NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第20章:グー家の想い

夜がまた訪れる。

バイロインはグーハイの方を向いてこの後のことを相談する

「どうするんだ?夜が明けてもここで救助を待つのか?それとも、自力で戻るか?」

「自力ぃ?」

ふんッと鼻で笑いながら欠伸をする。瞼が閉じそうな雰囲気だった。

「どうやってこの沼地を脱出するんだよ。俺がお前のいるここに来れたのだって、お前が俺を引っ張ってくれたからだろ?」

あまり緊張感のない返事にバイロインは少し不満げになる

「だって...お前はここに辿り着くまでに沢山の沼地や荒野を駆けてきたんじゃないのか?」

「それはお前を早く見つける為だ。今はもうその必要もないしな。」

そういってまた欠伸をする。

 

実のところ、グーハイの体力はまだ余裕があった。別に眠くもなく、戻ろうと思えば戻れたのだが、バイロインの体力を考えるとそういう選択肢は絶対に選べない。

ーーようやくこいつを見つけたんだ。もし帰り道で危険な目に会ったらどうする?そんなの絶対に駄目に決まってる!

 

バイロインはため息をついて二本の腕を頭の下に敷き、地面に仰向けに横たわる。

長いことこの場所で過ごしているからか居心地の良さそうな体勢を見つけているようだった。当然、寒さを防ぐために飛行服は着用したままだった。

「何見てんだよ?」

先ほどからずっと自分の事を見ているグーハイに向かって気怠げに言う。

グーハイはというと、長年で培った妄想で完全に補正された透視眼でバイロインの裸体を分厚い飛行服の上から確認していたのだ。

グーハイ’s eye よるとバイロインの身体は昔よりも筋肉がつき逞しくなってはいたが、その細さは相変わらずのようだった。

「何を見てるかだって?お前の身体を想像しながら見てんだよ。相変わらずエロい身体しやがって。てか、お前何日顔洗ってないんだ?滅茶苦茶汚れてるぞ」

呆れた様子で目を細める

「何言ってんだよ....お前も自分の体を見てみろよ。全身泥だらけで分厚くコーティングされてるぞ。今ならナイフで刺しても体まで届かなそうだな!」

 

また幾らかの時間が経過した。

グーハイの体に纏わり付いていた泥は手で払い落とせるほどにまで乾いていた。

しかし、手で払うと泥が粉末状になって散布しバイロインがその煙を吸って咽せていた。

「ちょ、お前なぁ」

そう言ってグーハイから離れる。

グーハイが払い終わったのを確認いしてから元の場所に戻ると、当の本人は持ってきていた水で手を洗っていた。

「おい!そんな貴重な水で手を洗うなよ!飲み水として使うべきだろ?」

 そう言い終わると同時に、その濡れた手でバイロインの顔を撫でる。

「...!!」

グーハイは自分の手を洗っていたのではなく、バイロインの顔を拭ってやるために手を濡らしていたのだ。

「お、おい!俺の顔はそんなに汚いのかよ」

「これでさっきよりはマシになっただろ」

ただ、それだけを言い残して満足そうに水を片付ける。

その行為に納得出来ないままバイロインは木の下に座り、リュックの中に偶然入っていたタバコを見つけてそれに火をつける。

「...お前の会社に沢山いる美人たちに比べたら、俺の身体なんて見ても楽しくないだろ...」

グーハイもタバコを一本取り出して、木にもたれかかる。

「...インズ。...軍では辛くなかったか?」

 まさかこの男の口から自分の事を心配する言葉を聞くとは思ってもいなかった。

「....最初は大変だったさ。でも、今はもう大丈夫だから...」

そうか、と煙を長めに吐き出す。

「体は?」

「なんともない」

「前よりも筋肉がついたよな?」

何故か、グーハイからの問いかけは回を重ねる毎に厭らしく聞こえてくる

「股関節のあたりも柔軟になったのか?」

そう言いながらバイロインの太もものあたりを摩る

「何が言いたいんだ?!」

するとグーハイは耳元で吐息混じりに囁く

「お前、八年前からセックスしてないだろ?」

「!!?」

驚きのあまりに口に咥えていたタバコをグーハイの顔めがけて吹き出してしまう。

「な!な!いきなり何言ってんだよ!」

グーハイは顔についた灰殻を払いのけながらその目はずっと視線を外さない

「.......お、お前は?どうなんだよ.....?」

可愛くも面白い返しをしてきたバイロインに微笑む

「知りたいのか?...なら、ここで教えてやるよ」

誘惑の言葉と共にその手をバイロインのパンツの中へスルリと入れていく。

そのまま二人はお互いを確かめるように触れ合う。

熱い息が顔の近くで混じり合う。

八年ぶりのその大きな手にビクリと反応してしまうが、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。むしろ、この行為がバイロインの心の空っぽだった部分を満たしてくれるものになっていた。

 

 

暗闇が周囲を覆うと、グーハイはリュックからパラシュートを取り出しては布団の代わりで下に敷き、寝袋を取り出して、そこに二人で一緒に入る。

冷たい夜風が吹いて、バイロインは思わず首を窄める。

「寒いか?」

「いや、大丈夫。この飛行服は防寒も兼ねてるからな」

そう言って隣にいるグーハイを見ると見ているこっちが寒く感じてしまうほどの薄着だった。

「それよりかもお前の方が寒いだろ?そんなに薄着で...」

「この泥も防寒用なんだよ」

馬鹿でも嘘だと分かる言い訳にバイロインは思わず笑ってしまう

ーー数年ぶりにこいつの心を一瞬で奪ってしまう笑顔を見たな。

バイロインが自ら腕を伸ばしてグーハイに抱きつくと、グーハイは満足そうに笑った。

「おいおい、どうしたんだ?いつもは甘える事をしないくせに今日はこんな事自分からしちゃってよ。俺の両親が見たらなんて言うだろうな」

「お前の母さんがこの誰もいない沼地を見てるってのか?」

「ああ。見てるさ。俺らの母親じゃなくて、俺の母親がな。今頃あの世で自分にも娘

が出来たって喜んでるだろうな」

バイロインは何も言わずにただグーハイの澄んだ瞳を眺め続ける。その瞳はとても深く思わず触れてしまいそうになる程綺麗だった。

そう頭で考えていると、無意識にその目の縁を親指で数回撫でている事に気付く。

グーハイは嬉しそうに目を細めて優しく微笑んでいた。

ーー今までこんな顔見た事なかった。

心の中がすべて満たされていく様で、安心する事が出来た。

 

ーーさっきから可愛い顔と行動をしてくるこいつはなんなんだ!?

そう思いながら唾を飲み込むと、バイロインは瞼を閉じる。

そのまま、バイロインの柔らかい唇に触れようとした時、当の本人からいびきが聞こえてきてピタッと止まる。

ーー今のは明らかにそっちが誘惑してきてたろ!??

もどかしい思いをしながら寝顔を見つめていると、今までの自分の行動を振り返って後悔の念がフツフツと沸き出してくる。

「クソッ。何やってんだよ、俺は」

夜が更けても睡魔は一向に来ず、バイロインの頭を少し上げて自分の腕を潜らせ少しでも寝心地の良いように整える。しかし、そうしなくてもグッスリと眠る腕の中のバイロインを見て可哀想に感じてしまう。こんな荒野で何度寝たのだろうか。こんな沼地でグッスリと眠れるまでどのくらい辛い環境にいたんだろうか。

自分の腕の中で静かに眠るバイロインの頬に触れるようなキスをする。

ーーごめんな、インズ。家のごたごたを全部解決したら、ちゃんとお前と向き合うから。

 

実は、バイロインはグーハイよりも後に眠っていた。日付はとっくに変わり、今は元旦を迎えている。

軍に長年勤めていると、如何なる状況でも日時を把握することが出来るのだが、自分の隣でグッスリと眠る男の顔を見ているとそんな能力など、どうでもいいものだった。

自分に腕を貸して眠るグーハイの汚れた頬にそっとキスをする。

ーーグーハイ。俺はもう何も恐れないぞ。八年前よりも俺は強くなったんだ。お前の隣に立てるように、そして...自分のこの感情を守れるように。

 

 

グーウェイティンは八年も経ったのに、まだ息子があの男に執着して自分勝手な行動をするとは思ってもいなかった。

最初グーハイがバイロインを探しに行くと言い出した時は全く理解が出来ず、激しい苛立ちを覚えた。何のためにお前たちを八年間も隔離したと思っている?!関係をリセットするには十分過ぎるほどの時間を与えてやったというのに!

しかし、捜索する時間が過ぎれば過ぎるほどその苛立ちは次第に焦りと変わっていった。

なぜなら、バイロインを探しに言った息子までもが消息を絶ったからである。

今は大晦日であり、バイロインが行方不明になってから八日目。グーハイが消息を絶ってからも六日目である。

通常。事故で七日以上見つからなかった場合、生存確率はほぼゼロに等しくなる。

八年前のあの交通事故でも肝を冷やしたのだ。

だから、バイロインが自ら軍隊に志願した時、息子をこんな危険な職種に就かせなくて良いとホッとした。

会社経営などをさせておけば危険な目に合わないで済むと思っていたのに、また命の危険を脅かす厄介ごとに絡んでしまった。

数十年前の彼なら「息子が行方不明?そんなことどうでもいい!」と言えたものだが、今ではそんな事を言う余裕もない。

八年前の事故でもしも息子を失ったらと言う恐怖に駆られて、第二子を欲しいとも思わなくなった。

だから、彼にとって唯一の正統な血筋を継いでいるのはグーハイしかいないのだ。

たとえ部下に千軍万馬がいたとしても、この血筋が絶えてしまっては意味がない。

「閣下!御子息様がお乗りになられていた車を発見いたしました」

「グーハイは!?」

「グーハイ様は....そこには居ませんでした」

その言葉を聞いてサッと血の気が引くと、そのまま今まで座っていた椅子に脱力しながら座る。見つからない焦りからか、貧乏揺すりが止まらないでいた。

ソンという現場検証をしていた部下が落ち着かせるように話しかける

「閣下、そんなに慌てないでください。グーハイ様はとても優れた体格をしています。数日の間くらいなら物ともしないでしょう!しかもここ数年は行動が落ち着いていましたので、きっと捜索に出かける前に十分な準備をしていたと思います。もしかしたら、今頃バイロイン少佐を見つけたかもしれませんよ」

「落ち着いているだと!?本当に落ち着いていている奴が危険な所へと行くのか!?」

その言葉を聞いてソンは内心「この人は自分息子の本当の気持ちに気付いていないのか?」と文句を垂れる。

張り詰めた捜索本部の一室に連絡を伝えにきた兵が入室する。

「閣下にご報告いたします!グーヤン様がご到着いたしました。」

その報告のすぐ後にグーヤンが部屋に入ってきた。

この張り詰めた雰囲気に一瞬で気付いたグーヤンは掛けていたサングラスを外して、義父親とソンを交互に見る。

「何があったんだ?」

ウェイティンはとても落ち着いて話せるような状態でなかったため、代わりにソンがグーヤンを部屋の隅に引っ張っていき、事の詳細を報告した。

すると、グーヤンの顔色がサッと変わりソンの肩を叩くき

「探しに行ってくる」

と一言言い残すと、そのまま部屋を急いで出て行った。

「あ!えっ?ちょ、ちょっと!」

急いで追いかけようとソンも部屋を出たが、グーヤンの姿は一面に吹雪く雪の中にすでに消えて行ったのであった。

 

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時間軸の計算が難しくてお話に少し矛盾があるかもしれませんが、気になる方はコメントにて教えていただきたいです!

それにしても、あの中盤のシーン。いやぁ。物書きとしての才能がない僕ではあれが最大限の雰囲気エロの表現でした(汗)

次回もすぐ更新いたしますので、しばらくお待ちください!

 

:naruse

 

202004追記:修正。多分...二人はここではまだシてな...かったようなぁ....