

 「う、動くなって!大人しくしろよ」

先ほどから、冷や汗が止まらない。

グーハイも少し焦っていたが、自分が持ってきたリュックの中に使えるものが入っていた事を思い出してそれを探し出す。

グーハイがリュックの中から取り出したのは、空気で膨らませるマットの様なものだった。それを膨らませることにより、沼との接地面積を増やして浮上しようと試みる。

グーハイに危ない目を合わせるわけにはいかないと、バイロインが身を乗り出す

「俺がそこに行くから、退いてろ!」

「あ?お前がこっちにきたらマットに入りきらないだろ?」

「じゃあ、ロープを寄越せよ!そしたら何とかなるだろ!?」

グーハイは持ってきていたロープをバイロインに投げ渡し、それを手に取ったバイロインがマットに乗ったグーハイを対岸へ引き寄せる。

そのまま波に乗る様に移動して、グーハイはバイロインのいる場所へと降り立った。

「グーハ...イ....」

何も言わずバイロインを抱き締める。

その八年越しの抱擁は、嘘偽りのない愛で形容された優しいものだった。

「寒かったろ?冷たいな」

そう言う声は優しく、その温かい手はバイロインの頭を撫でる。

「寒いのはまだ我慢できる。けど、お腹は空いた」

後ろの木を見ると、木の皮が剥がされ囓った跡がついていた。

「そうか...まだリュックの中には食べ物があるからな。いっぱい食べていいぞ」

グーハイの肩を掴むその手がギュッと強くなり、掠れた声で話し出す

「三日間も俺のことを探していたんだろ?なのに何でこんなにリュックの中にまだ食料が入っているんだよ」

「ああ。いや、実際お前のことを俺一人で探していたのは一日だけさ。あとは空から探していたんだ。その間はきちんと食事もしていたし、それにこんなにリュックに入っているのは偶々でさ。ほら、途中で餓死しちゃ不味いだろ?」

そう言うグーハイだったが、実際はこの三日間、バイロインを探すことで頭が一杯になり水の一滴さえも口にはしていなかった。

「嘘言うなよ!お前のお腹を触れば、嘘言ってることくらいすぐに分かるんだぞ!?」

「ほぉう。その様な素晴らしい手を持ってるのか?」

揶揄ってくるグーハイのシャツの中に本気で手を入れると、その服の下にある腹筋が冷たい手に反応して震え上がる。

「ほらな。お前、食べてないだろ?」

そうしてシャツの中から抜き出そうとするその手をグーハイに止められる。

「ダメだ。お前の手は冷たすぎる。このまま温めてろ。」

余りのことに驚く。こんなに優しくされたのは久しぶりだった。

グーハイの言うままに、シャツの中で手を温め続ける。

バイロインはグーハイを背面から包む様に重なって、二人はそのまま木にもたれて座る。

グーハイの背中をなぞると、そこには脊柱のラインに沿って大きな傷跡がついていた。脇にある幼い頃兄に刺された傷跡が小さく見れるほどの傷跡が。

「...痛かったよな?」

バイロインはグーハイの背中にコツンコツンとリズムをとりながら頭を軽く打ち付ける。

「まだ....俺を恨んでるか?」

絞り出すように尋ねてくるその声に、グーハイは黙ったまま。

その態度に、バイロインは心の中でため息をつく。

 「....あの事故の後、どうしたらいいか分からなくなって、気づいたらお前のことを病院に運んでたんだ。お前の緊急手術が終わった後、お前の義兄さんと会って “ああ、お前が事故にあったのは本当なんだ”って現実に引き戻された。そしたら、急に震えが止まらなくなって......ごめん。.....お前が眠る病室に入る勇気がなかったんだ...あの時、お前の命以上に大切なものがない事を知ったのに....本当にごめん。俺...この八年間、ずっと、ずっと後悔していたッ!」

最後の方は、嗚咽まじりになりながらその口から真実を話してくれた。

バイロインが長い間心の奥底に隠していた塊を掘り起こしてくれたのだ。

八年ぶりに会ってから、二人でこんな話をしたのは初めてだった。きちんと話してくれたことに自然と口元が緩む。

「もういい。その事はもう忘れろ。お前にそれで苦しんで欲しくない。お前だってこんな目に会ったんだ。もう十分だろ?」

「...俺を恨んでるんじゃないのか?」

鼻をすすりながら尋ねる。

「まあ、何年経ってもお前は可愛いって話だよ。」

突然、シャツの中に入れていた手を取り出してグーハイの顔を掴むと、強引に自分の顔の方に向けて意思の固まった真っ直ぐな瞳で見つめる。

「あの女と別れろ」

余りにも唐突すぎて、変な声で返事をしてしまう

「わ。別れろ?」

「ああ!あの女が嫌いなんだ。もう俺はお前に対して遠慮しないからな!」

そう言うバイロインにグーハイはとても驚いた。今まで、感情を押し殺してきたあの堅い男が嫉妬から自分にエンと別れろと言ってきたのだ!

「俺がいつ彼女のことを嫌いだなんて言ったんだ?別れる理由が見当たらないけど」

バイロインほどプライドが高くてツンデレな人はいない。

そんな奴が今最高のデレを見せてくれたのだ!これを大切にしなければ絶対に後悔する。

「これは命令だぞ。大人しく従え!」

可愛い事を言ってくるバイロインににやけが止まらない。

「それは少佐殿の権力で命令しているのか?...いやぁ、お前が信頼させてくれるような一言を言ってくれたら、考えてやらなくもないけどなぁ」

グーハイが言う信頼が何の言葉を指しているのかは理解できたが、絶対にそれは言いたくなかった。

「強制じゃない...けど、お義兄ちゃんの言うことも聞けないのか!?」

グーハイはわざと煽る

「お互いが愛し合って夫婦になるっているのは、互いに真実の言葉を言ってその仲を成長させていくものじゃないのかよ」

「ほぉ、俺に楯突くって言うのか?」

そう言いながらグーハイの首を軽くしめる

「警告するぜ!その手を少しでも動かしてみろ、俺はキレるぜ?」

そう言いながらバイロインの頭をど突く

「上等だよ。いいじゃないか!本気出してみろよ?!」

軍で上官が新米兵士に怒鳴るように、その拳をグーハイに向けるのであった。

 

________________________

 

おおー!時間があったので、翻訳することができました!

今回の話なんですけど、原文が難しすぎてほぼほぼ自分の想像で書いています(汗)

なので、おそらくお話に齟齬が出るかもしれません!

 

:naruse

 

202004追記:加筆修正。つい自分の言葉が文中に入っちゃってますね...(笑)