第144章:発情した狼
「じゃあまだ何も食ってないのか?」
そう言いながらグーハイはトンテンのお腹を触る。
「お腹は空かないのか?」
しかしトンテンは首を横に振る。
「ううん。おじいちゃんとおばあちゃんの部屋で食べたんだ。美味しいものすごくいっぱい食べたよ。お魚とお肉もあるんだけど、部屋の外では食べちゃダメなんだ」
「魚と肉…?」
グーハイは疑問を持った眼差しでトンテンを見ている。
トンテンはフフフと笑って頷いた。
「そうそう」
グーハイは考える。ツォおばさんはわざわざお祖父ちゃんお祖母ちゃんのためにそんなにご馳走を作ったのだろうか。別に変ということはない。自分の孫娘の一件を知らされていないからだろう。
すると、トンテンがまた喋り出す。
「本当はみんなで食べるために用意してたんだけどね。お兄ちゃんが来るから片付けちゃったの」
ーーうーん、それは……
グーハイは困り果てる。
「全部バイ兄ちゃんのアイデアだよ!」
トンテンは小さな腰を張りながら、グーハイのことを想って不満そうな態度を示す。
「グーハイお兄ちゃんに食べさせたくないから、あんな美味しいものを全部隠しちゃったんだよ!」
グーハイの顔色が変わる。そしてトンテンを地面に下してからしゃがみ、トンテンのことを見つめる。
「トンテン、陰でお兄ちゃんの悪口を言うのはダメだぞ」
トンテンは小さな顔を真っ赤にしながら怒る。
「悪口じゃないもん。もともと好きじゃないんだ。バイ兄ちゃんはグーハイ兄ちゃんだけじゃなくて僕にもイジワルするんだよ!」
それを聞いてグーハイは興味津々にトンテンのことを見る。
「教えてくれ。あいつはお前にどんな意地悪をするんだ?」
「バイ兄ちゃんは寝るとき、いっつもボクを押しのけて布団を奪うんだよ。それに声を出すなって言ってきたし!」
グーハイは目を細めながら静かに尋ねる。
「あいつは、いつトンテンと一緒に寝てたんだ?」
「最近は毎日ずっとだよ」
これを話した後すぐ、トンテンは何かに気づきワッと泣き始めた。
グーハイは少しあっけにとられる。
ーー俺が泣いてないのに、なんでトンテンが泣くんだよ?
トンテンは泣きながら悔しそうに話し始める。
「グーハイ兄ちゃん…ボクもう二度とお兄ちゃんに会えない…」
「何でだよ?」
グーハイはトンテンの言っている意味が分からず、とりあえず手を伸ばしてトンテンの涙を拭く。
トンテンは鼻先を真っ赤にしながら話す。
「バイ兄ちゃんが言ってたんだ…グーハイ兄ちゃんにこのことを言ったら二度と会えなくなるって…」
グーハイは心に湧き立つ怒りをなんとか抑えて、優しい声で尋ねる。
「このことってなんだ?」
「バイ兄ちゃんがボクたちと一緒に住んでいることだよ。グーハイ兄ちゃんには言っちゃダメだって…」
この言葉を聞いてグーハイは一瞬で全てを理解した。
グーハイは落ち着いた顔で立ち上がり、バイロインの実家に戻ろうとしたら、突然トンテンがグーハイの太ももに抱きついてきた。
トンテンは大声で泣いている。
「グーハイ兄ちゃん、バイ兄ちゃんを探しに行かないで!これを話したらもうグーハイ兄ちゃんに会えなくなっちゃう!もし会えなくなったら、新しいおもちゃも貰えなくなっちゃう!」
グーハイは片手でトンテンを抱き上げて真面目に話す。
「泣くな。あいつの言ったことはデタラメだ。俺はまた来たいと思ったときにちゃんと来るから。俺の言うことを聞いたらちゃんとおもちゃも持ってくるぞ」
トンテンはまだ泣いている。
「でもバイ兄ちゃんがきっと僕をぶつよ!」
グーハイはトンテンの頭を撫でて、牙を見せる。
「ぶたれたほうが良いのはあいつだ」
トンテンは泣きながら鼻をすする。
「よかったぁ…」
グーハイはトンテンを抱きかかえながらバイ家に戻り始める。
バイロインは自分に危機が迫っているとはつゆ知らず、ツォおばさんもまさかトンテンを連れてグーハイ帰ってくるとは予想していなかった為、バイロインには伝えていなかった。
三人はやっとご馳走にありついていた。お箸で肉を摘まみながら談笑していた。
そしてドアが開く。
三人は不意に開いたドアに目をやる。
そこにはトンテンを抱きかかえたグーハイが立っている。
バイロインは驚きのあまり、口に入れていた肉を喉に詰まらせる。バイロインの口元は肉の油で夕日に照らされているかのように眩いほどに輝いている。
二人の自宅にて。
「胸を張れ!前を向け!両手を下げて!指を揃えろ!」
バイロインは壁に向かって直立している。グーハイは厳しい目をしながらバイロインの後ろをウロウロしている。手にベルトを持ち歩きながらブンブンと風の音と立てている。
「今からお前に質問をする。どういうことか答えるんだ」
バイロインはアヒルのように口を堅くしている。
「何を答えるんだよ?」
グーハイはバイロインのそばに立ち、冷たい目つきでバイロインのことを見つめる。
「お前が一体どれだけ恥ずべき事をしてきたか。一つずつ報告してやる」
バイロインはグーハイをちらっと見たが、口は開かない。
グーハイはベルトを強く壁に叩きつけて、凄まじい音が響く。
「まだこいつをケツには欲しくないだろ?」
その口調にはとても威厳が感じられる。
「体罰を受けたくないなら早く自ら白状することだな。ハハッ、一セット十回、泣き喚くまでやるぞ!」
グーハイの怒りに対して、バイロインは落ち着いた様子でいる。
「じゃあやれよ。その後にお前の口から言ってくれよ」
グーハイは目を真っ赤にしてバイロインを睨み付け、歯を食いしばりながら話す。
「俺にそんな勇気がないとでも思ってるのか!?」
バイロインは冷静に答える。
「別にそういうことじゃない。俺はお前が本当の男だと絶対的に信じている。間違いなく出来るはずだ。だから早くしてくれよ。待たせないでくれ。俺をがっかりさせないでくれ!」
グーハイはこの馬鹿野郎におちょくられていると思い、手が頻りに震える。
ーーこいつ、わざと殴らせようとしてるのか?
「お前…ズボンの中にもう一枚履いてるだろ?」
グーハイが確認する。
バイロインは相変わらず冷静だ。
「分かっている。不満なんだろ?厚着してたら叩いても痛くないもんな」
「お前は本当に俺にはできないと思っているのか?」
グーハイはもう一度同じ質問を繰り返した。
「頼むよ。本当にそんなこと思ってない。早くやってくれ」
グーハイはバイロインの弾力のある二房のお尻を眺めている。まだ触り足りないのに、ベルトで痛めつけるにはどうしても勿体ない代物だ。
数十秒ほどの沈黙の後、バイロインは我慢できなくなり笑い出す。ピンと張って立っていた姿勢も段々にリラックスしてくる。両足を少し動かして、ニヤケながらグーハイのことを見る。
「ふざけるな!そんな態度を取っている場合か!?」
グーハイはまだ先ほどからの姿勢を崩さない。
バイロインはグーハイが手に持っているベルトを奪い取りシラを切る。
「そこまですることか?お前に隠れて肉を食っていただけなのによ」
「肉を食っていただけだって…?」
グーハイは本当に暗い顔をしている。
「トンテンが全部教えてくれたぞ。お前がずっと実家で寝泊まりしてたこと、お前がそのことを俺に言うなってトンテンを脅していたこと……そうだろ?」
バイロインは相変わらずぼけっとしている。
「…知らない」
「てめぇ…!」
グーハイはベルトをバイロインの身体に巻いてソファーに引っ張り倒す。そして今度は自分のところへ彼を引き寄せて怒りをぶつける。
「俺がお前のことを信用していることを良いことに俺のことを弄んで…そんなに楽しいかっ!?」
バイロインの髪は乱れている。そして相変わらずダンマリを決め込んでいる。
グーハイは呼吸を乱し、愛憎の眼差しでバイロインの睨み付けている。どうしようもない気持ちだ。
「教えてくれ…なんで実家に泊まってばかりいるんだよ?」
バイロインはずっとグーハイを見つめている。しかし口を開かず無表情だ。
グーハイはバイロインの性格は充分に理解している。彼の強情さは天下一と言っても過言ではない。一度バイロインが言いたくないと思った事はいくらグーハイが強要したとしても意地でも言わないのだ。
グーハイは一度、呼吸を整える。それからバイロインの乱れた髪を手で整えて優しい口調で話し始める。
「俺の作る飯が気に入らなかったのか…?」
「俺がお前に家族の温もりをあげられなかったのか?」
「俺が何かお前に酷いことでも言ったかよ?何か怒らせちまったのか?」
「それともお土産の件で俺に罰を与えているのか?」
何パターンも質問をぶつけてあらゆる可能性を潰すも、バイロインからは一切返事がない。
ここでグーハイは”狼”の姿を見せる。
話す力がありながら一切話そうとはしないバイロインに対し、目が熱くなりながらグーハイはバイロインのズボンのチャックを無理やり下げる。
バイロインは相変わらず冷めた瞳で無数の冷たい矢のような視線を放つ。そして力いっぱいにグーハイの手を解こうとするが、グーハイは相変わらず手を止めようとはしない。
バイロインが突然グーハイの下腹部を蹴り上げる。
不意打ちを食らったグーハイは痛みに悶える。しかしすぐにグーハイは肘でバイロインを押さえつけて全体重を乗せる。二人の体重でソファーが大きく凹む。
「なんでお前と親密になるのはこんなに難しいのだよ…?」
グーハイはバイロインの喉元に噛みつく。
バイロインはグーハイの襟足を必死につかみ、苦しげに答える。
「本当はこんな筈じゃなかった…お前が事態を複雑したんだ」
グーハイはそれを聞いてバイロインを押さえつける力を緩める。そしてじっとバイロインのことを見つめながら質問する。
「なぁ、教えてくれよ。一体どうすればいいんだ?」
「ヤる時、いつも俺が挿れても良いなら、俺はお前から逃げる必要はない」
グーハイは一瞬にして全てを理解する。今までのは全部、この悪ガキの計画のうちだったのだ。
「俺は心からお前のことが欲しいんだ。一回だけでいいから…ダメか?」
「ダメだ!」
バイロインは顔を強張らせている。
グーハイは目を細めながらバイロインを見つめている。もはや目でバイロインのことを二つに割る勢いだ。
「ダメ?どうしてだ?一度は俺がやって、その後お前はあの晩、俺のことを何回も苦しめただろ?だから順番的に今度は俺の番だろ!?」
「なんでそうなるんだよ…」
バイロインはついに抑えきれず、声を荒げながら訴える。
「お前の一度目だって無理矢理だったじゃないか。本当は一度も許されないんだよ。お前は心から望んでいるんだろうが、これは決して言い過ぎなんかじゃない」
「もう充分だっ!」
グーハイは歯を食いしばりながら頷く。
「お前、まだ俺のこと恨んでるんだろ?お前は俺が犯した一度の過ちで俺に死刑を言い渡すのか?俺の息子がこんなにお前のことを求めているのに、お前はそれに我慢を強いるのか?」
バイロインは薄い唇を動かす。
「別に俺は我慢できるし」
グーハイはその言葉にあっけに取られる。そして彼は急に立ち上がり、窓の外に向かって三言怒鳴る。その後、何もなかったかのように振り向く。目には精力が満ち溢れ闘志に燃えている。一枚の狼の皮を被り、傲慢な年寄りのような顔をしながら、柔らかい声で哀願する。
「インズァ…お前は良い嫁だ。俺もすごく努力したんだぞ。俺たちの幸せのために、夜はろうそくを持ちながら勉強したんだ。寝る暇も食事する暇もなく必死にな。だからさ、少しくらい融通してくれてもいいだろ?」
ーーお前のその必死さを見たせいで俺は飛び出したんだよ!!
バイロインは全身に寒気を感じる。
「なぁ、俺も鬼じゃない。過去にお前が試しで上になってみて結局どうなった?二人とも酷い目にあった挙句、そのあとも散々だったろ?」
「インズァ…前回は俺の本領を発揮できなかったんだ。もう一度だけチャンスをくれ。一度やればお前も絶対好きになるって約束するから」
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※「狼」「悪人」という訳について
この部分の原文は”大灰狼”という言葉が使用されています。
この言葉は「灰色狼」とは別に「悪人」の例えとしても使われます。
これは「男は狼だから」という表現に近いかなと思います。
バイロインを赤ずきんちゃん、グーハイをオオカミとして考えると分かりやすいかもしれません。
皆大好き、インズァ…きました。
ここ”因子啊”って言ってます。インズァですね、はい。
グーハイの推しへの課金力、懐の深さ、完璧ですね。
:hikaru