NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第44章:二人の意地

バイロインとグーハイの喧嘩は現在三日目。その間、お互いに連絡は一切とっていなかった。

今回の喧嘩の勝敗は、グーハイによって掴まれたバイロインの胃袋が先に根を上げるか、グーハイのバイロインに会いたいという衝動が抑えられなくなるかに掛かっていた。

喧嘩別れから三日目の午後、バイロインは研究室にある自分のデスクで空腹と闘っていた。「早くグーハイに電話しちゃいなよ!」バイロインの中の悪魔がそう囁く。「ダメだ!そんな事したら自分が悪かったって言ってるようなものじゃないか!」と天使が抵抗する。

正直、心の葛藤より空腹で鳴る胃の方が正直者だった。

「ロイン、出前でも取ったのか? お前宛に宅配が来てるぞ」

同僚の報せに緊張が走る。

戦闘機のテスト飛行でもここまで緊張しないバイロインだが、弁当が届けられたという事だけで、心臓の音が他人にも聞こえるのではないか心配するほど煩かった。

ーーいや。わざわざ運んで来たのに受け取らないのは、運んでくれた人に失礼だしな。俺は荷物を受け取るんだ...そうだ!そうなんだよ!

バイロインは己にそう言い聞かせながら、研究室の入口へと歩いていく。

食事を届けに来たのはコウジュンで、仕事が忙しい事を理由にして弁当を素早く受け取り、コウジュンに別れを告げて足早に去っていった。

弁当を抱えたバイロインは、研究室にいる同僚にバレないように、急いで宿舎の自室まで戻る。この前の一件以来、研究室にいる全員を信用出来なくなっていた。弁当箱を見せるだけではなく、匂いすらも嗅がせたくない。

部屋に戻り、食卓に座って弁当の蓋を開けようとする。

ーー中身はなんだろう!肉まんがいいよなぁ....

この前グーハイが手作りした肉まんを食べてから、あのジューシーな餡が忘れられないでいた。

胸を躍らせながら弁当の蓋を開け、呆気にとられる。

確かに中身は肉まんが入っていた。

しかし、その肉まんは立体ではなく平面。肉まんの写真が弁当箱の底に敷き詰められていたのだ。

写真を見る限り、この肉まんは前に食べたものと同じ、グーハイの手作り肉まん。その写真は全て齧られた状態で写されており、見るだけでも涎が垂れてくる。

自分の心を弄ばれたバイロインは、悔しさでその拳を固く握る。

無駄に厚みがあったため、不思議に思って弁当を逆さにすると、他にも美味しそうな写真が肉まんの写真の下に隠されていた。

全部グーハイの手作り料理であり、どれも美味しそうで今のバイロインには辛い状況だ。

「なんで俺が写真ごときに飢えないといけないんだ!」

今まで数々の困難を軍で経験してきた。そのどれもを圧倒的な才能と努力で乗り越えてきたのだ。しかし、その超人たるバイロインですら、グーハイの手作り料理には負けてしまいそうになる。

「ダメだ!!絶対に俺は屈しないぞ!!!」

 

 

グーハイは自宅で大量の料理を食卓に並べていた。そのどれもが美味しそうであり、宅配で家に訪ねてきた全ての人が、並べられた料理に目を奪われて、すぐには出ていかないほど豪華であった。

夜、また一人の宅配業者がグーハイの家を訪れる。

「すみません!グーさんのお宅でしょうか? 届け物がありますので、サインをお願いします!」

グーハイは業者から荷物を受け取り、部屋の中へと運んでいく。

「誰からだ?」

ダンボールに貼られているガムテープを切り取り、中身を見てみると、愛しいバイロインの香りが漂ってきた。

ダンボールの中には、バイロインのパンツやら靴下、シャツにズボンなど沢山の衣類が詰められている。その一番下には、衣類についていたのか意図的に入れられているのかは分からないが、バイロインのものと思われる毛も入っていた。

「この短さ....どこの毛だ?...まさか...!」

暫く会えていない反動からか、つい自分のものが反応してしまう。

心を落ち着けるためにベランダに出てタバコに火をつける。

深夜一時、口から吐き出す白い煙は夜の暗さと相まって、一層白く見える。

「道が一尺高ければ、魔物も一丈高くなるってか!クソが!」

ーー俺は田舎の子供にはならないぞ!絶対にあいつの所になんか行ってやるかよ!

これは意志の勝負で、グーハイも負けたくない思いが強くあった。

 

 

バイロインは空腹に耐えるため、早めに寝る事にした。

翌朝、再度同じように弁当が届くと、その中身は食べ物ではない別の写真が入っていた。

何枚かある写真を眺め、バイロインの表情は次第に険しくなっていく。

入っていた写真は、グーハイが会社の女性たちといかがわしい場所へ向かっているものや、無駄に接触しているもの。極め付けには、エンとキスをしてる写真まで入っていた。

実は、これらの写真は全部グーハイの自作自演だったのだが、バイロインを怒らせるには十分すぎるほどの効果があった。

「あの野郎!!」

バイロインは直接グーハイに会いに行って、文句を言おうと思い立つ。

急いで着替え、車まで走っていき、ドアを開けたところで、ふと我に返る。

ーー待て。これは罠だ。隠し撮りされた写真にしては随分と枚数が多過ぎる...俺が怒って会社に行くことを狙ってるのか!?

考えごとをしていると、一人の兵士が急いだ様子で目の前を通っていく。

「止まれ!!」

バイロインが声を張ると、兵士は緊張した面持ちでこちらを向いた。

「手に持っているモノは何だ?」

兵士がどこかソワソワしながら手に持っていたので、気になって聞いてみると「貰い物の靴下が入っているんです」と返事が返ってきた。

「開けてみろ」

バイロインがアゴでしゃくると、兵士はのろのろと箱を開ける。彼の言う通り、中には何足かの靴下が入っていた。

靴下だけが入っているにしては大きい箱を怪しみ、バイロインは靴下を取り出し、底を叩いてみる。

叩いた衝撃で、底が割れると中から洋服が出てきた。

「こ!これは付属でして!!」

「貰い物としての付属か?それとも、自分で買った靴下に付いてたのか?」

「じ、自分で買った靴下に景品で付いてきました!」

バイロインは思わず笑ってしまう。

どこのブランドかは知らないが、靴下なぞ大抵は二足で十元。それに対して、この服は倍以上の値段もする。

それに先ほど口にした“貰い物”と言う言葉と矛盾している。

ーーあと、その洋服は俺の物だしな...グーハイがやったのか...?

「その洋服は俺がもらう」

「えっ!?」

「なんだ、貰い物だってさっき言ってただろ?...なら、俺がもらっても良いはずだ」

兵士はバイロインに気圧され、固まっていた。

「駄目なのか?」

「い!いえ!」

兵士は機械的に首を横に振る。

バイロインは靴下だけを取り出し兵士の手に握らせると、箱を受け取って部屋へと帰っていった。

 

「グーハイの野郎!」

自分の作戦が裏目に出て、腹が立つバイロイン。

「今度はもっと凄いものを送りつけてやる!」

ある考えを思いつき、トイレへと入っていく。

心の中ではグーハイを憎んでいるが、今回の作戦の為には彼を頼らなければいけない。

バイロインはズボンを下ろし、自分のそれを掴む。グーハイのあの身体や甘いキス、そして大好きな顔を思い出しながら上下に扱く。荒い息が部屋の外まで響き、快感が絶頂を迎えた時、全身が小刻みに揺れて、その手に白濁とした液体がかかった。

バイロインはそれを袋に納め、一息ついてトイレから出ると、目の前に立っていた人物を見て息が止まる。

トイレから出てきたバイロインが、今まで見た事ないような表情をしているのを見て、グーヤンは思わず笑ってしまった。

バイロインは精液が入った袋を手から落とす。

「....いつから居ましたか?」

「お前がトイレに入った直後くらいからだな」

頭の中が真っ白になる瞬間を初めて経験した。いや、正確に言えば初めてではないが、少なくともこんな事で何も考えられなくなったのは過去に一度もない。

ーー死にたい。

じつは、グーヤンは最後の方しか聞いていなかった。トイレの方から声がすると思い、耳を澄ますと、中から喘ぎ声と「グーハイ」と言う言葉が聞こえてきたので全てを察したのだ。

ーーフン。このまま勘違いさせておくのも面白いな。

 

バイロインは汚れた手を洗い、グーヤンの元に戻ってくる。

「また何をしに来たんですか?」

「なんだ。お前が部隊の中で息苦しくないかと思ってな。息抜きに一緒に外に行こうと誘いにきたんだ」

正直バイロインは興味がなかったが、グーハイへの攻撃材料として使えるのではないかと計算し、その提案を受け入れる。

「なら、急いで外出申請をしないといけないですね」

二人は部屋の外へと出ていった。

 

途中、バイロインはグーヤンに問いかける。

「前にあなたにあげたメガネ。どうしてつけてないんですか?」

「車の中に置いてるさ」

「今すぐつけてください!」

バイロインから強めの口調で言われ、不思議に思いながらも車まで戻り、メガネを取って戻ってきた。

 

休暇申請をする為にリョウウンの部屋を訪ねる。グーヤンはメガネを掛けさせ、少し離れた廊下で待機させられた。

部屋のノックして中に入る。

「師長、休暇申請をお願いします」

「お前の今月分の休暇はもうないぞ」

書類から顔を上げず、下を向いたまま返事をされた。

「海因科技会社の社長からプロジェクトの協力について相談に誘われました。彼は忙しい中、時間を割いて訪ねてきてくれたそうです」

バイロインの口から“海因”と“社長”と言う言葉が聞こえてきて、顔を上げる。

「グーハイの会社か?」

バイロインが頷く。

リョウウンが席を立って外を見ると、少し離れたところにグーハイが立っている事に気づく。あの日見た、キラキラと光るメガネが脳裏をチラつく。

「早く彼の元に行ってあげるんだ。...そして、早く帰って来るんだぞ!」

リョウウンは先程までとは打って変わり、笑顔でバイロインの肩を叩く。

その目は “早く話を終わらせて、彼を連れてくるんだ” と強く物語っていた。

 

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✳︎道が一尺高ければ、魔物も一丈高くなる【道高一尺、魔高一丈】

中国の諺です。意訳(異訳)するより直訳して、こちらで解説しますね!

・元々は仏教の言葉で、修行者に外の世界の誘惑に用心するよう戒める事を意味する言葉でした。それが転じて現在では、主に「一つの事件、出来事が起こると、それを超すほどの大きな事件がまた発生する」と言うことの比喩で使われるそうです。

あまり良くない諺に分類されます!

 

*グーハイのセリフであった「田舎の子供」の箇所

・こちらも日本の生活ではあまり適当な翻訳を思いつかなかったので、ほぼ直訳しています。意味としては、中国の一人っ子政策の背景を受けて、子供を授かっても十分な教育を受けきれないからと、親元を離れて遠い田舎の祖父母に預けれる事があるそうです。(現在でもあるかは分かりません)それで、恋しくなった子供が親を求めて田舎から逃げ出すという状況を、グーハイなりの皮肉として表現されていると思います!

 

たまに意訳が上手くいかない。直訳しかできない!って状況になる時があります。(そもそも、僕は中国語を学び始めたばかりで精通していません)そういった場合は、自分なりに背景を考えて言葉を作るのですが、読みやすくする為に多少の文章変更はどうしてもしてしまいます(僕の力不足です)

一生懸命、翻訳していますのでどうかご容赦下さい。

 

:naruse