第118章:敵の襲来
期末試験に備え、度重なる模擬試験や非常に多くの宿題に、生徒たちは頭を抱えていた。
教師たちはというと、裏で互いのクラスを競い合わせ、嬉々として授業時間を延ばしていたりしている。
授業が一コマ増えて夜は家に帰ったあとも自習をし、早朝から深夜まで勉強している。
こういった厳しい勉強のせいでバイロインはまた授業で寝るようになった。
この間まではグーハイが見守っていたおかげでバイロインは授業中に寝ることがなかったのが、今の彼はどうしようもないほどの疲労感で深い眠りについてしまっていた。
家に帰り自習していると、バイロインは宿題をしながら寝てしまった。
グーハイは顔を上げ、バイロインを見る。
グーハイは自分を律するかのように心の中で拳を握りしめる。
ーー今夜は我慢…我慢するんだ…
引き出しから毛布を引っ張り出してバイロインに羽織らせた。
静かな教室が急に騒がしくなり、たくさんの生徒が首を伸ばして後ろを見ていた。
単調な自習授業に飽きていた生徒たちはほんのちょっとの“刺激”で心を湧き立たせられる。そしてこの“刺激”は小さいものではない。
教室の入り口にモデルだと誰もが思うほどの美貌を持った女性が立っているのだ。
グーハイは席からその美しい女性の姿を眺めていた。
グーハイのような気の強い女性が好きな人でさえ、この女性は本当に綺麗で、この教室にはしっくりとこないと認めざるを得ないほどだ。肌が白く透き通っていて、目は外国人のような曲線で大きく、くぼみは少し深い。瞳の中にオーラがあり、まるで目で会話ができるかのようだ。
身体はスラリとして、細い腰に大きい胸、足は細く全身ブランド物を身に着け、とても美しい女性だ。
今で言うところの「高富美(背が高く裕福で美しい女性)」だ。
教室で飢えたオスたちはじっと座っていられなかった。彼らの目線はすでにこの美人に釘付けになっている。綺麗に着飾ったその姿はとても刺激的で、彼らの忍耐力は試されていた。
この女性も普通じゃない。クラスの中でこんなにも注目されているというのに、ずっと落ち着いて立っている。
授業が終わってもクラスの生徒全員が動かず、彼女が先に教室へと入ってきた。
グーハイは彼女を見ていた。
バイロインの机の前に歩いてきて、身をかがめ、顎をついてバイロインを見ながら笑っている。
ーーおい、なんでこいつは俺の嫁を誘惑しているんだ?
「何か用か?」
グーハイは冷たく尋ねた。
女性は目線をグーハイに向けて、「大丈夫、気にしないで」と言い、また目の前で寝ているバイロインのほうをじっと見つめ続ける。
グーハイはカチンときて眉を寄せる。
教室がさらに騒がしくなる。無数のオスの嫉妬の目線がバイロインのほうへと向けられる。
バイロインは依然として眠っており、女性は適当に空いている席に腰をかけた。
顎に手を当てて、静かにバイロインを見ている。話しかけもせず、彼が起きるのを我慢して待っているようだ。
もしこの授業の間にバイロインが起きなければ、この女性はきっと授業が終わるのを待ってまたここにきて待つだろうとグーハイには確信があった。
最終的にヨーチーが彼女のきつい香水の匂いで鼻炎を起こしてしまった。
耐え切れずバイロインの席のほうへ振り向き「インズ、起きろ、お前に用があるらしいぞ」と声をかけた。
バイロインはしびれを切らして真っ直ぐ起き上がり、まだ目が明かない状態で回りが騒がしくなっていることに気づく。
「起きた?」
彼女を見たバイロインはまだ自分が夢を見ていると思っていたが、すぐに表情は凍りつき、目の前の状況にあっけに取られてしまい、しばらく声を発することができなかった。
その美女はバイロインの目の前に手を振る。
「どうしてすぐ気づかないのよ?」
バイロインはやっとのことで意識を取り戻し、驚きを隠せないまま声を発した。
「お前なんで帰国したの!?」
グーハイは「帰国」という言葉を聞き、全身の血が固まり、心臓をはじめとするすべての内臓が止まるかと思った。
ーーシーフイ…
バイロインが酔っ払ったときに彼女の名前を呼び、緊張した面持ちで携帯を取って彼女の電話に出ていた。
グーハイは”シーフイ”がどんな女性なのか興味があった。
彼はその女性はあくまで心の中の仮想の敵にすぎないと思っていたが、意外にも彼女は生き生きとした状態で自分の目の前に現れた。
しかもこのような堂々とした姿で。
見た目の綺麗さ、そして色気…それはバイロインの好みにすべて当てはまっていた。
グーハイには二人がベッドにいるときの、バイロインの欲望に満ちた顔を想像できた。
そんなことを想像し、自らダメージを受けていた。
授業のチャイムが鳴る。
シーフイはバイロインに小声で「待ってるね」と囁いた。そして、教室を出て、入り口に立った。
グーハイは授業中何もせず、頭の中で“軍事演習”をしていた。彼は図面を持ち、大杖を振るい、戦略配置を描いている。隣には彼の部下が立っている。そして、何千万という軍隊の将兵がいる。彼らは皆、城を志し、闘争心を同じくして、足下の土地を守るために命を投げ出し熱血を注ぎ、自分の貴重な命を捧げたいと願っている……………
バイロインは先ほどの出来事で、ひどく混乱していた。
教室の外には災いの元が待っている。しかし、それよりも恐ろしい視線を後ろから感じ、思わず振り返る。
片方の目は笑っているが、もう片方の目は心からは笑っていなかった。バイロインは急いで顔を正面に戻す。
授業が終わり、バイロインは荷物を片付け、グーハイからの強い視線をよそに教室を出た。
シーフイはまだ教室の外に立っている。廊下には暖房がついていたが窓が開いていたため、とても冷たい風が通っていた。
バイロインが出てくると、シーフイは手に向かって息を吐く。頬は寒さで少し赤らんでいる。依然として笑顔のままである。
「お前…」
バイロインはなにを言ったらいいのか分からず、固まる。
先にシーフイが口を開き「一緒に夕食に行きましょ」と言った。
バイロインは相変わらず黙っていたが、口を開き「また今度にしよう。長い飛行機で疲れただろ?早く帰って休め」と返した。
「いいえ、疲れてないわ。1日すでに家で休んでるの」
シーフイは柔らかい声で返した。
グーハイは教室の入り口にもたれかかりながら、パッと一言放った。
「なぁ、行けよ。わざわざ遠くから会いに来た人の誘いを断るのかよ」
バイロインはグーハイをチラッと睨み、意図したのか、もともと行くつもりがあったのか、本当に頷いた。
グーハイの目の色は急に暗くなる。
ーーお前が行けって言ったのに怒るのかよ?!
シーフイは嬉しそうに笑い、バイロインの腕を掴んで歩いて行く。グーハイは彼らの行く手を遮る。
「こいつも誘っていいか?」とバイロインが言うと、シーフイの笑顔は少しこわばり、バイロインを見てから、グーハイを見た。
グーハイは微笑みながら「なぁ、俺も連れて行ってくれよ。俺も美人が好きなんだ」とおどけた。
シーフイはあっけにとられて、大笑いした。
「えぇ、いいわ。一緒にいきましょ」
三人は車に乗る。シーフイは助手席に座り、グーハイとバイロインは後部座席に座った。三人とも黙り込んでいる。シーフイは窓から外を見ている。グーハイとバイロインはお互いをにらみ合っている。
走行中、突然、シーフイが外を指さしながらバイロインに話しかける。
「ねえ、バイロイン、見て!あの場所、覚えてる?あのブドウ園。あの時あなたは私をおんぶして端からあそこまで歩いて、大きいカゴいっぱいにブドウを取ったよね」
バイロイン自身覚えていたどうか定かではないが、グーハイの記憶にはしっかりと刻まれた。
三人は異様な雰囲気の中でレストランのロマンティックなボックス席に座っていた。
シーフイはカバンの中から綺麗に包装された箱を取り出し、バイロインに渡す。
「これ、あなたにプレゼントよ」
「あ、あぁ…ありがとう」
バイロインは受け取った瞬間、本来は感じないはずの”重み”を腕に感じた。
シーフイはまたカバンから箱を取り出し、今度はグーハイに渡そうとする。
「これ、あなたにあげる」
「いや、いらない」とグーハイは冷たく言い放つ。
「どうして?遠慮しないでよ」そう言い終えると箱をグーハイの手の中に押し込み、ほほ笑んだ。
グーハイが彼女に対する敵意を必死に隠していたところ、シーフイのほうから話しかけてきた。
「あなた、グーハイよね?」
グーハイは目を細めた。シーフイは続けて笑った。
「やっぱり!当たりでしょ?少将の息子でバイロインの弟。あなたたちがこんなに仲良くできるなんて思ってもみなかったわ。バイロインに受け入れられるなんて、グーハイ、あなたすごいわね」
それを聞いたグーハイとバイロインは顔を合わせる。グーハイは聞きたいことがたくさんあるという顔をしながら目で訴えかける。
ーーお前ら電話してないんだよな?なんで全部知ってるんだよ!
ーーなんで俺がわかるんだよ、彼女には何も話していないぞ!
二人はそれぞれ目をそらした。
バイロインはひそかに眉をひそめた。
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ドラマの続編部にあたる第1部の118章です。
ドラマでは最後のほうでシーフイが登場し、修羅場入りまーす!っていう非常に気になるところで終わっていて、モヤモヤしてしまいますよね。
その続きをこれから解き明かしていきたいと思いますので、良かったら見ていってください。
※初めてグーハイがシーフイの名前を聞いた瞬間について
ドラマ5話、15分あたりのところでグーハイがそれについて触れていることを確認できます。
:hikaru