NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第25章:心の距離

エレベーターから降りてきたグーハイは、ゆらゆらと女性たちが熱い視線を向ける一人の男の元へと歩を進める。

会社の入り口で黄色い悲鳴をあげていた女たちは、後ろから静かに現れた社長の姿を見ると一瞬にして真顔になり各々オフィスの中へと散っていった。

バイロインは相変わらず車の前に立っていた。

その佇まいは誰が見てもかっこよく、欲目で言えば直視出来ないほどだとも感じる。

 

バイロインの側に歩いていき、二人の顔がくっついてしまうほど近くによっては少し低い声で目を細めて尋ねる。

「ここで何してたんだ?」

グーハイの肩を押して自分から引き離す

「別に、何もしてないさ。ただここで誰かさんを待つためにタバコを吸ってただけだ」

「ほぉ....。誰か、ね」

「ああ。ここは可愛い女性が多いからな」

可愛くない台詞を吐くその口からタバコを取り上げて、自分の口へと咥える。

バイロインと同じように車体に身体を預けて、どこか物憂いな様子で自分のビルを見上げる。

「...明日からここに来んなよ」

「...公共の場所に来ちゃいけないって言いたいのか?別にお前に会いに来ているわけでもないし、お前にそんなこと言われる筋合いもない」

きちんと説明せず、些細なことからすぐに喧嘩口調へと発展する関係は、もはや馴染みのある光景だった。

「俺だって独身だからな。ここで可愛い子でも見つけられたらラッキーだ」

吐き出す煙は、どこか冷たい。

ーー女を探しに俺の会社まで来てるってのかよ。お前には俺がいるだろ?なんで素直になれないんだ...

「この会社にはお前に似合うような女なんて誰もいないぞ。誰もがプライド高くて、傲慢だ。それに今だってお前の元に言い寄っては、困らせてるだろ?」

返事がない事を不思議がって隣を見ると、バイロインは全く話を聞かないでグーハイの社員からもらったであろう名刺をペラペラと眺めていた。

その姿はまるで、ショーパブでもらう女の子のリストを吟味するようだった。

グーハイは名刺を奪い取ってから、何も言わずに自分のポケットにしまう。

「グーハイ。ケチな事するなよ。この名刺の子はみんなお前の会社の従業員だろ?名刺だって腐る程あるじゃないか」

口ではそう言うが、その顔は口角が上がっていた。

「借りるだけだ。俺の会社にどれだけの馬鹿がいるかを確認するためにな」

自分の会社の社員だってのに、そんな事を言うのかよ。とでも言いたげな不満な顔をしながら、自分から取られていたタバコを奪い返す。

「んー。なんで今日のタバコは美味しく感じないんだろうなぁ?」

意地悪で言った事だったが、隣にいるグーハイは捨てられた子犬のような憐れな表情を浮かべていた。

「嘘だ 嘘だ」

そう言いながら肩を叩いて慰める

「な、グーハイ。早くご飯でも食べにいこうぜ」

ーークソッ。今日は俺がお前のことを家から追い出してやるからな!

しかし、バイロインは車には乗らず会社の前にある喫茶店へと向かう。

「おい、どこに行くんだ?」

「今日はここで済ませよう」

そう言うと、店の入り口で立ち止まって振り返りグーハイがついてくるのを待つ。

「この喫茶店にはお前の好きなものなんてないぞ?」

フッと小さな笑みを浮かべてはこちらに来るように手招きする

「確かにお前の家には俺の好物ばっかりあるけどな、必ずお前の家で食べる義理はないんだ。お前に会うためだけにこの会社までわざわざ来てるっていうのに、なんでお前の顔色を伺ってないといけないんだよ」

言い終わると首を捻って中に入っていき、グーハイは心の中は歯ぎしりをする。

ーーバイロイン!お前はいつでも俺のことを手玉に取る気かよ!

 

バイロインが料理を注文し終えたタイミングでグーハイも入店してきた

「あれ?料理の腕に自信があるお前でも、なんでわざわざレストランなんかに食事をしに来るんだな?」

「いいだろ、別に!」

拗ねているのか、しかめっ面をするグーハイに思わず笑ってしまう。

「店員さん!取り皿をもう一つ追加でお願いします!」

取り皿を用意させたというのにグーハイはバイロインが座っている席には座らず、その隣の席を選んだ。

ーーこ、こいつ...!!

取り皿を追加で持ってきた店員は離れて座る二人を交互に見て、バイロインに小さく尋ねる

「ど、どういたしますか?」

バイロインは冷たい顔で「隣の席のやつに渡してくれ」と言った。

並べられた食器を前にして、まるで人形のような顔で座るグーハイ。自分からは一切注文はしなかったのだが、バイロインが注文してやって運ばれてきた料理には手をつけていた。

ーーこれじゃまるで俺がお前に仕えてるみたいじゃないか!

 

「これ食べろよ。美味しいぞ?」

 

隣から突然バイロインの声が聞こえたかと思い横目で確認すると、その様子を見て持っていた箸を落としてしまう。

バイロインは一人で食事をしているにも関わらず自分の反対側に食器を並べ、まるで誰かがそこにいるかのように振舞っていたのだ。

その姿はまるで重度の精神疾患者のようだった。

 

「この魚の骨、取ってやったぞ。前まではお前が俺のために取り除いてくれていたよな。ほら、食べて。...美味しいか?本当に?ああ、もう。口が汚れてるぞ?」

 

周囲は急に静かになり、重い雰囲気が喫茶店内部に漂い始める。近くで食事をしていた二人組はそこから席を離れ、周囲の者はバイロインのことを冷たい目で見ていた。

「え?あの人なに?若いのに精神病にでも罹っているのかな?」

「きっとそうよ。何か大きな心の傷を負ったに違いないわ」

「私の予想だと、誰か最愛の人でも亡くなったんじゃないかしら?」

自分の周囲からそういった囁きが聞こえ、グーハイは食べていたものを詰まらせてむせてしまう。

 

「グーハイ。俺がよそってあげた野菜は美味しいか?」

 

 

その言葉を皮切りに、耐えられず顔を赤くしてバイロインを止めさせる

「俺はまだ死んでないぞ!!」

そのままグーハイに引っ張られながら車へと連れていかれる。

後部座席へとバイロインを押し込むと、そのまま仰向けの状態になっているところへ馬乗りになり、脇腹をくすぐる。

わあああ!と手足をバタつかせながら許しを乞う「わ!わ!悪かったって!ヒヒッ...や、やめろってばッ!」

その手を止めてあげると、バイロインはゼェゼェと息を整える。自分のことをくすぐっていた本人の顔を見ると、どうしてもまた笑いがこみ上げてきてしまう。

「ふっ...ははは!」

「うるさい」

 

グーハイの大きな手でバイロインの両頬を摑まえる。

片手で頬をムニムニと押さえては、その口をアヒルのように尖らせて遊びだす。

あまりにも愛らしいその顔にどこかムラっときたグーハイは、もう片方の手でバイロインのお腹から下半身へと沿わせてズボンの中へと移動させる。

何かを悟ったバイロインは急いでその手の侵入を阻むべく太ももをクロスさせる。

バイロインのそれを諦めたグーハイは、次にバイロインの耳元まで顔を近づけると捕食者のような顔つきで耳にかぶりつく。

甘噛みをしては、噛まれた箇所を舌で這わせる。

「んんッ...」

したくもないが体が反応してしまう。

グーハイのことを押し返そうとするが、上から四肢を押さえつけられて身動きが取れない。

耳から額、鼻筋、頰。顔を上から順に口付けされていき、最後には唇へ。

「んッ....クッ...!」

何度も何度も重ね合わせる。その度に隙間から熱い息が声が、漏れていく。

薄く開ける目はお互いを捉え、互いの感覚を深めさせる。窓の外から、すれ違った車のライトの光が流れていく。明るくなったと思えば、再度暗闇に包まれる。

 

「....ゴマの味がする」

 

グーハイはバイロインの口周りを舐めると、そう呟いた。

「何いッ....て...ん」

再び口を塞ぐ。

また口の周りを舐めると「海老の味もするな」と囁く。

二種類の味は口の中で溶け合う。

次第に激しくなってくる舌使いに、バイロインも応え始める。二人の熱で体が火照ってくる。グーハイの舌が自分を気持ちよくさせてくれる。何も考えられなくなってしまう。

自分に応え始めたバイロインが可愛すぎる。段々と自分の理性を失っていくのを感じる。そのシャツを脱がし始めて、露わになる腹部の筋を指でなぞる。そのままその手は下へと進み、バイロインのパンツの中に入った瞬間、その手を止められた。

「おい!待て!社長なんだから、自分の会社の前でこんなことしちゃダメだろ!!」

「おい。こんな雰囲気で社長なんて言葉使うなよ!それに、どこで何しても別にいいだろ!?その煩い口はどうしたら閉じてくれるんだ?」

獣のような勢いがあるグーハイに呆れてしまう。

「...どこぞの変質者の言葉だよ」

バイロインの腰を掴んで少し持ち上げる

「この悪い身体め」

二人はしばらく騒いでいたが、それをするには車の中では狭いことに気づく。

 動いたらグーハイの肩がバイロインのあごに当たってしまう。シートが体勢の邪魔になる。このままじゃダメだと感じたグーハイはバイロインの耳元で「俺の家に行こう」と呟く。

「行かない!」

いい雰囲気だったのにも関わらずそんな返事が返ってきて少し落胆する。

「どうして?前まではお前の方から誘ってきていたじゃないか。」

「ぐ、軍人は謹厳実直なんだよ!」

「自分から俺に誘惑したやつが何言ってんだよ。ほら、行かないのか?」

内心その言葉に従ってグーハイの家に行きたいのだが、ただついていくのはよろしくない。ついて行くなら、それなりの誘い方があると思う。

「....行かない!」

頑固なバイロインに内心歯ぎしりしながら、頭を搔く。

暫く黙っていたグーハイだが、何か覚悟が決まった双眸でバイロインの顔を捉える。

 

「....お前が好きなんだよ」

 

グーハイの口から聞きたかったその言葉がようやく放たれた。

バイロインは抑えきれない笑みを零しながら、じゃあと紡ぐ

「それなら....お前の家に..行く...わ。」

バイロインの口から了承のサインをもらい、グーハイは興奮が抑えきれなくなる。

ーー今日の夜は長くなりそうだな!

 

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遅くなってすみません!

3月中に30章まで翻訳すると決めたはずなのに遅くなりました!

ですが、予定通り今月中に30章まで投稿いたしますのでお待ちください。

 

そしてそして!シーンは次第に二人の愛へと進んでいきます。

表現が拙いとは思いますが、皆様の素晴らしい(笑)妄想で補って楽しんでいただけたらと思います!

 

:naruse