NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第41章:復讐劇

シュウ・リョウウンは訓練の監督を他人に任せ、軍事会議にて兵器の強化を図るよう主張していた。

協議の結果、科学班のプロジェクトに重点が置かれ、再調整を行う事が決定した。現在、バイロインは入院しているため、いつもは彼が行なっている企業視察を代わりにリョウウンが行う運びとなった。

そして視察当日、リョウウンは海因科技会社に訪問する。

グーハイは親切に迎えに行くと、満面の笑みを浮かべて挨拶を交わす。

「事前に連絡を頂けたのなら、私がお迎えに行きましたのに」

リョウウンは爽やかに笑って、ヒラヒラと手を動かして挨拶を返す。

「お得意先の社長にそんなことさせていいのかな?」

二人は長年の友のように、仲良く話して会社の中へと入って行く。

瞳の奥に殺意を抱きながらも、それを完全に隠して笑みを浮かべ、敬意を感じさせるその佇まいは、長年の経験から成せる商人の技だった。

グーハイは、リョウウンをVIPルームへと案内して、お茶を用意するよう部下に伝えた。

運ばれてきたお茶を口にしながら、二人は暫く談笑を続ける。グーハイと話すリョウウンの瞳には、どこか違和感を感じる。

ーー何か言いたげだな...

その思い通り。リョウウンは急に席を立つと、グーハイの手を両手で握る。

「君は逸材だ!軍人にならなきゃ勿体ない!」

グーハイは苦笑いを浮かべながら、その手を外す

「軍事には興味がないんです」

「君は名門のグー家に生まれ、幼少より軍の近くで暮らしていたんだ。興味を持たない方がおかしいだろう」

リョウウンは残ったお茶を一気に仰ぐと、誘うような目でグーハイを見つめる。

「私は束縛されるのが嫌いなんです。軍事的な管理制度に適応できるとは思えないですよ」

やんわりと断り続けるグーハイをよそに、リョウウンはその熱意を絶やさない。

「なら私のチームに入りなさい!私の管理方法なら問題は起こらないだろう!」

「そんな...」グーハイもその意思を曲げない「私は小さい器の持ち主なので」

「俺の目はいつだって間違えてこなかった!君には大将の器が見えるんだよ!...どうだ?本当に入隊を考えないか?」

リョウウンの意思も本物のようだった。グーハイは遠回しに話をすり替える事にする。

「シュウ師長、内務を見て回りましょう。案内します」

「...そうだな。私も君のところの美女たちを見て回らないといけないからな!」

冗談を言いながら席を立ち部屋を出ると、グーハイの案内で作業場へと向かって行った。

 

広々とした作業場を見て、リョウウンは低く呻る。

「ほぅ...これはすごいな。想像以上の広さだったよ」

「最近はさらに拡張したいと考えております。南の方に土地を買いましたので、もう暫くすると工事が始まると思います」

丁寧な解説でリョウウンに伝える。

 

リョウウンらのやり取りを盗み見て、二人の女性従業員が近くでひそひそと話しだした。

「今日の社長はメガネをかけて、紳士的な格好でいらっしゃるわね。...普段と印象がだいぶ違うわ」

「つまり、あのおじさんは偉い方って事になるわね!...今の内から媚び売っとかないと!これから沢山 関わる機会がありそうだし」

「ええ、確かにそうね」

二人の会話が、グーハイたちに聞かれることはなかった。

 

二人は職場全体をぐるっと一回りし終える。

「ちなみに、完成品はあったりするのかな?」

 「もちろんです」

リョウウンの要望通り、製品展示室へと案内する。

展示された商品を眺めていくリョウウンだったが、特に小型飛行機に興味があるようだった。

一つの飛行機の前まで歩いていき、機体に触れながら質問する。

「この機体はいつ頃に生産されたんだ?」

「このタイプはここ半年前に完成したばかりで、現在ではウチの主力商品になっております。また 多くの科学賞も受賞しており、軍部にもお勧めできる商品だと自負しております。」

リョウウンはしゃがんで機体の裏側を覗き込み、その内部を観察する。

ーー小さい型だが、十分な性能を持っているようだな。機高は二メートル弱だが、馬力の方は五百を超えてそうだし、気流噴射速度も秒キロ毎で良好だ。

感心した様子で裏から出てくると、グーハイに向かって賞賛の拍手を浴びせる。

「お宅の会社は主に電子機器を生産していると聞いていたが、まさか航空分野にも足を踏み入れてるとは思ってもいなかったな。この機体は、デザインの研究開発から生産まで女性が作ったのかい?」

「...わたし以外にこの機体に触れた男性は、あなたが初めてです」

「凄く優秀な部下をお持ちのようで」

「いえ。このような取り組みは初めての事でしたので、可笑しな機体を作ったものだと笑われないか心配でした」

リョウウンは笑ってグーハイの肩を叩く。

「そんな事言わないでくれ!少なくとも私は好きなデザインだぞ!」

「ありがとうございます。...試乗してみても良いですよ。気に入って頂けたのなら、後ほどリストを作成して軍部の方へ送っておきます」

通常、このような事はあまりさせてはいけないのだが、グーハイは気前よくリョウウンに勧めた。

「はははッ!!」気分の良くなったリョウウンは爽やかに笑う「じゃあ、お言葉に甘えて。...私は今まで様々な機体を乗りこなしてきたが、美女が作った機体は試した事がなくてね...!」

そう言って、エンジンルームへと勢いよく乗り込んでいく。

飛行機の体積が小さいが故に、機内の空間もそう大きくない。リョウウンのような体格の男では、ギリギリ体が収まる状態だった。

機内のデザインを見て、疑問を感じるリョウウン。

ーーなんでこの座席は変な形をしているんだ?

通常の戦闘機、小型飛行機と座席の形状が違い、フラットなタイプではく前方に凸型の出っ張りがある。

足を伸ばしてみると、そのデザインの意味がわかる。太ももがその出っ張りにフィットして快適さを感じさせたのだ。

ーーパイロットに優しい設計だな。本当に女性の作るものは繊細だ

発進させようとレバーに手を置いた瞬間、急に掌に電流が走る。

「ッ!!」

急いで飛行機の計器パネルを調べてみるが、各データは正常値を示していた。

ーー接触不良か静電気か...?

用心深いリョウウンは、手袋をはめてレバーを再度 握る。

しかし状態は変わらず、強い電流がリョウウンを再び襲う。急いで手を引こうとしたのだが、あまりのショックに手を引き剥がせず、突き刺すような刺激が掌を襲う。

暫くの痛みに耐えて手を引くと、手袋は破れており、手は電気熱で焼かれた痕が痛々しく残っていた。血だらけになった掌は、ポプラの木を登っていた時のバイロインと同じような見た目をしている。

リョウウンも大のオトナだ。涙こそ流さなかったが、耐えられない痛みから逃れようとエンジンを止めてハッチを開けようとする。が、残念なことにそのハッチが開かない。

リョウウンは焦ってハッチを強く叩くが、一向に開く気配が見えない。それどころか、叩いた振動と共鳴するかのように座席も激しく揺れだした。

「なッ!なんだ!?」

座席の振動は自分が叩いたことによるものではなく、それ自身が揺れている事に気づく。その揺れは次第に大きくなり、何やら焦げ臭さを感じた。

次の瞬間、腰に痛みが走る。

リョウウンは理解する事が出来た。この揺れは電気が流れる際の振動だという事を。そしてその電流は先ほどのレバー同様、かなり強力なものだという事も。

座席から感じる電流は強さを増していき、その電流の主な発生源が太ももの箇所にある謎の突っ張り部分から感じるようになってきた。

リョウウンは自分の手を眺めて絶望する。

ーーさっきの電流でこの傷だ。このままあそこが発熱したら...!!

男としての本能から危険を感じたリョウウンは、再び脱出しようと試みる。しかし、今度はその座席から立ち上がろうとする事すら出来ずにいる。

男には小さかった機内構造の所為で、痺れた体では上手く動く事が出来なくなっていたのだ。

リョウウンは動けぬ体で、その電流を自分の股間で浴びる。

いくら強い彼と言っても、急所である箇所に強力な電流を浴びては一溜まりもない。

「あああ!!!!」

痺れとその熱量から、激しい激痛が襲いかかる。

グーハイはワザとらしく焦った顔で、そのハッチを外側から叩く。

「シュウ師長! どうされましたか!?」

リョウウンは苦しみながら助けを訴える

「ここを開けてくれ!!」

「え?何ですか?聞こえませんけど?」

グーハイは大声で機内に向かって声をかけ続ける。

リョウウンのズボンは焼け焦げてしまい、素肌が露わになりつつあった。

「開けろ!ここを!開けろって!!」

「えっ?」グーハイの惚けた表情に、緊張感はない「よく聞こえないですが?」

眉だけは一丁前に心配したような形を保っているが、その緩んだ口元を見てリョウウンは確信する。

自分のグーハイに用意されたフライトスーツを見てみると、電流が流れやすい金属が仕込まれていた。

「俺を嵌めたのか!!?」

座席の温度が三百度に達する。リョウウンは火刑に処されたかのような状況になり、ただ叫び声をあげながら、ハッチを叩くことしか出来なかった。

叩き過ぎた振動で、座席に仕込まれた機械の振動周波数と共鳴し電流とは別の異質な音を感じる。

リョウウンも伊達に長いこと軍人としての経験を積んできていない。この音が、機械が爆発する直前の音だと気づき、衝撃に備えて体勢を急いで整える。

整えたと思った瞬間、轟音とともに爆発した勢いで機外へと吹き飛ばされるリョウウン。

人が死ぬほどの爆発ではなかった為、吹き飛ばされたリョウウンは無事なようだった。

命に別状はないが、自分の股に激痛を覚えて顔が歪む。下を向いて見ると、自分のそれから大量の血が溢れ出ていた。

男としての威厳がなくなった瞬間である。

ここに来るまでは良かった。あの男の製品に試乗したのが悪かったのだ。

助けを呼ぼうにも、この会社は女性しかいない。怪我した部位が部位なだけに、頼りたくても頼れない状況に陥っていた。

「近寄るな!」爆発音に駆けつけてきた女性警備員に向かって叫ぶ「男性警備員を連れてこい!!」

グーハイもその女性警備員に向かって怒鳴る

「早く探しに行かないのか!?」

「い、いえ。ここに来る前に探しました!けど、彼は朝から下痢気味で...流石に男子トイレの中まで入って確認は出来なかったんです...!」

グーハイは彼女が手に持っていた布を奪い取ると、リョウウンの元まで駆け寄る。

「安心してください!救急車がもう少しで到着するはずです!...男性は私しかいないようですし、我慢してもらっても...いいですよね?」

そう言った瞬間、手に持っていた布でリョウウンの股を縛り上げる。

あまりの痛さに気絶するかと思ったリョウウンに、笑いが込み上げてくるグーハイ。

笑いを押し殺し、痛がるリョウウンを心配するかのように女性警備員の方を向く「この布は不潔なのか?!...シュウ師長が痛がってらっしゃるぞ!」

「いえ、塩水で消毒したばかりですけど...」

 

 

救急隊が駆けつけ担架に担がれ運ばれる時、リョウウンはグーハイの腕を掴んで怒りを露わにする。

「...覚えてろよ」

「...バイロインは俺の心臓だ。お前は訓練で部下を痛めつける事が出来るかもしれない...だが、俺の心臓にまで手を出したのは良くないな」

リョウウンを見つめるグーハイの瞳も、冷酷な色を浮かべていた。

「俺の心臓が傷ついたんだ...平等にお前も痛めつけなきゃ、駄目だろう?」

 

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グーハイってマジで何でもやりますよね...

今回はスカッとしましたけど、ちょっと怖さを感じたり...(汗)

こんな事して、今後大丈夫なんですかね?てか、電流で焼け焦げるってどんだけ高圧なんですかって!死んじゃいますよ!(笑)

 

:naruse