NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第123章:どんな手を使ってでも

シーフイはぐっすり眠っている。しかし、それに対してバイロインはうとうとしながら少し寝ることはあっても、一晩中しっかりと寝ることができず、だんだんお腹が空いてきた。ご飯を食べに出かけた後、帰ってきたらシーフイを起こそうと考え、財布を持って部屋のドアを開けた。

目の前の光景にバイロインは思わずあっけにとられる。

床には無数のたばこの吸い殻が落ちている。そしてその近くにしゃがみ込み、壁に寄りかかってうたた寝している人がいるのだ。そして“その人”はドアが開いてすぐさま目を覚ました。

”その人”の顔は無精ひげで青くなっており、完全に疲れ切った表情をしていたが、目はとても生き生きとしている。

「インズ、起きたか?」

バイロインはあっけにとられつつも頷く。

グーハイはバイロインが出て行った後、シーフイと付き合っている思っていたときは、連絡を取ろうとすることはしなかった。しかし、バイロインに対するグーハイの想いはすでに五臓六腑に深く染み渡っている。

今、バイロインを目の前にして、彼が自分のことを許してくれるかどうかについては考えず、とにかく強く抱きしめる。

「インズ、家に帰ってきてくれ」

バイロインは口を開かない。彼の強張った体は、部屋の外で一泊したグーハイよりも冷めたかった。

「グーハイ…荷物をまとめてくるから、とりあえずここで待ってろ」

バイロインはそう言ってドアに半身隠れた状態で入り口に腕をかけ、グーハイが部屋に入ってこれないように塞ぐ。

グーハイは嬉しくて思わず笑みが溢れる。そして、バイロインの頬を優しく手でつまむ。

「おい、まだ怒ってるのか?俺が部屋の外でこんな姿で寝てたなんて可笑しいだろ?笑ってくれよ」

この時、バイロインの頭は真っ白になっていた。

グーハイはバイロインの表情の異変に気が付くが、それは自分に対してまだ怒っているからだと思っていた。

しかし、突然部屋の中から微かに声が聞こえる。

「バイロイン?」

シーフイが目を覚ましたのだ。隣にバイロインがいないことに気づき、ドアが開いているのを見て、バイロインに思わず声をかけたのだ。

それを聞いた瞬間、グーハイの顔色は一瞬にして変わる。バイロインの顔を一度見て、ドアを蹴破る。

部屋の中ではシーフイがベッドに座っている。布団で胸元を隠しているが、衣服は一切着ていない。部屋の外に人がいることに気づいたシーフイは焦って布団をかぶり、ベッドに横になる。

グーハイの目は部屋の中からバイロインの顔にゆっくりと向いていく。思わず身震いをするほど恐ろしく落ち着いているグーハイにバイロインは動揺する。

長い沈黙の後、グーハイは冷静に話し始める。

「十二時にやっとお前がここに居るってわかったんだ。来た時にはすでに部屋の電気が消えていた。お前が寝ているのを邪魔したくなくて、ずっと外で待っていたんだ」

バイロインはやっと口を開き、力ない声で質問する。

「…なんでチャイムを鳴らさなかったんだ?」

「お前が寝ているのを邪魔したくなかったんだ」

「…なんで帰らずにここで待ってたんだ?」

「来た時にお前がいなかったら嫌だからな」

バイロインは黙りこむ。そしてグーハイは体の向きを変えてその場を立ち去ろうと歩き出した。

バイロインは急いでグーハイを追いかけ、彼の腕を掴んだ。グーハイは鋭い目つきで振り返る。

「バイロイン、今は俺に構わないでくれ。お前に酷いことを言いたくないし、お前に手を上げたくないんだ。もし俺に辛い思いをさせたくないならその手を放してくれ」

手を離したあと、バイロインはショックでしばらく動くことができなかった。

 

 

部屋に戻ると、シーフイがすでに服を着た状態でベッドに座ってバイロインのことを待っていた。そしてバイロインが部屋に戻ってくると質問してくる。

「ねぇ、今来てた人ってもしかしてグーハイ?」

バイロインはただ頷き、カバンを持って外に出る。シーフイは急いでバイロインの後をついていく。

バイロインの機嫌がすごく悪いのを見て、その原因はグーハイにあるとシーフイは気づく。

ホテルを出るとバイロインはシーフイのほうへ振り返り、

「車で家に帰ってくれ」と言った。

「私、もう少し一緒にいたいの。途中まで少し着いていってもいい?」

とシーフイに聞かれたが、バイロインにはそんなことどうでもよかった。体にくっつかず離れてさえいてくれれば後は気にもならなかった。

バイロインが否定しなかったため、シーフイはOKしたのだと思い、気分を良くしてバイロインのそばを歩く。

 

長い間歩いたが、二人は一切口をきかなかった。この気まずい雰囲気を変えるべく、シーフイはバイロインに質問する。

「ねえ、グーハイって私のことが嫌いなのかな?」

バイロインは機械的に答える。

「いや、あいつは俺のことが気に食わないだけだ」

シーフイはため息をついて話す。

「男の人たちの友情については詳しくわからない。でもあなたは嫌なことがあるといつも一人でそれを心の中に閉じ込めてしまう。もっと相手に心を開けば、きっと良くなると思うよ」

バイロインにはシーフイの話が聞こえていなかった。今、彼にとって周りの音はすべてただ騒がしいだけの雑音でしかなかった。

 

また歩いている途中、バイロインがふと振り返ると、緑の人影が二つ見えた気がした。

「どうしたの?」シーフイは不思議がる。

バイロインは無表情で答える。

「いや…なんでもない」

 

しばらく歩くが二人の後をついてくる異様な足音が耳に残る。

シーフイは少し歩いてから立ち止まり、笑顔で言う。

「もう家に帰るね。あなたもゆっくり休んでね」

バイロインはシーフイが乗るタクシーを止めるために手を振る。そして止まったタクシーにシーフイが乗り込む。

「帰ったらちゃんと薬を飲めよ」とバイロインは念を押した。

シーフイは笑って頷く。

「明日の朝、会いに行くね」

しかしバイロインは相変わらずシーフイの話を全く聞いていなかった。

タクシーが去った後、虚ろな目をして立ちつくす。先ほどの不審な人影も見えなくなっていた。バイロインはぼーっとしながら考える。

ーー 一晩中寝てなかったし…幻覚でも見えたんだよな…

 

 

翌日、事件は起きた。

前日の夜、シーフイはバイロインが”会いに行く”と言ったことを忘れていないか心配してメールを送ったが、バイロインはそのメールを見ておらず、精神的な疲れと徹夜の身体的な疲れで、帰宅後すぐに熟睡していた。

そして翌朝、バイロインは電話で起こされた。

「…もしもし?」

寝ぼけた声でバイロインが電話に出るも相手からの返事はなく、ごちゃごちゃとした雑音だけが聞こえてくる。はっきりとしない中で微かにシーフイの声が聞こえた気がした。バイロインは何度か話しかけるが、一切返事はない。シーフイが間違えてボタンを押して電話をかけてしまったのかと思っていると、電話の向こうから男の荒々しい罵声が聞こえてきた。そして、電話はすぐに切れてしまった。

バイロインは一気に目が覚める。

彼が携帯のメールボックスを開くとシーフイから朝の七時にメールが届いていた。

『もう家の前に着いたよ。出てきて』

その前に来ていたメールを確認すると、シーフイが昨夜送ったメールで内容は今日の朝会いに来ることを確認するものだった。

バイロインが時計を確認すると、時間はすでに七時半を過ぎていた。バイロインはすぐにシーフイに電話をかけるが、全くつながらなかった。

突然、昨日バイロインたちの後をつけていた二人の人影を思い出す。バイロインは急いで服を着て、顔も洗わずに家を飛び出していく。

この日、外は霧が深くかかっており、三メートル以上先は全く見えないような状況だった。

バイロインは家付近の道を隅々まで探すが、シーフイは見つからない。彼は慌てて大きな声でシーフイの名前を呼ぶが返事は聞こえない。

心臓の鼓動がとても速くなる。再び彼女を探すために走り回る。そしてやっと微かに女性の叫び声が聞こえてきた。

その声を頼りに走ると、三人の人影が見えてきた。

そして、信じられない光景を目の当たりにして、バイロインは怒りに身を震わせる。

シーフイは押し倒されて髪は乱れ、衣服は引き裂かれほとんど全裸の状態になっている。覆面を被り全身黒い服を着た二人組の男に、暴言を浴びせられながら辱めを受けていた。シーフイがもがくと、男は彼女の腹を蹴りつける。

バイロインは無我夢中で突っ込む。気が狂ったように二人組の男に殴りかかり、取っ組み合いになる。

しかし、バイロインは二人組の男が一切自分に対して危害を加えてこないことに気が付く。彼らの標的はシーフイだった。バイロインがどんなに殴ろうが蹴ろうが二人の男は黙って我慢している。そして依然としてシーフイに暴行を加えている。

バイロインはその中の一人の腕を掴み、股の間を蹴り上げようとする。男が抵抗すると、黒い服がめくれ上がり、中に来ている迷彩柄の服があらわになった。

ーーこの服?!軍人以外にこの服を着る人はいない…!

バイロインはグーハイが去り際にしていた目つきを思い出す。そしてある時グーハイが言ったことを思い出す。

『このグーハイ様がマジになったら容赦しないからな』

 

 

”目にしたことが必ずしも全て本当だとは限らない”

グーハイは一晩中いろいろと思考を巡らせるが、この”言い訳”以外にあの出来事から耐える方法が見つからなかった。彼は裏切りや疑うことを考えるよりも、むしろ信じるほうがよっぽど良いことに気が付く。あの時、シーフイだけがベッドに横になり、バイロインはしっかりと服を着ていた。

ーーん…?もしかしてあの女がわざと仕組んだのか…?

シーフイは実際、グーハイがバイロインのことを探していると知っていたし、わざと”その状況”をグーハイに見せたのかもしれない。そもそもバイロインはベッドで一緒に寝ていなかったのかもしれない。

でも実際ベッドには枕が二つあって、バイロインの髪には寝ぐせがついていた。

しかし、前向きに考えなければグーハイは自分を保つことができない。決してそんなことあってはならないと考えている。

そしてグーハイはちゃんと話し合うためにバイロインを探そうと決心する。シーフイはバイロインに釣り合わないし、こんなことでバイロインと別れてしまうのだけは勘弁だった。

決心した後、グーハイがトイレに行って、顔を洗っていると、ドアのチャイムが鳴る。急いで手で顔の水を拭いて扉を開ける。

そこにはなんとバイロインが立っていた。彼を見た瞬間、グーハイは心の中で喜び踊った。バイロインのほうから説明してくれるのであれば手間が省ける。

「誰がお前を連れ戻したんだぁ?」

冗談めいた口ぶりで昨日の時の表情とは一転、平静を装いつつも嬉しい気持ちが表情に出てしまう。

バイロインはここに来るまでの間、グーハイが事件に関与していないことを願っていたが、彼の昨日の態度から一転して、嬉しそうにしているのを見て、あの事件の首謀者はグーハイに違いないと判断する。

「そうだよ。お前が”探してる人”だよな?」

グーハイはなんのことを言っているのか分からず、困った顔をする。

「ん?探すってなんだ?なんのことだ?」

バイロインは部屋に押し入り、グーハイを壁に押し付ける。そして、殺気立った目つきでグーハイの瞳を鋭く見つめる。

「お前は二人の男を使って俺たちを探してたんだよな?人を使ってシーフイを酷い目に合わせたんだよな?違うか?」

「おい…俺がいつそんな連中を送ったっていうんだよ?」

グーハイも訳の分からない言いがかりに対して怒り出す。

バイロインは蔑むように言う。

「グーハイ…お前!なんて残酷なやつなんだ…」

グーハイはこの言葉を聞いて、今になってようやくシーフイの言っていた”あなたは私には勝てないわ”という言葉の意味が分かった。

「グーハイ、お前本当に異常だぞ!そんな奴だと思わなかったぞ!」

バイロインがそう言った瞬間、グーハイの大きな手がバイロインの首を強く締める。そしてグーハイは静かに質問する。

「お前…俺がやったと思うのか?」

バイロインは苦しくなり、目の焦点が合わない。

「お前に聞いているんだ…本当に俺がやったと思うのか!?」とグーハイが怒鳴る。

グーハイがバイロインの顔が真っ青になるまで首を絞め続けたため、バイロインの呼吸はすでに止まっていた。

グーハイの気持ちはすっかりと冷え切っている。

「質問に答えろ!お前は俺がやったと思ってるのか?」

グーハイはまた怒鳴った。バイロインからはまだ全く返事がない。

「お前は俺に仇を討つために来たのか?じゃあ早くやれよ!俺がやり返す前に早くあの女が受けたっていう仕打ちを俺にやり返せよ!」

バイロインは固まったままピクリともしない。

「いいか、これから言うことを忘れるな。今からお前に大切なことを伝える。今日以降、バイロイン、お前は俺にとってただの”普通の人”だ。もし文句を言いたくなったり、俺のことを殴りたかったりしたら一向に構わない。以前はお前の好きなようにさせていたが、それは俺が弱いからじゃない。お前のことを愛していたからだ。でも今のお前にはそんな価値はない」

そして「ここから出ていけ」とグーハイは無表情で言い放って手を放す。

グーハイの耳の中にはバイロインの言葉がずっと響いていて胸を締めつけられている。苦しそうに一歩ずつ出口に向かうバイロインに対して言い放つ。

「バイロイン、よく覚えておけ。俺はお前を追い出したんだ。俺たちはもう赤の他人だ。いつかお前が目を覚まして泣きながらひざまずいてきたとしても、俺はお前と目を合わせることもしないからな!」

 

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早く幸せそうなグーハイとバイロインを見たいですね!シーフイ?そんな人知らないな

 

「このグーハイ様がマジに~」の部分。ドラマ15話、駐車場でBMWを揺らしたあとに言ってたアレです。

ドラマは尺の都合で色々そぎ落とされている分、セリフの一言一言が今後のストーリーに絡むような重要ワードだったりすること、結構あるんですよね。

おかげで注釈入れることがほとんどなく、話を読むことができます。ありがたい!

 

※愛称について(追加)

中国語では名前を二回続けて繰り返すことで音の響きが可愛らしくなるため、女性のニックネームや好きな俳優・女優さんを呼ぶときとかに使われたりします。(バイロイン役の許魏洲も洲洲ジョウジョウと呼ばれたりします)

例)パンダのリャンリャン・カンカンみたいに、シーフイだとフイフイみたいな感じです。

今後、こう言った呼称も出てきますので、頭に入れておくと読みやすいかと思います。

 

:hikaru