NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第42章:想像とは違って

夜、グーハイは小唄を口ずさみながら、愛する嫁のために自宅で夜食を用意していた。

背後からドアを開く音が聞こえたので玄関を覗いてみてると、今から夜食を届けに行こうとしていた恋人が立っていたことに驚く。

「どうやって病院から抜け出してきたんだ?!」

玄関には片手にタバコを持ち、凛とした佇まいでこちらを見つめるバイロイン。

「シュウ師長が入院したって聞いたぞ」

若干怒りが混じったような声色に、つい笑みが溢れる。

「何だ、もう知ってたのか?」

バイロインは疑惑が確信に変わり、その眉を大きく捻る

「本当だったのか!?」

グーハイは出来上がった料理を皿に盛るために火を止める。芳ばしい香りが鼻腔を刺激し、食欲がそそられる。

「やり過ぎだと思わないか?」

バイロインはグーハイの近くに寄る。グーハイはフライパンを水に浸ける時に手を濡らし、その手をバイロインの顔で拭き取る。

「前よりだいぶ良くなったな」

とぼけるグーハイの手を払いのけ、袖で濡れた顔を拭う。

「そんなに心配なのか?」

「心配とかじゃない!...何でお前は我慢出来ないんだよ!彼が俺にしたことは確かに厳しいものだったかもしれない!でも、それは訓練の為であって私的な感情からされたものじゃないんだ!...俺に厳しく接するってことは、それだけ俺を求めてくれているってことになるだろ?」

「求めてる?」グーハイの顔は冷たさを帯びていく「あいつはお前の事を道具としか考えてねぇよ!分かるか?“道具”だ!...お前が戦闘機に接するような感情でしかないんだよ!それが私的な感情じゃないなら何なんだ!?」

「お前だって、私的な感情で行動してるくせに...!」

「何だ。前みたいにお前のをしゃぶったら許してくれんのかよ?」皮肉な笑みを浮かべる「ちょうどいい。俺もあいつの大事なとこを爆破させたばかりだ、退院したら鬼教官から一兵卒になってたりしてな!」

バイロインは驚き、目を見開く。

「おまッ....まさか!」

「焦らなくていい」グーハイはヘラヘラと笑う「お前が気にしなくても、あいつのモノがお前の不利益にはならないだろ?」

バイロインは怒りの余り、グーハイの腹を殴打する。

「最ッッ低だな!...同じ男性なのに何とも思わなかったのかよ?!それに、こんな事したら復讐されるかも知れないんだぞ!」

グーハイはバイロインの頭を優しく叩く

「別に、むしろかかってこいって感じだ」

バイロインが再度殴ろうとしたのを避け、グーハイは皿に盛った料理を食卓へと運ぶ。

一緒に食べようと席に着いたところでグーハイにそれを拒否される。

「おっと、この食べ物は人間様が食べるもので、すぐに暴力を振るうような野良犬には食べさせられないんだ」

バイロインをイラつかせるには弱い文句だった。聞かされたバイロインは野犬のような鋭い笑みを浮かべて皮肉で返す。

「はっはっ!よく俺が野良犬だって分かったな!...俺は人間のように食べないからな、箸なんか持たずに手で直接料理を掴むんだ!」

まさか自分のネタに乗ってくるとは思わなかったグーハイは、バイロインの渾身の演技が思わずツボに嵌り、腹を抱えて笑い声をあげる。

グーハイが大笑いをしている隙に、バイロインはお箸を盗んで並べられたご馳走を急いで食べるのであった。

 

 

食べ終わったお皿をグーハイが洗っている間、暇を持て余したバイロインはグーハイの“息子”を見つけて遊び出す。

リビングから“息子”の軽快な音楽が聞こえてきたので覗いてみると、バイロインが楽しそうに遊んでいるのが見えた。

あいかわらずどこが面白いのかは分からないが、左右に動くそれを眺めては満面の笑みを浮かべる。その姿を見ていると、グーハイの心は温かい気持ちで包まれていった。

視線を感じたバイロインがグーハイの方を向くと、グーハイは緩んだ顔を正して「おい、俺の息子で遊ぶのをやめろ」と冷たく言い放つ。

何か思いついたのか、バイロインはいやらしい顔で“息子”を股に挟み、いつぞやのグーハイのように自分の股間に向けてそれを動かす。

誘うような目つきでこちらを向いてくるバイロインに、グーハイは顔を顰める。

ーークソッ!誘ってんのかよ!

心の中で罵しることで、何とか理性を保つグーハイだった。

 

 

料理道具を片付け、リビングへと向かう。バイロインはソファーで気持ちよく横になっていた。

「今日はここに泊まるから。俺のことを追い出すことは許さないからな」

言い終わると、バイロインは浴室へと向かう。暫くすると、水が床を打つ音が聞こえてきた。

ーーおいおい。本当に泊まるのかよ。...病院に戻さないとダメか...?

色々と考えたグーハイだが、シャワーを浴びるバイロインを想像すると何だかどうでもよくなってしまう。

「まあ、大丈夫だろ」

“据え膳食わぬは男の恥” その言葉の所為にして、我慢が出来なくなっただけの猛犬は浴室へと走っていった。

 

 

 

二人はバスタブの中に泡を浮かべて、その中に身を隠す。

グーハイがバイロインを包むように浸かり、さも当然かのようにその胸を揉み始める。バイロインもされるがまま、もう諦めている様子だった。

「シュウ師長は...どうやって怪我を?」

バイロインの疑問に、誇るように詳しく説明するグーハイ。

前準備の入念さに何パターンにも対応できるように設計された計画書、予期せぬ出来事に対処出来るようにバックアップも大量に用意していたと言う。

バイロインは信じられないような表情でグーハイを見る。

「お前って...やる時は本当に徹底的にやるよな...」

「そうでもない」グーハイは目を細めて声を低くする「お前の事を傷つけるとどうなるか、教えてあげただけだ」

全て自分のためだというグーハイの一心さに、思わず心が暖かくなる。

「動くな!!」

突然声をあげたグーハイは、手で銃の形を作りバイロインのこめかみに向ける。

「何だか違法な香りがするな...」

「やめろって」

グーハイの手を退けると、バイロインは向かい合うようにその体勢を変え、鼻と鼻を擦り合わせる。

 

「何で俺がキスしたいって分かったんだ?」

何も言わず、ただグーハイの全てを魅了する唇に齧り付くようなキスをする。

「...はッ。悪い子だな」

 

 

風呂から出ると、二人は一緒に布団の中に潜る。

「なぁ...お前って三ッ星レストランで食事した事ってあるのか?」

「そうだな。一度くらいは行った事あるけど....どうかしたのか?」

「そこに、あの料理ってあったか?」

「どの料理だ?」

グーハイは何のことを言っているのか分からずにいる。

その様子を見てバイロインは心に決める。

「どうかしたのかよ?」

「別に」

バイロインはグーハイの首に腕を回して顔を近づける

「明日は俺が料理をしてやる」

「お前が?」バイロインから似合わない言葉が飛び出し、思わず笑ってしまう「食べられるのかよ?」

「食べられなくても食べるんだよ!」

「横暴な嫁だ」

そう言って鼻先に触れるようなキスをする。

バイロインは気持ち良さそうに目を細めて、グーハイに抱きつき眠りについた。

 

 

週末、バイロインはこの上なく沈んだ気分で病院へと足を運ぶ。

リョウウンの病室に入る前に、今から怒鳴られる未来を予想しさらに気分が落ちる。なかなか入る気持ちが整わなかったが、意を決してその扉を開く。

結論から言うと、バイロインの想像は杞憂で終わった。

リョウウンの精神状態はとても良く、少なくとも怒っているような雰囲気は感じられなかった。むしろ 晴れたような顔つきをしており、病衣を着ていてもなお 威厳のある普段の彼を保っていた。

そんな顔をされると、かえって不安になる。

「どうして入ってこないんだ?」

淡々と言うリョウウンに、バツが悪く笑うバイロイン

「簡単には入れないですよ」

その言葉を受けて豪快に笑うリョウウン。その姿は本当にグーハイから屈辱的な仕打ちを受けたのか、疑問に思うほど爽やかだった。

「何で入れないんだ? ここ数日間、他の奴が見舞いに来てもお前は来てくれなかったじゃないか!...いつもはあんな態度がデカいのに、俺が怪我人になるとそんなに弱くなるのか?」

いつもと違うリョウウンを前に、本当に怖くなってくるバイロイン

ーー今日はどうしたんだ?...なんで何も言わない?

バイロインの様子を見て、その心の中を察したリョウウンが口を開く

「そんな心配するなよ。...俺にしたことは、あいつがお前のためを思ってやったことかも知れない。けど、それをお前が指示していない事くらい俺でも分かるさ」

リョウウンの寛大な心に、自分がちっぽけな存在だと感じさせる。

「軍人としての気迫はどこにやった!? お前がここに顔を出しに来たのは、その情けない面を見せるためか?!」

リョウウンが突然怒鳴り声をあげる。

その怒号に呼応して、バイロインは姿勢を正した。

「お前に聞きたいことがある」

「何でしょうか?」

バイロインは真剣な顔つきで答える。

リョウウンが先ほどまでとは違う、何かを考えるような瞳の色を浮かべ、バイロインは内心緊張する。

「...グーハイとはプライベートで頻繁に付き合っているのか?」

心が締め付けられた。

リョウウンの質問の意図が分からない。そのせいで、言葉が詰まってすぐに返事が出来なかった。

「それは...」

「いや、何だ。彼に興味があるんだ! あいつとプライベートで仲が良いんだったら、今度二人で飲みに行かないかと伝えておいてくれ」

「...シュウ師長!もし、何かあるようでしたら自分に伝えてください!俺が自分で選んだ道です。あいつに何かしないでください!」

「いやいや、待てって。何か誤解してるな!」

リョウウンは微笑を浮かべる。

「ただ、本当に興味があるだけだって」

そう言って手元に持っていたライターを弄り、微笑みながらバイロインを見つめる

「実を言うとな...彼のあの粗暴さは、昔の自分を見ているようなんだ...」

バイロインは硬直する。

リョウウンの意思は本物のようだった。

 

_________________________

 

ラスト、特殊な言い回しでうまく訳しきれていないかもしれません!ごめんなさい!

もし解釈違いがあれば、いつも通り後日に訂正しますので!

それにしても、リョウウンはコロコロと印象が変わるキャラクターですね。掻き乱してるんか、何なのかは分からないですが物語を盛り上げる要員としては優秀ですね(笑)

 

:naruse

 

202006 追記:僕らの他にも翻訳を行なっている方がいるのは知っています。何度も言いますが、僕はまだ中国語を学習し始めて間もない雛鳥です。それで他の方との解釈の違いを見つけても「そういうものだ」とお好きな方で受け取ってください。

ちなみに、この章で「三ツ星レストラン」と訳している箇所がありますが、それは「你还去过咱在国贸的那套房么?」が原文になります。直訳すると「国貿のスイートルームに行った事がありますか?」になります。まぁ、素直に意味がわからなかったので僕なりな和訳をしましたが、おそらく遠回しな言い方なので直訳に近い意訳なり、個人の解釈を入れた和訳なり何通りもあると思います。というより、思わせてください(笑)