第122章:「お前、一体どうやってここを見つけたんだ?」
シーフイに会った後、グーハイはバイロインに何度も電話をかけたが繋がらなかった。あんなことを聞いた後で居ても立っても居られず、すぐさまバイロインの実家に向かった。
バイハンチーは丁度仕事から帰ってきたばかりで、椅子に腰をかけようとしていた。グーハイが来たことに気づくと急いで立ち上がり、息子たちの帰りを嬉しく思い、笑顔でグーハイに近寄ってきた。しかし、グーハイの周りを見てもバイロインの姿がない。
「おや、インズは一緒じゃないのかい?」
グーハイはバイロインが父親にずっと本当のことを隠していることに気づいた。バイハンチーを心配させないためにもグーハイは本当のことは言うべきではないと思い、
「あいつに部屋から荷物を取ってくるように頼まれたんです」
と答えた。
バイハンチーのガッカリしていた顔はすぐに笑顔に変わり、頷く。
「そうかいそうかい。ダーハイ、ほら中に入りなさい」
グーハイはバイロインのベッドに寝転がった。しかし、すぐに立ち上がり、部屋から出てバイハンチーに言う。
「おじさん、携帯貸りてもいいですか?あいつに頼まれていた物が見つからなくて…」
「やだなぁ、この子はまたそんな頼むような言い方をして…わざわざ貸してくれなんて言わなくていいんだよ。勝手に使って構わないよ。私のベッドの上にあるから」
グーハイはお礼を言い、バイハンチーの携帯を取りにいく。そしてバイロインに電話をかけた。
案の定、電話の呼び出し音が鳴る。
ーーあいつ、俺のこと着信拒否しやがったな…
『親父、どうしたの?』
しばらく聞くことができなかったバイロインの声が突然聞こえ、グーハイは心が苦しくなり、しばらく無言のままでいた。
そして、バイロインがまた一言発する。
『親父、どうした?なんで電話してきたの?』
「インズ…」
それから長い間沈黙が続き、電話からプー、プー、プー、と電子音が響く。
グーハイ自身もこうなることは予想はしていた。自分の犯してしまった罪はとても深く、バイロインがそんな態度を取るのも納得ができる。
その後、何度か電話をかけるが繋がらず、最終的には携帯の電源を切られ電話をかけることができなくなってしまった。
外はもうすでに暗くなっていた。グーハイは車でチョウ(犬のアランをくれた人)のもとへ向かった。
「おやおや、グー坊ちゃん、今日はどうされましたか?」
グーハイは急いだ様子で「助けてほしいんだ」と言った。
「話してみてください」
「人を探してほしいんだ。この携帯に通話履歴がある。その電話の相手の具体的な場所を調べてほしい」
「うーん…これはちょっと難しそうですね…これを調べるには専門の担当者が必要なんですけど、今日いる者はだれもその担当ではありません」
グーハイは暗い顔をする。
「なんとかやってみましょうか?どうぞゆっくりしてください。もしどうしても調べられない場合は、担当者に来てもらいます。とにかく今夜はこの人物を探すお手伝いをしますよ」
グーハイは頷く。
「あぁ頼むよ。他に方法はないしな」
バイロインは電話に出てからずっと落ち着くことができず、グーハイが父に本当のことを話したのではないかと心配していた。父のことが心配で電話をかけたいが、またグーハイから電話がかかってくることを考えると携帯の電源をいれたくなかった。そして明日、家に帰ろうと決断する。さすがにホテルに長い間、泊まりすぎている。もし家に帰ってグーハイがいたとしても無視すればいい。
こういったことを考えながらバイロインは荷造りをしていた。
荷造りを終えると、時間はすでに夜の十時半を過ぎていた。バイロインは今からシャワーを浴びて、すぐ寝た後、明日の朝、家に帰ろうと考えていた。
そしてシャワーを浴ようと上着を脱ぐと、玄関のチャイムが鳴った。バイロインは思わず固まった。
ーーまさかグーハイ…!?なんでここが?嘘だろ?
緊張しながら玄関のドアの前に立ち、のぞき穴から外を見る。
そこにはシーフイが立っている。
ドアを開けた瞬間、緊張はどこかへ行っていた。
シーフイは体を震わせ、綺麗な顔が青白くなっている。手は冷えて赤くなり、強く震えている。そして、綺麗な髪飾りは歪み、髪は乱れている。
「お前…」
バイロインは言葉を失う。
「とにかく早く中に入れ」
シーフイは中に入るとすぐさま暖房のそばに走っていく。バイロインは急いでエアコンをつけて、お湯を一杯入れ、「これ飲んで暖まれ」と言い、渡した。
シーフイはお湯を何回か口に含み、やっと体の震えが収まった。
「お前、一体どうやってここを見つけたんだ?」
「私、あなたをここ数日間ずっと探してたの。いろんなところに行った。近くのネットカフェ、ホテル、クラブ、全部探した。そしてやっとここにたどり着いた。あなた、また私を避けているんじゃないかって思って、やっと…」
そういってシーフイは泣き出した。
バイロインはシーフイが冷えて真っ赤になっている手で悔しそうに涙を拭いている姿を見ていられず、ティッシュを渡した。そして優しく言う。
「馬鹿だな。泣くな、お前のせいじゃないよ。」
シーフイは両手でバイロインに抱きつき、バイロインの肩に顔を埋め大きな声をあげて泣きながら言う。
「もし、私のことが本当に嫌いなら直接言ってよ!すぐ帰るから。どうして私を避けるのよ…私があなたのこと、どんなに心配してたかわかる?」
嬉しさと後ろめたさでバイロインの心は複雑な気持ちになっていた。シーフイの背中を手で軽く叩いてなだめる。
「だから泣くなって。お前は悪くないよ。このままずっと泣いていてほしくないんだ」
シーフイはしばらくしてやっと泣き止み、バツの悪い顔をして答える。
「ねぇ…目を拭いてもらってもいい?」
バイロインは頷いて、濡れたタオルを取り出す。
シーフイはおとなしくその場で目を閉じる。冷たいタオルが彼女の目に触れると、濃くて深いまつげが震えてる。
「前にもこういうことあったよね。私が怒って泣き出すとあなたは私が泣き止むのを待ってた。そしてその後、涙を拭いてくれたの」
バイロインは当時のことを思い出す。とても素晴らしい思い出で、それはまるで昨日の出来事かのように感じた。しかし、再び目の前にいる彼女を見ると、それはとても遠くの日の出来事に感じる。
ーー 一体何が変わったんだ?
拭き終わり「よし」そう言ってバイロインはタオルを置き「体が暖まったら家まで送るよ」と言った。
それを聞いたシーフイの表情は固まり、悲しそうな声で言う。
「もうこんな時間よ。泊めてくれる従兄弟たちはとっくに寝てる。鍵も持っていないし、家には入れないの」続けて言う。
「毎日こんな遅い時間まで探し続けてたと思った?そうじゃないのよ」
シーフイは微笑む。
「いつもは八時か九時には帰るんだけど、今日はちょっと遅くなっちゃったの」
そう言い終わったところでシーフイはくしゃみをした。
バイロインはシーフイのおでこに手を当て、顔をしかめる。
「おい、こんなに熱があるじゃないか。病院に行くぞ」
「嫌よ、私が病院を嫌いだって知っているでしょ?大丈夫。毛布をかけて寝たら良くなるわ」
バイロインはこれ以上彼女を追い払おうとすることはさすがに酷だと思い、ため息をついて立ち上がりながら言う。
「じゃあ、このホテルに泊まれ。部屋を予約してくる」
シーフイはバイロインの手を掴む。その力はとても強く、爪がバイロインの手に食い込んだ。
「私、一人で寝るのは怖い…まだ熱もあるし」
結局シーフイはバイロインが宿泊している部屋に泊まることになった。バイロインはシャワーを浴びることができなくなり、用意していた着替えをカバン戻した。
「私、いつも裸で寝てるから…大丈夫?」
シーフイは恥ずかしそうに尋ねた。
バイロインは顔を下に向けたまま答える。
「気にするな。好きなようにしろ」
ダブルベッドの上でシーフイは半分のスペースに収まっている。彼女は睡魔に勝てず、すぐ寝てしまった。
夜もすでに深くなっている。バイロインはタバコを吸うためにベランダに出ていた。
「ふぅ、疲れました。慣れない仕事はキツイですよ」
チョウがそう言っている間にグーハイはモニターに表示された住所をメモして笑顔で、
「チョウおじさん、ありがとうな」
と言い、チョウの返事を待たないうちにグーハイは外に飛び出し、ホテルに直行した。
グーハイがホテルに駆け付けたときにはすでに十二時を過ぎていた。ホテルのフロントでバイロインの部屋番号を確認する。チョウが調べた番号としっかり一致してた。グーハイは安堵し、その部屋に急いで向かう。
部屋の前に着き、チャイムを鳴らすがまったく応答がない。
その時、シーフイは寝ており、バイロインはベランダに出ていて聞こえなかった。
グーハイはホテルの外に行き、バイロインの泊まっている部屋を見上げると、部屋の照明はすでに消えていた。
ーーインズ、もう寝たのか?また明日出直したほうがいいのか?
グーハイは少し悩んだが、もし明日バイロインがホテルを出てしまったら探し出すことができないため、再びホテルの中に入った。
バイロインの部屋の前に着くと、しゃがみこんでタバコに火をつけた。夜が明けるまでここで待つつもりだ。
バイロインがタバコを吸い終えて部屋に戻るとシーフイが寒さでうなされていた。
スタンドの明かりを点けると、シーフイの腕が毛布の外に出ているのが見えた。綺麗な肌がスタンドに照らされて、さらに白くすべすべしているように見える。胸の谷間が見え隠れしている。もし毛布をもう少しさがっていたら男には堪らない部位が見えていただろう。
バイロインは目をそらし、シーフイにかかっている毛布をかけ直す。
電気を消すと、シーフイが無意識のなかで「寒い」と言い、震えだした。
バイロインはシーフイのおでこに触り、彼女がとても汗をかいていることに気が付く。
何かないかと周りを見回すが、シーフイにかけてあるもの以外、見つからない。心の中であがくが、他に温める方法はない。バイロインは仕方なくベッドに横になり布団越しにシーフイのことを抱き温める。
深夜、シーフイがふと目を覚ますと、バイロインが布団をかけずに寝ていることに気がつく。布団をバイロインにかけようとしたが、バイロインが強く抱きしめているため、身動きが取れない。幸せな気持ちで胸がいっぱいになる。目と鼻の先にある彼の整った顔立ちを見て、つい我慢ができずバイロインの唇にキスをする。そして満足げに目を閉じた。
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グーハイとバイロインは高校生の時から喫煙者だったんですね。ドラマだとさすがに描写できなかったんでしょうね。
しかし、この章は翻訳していてキツかったです…
シーフイのことが嫌いすぎて、
突然、シーフイの頭上に光る点が現れた。その点は瞬く間に大きくなり、その刹那大きな衝撃音とともにシーフイは跡形もなく吹き飛ばされた。なんと巨大な隕石が降ってきたのだ。
と訳そうかと思ったんですけど、さすがに誤訳なのでやめておきました。
※人物の呼称について
中国には敬称・愛称の種類がかなり多く存在します。このハイロインという作品でも「顧海グーハイ」は「大海ダーハイ」「小海シャオハイ」、「白洛因バイロイン」は「因子インズ」「小因子シャオインズ」など一人の人物に複数の呼び名があります。
この「大ダー」はタイでいうところのP'に近く、年上や兄貴肌の人に親しみを込めて呼ぶものです。
「小シャオ」はタイのNon'に近く、年下や弟分の相手などに対して親しみを込めて呼ぶものです。
グーハイは顧グーが苗字で、海ハイが名前です。雰囲気としては「ハイ兄貴」と呼んでいるようなものです。
バイハンチーがなぜグーハイをダーハイと呼ぶのか。これはグーハイがバイロインにとってお兄ちゃんのような存在だからだと思います。(違っていたらすみません)
バイロインについて、インズはニックネームですね。拉致ったときの「我的小因子 俺のかわいいインズちゃん」みたいなニュアンスで、年下や恋人に使う感じです。
(張チョウおじさんについて、「叔叔おじさん」は親くらいの年齢の男性に対しての敬称であり、日本でいう親戚の叔父さんではなく他人です。「阿姨おばさん」も同様条件で女性に使います。また、言葉の響きとして年齢をバカにするようなニュアンスが日本では一部ありますが、それとは違い、ちゃんとした敬称です)
この辺を頭に入れておくとよりハイロインをより楽しめるかと思います。
:hikaru