NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第22章:心のままに

霊園にてバイロインと別れた後、そのまま実家へと帰る事にした。

玄関の扉を開けるとウェイティンはソファーで寛いでおり、ユエンは台所で食事の準備を行っていた。

扉の音に気づいて玄関の方を見ると、そこには全身が泥で汚れ少し痩けた顔になっていたグーハイが立っていた。

二人はほんの数秒間だけ視線を交わしていたが、特に何も言わずにグーハイは靴を脱いで室内へと入っていく。

「親に対して挨拶もないのか!?全く、あんな奴を勝手に探しに行って音信不通になりやがって。その所為で一体どれほどの軍兵を遣わしたと思ってるんだ」

ウェイティンの語気は少し強めだった。部屋に入る前に足を止め、身を翻して何食わぬ顔で言い返す。

「俺が見つけなかったらあいつは未だにあそこに居ただろうな。インズは広大な沼地に独りで助けを待っていたんだ。あそこは危険が多くて霧も濃かった。上空からいくら探し立って見つかる訳ないのに、誰も地上から危険を冒してまでも捜そうとはしなかったよな。それに、俺は一人じゃなかった。俺がインズと一緒になった時にはあのクソ兄貴もお前の部下もいたしな」

「お前はいつもそうやって屁理屈ばかり....」

「俺が見つけ出したのは赤の他人じゃねえ!お前の息子だぞ!?」

ユエンは二人の様子に気付いて急いで台所から駆けつけたが、丁度グーハイの最後の言葉を聞いて虚を衝かれる。少しためらった後、二人の仲裁に入る。

「ほ、ほら。グーハイ?まずはお風呂に入ってきなさい。自分の身体をよく見なさいよ」

ユエンはグーハイに感謝していた。バイロインは自分にとって唯一血の繋がった息子だったのだから。

ウェイティンはユエンが複雑そうな瞳をしているのを見ると、グーハイに風呂の方を向かって顎をしゃくるのだった。

 

 

食卓に三人揃ってから食べ始める。

「ほら、グーハイ。これも食べなさい」

ユエンは先ほどからグーハイにずっと野菜を勧めている

グーハイとウェイティンはお互い黙ったまま。ユエンだけが時折話しながら食事は進んでいった。

自分の茶碗が空になると、ウェイティンは箸を置いてその重い口を開く。

「お前。彼女たちの家族にはどう謝罪するつもりだ?」

「ちゃんとするさ。それでいいだろ?」

ウェイティンはこの話を聞いて少し安心する。

ユエンは食器を片付けながらそれ関連づけてバイロインの事も口にする

「あの子もどうするつもりなのかしら。もう26にもなるっていうのに。もうそろそろ覚悟を決めて欲しいと思うのは私だけかしら」

ウェイティンはグーハイの様子を少し伺いながら同調する

「そうだな」

片付けが終わって自室に戻ろうとするグーハイの腕をユエンが掴む

「シャオハイ。確かに結婚式の披露宴であんな事をしたのは良くなかったと思うわ。だから、あの娘と関係を拗らせないように何か物を買ってちゃんと謝りに行くのよ?」

「....わかってる」

 

 

翌朝、グーハイは病院へと向かう。

エンの母親はあまり状態がよくなく、数人の医療関係者が二十四時間体制で対応していた。グーハイは医者と一言二言会話を交わすと、病室へと案内してもらう。

病室の前にはエンがやつれた顔で座っていた。

「...エン。この前は悪かったな」

グーハイに声をかけられてハッと顔を上げて、笑みを浮かべる。

「大丈夫よ。あなたが無事だったのなら.....お兄さんはどうなったの?無事なの?」

「ああ。無事だったよ。一面が沼の所で発見したんだ。あと一歩見つけるのが遅かったら危なかったかもしれない」

「それなら良かった」エンはそう言って微笑む

「なんだかあなた達兄弟が羨ましいわ。私にはそういう関係の人がいないから...」

兄弟愛を羨むエンにグーハイは悪戯に笑う 

「...いや。俺たちは本当の兄弟ではないんだけどな」

「え!?」

意味が分からず驚いていたエンに異母違いの兄弟だということを説明する。

「いや。まぁいい、この話は忘れろ。それよりもお母さんの容態は?」

エンはため息をつく。

「もう長くはないと思うわ.....さっき母と話していたらね、急に意識がなくなったの」

エンに瞳からは悲しさが溢れており、そのやつれた顔から彼女の悲痛さがひしひしと伝わってきた。

「グーハイ。もう私の母な長くないわ。形式ばった事は辞めにして家族だけの食事会にしましょう。それだけでも母はきっと安心すると思うわ」

「...エン」グーハイは今までにない程の優しい話し方をする。「お前と婚約できない。」

「え?」

エンの顔色が急変してその痩せた顔と黒く濁った双眸をグーハイに向ける。

「できないんだ。」

「じゃ、じゃあ……じゃあ。.....なぜ最初で断らなかったの?なんで今という時になってそんなことを言い出すのよ?」

「すまない。」グーハイは何も言わずにただ謝り続ける。

「最初は俺の心に迷いがあったんだ。でも、今は他の誰よりも大切にしたい人が出来たんだ。....もうそいつには悲しい思いをさせたくない」

エンは追い詰められる。以前までの彼女であればそう言った話を持ちかけられた瞬間に切り替えられたが、今は状況が状況だけにそういった事は出来ない。何としてでも母のためにこの話を終わらしたくはなかった。

「こ、この事は絶対口外しないし...あなたとその人の間に不都合が起こるような事は絶対しないって約束するから...!!」

 グーハイは苦笑いで答える

「もし他のやつだったらお前の頼みを聞いたさ。でも、その人にだけにはもう嘘をつきたくないんだ」

呼吸が苦しくなる。いきなりこんなことを言い出した目の前の男に文句を言ってやりたいが、そういった気力すらもうない。

「...なら。私の家族についてももう少し考えてくれても...いいじゃない....」

グーハイはしばらく黙っていたが、少しして口を開く

「本当はお前の母親もこの事は知っていると思うぞ。エン。お前と同じで自分の為に嘘をついてでも喜ばせようとしている娘に母親も嘘をついてるんだ。....最後くらい、本音で話し合ってみたらどうなんだ?」

エンは愕然とした眼つきを向ける。

 グーハイは何も言わずにエンの肩を叩くと、そのまま病院の外へと歩いて行った。

車で帰る途中、何とも言えない苦しさが心をくすぐる。

ーーバイロイン。俺はお前のためならどんな悪人にだってなってやる。それでも...お前があの女を選ぶと言った暁には、強引に飛行機に拘束して連れ去ってやるからな!!

 

実はバイロインの方が早く行動しており、霊園から帰ったその晩にディシュアンに電話をかけて別れ話を切り出していた。

『私がグーハイ社長と一緒に居たのが悪かったの?』

突然の話に困惑しながら、その原因を求める

「いや、君が悪いわけじゃないんだ」

先ほどから自分に原因があるわけではない事ばかり伝えるバイロインを理解できずにいた。

『本当に社長と私との間には何もないのよ!?あなただって見たでしょ?社長はエン副社長に指輪をプレゼントしていたじゃない!....私と彼とどっちを信じるの?!』

「君を信じるよ」

『じゃあ何で別れようなんて言うのよ!?』

 バイロインは長年軍隊で訓練を行ってきたが、こういった場合にどう言葉を掛けて良いかなどといった訓練科目は行ってこなかった。だからか、軍人として愚直に考えを伝えることしか今の彼には出来なかった。

「ディシュアン....俺が愛しているのは、君じゃなくて.....グーハイだからだよ。」

 

 

正月の初十日に、グーハイの会社も休暇が終了した。

出勤の初日にディシュアンはグーハイを見つけて退職届を提出する

「なぜだ?」

「私の彼氏を社長が奪っていくのをもう見ていられません!!」

 そう言う彼女の目元は腫れていた。

「.....退職金は給料の二倍の金額にしといてやる。出ていけ。」

 

その夜、エンから母親の訃報の電話が掛かってきた。

「....あまり悲しむなよ」

嗚咽混じりにエンは話していた

『ありがとう....。昨日、母とちゃんとと本音で話し合ったわ。そしたら、母は....私を責めることなく....むしろ、ようやく結婚に関心を持ったのねって褒めてくれたの.......。そして、今朝。静かに旅立って行ったわ....。最後に母ときちんと話せたのはあなたのおかげよ。ありがとう、グーハイ。』

電話を切って、グーハイは心の中で三分間黙祷をする。心の中にあった苦しさはもうなかった。

ーー“心のままに行動するべし、さすれば自ずと明るき方向へ歩めるでしょう” か。まさしくその言葉の通りになったな...。

 

バイロインは件の事で功績を挙げた為、もとより二十日あった休暇をさらに十日延長してもらえることになった。突然の休暇に何をしたら良いのか分からなくなる。

ーーグーハイは仕事で忙しいしな。久しぶりに街にでも行ってみるか

そう思い立って、車で出掛ける。

長年空の上だけを運転していた所為か地上の運転では東西南北が分からなくなり、同じ場所を永遠とぐるぐる回る。

「この役に立たないGPSめ!!」

そう機械のせいにしては、GPS付きカーナビをオフにする。

ーーそんなにこの街を訪れてなかったか?全く分からなくなってるぞ...?

現在位置を調べようと路駐をしていたところ、自分の車の窓ガラスをノックする音が聞こえた。音のする方を向くと、そこにはみすぼらしい格好をした老婆が立っていた。

「そこの兵隊さん、この、このロバを見てくださいな。このロバは音楽を流して首を振って踊るようになっているんです。今なら五十元で売っています。か、買って貰えないでしょうか?」

 そう売り込んできた老婆は寒さからか、唇が真紫になっていた。

「いいでしょう。一つ貰えますか?」

老婆から受け取ったロバのおもちゃに付いているスイッチを押すと、彼女が言っていたようにロバは軽快な音楽と共にその首を前後に振りだした。

その姿にどこかツボに入ったバイロインは思わず吹き出してしまう。

バイロインは気づかなかったのだが、その様子を側から見ると貧困の老婆が売り込んだしょうもない玩具を将校が買い取り、車の中でロバを遊ばせては笑っているという心温まる姿になっていた。

バイロインは笑いが止まらない。このロバ、見れば見るほどグーハイに見えてくるのだ。

ーーそうだ、これを親父にプレゼントしてやろう!

悪い考えをするバイロインであった。

 

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いや、グーハイが言う諺の部分翻訳できませんでした(泣)

中国の諺とか日本にないやつばかりですよ!あったとしても僕の力量では訳しきれなかったです(泣)

さて、今回でいい感じになった二人は次回からお互い歩み寄れればいいですね!

>コメント

アランの名前ありがとうございます!当たってて良かったです(笑)

ドラマと小説では、もちろん日本でもあることですが省略されていたり多少変更されていたりすることがあるので、第一部の翻訳を見ずに第二部から見始めていると少し困惑することもあると思いますが、そこは妄想で色々と補完して頂けると助かります!(笑)

 

:naruse