NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第54章:夫婦は実家へと帰る

バイロインの実家へと向かう車内、後部座席にでかい態度で座るバイロインの方を向く為に後ろへと忙しく何度も首を捻る。

「なぁ....なに買っていったらいいんだ?」

「買うぅ〜....?」バイロインは目線を斜にして思慮する「何も必要ないだろ」

「それは駄目だ!...俺はもう大人で社長なんだぞ? あの頃は学生だったから手ぶらで邪魔しに行っても許されたんだ。今じゃそんな事できないだろ」

グーハイの配慮に口元を軽く緩める

「でもなぁ、お前のその厚かましい態度が親父の頭には根強く残ってるだろうからなぁ...」

「冗談言うなって!」ハンドルでリズムをとるグーハイの指が、テンポを早める「お前も考えてくれよ!...早くしないと買える場所がなくなっちまう」

バイロインはグーハイの為に真剣に頭を悩ませる。しかし、結果は雑に思慮していたさっきと変わらない答えが弾き出される。

「やっぱり何もないだろ」

「親父さんが好きなものとか知ってるだろ?」

「あー、確かに。一つだけあるな」

「何だ!?」

グーハイは小刻みに顔を上下させ、バイロインにその答えを急かす

「....孫だよ」

グーハイは思いもしなかった答えに驚いて急ブレーキをかけると、そのまま道端に車を停める。

「俺らの間に子供が出来たのか!?」

グーハイの薄い唇から綺麗な白い歯が姿を晒す

「.......は?」

「そうかそうか、なら服を買ってやらないとな。子供は成長が早いよな...とりあえず買えるだけ揃えておくか」

バイロインの渾身の『は?』を無視して、グーハイは笑顔のまま自分の世界に入っていく。

「何考えてんだよ。...お前が卵でも産んで孵化させるのか?」

皮肉に対しても笑顔を保ったままバイロインの方を向き、その顔とは正反対の毒が塗られた言葉の矢を放つ

「何だ?お前の家系は孵化させて子供を産むスタイルなのか?」

「お前…ッ!」

バイロインはすぐに拳を握ってグーハイに襲い掛かる。

車内でも激しい攻防をする二人は、側を通る通行人が二度見するほど車を揺らしていた。

「待て待て、分かったから落ち着けよ」

グーハイはバイロインの腕を掴んでシートへと押し倒す。

「冗談に決まってるだろ?...ったく、せっかく整えた髪が崩れたろ」

掴まれていた手を振り解き、バイロインは身なりを整えながらドアノブに手をかける

「降りる!」

グーハイもルームミラーで乱れた髪を手櫛で整えながら、間延びした声で制止する

「降りてどうすんだよ?」

「別に拗ねて出ていくんじゃない、買い物に行くんだ。ほら、あそこにデパートが見えるだろ?そこで親父の洋服を買おうぜ」

グーハイは了解の返事をして二人は車から降りる。

「親父、まだ俺のお下がりを着てるからな。新しいのを買い与えなきゃ、自分で着ようともしない」

「親父さんはまだお前の服を着てるのか!?」

今の生活になっても昔のような事をしている事実に思わず声を張ってバイロインを見てしまう。

「俺らは下民の出だからな、昔の癖が未だに抜けないしお金を持ったとて必要としないんだ。...お前ら上流階級の奴らとは考えが違うんだよ」

バイロインは露骨に皮肉を口にする。すると、グーハイは思い切りバイロインの後頭部を平手で叩く。いい音が空に吸い込まれていく。

「下民の出?上流階級??....何だ。お前はその上流階級とやらの俺の資本を狙って股を開いたとでも言いたいのかよ?」

「... ...。」

グーハイにとってバイロインに関係する卑下は許されないもの。それが例え、本人の口から出た言葉だったとしてもグーハイにとっては怒りの対象になる事を知った。

 

 

 

二人はデパートに入って、男性のブランドエリアに直行する。

エリアに入ってすぐに目についたスーツを指差し、バイロインにあれはどうだ?と確認をする。

 「そうだな。俺の親父には似合わないが、お前の親父には似合ってるんじゃないか?」

「そうか、じゃあ要らないな」

次の箇所へ移動しようとするグーハイの腕を咄嗟に掴んで行動を阻む

「何だよ?」

「待てって。あれ、買おうぜ」

「お前が似合わないって言ったんだろ?何でそれをわざわざ買うんだよ」

グーハイは矛盾する言動に苛つき始める

「お前の父親は、俺の父親でもあるだろう?」

バイロインの考えにグーハイの雰囲気は温かくなる。

バイロインに引っ張られるままそのスーツの前まで歩いていくと、自分の父親と服のサイズがあっていた事にグーハイは思わず笑ってしまう。

「何でお前がサイズを知ってんだよ?」

「知らん。直感だ」

口ではそのように言うが、バイロインには彼のサイズを前から把握していた。

以前、地方で任務をこなしていた時に偶然 そこで会議をしていたグーウェイティンと出くわし、折角だからと一緒に食事をしたことがあった。その際、用を足しに席を立ったグーウェイティンは椅子にジャケットを置いたまま出ていったので、そこで彼のサイズを偶然知り得たのだ。

いつか役に立つかもしれないと頭の隅にインプットしていたのだが、不思議な事にその記憶の対象がグーハイに変わると、意識しなくても全てインプットできてしまうのは内緒の話だ。

「で、これはどうなんだ?」

バイロインはグーハイの顔を窺う。グーハイは眉を捻って顎に手を当てていた。

「少しジジ臭くねぇか?」

「でも、彼はもう五十だし...あまりお洒落なデザインをプレゼントしても、着てくれないんじゃないか?」

「...確かにそうだな。よし、これでいいと思うぜ」

「なら試着してきてくれ」

「は?何で俺が?」グーハイは片眉を持ち上げる「これを着るのは俺じゃなくて、親父だろ?」

「そうだけど、もしサイズが違っていたら悪いだろ? ほら、俺じゃ体格が違いすぎて参考にならないから、肩幅も近いお前に頼んでんだよ」

なるほど、と理解したグーハイは試着室へと歩いて行き、カーテンの向こうへと姿を消した。その間、バイロインは暇そうに周囲をうろちょろと歩き回り商品を見ていたが、ふと顔をあげた瞬間に懐かしい友の顔が視界に入り破顔する。

「ヨウチー!!」

そう遠くない場所に立ち洋服を見ていた大柄な男は、掛けていたサングラスを少し下にずらして自分の名前が聞こえた音の発生源を見つめる。

手を大きく振ってこちらに笑顔を向ける男性の姿を捉え、その目を何度も擦って目を細めていた。

「バイロイン...??」

「ヨウチー!!」

二人はお互いに駆け寄ると本当に久しぶりに抱き合った。

「インズ!どうしてここにいるんだ?!」

後ろを指差しながら「親父の服を買いに来てるんだ」と旧友は話してくれた。

それと同じタイミングでグーハイが入っていた試着室のカーテンが開く。

「インズ、どうだ?」

こちらに背を向けて鏡に映る自分の姿を確認するグーハイ。まだヨウチーの存在が知られていないようだったので、バイロインはヨウチーの袖を引っ張りながらゆっくりとグーハイに近づいて行く。

「おじさん、お久しぶりですね!」

後ろから聞こえてきた声はバイロインのものではなく、しかもやけによそよそしい言葉遣い。グーハイは奇妙に感じて後ろを向くと、そこには高校時代の友人が立っていた。

「ヨーチー!...何だ、やけに他人行儀だな?」

「お前は相変わらずみたいだけどな!」

グーハイは試着していたジャケットを脱ぐと、バイロインにそれを受け渡す。

「サイズ合ってたし、会計してくるな」

そう言うと、レジに向かって歩いていった。

「今もあいつと一緒にいるのか?」

ヨウチーが声を落としていきなり聞いてくるので、バイロインも少しごまかしながら相槌を打つ。

「ああ、少し前に連絡をもらってな」

曖昧な返事に頷きながらヨウチーはバイロインの格好を見て驚く。

「お前...!!」

「ああ、今は軍で働いているんだ。...それと、一応パイロットでもある」

バイロインは隠さずに現状を告げる。そもそも、隠す必要があったのはグーハイだけであり、基本的に聞かれたら誰にでも自分の職業は話していた。

「かっこいいな!」軍の中でも難しい役職なだけにヨウチーは素直に驚く「階級は何なんだ?」

「...少佐だよ」

「まだ若いのに少佐なのかよ?!」

ヨウチーは先ほどからバイロインの言葉に驚いてばかり、そして彼の隣に立つ男性もバイロインのことを感心したように見つめていた。

「あ、そうだ、紹介し忘れていたな。こちらはマネジャーのマさん」

そう言ってヨウチーの左隣に立つ中年の男性を紹介する。

「どうも」「はじめまして」お互いに挨拶を交わし、マネージャーの方から差し出された手をバイロインは遠慮がちに握った。

「俺も久しくメディアに触れてないから忘れていたけど、そっか。お前ももうスターになったんだな!コンサートとかあるか分からないけど、あったら俺に連絡してくれよな?」

バイロインがそう言うと、ヨウチーは思い出したように鞄の中を探ってチケットを一枚取り出す。

「ちょうど良い、最近俺は映画の撮影をしたんだ。その試写会を今度やる事になってさ、余ってたし関係者の入場券を渡しておくよ。二日間あるから時間がある時にでも見にきてくれないか?」

「お前が出演しているならもちろん見に行くさ」

話がひと段落ついたかと思った時、後ろから会計を終えたグーハイの声が近づいてきた。

「俺にも一枚もらえないか?」

ヨウチーは頭を掻いて「あったかな」と呟いたが、グーハイの鋭い視線に怖気付き 鞄の中に手を入れてチケットを取り出す。

「も、持ってたや!ほら、お前にもやるよ」

そう言ってチケットを渡すと、隣で大人しくしていたマネージャーのマさんが突然口を開く。「こちらはグーハイさんですよね?」

相手は自分の名前を知っている様子だが、こちらは見覚えがない。それでもビジネスとして培ってきたスキルで、咄嗟に笑顔を作って相手の手を取った。

「知り合いだったんですか?」

ヨウチーが不思議そうにマネージャーの顔を見る。マネージャーはただにっこりと笑い「彼の名前はよく耳にしますので」とだけ 口にする。

四人はしばらくの間 談笑していたが、時計を気にし始めたマネージャーの合図で今回はお開きとなった。

「ごめんな、この後予定が入ってるんだ。ゆっくりと話すのはまた今度でも!」

そう言って自分の名刺を二人に渡す。

「急いで行きましょう!」

マネージャーに急かされるようにしてこの場を去って行く二人。その後ろ姿を見てバイロインは感慨深そうに呟く

「ますますかっこ良くなったな」

「ああ……」グーハイの声色はどことなく冷たい「人とは思えないほど素敵になってたな」

若干拗ねたような大男の顔を覗き込み、バイロインは笑顔をつくる

「さ、俺らも行こうぜ! 家でお前のお兄ちゃんが待ってるからな」

「お兄ちゃん?」

不思議そうな顔を浮かべるグーハイに、バイロインは短く笑う

「お前の字はおじさんみたいだから、俺の親父と同じ年代だろ?」

「じゃあ お前はどうなるんだよ?」

「… ...ハハッ」

別に話を広げる気はなかったようだった。

 

 

二人はツォおばさんには服を、トンテンには何を買うべきか分からなかったので、適当にタブレットを買って帰る。

家に帰る頃には、あたりは暗くなっていた。

チャイムの音を聞いて、バイハンチーは急いでドアを開けに室内を駆けていく。

「来たか!」

グーハイはあの婚約パーティー以来にバイハンチーと会ったが、あの時と今とでは全く違う気持ちでその顔を見つめていた。

 

「おじさん」

 

バイハンチーは激しく心が揺れる。彼にそう呼ばれるのは何年ぶりだろうか。自分の息子と一緒に、自分の家に帰ってきた二人目の息子だ。思わず目頭が熱くなる。

「....早く入りなさい」

バイハンチーは顔を隠すように背を向けて二人を家の中に招き入れた。

 

 

四人はソファーに座ってポツポツと会話を続ける。

グーハイは自分で何を話したら良いのか分からずにずっと受け身になっていた。それも仕方がない、もう何年も会っていなかったのだ。それに、今はもうあの頃のようなやんちゃな子供ではない。

ツォおばさんはずっとグーハイの顔を見て笑みを浮かべていた。

「アイヤー、あなたが家に来て食事をしていたのを今でも覚えているわぁ。一人で六杯のジャージャー麺を食べたのに、庭をちょっと散歩しただけで『お腹がすいた』だなんて言うのだもの」

グーハイも笑みを浮かべる

「今でも、作ってくれたら六杯くらいは食べられますよ!」

その言葉を聞いたツォおばさんは興奮して椅子から立ち上がる

「じゃあ、早く作ってあげなきゃね! 今夜はジャージャー麺にするわよ!」

バイハンチーはグーハイの顔を見て、流れるようにバイロインの顔も見つめる。

 

「二人は、“二人で”大人になったんだね」

 

「ん? 親父、何か言ったか?」

「ああ、言ったよ」鋭い親としての視線が突き刺さる「お前は一年の間に何回家に帰ってきた?私があと何年生きられるか考えたことはあるのか?どんだけ多く見積もっても、もう昔のように穏やかな気持ちでお前と離れて暮らせないんだよ」

 

心の痛む話にバイロインは表情を暗くする。グーハイもまた、同じような気持ちを抱いていた。

「おじさん、部隊は自分たちですらどうなるのか分からない場所なんです。こいつはもう長いこと勤めているし、もしかしたらあと数年後、俺が何とかして前線から引き抜けるかもしれないですから」

バイハンチーの瞳が微かな希望に輝く

「本当かい?!」

「親父、こいつの話は当てにするなよ。そんなこと出来るなら俺が自分で先に言ってるだろ?」

「お前の話の方が当てにならないさ!...ダーハイを見てみろ、少なくとも彼はこの数年間で大きな変化をしたし、お前と違ってとても落ち着いている」

確かに、バイロインは昔 相談もせずに家を出ていった。

バイハンチーはグーハイに視線を戻し、申し訳なさそうな罪悪感で溢れる表情をする。

「ダーハイや、私はわざと君を騙したんじゃないんだ。あの日、君がうちを訪ねた時には『バイロインは死んだ』と嘘をつくしかなかったんだよ....すまない。...君が帰った後、その後ろ姿を思い出したら一晩中泣いていたのも事実だ....」

グーハイは慌ててその年老いたシワの多い、それでも男らしい手を両手で握る。

「おじさん、あなたのせいではない事くらい分かっています。この件は少し複雑すぎた」

バイロインは顔を下に向けて沈黙を決め込んでいた。

グーハイは雰囲気を変えようと、ふざけてバイハンチーに尋ねる。

「そういや、その時作ったインズの位牌と遺影はまだ残っているんですか?」

バイロインは咄嗟に顔を上げる

「は?!位牌と遺影?!そんなもの作ってたのかよ?何で本人である俺がそれを知らないんだ?!」

バイハンチーは温厚に笑う

「それは お前が家に帰ってくるたびに隠していたからだな」

「それ以外は毎日飾っていたのかよ?!」

バイロインは動揺が隠せていない。

「毎日じゃないさ、土曜日だけだ。タンスの中で湿るのが嫌だったから、日曜日は天日干しもしていたね」

「そんなものまだ残しているのかよ?!」

バイロインは自分の父親を責め立てる

「捨てるのはもったいないだろ? あの大きな額縁はしっかりしているし、お前の写真も捨てたくない。そうさ、ポートレートとでも思っていればいい。今の若い人たちは白黒写真も面白がって撮るのだろう?」

バイロインの血管が浮き立つ 

「どこの家に遺影とポートレートを一緒にする奴がいるんだよ!!!」

「ブホォ!!!」

バイロインの怒号に思わず口に含んでいたお湯を噴き出してしまうグーハイであった。

 

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マネージャーのマさんは、馬龍(マー・ロン)さんと同じ馬/马さんです。固有名詞の読み方は人によって変わる場合もあります。例えば、グーヤン。今更ですが、グーヨウでも良いみたいですね。(いいわけではないと思いますが、日本語でも同じ漢字で読めない読みの名前とかありますよね、そんな感覚です)

  

・僕らの利点は無料で誰でも翻訳を読めること。なのでこのブログのスタイルこそ変えませんが、他の翻訳ツイートや翻訳動画は全て限定公開とかで更新しようかなぁと考えています。

恥ずかしかったので、大部分を削除。重要箇所だけを残しておきました(笑)

 

:naruse