NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第55章:罪は何かしらの形で返ってくる

夕食の時間になろうとしていた時、勢いよく玄関のドアが開かれる。

グーハイは片眉を上げてうるさく開いたドアの方を横目で見る。そこには、眉が凛々しく整った青年がリビングの入り口に立っていた。

「ああ、おかえり。早くこっちに来なさいトンテン」

バイハンチーに手招きされた好青年は、グーハイの記憶にある限りではおもちゃを持つ幼い少年の名前と同じ呼ばれ方をしていた。

「俺のことを覚えているか?」

グーハイが笑かけながらトンテンの方に体を向けると、入り口に立つ青年の顔はグーハイに向かって春に咲く花のような満開の笑みを作りだす。

「覚えているかって?」トンテンは背負っていた荷物を下ろす「グーハイ兄ちゃんを忘れるわけないだろ!?」

久しぶりの再会にバイロインもつい口元を緩める。

「もうお前も子供じゃないんだ。そんな“グーハイ兄ちゃん”だなんて、恥ずかしくないのかよ?」

彼ら二人の間には、八年間という時間の壁は存在していなかった。初めから笑顔で昔のように接してくるトンテン。それにつられるように、グーハイもまた温かい息をこぼす。

「グーハイ兄ちゃん! 兄ちゃんが買ってくれたおもちゃ、まだ大事にとってあるよ!」

「はッ!お前は、お前の兄貴より他人を思いやる人情があるんだな!」

グーハイは隣に座るバイロインをチラリと見ながら近くに寄ってきたトンテンの頭を撫でる。

「そうだ!兄ちゃん、ウェイボってやってる?」

「アカウントは持ってるが、ほとんど触ってない」

二人が話している間、トンテンはずっとグーハイの腕を掴んでいた。バイロインが見ている限りでは、一度も離していない。

「おい、ベタベタしすぎだぞ」

バイロインが冷たくトンテンに当たる

「えー?...じゃあ、お互いが触れ合ってたら一方的なものにならないよね!?」

そう言ってトンテンがグーハイの太腿の上に跨がろうと脚を上げた時だった

「部屋に行って宿題でもしてろ!!」

バイロインの雷がトンテンに直撃する。

「う〜」

恨みがこもった視線でバイロインを見ながらグーハイの耳元で「僕のこと忘れないでね」と何度も囁きながら自分の部屋に吸われるようにして帰っていった。

 

食事中、バイハンチーはしきりに「野菜をもっと食べなさい」と声をかけてはグーハイのお皿に料理を取り分けていた。

「おじさん。おじさんもちゃんと食べなきゃだめですよ。ほら、俺がよそってあげますから」

そう言って、バイハンチーのお皿を手に取り、大皿に盛り付けられていた温かい料理たちをお皿に取り分けていく。

いつもバイロインにやっていた癖がついこの場でも出てしまった。普通、目上の人の器を目下が取って料理を取り分けるなんてことはしない。

バイハンチーは何度か瞬きをして驚いた表情をグーハイに向ける。バイロインもまた、このおかしな雰囲気を察知して強めに咳払いをする。

「だ、大丈夫だよ。それくらい自分でできるさ」

そう言ってグーハイが手に持つ器を取り返し、自分で料理を受け皿に取り分けていく。

グーハイがほとんど盛ってくれたジャージャー麺を何度か啜り、お皿の中身が少なくなってきたところで先ほどまでのおかしな雰囲気が薄れる。

「ちなみにだがダーハイよ、お前はいつ結婚するつもりなんだ?」

「結婚?」グーハイは口の中にいっぱいの麺を詰め込みながら籠もった声で返事をする「誰との結婚ですか?」

「この前の娘さんだよ!婚約パーティまで催していたじゃないか!」

この話が話題にあがり、ツォおばさんも気になるのか箸を止めて心配そうな顔つきでグーハイを見つめている。

「それは…」グーハイは一瞬バイロインに視線を移して自分の手元に戻す「流れました」(この「流れた」と言うセリフ。後書きで少し解説あり)

「流れた...?」

バイハンチーはわかりやすく「はぁ」とため息をつく。

「どうしてなんだい?」

「...性格が合わなかったんです」

グーハイは苦し紛れに言い訳を口にする。バイロインもまた、口の中に入っている麺が喉の奥に入っていかなかった。

「最近の若者の考えることはよく分からないね。インズも今までに十数もあった縁談を断ってきてると言うのに...」

この手の話をされると、二人はどこかバツの悪そうな顔をする。

「十数も...」グーハイの顔は七色に輝く「よく耐えたな!」

「はぁ?」バイロインの顔は怒りで暗くなる「そんな人数聞いたこともないぞ!」

バイロインの怒りに合わせて、ツォおばさんも旦那を睨みつける

「あんた!...子供が同意していないって言うのに、縁談が流れただなんて!おこがましいよ!」

「... ...。」

「流れたと言わずになんと呼ぶんだ?」

「... ...。」

グーハイもバイロインも、二人のやりとりをただ黙って聞いているしかなかった。

 

 

帰路に着く車内、隣に座るグーハイは突然悲しそうに口を開く

「親父さんは...もう、昔のようには接してくれないんだな」

「親父?」バイロインの口元はよく見なければ分からないほど小さな笑みを浮かべている「お前がそう呼ぶには、まだ早いんじゃないか?」

「冗談を言ってるんじゃない。親父さんと接していて気づいたんだ。...もう、以前みたく自分の息子のように優しく接してくれやしないんだって...」

夜に隠れる口元からは、少しの悲しみを含む濡れた言葉が紡がれる。

眉間にシワを寄せ、八の字にした表情でグーハイの方を向くと、彼が真剣な想いで口にしていることに気づく。

「...別に、変わったんじゃないさ。ただ、どうやって受け入れたら良いのか、まだ分からないんだよ」

車の窓を開け、タバコに火をつけて煙を吐くグーハイはどこか物憂いな笑みを浮かべている。

「親父さんには申し訳ないって思ってるんだ。...俺がいなければ、お前ら親子はこんな離れ離れになってなかったろ?」

バイロインも冷たく吐き捨てる

「そう思うなら、いっそのこと別れるか」

いつもならグーハイの怒りを含んだ声が耳をつんざくのだが、今回はグーハイの大きな手がバイロインを頬を強く捻るだけだった。

「その話はやめようぜ」

かなり強く捻られた頬の痛みで怒るバイロインは、グーハイのたくましい腕に抱き寄せられることで鎮火する。

タバコの火を首筋で感じて、少し熱い。

バイロインの髪の流れに沿うように手を流し、優しい声で呟く。

「インズ、俺...香港に行こうと思っているんだ」

香港、その二文字を聞くと、どうしても頭の中でグーヤンとの関わりがある事なのだと紐付けてしまう。

「お義兄さんに何かあったのか?」

「どうしてそう思う?」グーハイの口元には笑みが浮かんでいた「いや、お前の想像通りだ。...そうさ、お前のクソ上司が俺の兄貴を閉じ込めてんだよ。あいつも一応商人だからな、香港には沢山の支社がある。あいつがいなきゃ、回るもんもまわらねぇんだ」

「...お前と連絡が取れるなら、他の仲間とも連絡が取れるはずだろ? それを利用してシュウ師長を騙すことくらい出来なくもないはずだけど...それ、罠だったりしないのか?」

「いや、あいつが行かせようと仕向けたわけじゃない。俺から行こうと思ったんだ」グーハイは眉を軽く上下に動かす「あの老害の相手をするよりかは、マシだろ?」

どちらに転んでも必ず嫌な目に遭う選択肢。

ーーお前の義兄さんは...ただでは転ばない、か

「安心しろ、香港に行くのはあいつの後始末だけが理由じゃない。他にも用があるからだ」

「そうか、なら気を付けろよ」そう言ってグーハイの襟を自分の方に引き寄せてその唇に軽いキスをする「早く帰ってこい」

離れようとしたバイロインの顔を両手で押さえ、グーハイからは長めのキスが送られる。

「当たり前だろ」

バイロインの笑顔を背中で感じながら、車から降りたグーハイは空港に向かうタクシーの中に姿を消した。

 

 

一人になったバイロインはその車を部隊へと走らせる。

無断長期欠勤の報告をしに行く未来を考えると、目のいいバイロインだって道路に並ぶ街灯がぼやけて見えてくる。

ーーシュウ師長の判断次第だが、重い処分が下されるよなぁ...

 

「ーーー、少将夫人があなたの欠勤理由を説明してくださったのでもう大丈夫です。ですが。今度からはちゃんと話されてから休暇を取ってくださいね?! 私たちの模範となるお方がこのようなことをされては困りますし、これで責任を問われて左遷などされたら組織としても大変困ります!!」

バイロインは自分が説明するまでもなく、既に話が通っていたことに疑問を抱いたが、それを今ここで口にしては事態をややこしくするだけだろう。

「わかりました。申し訳ございません!」

指導事務室を出て、すぐユエンに電話を繋げる。

「どうして俺が休んだのを知っているんだ?」

ワンコールで繋がった電話の相手に、挨拶もなしに用件を伝える

『グーハイが教えてくれたの。...でも、今度はちゃんと私にも説明してから休みなさい?心配したじゃない』

ユエンがまたくどくど言うことを危惧し、バイロインは電話を切ろうと締めの言葉で遮る。

「分かった。じゃあ...」

『待って!まだ切らないで!』

腐っても母親か、ユエンは息子の雰囲気を電話越しに悟り早めに阻止する。

ーークソ。

『シュアンシュアンとはどうなっているの?』

「シュアンシュアン...?」

『ディシュアンのことよ!彼女とはまだ上手くいってるの?』

ーー忘れてた。あんな女

正直な話、今では顔すらよく思い出せない。

「終わった」

端的に伝わるように吐き捨てて、今度こそバイロインは終了のマークをタップする。

ーーなぜこの話がリョウウンに伝わらずに丸く収まっているんだ?...ゴタゴタしていて俺まで手が回らなかった...とか?

グーヤンを巻き込み、散々な思いをさせていることを考えると、流石のバイロインでも心を痛めてしまう。

 

自室に戻り ドアノブに手をかけて開けた瞬間、背後から何者かの殺気を感じて瞬時に回避行動をとる。

暗闇の中で一瞬の攻防が行われると、その覚えのある手癖にバイロインは驚愕する。

「どうしてここに... ?!」

距離をとって部屋の電気をつけると、ライトに照らされて顕れたのは病院にいるはずのグーヤンだった。

「どうやってだろうな?」

グーヤンは意図の読めない冷たくも優しい笑みを浮かべる。

「もしかして...もう全てを知っているのですか...?」

グーヤンは食器棚にもたれながらタバコに火をつけようと顔をしたに向ける。薄暗い照明の影が彼の横顔をいっそう冷酷そうに引き立てていた。

「どう思う?...お前は俺よりよく知ってるんじゃないのか?」

バイロインはすぐに意識の全てを目の前の男に注ぐ。今の彼は、少し危険な色がする。

「どうでしょうか...」

自然な振る舞いでソファに座り、意味がわかっていない愚か者の真似をする。

白を切るバイロインを見て笑い、ソファに座って斜めに組む足を見て別の笑みを浮かべる。

「足の形がとても綺麗だな」

「そうですか?」バイロインは足を組み替える「わが部隊の中で最も足の形が完璧な人は俺ではなく、シュウ師長でしょう。...見たことがありませんか?なら、今度紹介してあげますよ。彼の両足は銃のようにまっすぐで、柱のように固いんですから...」

グーヤンは黙りながらゆっくりバイロインに近づくと、その両足首を手で掴み、時計の十二時三十分を指す針のように上下に分けて自分の体重をかける。

ソファに座りながらバレエダンサーのように百八十度開脚を強引にさせられたが、バイロインにとってそれは苦ではない。グーヤンは痛めつけるためにこの行動をとったらしいが、バイロインの柔軟性は想像を上回っていた。

開脚状態でこちらを見るバイロインの姿は、少し...いや、だいぶ魅力的に見える。

「この体は...男を楽しませてくれるものなんだろう?」

自分を侮辱するような言葉に腹が立ったバイロインは、自慢の鍛え上げられた脚力でグーヤンの束縛から回避し、下げられていた方の足を鞭のようにしならせながら、弓のような弧を描いてグーヤンの顎目掛けて解き放つ。

グーヤンも黙ってそれを見ているはずがない。素早い行動だったが避けられない速度ではなかった為、ギリギリのところでそれを躱す。

「お前...!」

グーヤンが仰け反った上半身を戻してバイロインの顔を再度覗き込むように見ると、それを予知していたバイロインは上にあげていた足を下ろして、器用にグーヤンの鼻を親指と人差し指で挟む。

「えーと...これ、楽しいですか?」

バイロインの足首を再度掴んで自分の顔の前から退けさせる。

また組み敷こうとするグーヤンの意図を感じ取ったバイロインは、訓練された圧倒的戦闘センスを発揮し、常人の体幹と筋力ではできないであろう動きで上半身を回転させその回転力を生かして、回し蹴りのようにグーヤンの首元を狙う。

ーーしまった!!

バイロインは一瞬で自分の行動を後悔する。

行動に移すスピードは流石なものだったが、自分が行った行為に対しての結果予測も優れているバイロインは、グーヤンがわざとそのように自分を誘導していたのだと瞬時に把握した。

案の定、グーヤンは華麗にバイロインの蹴りを避けてそのまま勢いを利用してソファに足を押さえ付け、流れるように馬乗りになってバイロインに対してマウントをとる。

「ああ、楽しかったよ」

グーハイに殴られてやられたところを見ていたので深く警戒していなかったが、この男も体格はグーハイと同じ。上を取られれば簡単には抜け出せない。

バイロインは苦虫を噛み潰したような表情でグーヤンを見上げる。

「何人かが私にアドバイスをしてくれてね。...君と接近戦をする時は、一メートル以内では常に警戒をしておいた方がいいらしい」

グーヤンは勝者の笑みを浮かべていた。

 

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最後、訂正あるかもです。

てか、急に戦闘シーンになるじゃないですか!描けないですよ!(泣)

ちなみに、トンテンも8年で歳をとっているわけですから今はおそらく15歳だと思います。

 

...解説ですが。

中国では色に意味を持たせます。日本でもありますよね!黒は喪服などに用いる悲しい色、などそんな感じです。

そのように中国にも意味があります。以前説明した『緑色』も浮気の色としてそうですよね。

ちなみに、『流れた』の部分は原文だと『黄了』となっています。

中国において昔は黄色が徳の高い色であり、皇帝しか使用が許可されていませんでした。日本で言うところの飛鳥時代?の『紫』ですね。しかし、時代が流れて現代ではなぜか「色情」「猥褻」を意味する色になっています。例えば、扫黄(sǎohuáng)。これは直訳だと「黄色いものを掃除する」ですが、意味としては違法風俗の取り締まりなどになります。

他にも日本ではウエディングドレスなどに用いられる「白色」ですが、中国だと葬式の色になりますので、縁起が悪い色になります。

つまり、ここでの「流れた」は「結婚の話自体が流れた」と言う意味合いになります!

以上!プチ解説でした!

 

:naruse