NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第134章:浅い眠りの中で

その日の深夜のことだった。バイロインの寝つきが悪いようで、ずっと寝返りばかり打っている。何度も大きな物音を立てていたため、グーハイは起こされてしまった。

グーハイがバイロインに声をかけるも全く起きる様子はない。とりあえず下にずり落ちてしまった布団をかけ直す。そしてベッドから落ちているバイロインの肩を引き戻す。

しばらくしてまたバイロインが突然動き出した。そして彼は目を開けている。

「…どうした?寝れないのか?」とグーハイが質問する。

バイロインはそれには答える様子はなく、呆然としているかのような表情で目の焦点が合っていない。布団の中でしきりに手を動かしており、まるで何かを探しているかのようだった。

ーー…ん?夢遊病か?

グーハイはバイロインの様子が可笑しくて、バイロインの頭を撫でる。

しかしバイロインの目には恐怖と焦りのようなものが滲んでおり、強く睨むような表情をしている。その表情はとても険しく、ちょっと見ただけで人をびっくりさせられるほどだ。

そして急にバイロインは体を起こす。いくつかの前髪の束に寝ぐせのようなものがついておりユニークな弧を描いて跳ねている。

「ベイビー、一体なにを探してるんだ?」

返事はない。グーハイはとりあえずバイロインを押さえつけて寝かせる。

バイロインは目を閉じて眉をひそめている。表情には焦りが浮かんでおり、小声でぶつぶつと二、三言つぶやく。しかしその声は小さくグーハイにはよく聞こえなかった。

しばらくすると横になっていたバイロインの手がまた布団の中で大きく動きだし、グーハイの腹を打ってきた。

ーーおいおい…一体どうしちまったんだよ?

グーハイは心の中で不思議に思いながら、布団の中を手探りでバイロインの肩を探し、なだめるように優しく叩いた。するとバイロインの様子が少し落ち着いたため叩き続けた。次第にバイロインの呼吸の乱れが収まっていく。

グーハイがバイロインの肩を叩く手を止めるとすぐにバイロインに掴まれてぎゅっと握ってきた。

自分の手を握りしめているバイロインをグーハイはしばらく静かに見つめる。そしてバイロインに優しく囁く。

「インズ。俺はここにいるからな」

それを聞いてバイロインの体は一瞬で緊張が解けたようにリラックスする。そして小さな声で「うん」と言って落ち着いた様子で眠りについたようだった。

グーハイはそんなバイロインの様子を見て心に重い痛みを感じる。バイロインがこんなにも自分のことを必要としていたことに気づくことができなかった。

ーーなんで俺はもっと早く気づいてやれなかったんだよ…

もう少し自分が辛抱し、信用してさえいればそもそもこんなことにはなっていなかった。まだこれ以上に何かお互いを傷つけることになってしまうのではないかと不安で仕方なかった。

グーハイは自分の行いを猛省している。幸いにも今、自らを改める機会を得られたのだ。まだ遅くない。二人はこれからまだ長い道のりを共に歩んでいくのだ。グーハイはバイロインをこれからも長く愛し続けるのだ。

グーハイは指でバイロインの頬を優しく撫でる。そして一生懸命にひたすらバイロインを見つめ続ける。どんなに見つめても決して足りることはない。そしてそれは瞼が重く、支えることできなくなるまで続いた。

 

 

二人はすっかり安心しきって熟睡していた。そして翌日の午後までひたすら寝ていた。二人はここ一か月間ちゃんと寝ることができていなかったのだ。今日やっとこんな機会を得て、二人は思う存分寝ていた。

 グーハイが先に目を覚ます。目覚まし時計を持ち上げて見てからまた元の場所に戻す。

グーハイの動きでバイロインは目を覚まし、うとうとしながら質問する。

「今…何時?」

「あぁ、起きたか?ちょうど四時だ」

グーハイはそう答えてバイロインの脇から腕を通してゆっくりとバイロインを抱き寄せる。

バイロインはまだ眠そうな目を細めながら外を見てつぶやく。

「なんでまだ四時なのに、こんなに明るいんだ…?」

「雪が降ったのかもな」

”雪が降った”という言葉を聞いてバイロインの眠気はより一層強くなる。雪が降るような寒い時は眠くなるし、そんなときは寝るしかないのだ。

ーーもうひと眠りだ…!……

 

 

 午後六時過ぎ、グーハイはまた窓の外を見る。

ーーうわっ!もう真っ暗じゃねぇかよ!なんでこんなに寝ちまったんだ?

想像を絶するほど熟睡していたため、さすがにお腹が空いてきた。しかし温かい布団から出るのも億劫でグーハイは気づくとさらにまた寝てしまった。

 

 

そして最終的にバイロインがトイレに行きたくなって目を覚ます。布団から出て、窓の外を見てみると空は真っ暗だった。

バイロインは自分が随分と長く寝ていることに気づいていた。その間色んな夢を見ていた。

ーーん?なんでこんな暗いんだ…?

バイロインは布団に潜り込んで目覚まし時計を確認すると”八時”を過ぎていた。朝の八時にこんなに暗いはずがない。たとえ曇りだとしても暗すぎる。

突然嫌な予感がして急いで携帯を取って時間を確認する。

”20:26”

もうすでに夜になっていたことに気づかず、ただただひたすら寝てしまっていた。隣の呑気な”バカ”に目をやると、バイロインよりも気持ちよさそうにぐっすりと眠っている。

バイロインは枕に頭を置く。グーハイの寝ている様子を見てなんだか少し腹が立ち、ジタバタする。そして我慢してなんとかまた寝れないかと試みる。さすがに今起きてしまったら昼夜逆転してしまい、夜寝ることができなくなってしまう。自分の体内時計を狂わせたくなかった。

 

 

夜中、グーハイが目を覚ます。一日中一切食事を取っていなかったため、さすがに空腹に耐えることができず、バイロインのことを起こさないように泥棒のようにこっそりとキッチンに行く。しかし、いざ冷蔵庫を開けてみても何も食べるものが入っておらず、思わず目を見開く。

どうにかキッチンにある食糧をかき集めて、煮込んで適当に調味料を入れてザーサイもどきを作った。それはかなりお粗末な物であったが、人はお腹が空けば何を食べたとしても美味しく感じるものだ。

バイロインが目を覚まして、隣にグーハイがいないことに気がつく。物音を頼りにキッチンに行くとグーハイがガツガツと料理を駆け込んでいた。

最後の一口を食べ終えスープを飲もうとしているところでキッチンの入り口にバイロインが見えた。

バイロインは目を細めてグーハイを見つめている。

「…俺にもくれよ」

グーハイの喉仏がゴクリと動き、元の位置に戻ってきてからグーハイは口を開く。

「全部…食っちまった」

バイロインは思わずうなだれて苦しそうな表情を浮かべる。

グーハイはとてもバツが悪そうにする。

「お前も腹空かせてるって気づかなくて…腹減って目が覚めたから…えっと、お前も腹減ってたって気づいたら一杯残したんだけどよ…でももうすぐ朝になるし、我慢してくれよ」

もうすでに一日中我慢していたバイロインは酷く落ち込んだ顔をして寝室に戻る。

そんな様子のバイロインにグーハイが我慢できるわけもなく、グーハイはすぐに服を着替える。そして真夜中に車を飛ばして色んな場所を探し回り、なんとか二十四時間営業のファーストフード店を見つけた。そしてこれでもかというほどの料理を買ってバイロインに持って帰った。

 

 

翌日の朝、正確には三日目の朝だが、グーハイはバイロインを軍の基地に連れていく。

二人は二十時間以上寝ていたので、完全に体力がみなぎっており、軍服を着て隊列の中に入れば、その辺の兵士には引けをとらないほどだ。

バイロインはグーハイの後を着いていき、基地の中にある彼の寮に向かっていた。途中、道ですれ違う兵たちが皆グーハイに挨拶をする。するとある兵士がわざわざ立ち止まり、バイロインのことをジロジロと見てグーハイに質問してきた。

「あの、こちらはどなたですか?」

グーハイはそれを聞いてその兵士のふくらはぎを蹴飛ばし、怒鳴り声をあげる。

「お前に関係あるのか!?仕事しろ!」

それを聞いた兵士はハッと息を呑む。そしてバイロインを意味深な態度でチラッと見て、申し訳なさそうにそそくさとその場を離れていった。

バイロインはグーハイのあまりにも横暴な態度を見て、わざと自分の前でカッコつけているのだと思い、グーハイのことをからかう。

「お前…本当に少将の息子だったんだな」

「いや…アイツのお前を見る”目つき”、気づかなかったのか?」

グーハイの表情いたって落ち着いている。

バイロインはまったく気づいていなかった。

グーハイはバイロインの後頭部を指で軽くつついた。そして真剣に話し始める。

「バカ野郎、ちょっとは気をつけろよ。ここにいる連中の十人に一人くらいは”ある変化”が起きちまうんだよ」

その”変化”の意味にバイロインは気づき、声を荒げる。

「…じゃあお前、なんでずっとここにいたんだよ!」

グーハイはバイロインの質問に答えず口をつぐんでいる。バイロインが続けて話す。

「別に…俺はお前のこと、まだ怒っているわけじゃないんだ」

「ん?じゃあ、もしかしてその”変化”のことを心配して怒ったのか?」

「お前…」

バイロインが何か言いかけたところ、グーハイは突然ニヤニヤしながらバイロインのお尻を軽く叩いた。

「インズ、安心しろ。俺はお前以外じゃ勃たない」

二人はそれからちょっと騒いだ後、グーハイが基地にいたときに使っていた部屋に到着した。

「入ってくれ」

グーハイがバイロインを部屋に入れる。

中に入ると、バイロインは部屋中をさっと眺める。中は綺麗に片付けられており、床には紙くず一つ落ちていない。ベッドもまるでホテルかと思うくらい綺麗にされており、シーツはピンと張り、しわ一つ付いていない。

家のベッドの状態とはあまりにもかけ離れており、思わず心の中ですすり泣く。

ーーこいつは軍隊でこんなに厳しく生活してたのか…?

グーハイはバイロインの表情を見て彼が考えていることを察してすぐ説明を始める。

「他の兵が掃除してくれるんだ」

バイロインは何か考えて頷く。

「その人…俺たちの家に連れて行ってもいいか?」

「お前…この!」

グーハイは部屋にあった銃を手に持ち、バイロインの頭に向ける。しかし実弾を詰めていたかどうか思い出せず、グーハイは内心とても冷や冷やしながら慎重に持っている。

バイロインはグーハイの手に握られている本物の銃を見て思わず興奮する。グーハイの手から奪い取り、生まれて初めて触る銃を真剣に眺める。そしてちょっとしてから窓に向かって構え、引き金を引いた。

”バァン!”

”バリィン!”

ガラスに突然蜘蛛の巣のような割れ目が現れた。

グーハイは部屋の荷物をまとめていたところ、突然の爆音に驚く。

ーーやっぱ弾入ってたのか…

幸いにもバイロインの標的が自分では無かったことにホッとしていた。

バイロインを見ていると彼はなんと銃口の中を不思議そうに眺め始めたのだ。思わずびっくりしたグーハイは飛び跳ねてバイロインのもとに飛んでいき、急いで銃を取り上げる。装填されていた弾をすべて抜いて、バイロインに向かって話す。

「本物の銃で遊ぶなよ。後でもっとちゃんとした銃をやるから我慢してくれ」

「いや、いらない」

バイロインはそう言ってから足を叩いて立ち上がり、部屋中を見回している。

「なんでいらないんだ?」グーハイは聞いた。

バイロインはいやらしく笑みを浮かべて答える。

「いつか我慢できなくなったら、俺がお前に”銃”をくれてやる」

 

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※中国の”バカ”の表現 

日本では「サルにでもわかる」といったように嫌味でバカにする際、サルを用いることがありますが、中国の場合は「豚」を使います。やっぱ国が変わると表現も様々になりますね。ただ中国の「豚」の扱いは縁起物とされることもあり、使い方によってニュアンスが分かれるみたいです。

 

いや最後下ネタやないかーい!

インズがグーハイにセクハラするのって結構貴重な気がします。ありがとうございます。

 

:hikaru