第64章:激闘!空中戦!!
グーヤンが出て行きしばらくすると、今まで動こうとしなかったリョウウンが重い腰をあげて入り口へと歩み出す。
「何をするつもりだ?」
リョウウンを警戒する武装した看守二人が、入り口の扉を隠すようにリョウウンの行く手を阻む。
「手助けをしてやるんだよ」
気怠げだが、重みのある声。
「手助けだと?...先程とは真逆の態度だな」看守は疑惑の視線を投げかける「それに、国家の持ち物は個人の問題を解決するために使うものではない。と言っていなかったか?」
「これは個人の問題じゃねぇよ。国家一級の実力を持つパイロットが追われてるんだ、空軍部隊の戦力を保障する為にも助けてやらないとだろう?」
リョウウンの言い分を聞き、看守は互いに目を合わせた後に一人が電話を取り出す。
しばらく話した後、許可が降りたのだろう。携帯を耳から離しながらリョウウンへ「我々もついて行く」とだけ言い放った。
戦闘機は超速で雲を突き破って上昇し、はるか上空で高度を保ってからは快適な空の旅となっていた。この様子だと、目的地には無事に到着するようだった。
長い沈黙の後、トンが先に口を開く。
「...タバコを吸ってもよろしいでしょうか?」
「勝手にどうぞ」「だめに決まってる」
トンの問いかけに対して、同時に答えが返ってきた。二人の対照的な意見によってタバコを持つ手が口の前でピタリと止まる。
普通のヘリコプターなら大丈夫だろう。しかし、このような戦闘機の機内で喫煙するとパイロットの判断力を邪魔してしまうことになる。
トンはバイロインを一瞥する。その表情はとても冷たく、優れた容姿が少しもったいないと感じるほどの鋭さを感じた。
「まあ、別に吸わなくても死なないので...」
トンはそう言って、タバコを胸ポケットに詰め込む。
「俺にも一本ください」
トンがしまったタイミングで、バイロインの方から要求するように掌を向けられる。
グーハイはバイロインが伸ばした腕をがっしりと掴み、少し怒ったような表情を作る。
「帰ってから吸えばいいだろう? 今は一刻でも早く帰れるようにしないと、だろ」
バイロインは冷たい顔でグーハイの手を振り払い、トンの顔を見つめる。
グーハイはバイロインの情緒を感じ取ったのか、何か言おうとしたがその口をゆっくりと閉じ、最終的にはバイロインの要求のままトンにタバコを促す。
煙はあっという間に機体内に広がった。
トンはこの短時間で一つ気づいたことがある。それは、グーハイの視線だ。その視線はまるでバイロインに縛られているかのように、何か自分の用を済ます短時間を除いて、基本的にはじっと彼を見ているのだ。
バイロインの方はというと無頓着な態度を一貫としていた。それは、機体を操るために全神経を集中する必要があるのか、はたまたグーハイに対して何かあるのか。
ーーとにかく、二人の間には何かしらの深い葛藤があるみたいですね...
トンがそう思考を巡らしていた時だった。突然、機体に搭載されている液晶パネルが警告音を鳴らしながら赤く点滅する。
その液晶はレーダーのようで、すぐ近くに別の機体が接近していることを示しているようだった。
バイロインは焦った表情に変わり、咥えていたタバコをグーハイの手に押し付けると、一心不乱にあらゆるメーターを見ながら忙しく操縦桿を動かしている。
たった数秒の空白だった。
レーダーが捉えていた機影は、すぐにその正体を現す。グーヤンが搭乗する機体だった。
バイロインを追撃する機体の操縦を行うパイロットは、前回の大砂漠空演において二人は異なる陣営に分かれており、決戦する機会があったが、バイロインが足を負傷したためにその機会を逃した相手だった。
相手の戦闘機はバイロインの右側を追走している。トンは小さな窓からその様子を眺めると、相手の翼は風を切り、波を裂くように斜めに接近している。
明らかに攻撃する態度であることが素人目にも理解でき、その姿は獰猛な空の王者のようだった。
バイロインは戦闘を避けるように急降下を選択する。急な降下は激しい重力をトン達に与え、数百キロの重さを同時に四方八方から体と内臓を常に圧迫し始め、胃液が逆流したのか喉が熱く感じられる。
ーー絶対に俺らを逃さない気だな!!
バイロインは数秒の接触から相手の意図を感じ取る。
ーーでも誰なんだ?! この相手はどこのどいつが操縦してるんだ!?
なんとか紙一重で猛攻を回避しているが、このままではこの先どうなるのかが分からない。だが、この機体を傷つけたくないバイロインは、攻撃に転じることができないでいた。
突然、後方につかれていた戦闘機が勢いよく上昇したかと思うと、バイロインたちへと一気に接近する。その直後、バイロインたちが乗る機体がぶるぶる震えだすと、その翼の下からその顔を覗かせて接触していきた。
ドォォオン...ギギギギギッギャ!!!
突然の襲撃にバイロインの回避は間に合わず、機体同士が接触してけたたましい金属音と激しい揺れが三人を襲う。
グーハイはその鍛えられた体格と多少の訓練のおかげか、なんとか耐えることができたが、トンは自分の内臓がすべて体外へ押し出されると感触に襲われていた。
ーーこんなことをコイツはずっと...
グーハイは横目でバイロインを見つめ、その苦難を想像する。
ーークッソが!! ただ命令に従う馬鹿がッ!(敬酒不吃吃罚酒:
祝杯を断って、罰杯を飲む。頭ごなしに命令に従うことの意味を持つ諺)
バイロインは心の中で自分の置かれた状況に追い込んだ敵機を恨む。
自分の中で闘争本能を掻き立てていくと、バイロインの目は次第に鋭くなっていき、何をするべきなのかを自動で把握し始める。
長年培ったその経験と圧倒的才能で機体を操るその様子は、まるで食物連鎖の頂点に君臨する王のようだ。
バイロインは、完全に今回の対戦を実戦演習とみなして対応することにした。
バイロインが決意して間もなく、双方は正式に交戦した。
その様子を監視していた空軍部隊の参謀長と団長は、モニターを見ながら雑談を繰り広げている。
兵士の積極的な模擬戦を眺めながら、モニター上で繰り広げる二機の戦闘機が激しく火花を散らす映像に、たちまち喜びの表情をこぼす。
「どの兵士にもこのくらいの実力があれば、私たちの部隊にシャオバイのような逸材が沢山集まってくるんですかねぇ...」
二つの戦闘機は空中で激しく交戦しているため、それぞれに多少の損傷が見受けられるがどちらも手を緩めることはしなかった。
この空中戦は三十分余り続いているが、ますます激しくなる一方だった。
バイロインは勝つだけではなく、ポイントをできるだけ北にシフトし、燃料が尽きる前に帰還しないといけないという条件が課せられていた。
それを悟っていたグーヤンは、パイロットに向かって呟く。
「これ以上北へと移動させるな」
グーヤンサイドのパイロットも相当な戦闘狂であり、実戦が大好物であった。
毎回戦争に駆り出されても、必ず毎回生還するほどの実力を保持している。そして、相手が強いほど、彼は興奮してしまう歪んだ性癖も持っていた。
彼の猛攻は絶え間なく続き、次第にバイロインを追い詰めていく。
双方が激しく戦っている時に、もう一つの戦闘機がバイロインの空の眼に写る。
ーーもう一機だとっ!?
救援を要請した覚えはないので、この新たな機体が自分たちの味方をすることに期待はしていない。
「あれは...お前、応援を呼んでいたのか?!」
グーヤンも第三者の介入に不安を覚える。
「違う!」
グーヤンの問いかけにパイロットはすぐに返事をした。
ドッ、ドラララララララララララッッ!!!
グーヤンが疑念を抱くうちに、その戦闘機はバイロインの戦闘機に向けて機関銃を射出し始めた。
「!!?、おい!」
グーヤンは反射的に叫ぶ。
この戦闘機からは王者の風格を感じさせられる。パイロットと機体はすでに人機一体になっているかのようだった。
反転して上昇するのも旋回するのも、操縦者の神がかる飛行技術を見せつけられているようであり、変幻自在の飛行法に思わずバイロインも目が釘付けになる。
その不注意が回避のリズムを一瞬にして乱し、避けてはいるが何発か被弾してしまっていた。
ーーこの感じは...、シュウ・リョウウンか!
バイロインは自分よりも格上の技術を持つ機体の操縦士が誰なのか、すぐに理解することができた。
「くそっ!!! 強すぎる!!」
バイロインが叫ぶ一方、戦闘狂のパイロットも「さすが空中のエース」と驚く。
グーヤンは顎に手を当てて考え始める
ーーあいつなんできたんだ?、助けはしないと言っていなかったか?!
憧れの存在と共同で戦闘している状況に興奮し始めたグーヤンのパイロットが、「彼と共同して、あの戦闘機をぶっ潰すのか?」と上擦りながら確認してくる。
「...ふざけるな!!」グーヤンは思わず叫んでいた「早く彼らを助けろ!!」
「た、助ける?」
まさかの答えがグーヤンから返り、開いた口が塞がらない。
「さっきまで殺す勢いで追いかけていたのに、どうして急に助けろだなんてことを言うんだ?!」
パイロットの叫びにグーヤンは一喝する。
「俺の弟が二人ともあの中にいるからだ!!!」
パイロットは訳がわからずに顔が歪んでいく
「じゃあ、なんであんたは家族に向かって俺に攻撃を許可したんだよ?!」
「黙れ!お前には関係のないことだ。それよりか早く助けに回れ!もし何かあったらお前の頭をぶち壊してやるからな!」
「なんで俺が呼ばれたんだよ」とパイロットは心の中で愚痴を吐きながらも指示に従い、バイロインたちの応援に回ろうとした。
しかし、空中での戦いは刹那のやりとりだ。
グーヤン達が体制を立て直している間に、バイロインが操る機体の尖頭部分は水平を保っておらず、垂直方向に亜音速で雲を破りながら、地面へと急降下を開始し出した。
バイロインは操縦桿を辛うじて操りながら、同じく搭乗してる二人に向けて大声で叫ぶ。
「早く!緊急離脱をするんだ!!」
「俺はお前と一緒にここから出る」
グーハイは真剣な表情でバイロインに向けられている。
「だめだ。一人で先に出るんだ。お前とは一緒に飛び立てない」
バイロインがいくら厳しい表情で説得しようが、グーハイの意志は決して曲がらない。
「俺は、お前と、一緒にしかでない。」
グーハイの頑固さにイラつきながらも、バイロインは大地の輪郭を視界の端に捉え、焦りを覚える。
その表情を見るや否や、グーハイの広角はゆっくりと弧を描いていく。
「何を笑ってるんだ!早く!脱出しろ!!」
「お前と一緒じゃなきゃ、俺は絶対に脱出しない。」
「一緒に跳ぶのは危険なんだ!」
「だから?」
二人のやりとりを見ていたトンが痺れを切らして叫ぶ
「そんなことどうだっていいじゃないですか!私は先に失礼しますからね!!」
一つの影が青空の中に飛び込んでいった。
二人はその後もしばらく言い争いを続けていたが、時間が足りないと感じたバイロインが最終的には折れ、グーハイと自分の体を素早く縛り、脱出口から大空へと飛び立つ準備を整える。
「いくぞ!」
「...ああ」
グーハイの顔が笑っていた。
「あの様子じゃ、救援はいらないでしょう。」
パイロットが恐る恐るグーヤンの顔色を伺う。本人の顔は一瞬にして暗くなり、灰の様な顔色をしていた。
「じゃあ」とパイロットが帰航しようとした時、突然前方から戦闘機の襲撃に遭い、翼が火をつけ、機体が激しく震え始めた。
突然のことになすすべもなく、次第に炎は大きくなっていく。
「どういうことだ!?」パイロットは叫び声をあげる「彼は俺たちの味方じゃないのか?!なんで俺らに向かって攻撃をしてくるんだ!?」
グーヤンは爆音の中でも聞こえるほど盛大な歯軋りを鳴らし、勝ち誇る表情を浮かべているだろうリョウウンの機体を見つめる。
「あのクソ野郎!」
すぐに、グーヤンを乗せたこの戦闘機も火だるまとなり、雲を裂いて広い大地へと垂直に自由落下を開始した。
リョウウンの隣に座っていた看守は冷汗をかいていた。
あまりのアクロバット飛行に身体が耐えきれなかったと言うこともあるが、生死をかけた緊張の連続で精神が狂いそうになっていたのだ。
「い、いったい何をして来たのですか?」
リョウウンの意図がわからず、混乱する思考のまま疑問を投げかける。
その様子を視界の隅に捉えて笑いながら、リョウウンはその口をゆっくりと開く。
「なに、遊んでやっただけさ」
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どーも!今回は時間があったので早めに更新できてよかったです!
そして、前回の僕のツイートへのリプライやDM、前章のコメント欄などで心温める言葉をかけていただき本当にありがとうございます!
僕の翻訳が求められていると言う事実に驚愕しながらも、ひしひしと喜びを感じていました!
これからもよろしくお願いしますね!
:naruse