NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第38章:二人の時間

グーハイが病室に戻った時には、バイロインは本当に眠っていたので言いたい事も言えずにいた。

ーーたとえ大怪我が嘘でも...この姿は本当なんだよな

グーハイは眠るバイロインの隣へ横になり、寝返りを打とうとする恋人が傷に触れないように何度も姿勢を正してやる。一晩中、こうやって介抱をしてくれていたという事を寝ているバイロインが知ることはなかった。

何重にも巻かれた胸元の包帯に触れる。本当に傷がないのか確認する為に解こうとした時、突然 抱きついてきた。

無防備な顔を見て、グーハイはつい微笑む。

ーーこんな事しやがって...

グーハイは今の状況について矛盾する気持ちを抱いていた。

バイロインから死んでしまうかも知れないと電話が来た時は、心臓が止まるのではないかと思うくらい焦っていた。しかし、急いで駆けつけてみるとそれは嘘だったのだ。

冗談にならない嘘をついたバイロインに、今すぐぶん殴ってやりたいほどの怒りを覚える。

しかし、冷静になって何故このような事をしてきたのかを考えてみると、バイロインが純粋にグーハイに会いたかった。と考えるのは容易だ。

以前のバイロインなら、何か辛い事があっても心の奥底に押し込んでいただろう。

普段のバイロインにグーハイは不満を覚えていたが、そうしなかった今回はポジティブに捉えても良いのではないだろうか?

そう考えると、甘えてくれたバイロインに愛しさを感じるのだ。

そうした相反する愛と恨みの感情を抱いて隣に眠る男の顔を見つめる。

バイロインが悪くなればなるほど、グーハイは彼という麻薬に毒され堕ちていく。最早、バイロインの手によってこの身を壊してくれと切望すらしてしまう。

ーー俺をこんな男にしたのは...お前なんだぜ? 分かってるのかよ...

 

 

早朝。看護師が薬を運んで来たが、バイロインはまだ眠っていた。グーハイは看護師に机の上にそれを置いておくように頼み、病室から追い出す。

午前九時。目が覚めると、グーハイが優しい目でこちらを見つめていた。

ーーあ...。朝からグーハイの顔を拝めるなんて...

バイロインは心のカメラで、目の前の顔を何度も撮る。

寝返りを打とうとして、ハッとする。

ーーやばい。こいつがいるんだった...

全身が痛むと口にしながら、きつそうな演技でゆっくりと体勢を変える。

グーハイもその演技にのってやる事にした。

「傷口が痛むのか?」

「いや、大丈夫だ」

「心配だな...傷の具合を見せてくれ」

わざとそう尋ねるグーハイに、警戒心を露わにしたバイロインは感情に訴えかけることにする。

「見ないでくれ...見たら、きっと辛い思いをする...」

「いいや、見せてくれ。見ないと気が済まないんだ」

そう言ってバイロインに触れた瞬間、本人は苦痛の表情を浮かべて短い呻き声をあげた。

「痛かったか!?」

「いや、平気だ」

心配そうに尋ねるグーハイに、強がる...演技をする。

ーーこいつ...こんなに演技が上手かったか? 

「どこが痛むんだ?」

「どこがって......いや、痛みより気分が悪い」

「ケツが痛いんじゃないのか?」

「は?ケツ?...いや、別に?」

 不思議な事を聞いてくるグーハイに、バイロインは眉を顰める。

「そうかそうか...」そう呟いて顔を下に向ける「なら...」顔を上げた時には、いつもの悪い顔をしたグーハイになっていた「本当に痛がってもらうように手を加えないとな!」

ーーバレてたか!

バイロインは急いで病室から逃げようとしたが、足を怪我している状態でグーハイから逃れられるわけがなく、そのまま抱きつかれ抑えられる。

うつ伏せに拘束されたバイロインは悲痛の声を上げる。

「本当はそんなに騙すつもりなかったんだ!」

 グーハイは頬が攣るくらい深い笑みを絶やさなかった。

「その足の怪我も嘘なんじゃないか?」

「これは本当だ!」

怒ったバイロインは、首を捻ってグーハイから顔を背ける。

グーハイは笑いながらバイロインのお尻を揉む。

「自分で何したか分かってるのかよ!お前の嘘で俺がどんだけ心配したかって事もな!」

「....う、うるさい!」

「嘘なんかついて....悪い子だなぁ」

そう言って、ケツを揉む速度を速めるグーハイの手を弾く。

「こんなに可愛いんだ、ドレスでも着てみるか?」

「変態みたいなこと言うなよ!」

この喧嘩をする感じに心地良さを感じる。これこそが、彼ららしい付き合い方なのかも知れない。

 

朝ごはんを食べた後、お湯を汲んだ桶にタオルを入れて濡らす。

湯気の出るタオルで顔を拭いてやると、「熱い!」と喚くバイロイン。しかし、グーハイはそれを無視して、強引に拭き進める。

手も熱湯消毒するために、両手を取って桶の中に突っ込む。

「熱ッ!...熱いって!」

「ぐちぐち言うな! 俺の手も一緒に入れてるだろ? 熱くない!」

ーークソッ!グーハイの野郎、俺が軽傷だと分かった瞬間に態度を変えやがった!

 

手を洗い終えると、次は軟膏を塗ってやる。

「絶対に軟膏が馴染むまでは何も触るなよ?」

忠告するグーハイに、バイロインが頷く

「なぁ、手を貸してくれないか?」

トイレの方をちらりと見て聞いてきたので、グーハイは直ぐに悟る。

「行くぞ。ほら、腕を掴めって」

 

トイレまで移動すると、そこで問題が発生した。

グーハイがズボンも下ろして、便器も上げてくれたのだがバイロインは手が軟膏で覆われていたので自分のものを掴むことが出来ない。

グーハイはそうなる事を予知して軟膏を塗ってやってたので、役得だと言わんばかりの笑顔でバイロインのそれを掴む。

「ほら、ちゃんと狙いをつけて....」

成人男性がされる事ではない状態にバイロインは顔を赤く染める。

ーーこんな状況で出せるかよ?!

「どうした?出ないのか?」

そう言って笑い出すグーハイ。しかし、咄嗟に笑いを収めて口笛を吹き出す。

「…お前!!」

バイロインは今まで介抱してくれたの理由は、この為だった事にやっと気付く。

「....最低だな!」

狭い個室でバイロインの怒鳴り声が響いた。

 

 

夜、二人は抱き合いながらテレビを眺めていた。

「深圳での仕事はもう終わったのか?」

「いや。まだだが、エンが何とかしてくれるから大丈夫だ」

「あの女と一緒に行ったのか?!」

驚くてこちらを向くバイロインに、余裕の笑みを浮かべてなだめてやる。

「安心しろって。俺の首筋につけたお前の痕を見せつけてやったからな」

「あ、痕...?」

分からないフリをして、目線を外す。

グーハイは側に置いてある果物籠からミカンを取り出し、バイロインの前でぶらつかせる。

「食べるか?」

「いらない」

そうか、と呟いてグーハイが皮を剥き、半分ほど食べたところでバイロインに横から奪われる。

「欲しいなら最初に言えよ」

バイロインに残りを取られたので、新しいミカンを籠から取り出して皮を剥く。

また少し食べていると、横から手が伸びてきてバイロインに食べかけを奪われる。

「おい、何で盗るんだよ」

「別に...」

ため息をついて新しいミカンを再度、籠から取り出す。

ふと気がつくと、グーハイは自分が皮を剥き終わってミカンを食べている最中にこちらを伺うバイロインの存在に気がつく。

ーーなるほどな。こいつ、俺が食べた後の反応を見て甘い部分だけ貰おうとしてたのか

今自分が食べているミカンは酸っぱかったのだが、わざと美味しそうな顔をする。

案の定、バイロインが横からミカンを奪っていった。

酸っぱい反応を見せるかと思ったが、バイロインは美味しそうに食べており、残す事なく全部食べてしまった。

「もう要らないや。...貸せ、今度は俺が剥いてやる」

バイロインは自分でミカンの皮を剥き、一口食べてからグーハイに残りを差し出す。

「ほら、口を開けろって」

グーハイは自分が仕返しをされていることに気付く。

「それ、酸っぱいだろ?」

「いや?そんな事ないぞ」

「...お前の味覚はどうなってるんだ? さっきワザと酸っぱいやつをあげたのに、美味しそうに食べやがったよな?」

警戒するグーハイを落ち着かそうと、バイロインはもう一口自分で食べる。

「ほら、甘い」

グーハイはバイロインがミカンを食べる時に、唇に触れないようにゆっくりと食べている事に気付く。その唇は日常でできたとは思えないほどに荒れていた。

そっと唇に触れ、親指の腹で優しく撫でる。

「これ、どうしたんだ?」

バイロインは呑気に「師団長に抓られたんだよ」と言う。

「抓られた?」

「ああ」バイロインは頷く「俺が意見を言ったら、五月蝿い口だって怒られて思いっきり抓られたんだ」

それを聞いたグーハイの顔に暗く、冷たい雰囲気が漂う。

「あいつの体罰は凄いんだよ、 俺のこの唇なんてまだ軽い方さ。...もっと酷い奴は、両親を呼ばれて目の前で息子が泣きながら体罰を受ける姿を見せられる、とか言うのもあったな」

本当の事もあるが、だいぶバイロインによって脚色されたほぼ冗談の話を聞かされる。

グーハイは真実を知らないので、バイロインの口から出てきた言葉を信じるほかない。

バイロインにとっては然程重要な事ではなかったが、グーハイからすると頭にくる内容ばかりだった。

話し終えたバイロインは大きく欠伸をして、グーハイの肩に頭を預ける。

「...眠くなってきた」

「わかった。電気消してくるな」

そう言ってベッドから降りて歩いていくグーハイを眺めて、自分は掛け布団を肩まで被せる。

明かりを消して布団に潜ってきたグーハイは、バイロインの身体に足を絡めて横になる。

「なぁ...正直に答えて欲しいことがあるんだけど」

「....何?」

「電話がお前と繋がらなかったあの晩、お前....本当は何されていたんだ?」

 

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グーハイがバイロインのお尻を揉むシーン。2getherのおっぱいと似てませんか?(失礼)

2getherと違って、すぐに揉むのがグーハイらしいところです(笑)

 

あと、なんだか色々と矛盾が出てきてしまったかもしれません(汗)

今回の話、今までで一番翻訳するの難しかったです!なんでだろ?

 

:naruse

 

202004追記:ラスト部分、解釈違いのため修正。