NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第35章:身体的限界

見たところ、今日はそのままここで野営する様子だった。

リョウウンは自分達が必ず失敗して、不時着する確信を持っていたと疑うバイロイン。

ーー設備が整っている駐屯地に辿り着く前に妨害されたんだ。絶対そうに違いない。

まさにその読みの通りで、リョウウンはこの部隊に最大限の実力を見せてもらった後に敗れてもらう手筈を整えていた。

自分の命令を聞かざるを得ない状況に追いやる為だ。

 

バイロインは先ほどの妨害で負傷していた。

小さな怪我だが、機内では出血が止まらず着陸後に応急処置をして止血していた。

バイロインは他に負傷兵がいないか確認していたが、見たところ気にかける様子が必要な兵はいないみたいだった。

しかし、機体の損傷は激しく 修理をするには少々時間をかける必要があるようだ。

そのまま見廻りを続けていると、一人の人物に視線が止まる。

ーーどういう事だ?...なぜ、リュウチョウがここにいる?

今回の訓練からは外しておいたはずの部下、リュウチョウの姿がそこにはあった。

バイロインは急いで彼の元まで駆けつける。

リュウチョウ!」

バイロインの声を聞いてリュウチョウも振り返る。その瞳には心配の色があった。

「隊長!丁度 俺も探していたところだったんです!...その、隊長の機体が攻撃を受けていたのを見たもので...心配しました...」

ーー心配するべきは俺のことか?

バイロインは怒るべきなのか、お礼を言うべきなのか分からなくなる。

「何でお前がここにいるんだ?誰の命令で参加した?」

「シュウ師団長です」誇らしげな表情で答える「彼が自分の回復を認めてくれて参加させてくれたんです!」

「あいつはお前の昇進の早さが鼻につくから、ワザとこんな危険な任務に参加させたんだよ!」....なんて事は言えず、ただリュウチョウの頭を撫でてやる。

「そうか。....くれぐれも自分の体調には気を付けろよ。ここは寒い。テントの中にでも入っておけ」

丁度その時、各指揮官会議の時間を知らせるホイッスルが鳴り響く。

会議の内容はもちろん、今回の作戦失敗についてだ。

リョウウンは鋭い目つきで、各部隊長たちに何か意見を出すように強要する。

「...その。我が部隊の戦闘機は性能が旧式である為、ジャミングに対処出来なかったのではないでしょうか?」

大隊長が打診的に意見を挙げる。

「機体の性能のせいにするのか?...違うだろ。お前たちが無能だからだろう?」

リョウウンは厳しく意見する。

そう言われてしまうと、もう誰も発言できない。

リョウウンはバイロインに視線を移すと「お前はどう考える?」と挑発的な瞳で聞く。

ーー俺に逆らうのが好きなんだろう?今回は何を言ってくれるんだ?

しかし。リョウウンの考えとは裏腹に、バイロインはただ静かに同調するだけだった。

「いえ。何も意見はありません。確かに、私たちパイロットの技術不足が原因だと思います」

そうは言うが、リョウウンはバイロインの瞳の奥で揺れる炎を見過ごさなかった。

彼のような才能の持ち主で、優れた判断力を持つ人材は久しぶりに見つけたのだ。リョウウンは、自分の中にある闘争心がバイロインを打ち砕けと掻き立てる。

「お前らに再度伝えるが、過去の栄光は今すぐ捨てるように。....お前たちは未熟だ。100%を求めているのに、まだ10%しか実力がないことを忘れるなよ」

その一言で会議は終了する。

バイロインを残して、他の部隊長たちはテントへと戻っていく。

 

「なぜリュウチョウを参加させたのですか?」

バイロインは尋ねる。

「俺が参加させたわけじゃない。...ただ、参加する機会を与えただけだよ。最終的に判断したのは彼自身だ」

「あなたがそう扇動したのなら、今のあいつは参加するに決まっていますよね?!」

「うるさいぞ!」

怒声が響き渡る。

「たった一人をわざわざ扇動するほど、暇じゃない!...それに、ここは組織だ。私情ではなく命令が優先される。お前も、一々楯突くんじゃない!」

外まで怒鳴り声が響いてきたので、将校たちはバイロインを心配して会議用テントの近くに寄って待機する。

「...私情で先ほどの話をしたのではなく、部隊の利益のためにお話ししたのです。リュウチョウは得難い人材です。しかも、彼は怪我をしています。このような寒い場所に連れてきては、後遺症が遺ってしまうかも知れません。....これがあなたの言う訓練ですか?教育ですか?...私たちを育てる為ではなく、手駒のように調教するための教育をされるのですか?」

リョウウンはバイロインの頭に手を置くと、ゆっくりと吐き捨てる

「俺の部隊に、廃人はいらない。」

そして、そのまま頭上から顔に沿いながら手を下ろしていき唇を強く抓る。

「その五月蝿い口も...な!」

バイロインは一日中、水分補給をしていなかった。それに加えてこの寒さである。

唇は乾燥しきっており、リョウウンの爪が食い込んでプツリと血が滴れていく。

リョウウンは外で盗み聞きしている兵に向かって聞こえるように声を張る。

「第一大隊の副営長、バイロイン少佐は上官の命令に反抗的な態度をとったため、“一日中食事を抜き、木を百本登る”と言う罰を与える!...頭のいい諸君たちがこれを戒めにすることを期待するよ」

声が聞こえた他の将校、指揮官たちは驚きの表情を浮かべる。

なぜなら、バイロインと言う人物はこの部隊に来てから一度も罰を受けていなかったからである。

それは単に彼が優れた人物だからとうわけではなく、父親のグー・ウェイティンと言うバックがついていたことも関係していた。

「覚えておけ!お前のバックに軍部主席の父親が居ようと、他のやつと同様の罰を俺は与えられるということをな!」

バイロインはテントを出ると遠くないポプラの森に向かって、顔を変えずに歩いて行く。

そこに生えてる百本の木を、一つ。また一つと登っては降りるを繰り返す。

 

冷たい風が吹き荒れ、乾燥しきった手のひらはトゲのある樹皮に引っ掛かり、登るたびに出血を余儀無くさせ血痕が樹皮にべたりと残る。

三十本を過ぎた頃から段々と体力に疲れを感じ始めたが、バイロインはスピードを緩めることなく、最速で罰を終える。

バイロインはこれで終わりではない。

この後は、リュウチョウの所へと行き寒さで後遺症が遺らないように暖めてあげなければならなかった。

 

リョウウンはと言うと、のんびりとテントの中でタバコを吸っていた。

しかし、彼は頭の中でバイロインが罰を終えるであろう時間を正確に計算する。

百本の木を登ったバイロインは全身から湯気を発し、その汗は滝のように溢れ、フラつきながらもリョウウンの居るテントへと向かう。

リョウウンは、そろそろバイロインが戻ってくる頃だろうと計算し終えるとわざと寝たふりをする。

丁度いいタイミングでテントの幕を開け、大声で自分に報告してきた。

「師団長!...百本。登ってきました.....!」

リョウウンからは何の返事もない。

ーー寝たふりか...

リョウウンが寝たフリをしている事くらい分かっていたので、なんども大声で報告する。

しばらくすると、リョウウンの口が開く。

「寝ていて俺は見ていなかった。...もう百本登ってこい」

怒りのあまり、バイロインの歯がぶつかり合いカチカチと音を立てる。

欠伸をしながら起き上がったリョウウンはバイロインに向かって呑気に尋ねる

「何か問題でも?」

バイロインは何かを言いたそうにしたが、ただ機械的に首を横に振るだけだった。

リョウウンはバイロインの潜在的能力を把握していた。

例え、もう百本登らせたところで最初と同じような速度を保ったまま達成してしまうだろう。

再び木を登り始めて九十本以上。そこ辺りから、バイロインは木の幹を抱く事さえ難しくなってきた。

気合いで何とか上まで登るが、力が抜けてそのまま落下してしまう。

全身を使ってよじ登るため、顎は擦り切れて大量の血を流し腕も掌もボロボロだった。

二回目の罰を終え、テントへ報告する時には全身に力が入らなくなっていた。

しかし、バイロインが戻ってくるとリョウウンは太いポプラの木を指して言い放つ。

「十秒で一往復しろ。そしたら、お前を解放してやる。...もしできなかったら、再度百回だ。」

「そんな...!」

反抗しようにも、喉に血が絡まり上手く声が出ない。

リョウウンは相変わらずのんびりとした声で指を降り始める

「一、二、三…」

バイロインは気が狂ったように木に駆けて行き、必死に登り始める。

彼の耳には、もうリョウウンの声も聞こえていなかった。

「五、六…七…八……九…」

木の頂上まで着いた時、突風が吹いてバイロインは高所から吹き飛ぶ。

木の根元に落ちたバイロインを見ながら、リョウウンは口元をにやつかせ「十…」と呟くのだった。

 

 

野営を初めて三日間が過ぎたが、誰も安心して眠れる夜を過ごしていなかった。

ここは施設が整っていない砂漠。いつ警報が鳴るか分からない状態で、もしそれが鳴るのならば彼らは本物の“戦場”へと向かわなければならなかった。

多くの兵士が感情を失っていく日々だが、ひとたび戦闘訓練になれば彼らは気持ちを切り替えて死に物狂いで飛び回る。

高原のゴビの環境の劣悪さは、兵たちの想像を遥かに超えていた。

たった三日で、皆の体は垢だらけになり手足は凍傷し、不衛生な体になっていた。

訓練の間を除いて、バイロインはリュウチョウのそばに付きっきりだった。

リョウウンがリュウチョウに望むことは他の軍人と変わらないものばかりで、彼は片足だろうが必死に食らいついていかなければならなかった。

バイロインが世話をしてやらなければ、リュウチョウはとっくにここで命を落としていただろう。

 

毎晩、バイロインはリュウチョウと同じテントの中で寝ていた。

しっかりと彼を抱いて寝て、できるだけ彼の体温を維持して、後遺症を落とさないように勤めていた。

木登りの罰から帰ってきた後もリュウチョウの元へと行き、隣に寝る。

まるでストーブのように熱いバイロインが側にいることで、リュウチョウは寒さに困らなかった。

バイロインは自分の熱で目を覚ますほど、異常な熱を発していた。

いつもグーハイに抱きつかれて寝ているバイロインは、寝言で「そんなに抱きつくなって...」と言いながらリュウチョウを抱きしめる。

次第に暑くなってきたリュウチョウは、汗をかいては目を覚まし、バイロインをどけようとするが強い力で抱きしめられているのでなかなか思うように抜け出せない。

「ありがたいんだけどなぁ....」

自分のことを思ってくれているのは分かっていたが、この時ばかりは邪魔だと思ってしまうリュウチョウだった。

 

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ああ。正直もう翻訳したくないです。

まぁリョウウンの所為なんですけど...僕も翻訳してて辛くなってしまうんです。

罰が与えられてるシーンなんて、もう少し酷い描写されていましたが言葉にするのが辛かったので、多少緩和させて翻訳しています(それでも酷いですけど)

今回は休み休みやってたので、いつもの倍時間をかけてしまいました(汗)

あーあ。グーハイが来てリョウウンをボコボコにしてくれないかなぁ...

 

:naruse