第141章:後遺症
バイロインはここ数日間、グーハイの様子がおかしいことに気づく。
この違和感の原因は普段の生活の至るところから来ていた。
以前まではグーハイはネットで動画を見るようなことはなく、いつもゲームをしてから寝ていた。だが今では頻繁に徹夜をしてまで動画を観るようになった。
以前まではグーハイが先にベッドに入って布団を暖めてからバイロインはベッドに横になっていた。だが今では殆どバイロインが先にベッドに入っていた。ある時なんかはバイロインが寝るまでグーハイがベッドに来ないこともあった。
以前まではグーハイは携帯を触るのが嫌いだった。だが今では頻繁に触っている。授業が始まる前、授業が終わった後、歩いている時ですら触っている。
以前まではバイロインが風呂に入っていると何かと口実をつけて一緒に入ってバイロインの身体を洗っていた。だが今ではバイロインはおとなしく一人で自分の身体を洗っている……
そしてバイロインにとって最も理解ができないこと。以前は欲で溢れていたグーハイが、ここ数日間はその素振りを全く見せないのだ。
食事の時も下ネタを言わなくなったし、寝る時だっておとなしい……
バイロインは心の中でつぶやく。
ーーまさか俺に興味が無くなったのか…?
ーーいやいや、あいつに限ってそんなわけない!
ベッドので寝ているこの”塊”は、とても面の皮が厚く、意志は絶対的に強いのだ。
たとえ”きゅうり”が無くても。”菊の花”が使えなくても気にもしないはずだ。
あの寝たきりだった数日間のことをもう一度考える。バイロインはとても難しそうな顔をしながらあれやこれやと考えている。
ーーもう身体が回復するのを待つ理由がないってことなのか?
バイロインのような血気盛んな若者にとって、ここ数日間は非常に苦痛だった。
ご飯を食べ終わり、グーハイは近くで真剣に宿題をやっている。目を細めながら指を折りながら数えている。
その様子からグーハイは数学の宿題をしているのだと思ったが、近づいて見てみると英語の単語を書いていた。
ーー英語を書くのに何を計算してるんだよ?
バイロインは宿題をすぐ終わらせて、着替えを持って浴室に向かう。どうせグーハイも入ってくるわけではないと思い、風呂場のドアは開けたままにする。
バイロインが風呂から出てくるとグーハイは宿題を中断してパソコンの前に座っていた。目はパソコンの画面を見つめて、瞬き一つさえしていない。
バイロインが近くに寄ろうとするとグーハイは素早く何回かクリックする。そしてバイロインが画面を見たときにはデスクトップ画面のツルツルした綺麗なテーブルの壁紙が表示されていた。
ーー何か悪巧みでもしてるのか?
バイロインはグーハイから離れた場所でゲームを開いて質問する。
「俺も一緒にゲーム手伝おうか?」
グーハイはわざとらしく笑い声をあげて、しどろもどろに答える。
「い、いや…大丈夫だ」
その様子にバイロインは手を止めて、疑いの眼差しをグーハイに向ける。
ーーゲームよりも夢中になる物ってなんだよ?
バイロインはしばらくゲームをしていたがつまらなくなってパソコンの電源を消した。
グーハイはもうパソコンから離れて一人でソファーに座っている。携帯を触りながら時々画面を何度か触って楽しそうな様子だ。
こんな状況がここ数日間、何度も続いた。そしてこの間に、バイロインがグーハイからメールを受け取ったことは一度もなかった。だからこそ、この男が携帯を見ながら嬉しそうにしているのは自分とは無関係だと悟った。
ついに今日、バイロインが質問する。
「お前いつ寝るんだよ?」
グーハイはしばらく考えた様子で固まる。そして答える。
「…わからない」
「何をそんなに夢中になって見てるんだよ?」
そう言いながらバイロインが近づく。
グーハイは慌てて携帯を置いて立ち上がり、笑いながら答える。
「い、いや…別にただ見てただけだ」
そう言い終えると、グーハイは携帯を置いてお風呂に入りに行った。
こうなれば誰しも好奇心に駆られる。それはバイロインも例外ではない。グーハイが毎日あんなにも楽しそうにして見ているものの正体。バイロインは知りたかった。一体何がグーハイをこんなにも病みつきにさせているのか。なにがあのチンピラの習慣を変えてしまったのかを。
グーハイのパソコンはまだ電源が入っており、先ほどまで使っていたため記録もほとんど残っているはずだ。グーハイのバイロインの性格上油断しており、勝手に見ることはないだろうと高を括っていた。
しかし、今日のバイロインは今までとは違うのだ。
バイロインは早速グーハイのパソコンのネットの閲覧履歴を開く。色々な種類のページが開かれていた。
チャットルーム、SNS、掲示板、観光、ショッピング、自動車……
ーーこんなものであんなに夢中になるわけないだろ?
バイロインは閲覧履歴の中でも頻繁に開かれているページを見つけて開いてみた。
どうやら欧米の有料ビデオのようだ。バイロインはイヤホンをつける。
しかし一分もしないで見るのをやめ、イヤホンを抜き取りページをすぐ閉じた。
これと似たようなビデオの履歴がいくつかある。比較的ライトな物だ。その殆どは教育的なものだ。
とても分かりやすく撮影されており、字幕で説明がついており、具体的なテクニックと手順を紹介しているページもある。
ーーグーハイ、お前いつからそんな癖が…動画見ながら自分で処理しているのか?それともどこかで実践するため…?
バイロインは不安な気持ちになって、グーハイの携帯を手に取る。
久しぶりに見るため、グーハイが誰にメールをしていたか知らなかった。彼がチャットにログインしていたことにも気づかなかった。そしてついにグーハイの購入した電子書籍のページを見つける。
その中には百冊近くの本が保存されており、読書進行度を確認するとほとんど多くの本が最後まで読まれていた。
≪男同士のセックスコレクション≫
≪犯している男にうめき声を上げながら許しを求められたいか?≫
≪射精の虎の巻≫
≪雄の獲物を一匹捕獲≫
≪男のお尻千万図鑑≫
…………
バイロインは冷や汗をかき、強い恐怖を感じて戦慄していた。
グーハイは一人楽しそうに浴室で口笛を吹いている。とても気分が良さそうだ。もう機は熟したと考えているようだ。
グーハイがここ数日間苦労を惜しまず熱心に勉強していたのは全てこの日のための準備だったのだ。
このためにグーハイは多くの対価を払った。これはとても精神的にキツイものであり、肉体的にもまさに試練である。
普通の男として、グーハイはあの類のビデオを見ることには少し抵抗があった。しかし、バイロインのためだ。そのためには我慢だってできた。
どうしても見ていられない時は書いてあることだけを読み、注意事項を肝に銘じた。
そして今日、グーハイの苦労は無駄ではないと証明される。
数日間の夜の鍛錬を通して、彼は身体中に力が漲っていると感じている。そして自信満々な様子で髪をかき上げる。
もう苦しい日々もこれで終わりを迎える。我慢をする必要はもう無くなったのだ。もう浴室の中で一人で処理する必要はないのだ。
下半身の”ちびグーハイ”はすでに数日間戦い続けていた。今、臨戦態勢に入り、これから新たな日々を迎える。
踏み出し、新たな勇者が誕生する!
グーハイは自慢の筋肉を纏い風呂場のドアを開ける。履いているスリッパが床と擦れる。まるで自分を奮い立たせる鼓の音のようだ。
グーハイは大股で寝室に行ったが、バイロインの姿が見えない。リビングに行くも見当たらない。物置、フィットネスルーム、書斎、バルコニーも見て回る。
しかしどこにも彼の姿はない。
グーハイの闘志は次第に冷めはじめる。
玄関のドアを押すと鍵が開いていた。
ーーおい、アイツこんな遅くにどこ行ったんだよ?
バイロインは慣れない運転の中、猛スピードを出して命がけで実家に帰っていた。
もう深夜の十二時近くになっており、家族は皆眠りについていた。
急いで飛び出してきたため、実家の鍵は持っていなかった。仕方なく、バイロインは壁をよじ登り家に侵入した。
アランがバイロインのにおいに気が付きワンワンと吠えた。
バイロインはバイハンチーの部屋に直行して窓ガラスをドンドンと叩いた。
しかしバイハンチーはいびきをかきながら起きることはなく、ツォおばさんがパジャマ姿で出てきた。
「インズ、なんでこんな夜遅くに帰ってきたの?」
バイロインは焦った様子で答える。
「おばさん、もしグーハイが電話してきたら”家が大変なんだ”って言ってくれ」
「え?やだ、何かあったの…?」
ツォおばさんはそれを聞いてパジャマの上から両手で胸を隠す素振りをする。
「いや、何もないよ。ただそう言ってくれればいいから。親父にもそう伝えてくれ」
ツォおばさんは腑に落ちない様子でとりあえず頷く。
バイロインが自分の部屋に行くと、そこではトンテンがバイロインのベッドで横になってぐっすりと寝ていた。
バイロインは服を脱ぎ、トンテンの隣に横になる。
布団が少し薄いがなんとか間に合わせで誤魔化す。帰るよりは断然マシだ。
しばらくするとやはりグーハイが電話をかけてきた。
バイロインは自分の感情にスイッチをいれて、できる限り慌てた口調で電話に出る。
「インズ、お前どこに行ったんだ?」
「ダーハイ、実家で…事故があったんだ!とりあえず今日は帰れない…寝ててくれ」
「おい、何があったんだ?落ち着け、すぐ行く!」
「来るな!!」
バイロインが怒鳴り声を上げたため、隣で寝ていたトンテンが目を覚ました。
トンテンは目を丸くして「わっ!」と叫び声を上げた。すぐバイロインが彼の口を押える。両足はまだ動くため、暴れてバイロインを蹴る。
グーハイが電話の向こうから聞こえた叫び声、そしてすぐ何も聞こえなくなった電話口。こうなれば落ち着いてなどいられない。
「インズ、もう家を出たからな。二十分後に着く」
バイロインの気持ちが張り詰める。急いでグーハイを制止する。
「グーハイ、来るな。今俺たち家にはいないんだ。伯父さんの家で事故があったから、それで今俺たちは手伝いに来てるんだ。心配しないでくれ。大丈夫だから。家庭内のトラブルなんだ。内輪の恥だからな、もしお前が来たら面倒になる。俺の話を聞いてちゃんと良く寝てくれ。明日ちゃんと学校に行くから、また学校で会おう。そこで話そう」
そうすると少しの沈黙のあと、柔らかい声で返事がきた。
「そうか、わかった。ちゃんと温かくするんだぞ。あと手伝いが終わったらすぐ寝るんだぞ。ほどほどにな」
「あぁ、分かったよ。まだやらなきゃいけない事があるからもう行くよ」
携帯を置いて、バイロインは心の中で唱える。
ーーダーハイよ、わざと騙したわけじゃないんだ…本当に怖かったんだよ…!
トンテンが目の前でうめき声を上げている。
バイロインはこの声で自分がまだこのちび助を押さえつけていることに気が付いてすぐに手を離した。
トンテンは口を開けてハァハァと呼吸を整える。そして質問する。
「バイ兄ちゃん…一体何してるの?」
「ほっといてくれ…ほら、寝るぞ!」
トンテンは口を尖らせながらもおとなしく目を閉じた。
バイロインはふとトンテンも買収しないといけないことに気が付く。もし今後グーハイが家に来てトンテンの口から漏れたら大変なことになる。
バイロインはトンテンの身体を揺するが、トンテンはすでに夢の中だった。
ーー悩みがないとこんなにすぐ寝れるのかよ!
ーーもういい…また明日の朝話すか。どうせ今話したところで忘れるだろ…
バイロインはため息をついて、イライラしながら目を閉じた。
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この二人が健全な初夜を迎えるのはまだ先のようです…笑
トンテンとばっちりすぎて可哀そうw
猥本の題名は直訳+フィーリングですwさすがに難しかった…
:hikaru