NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第67章:お前は最高なやつだよ

バイロインは、少し離れたところで腰ほどの高さになっている倒木の上に座っていた。

片足を畳んでは腿を成長した胸に当て、顎を膝の上に置いては不貞腐れたような表情をしている。自由に伸ばしたもう片方の脚が、ぷらぷらと宙を動いていた。
滅多見せない表情のバイロインを見つめ、罰の悪い顔で後頭部を掻く。

「おい。そんな所に座ってないでこっちに来いよ。...風邪ひくぞ」
少し腹に溜めて出した声は、グーハイにしては弱々しさを感じる。

座っているバイロインを立たせようと手を差し伸ばした瞬間、バイロインは素早くその腕を自分の体の方へ引っ張って、その巨体を地面へと押し倒す。

「どのツラさげてきたんだよ!?...ああ?!」

グーハイの襟を握り締めるその手の甲には、太く青い血脈を浮かせている。

押し倒されている体勢から逃れるため、グーハイはバイロインの肩に思い切り噛み付く。

「ああッッ!!!」

激痛に声を出すバイロインの隙を狙い、縛りから逃れる。
「どっか行けよ!ほっとけって!!」
「じゃあ、俺と一緒に帰るんだな」

グーハイは再度、バイロインの手を取ろうとする。

「...もしかして。俺が満足に歩けないのを心配して迎えに...?」

その問いに応えるように、グーハイは片眉をクイっとあげる。

「あと、お前のその汚れた服を洗ってあげる奴も必要だろ?」

「... ... 。ああ、そうかもな」

そう言って悪戯に眉と頬を引き上げると、力いっぱいに己の服を地面を擦り付ける。

「あっ、おい!」

グーハイの驚いた表情を横目にさらに自分の体を地面へと擦り付けるが、その途中に乾いて鋭く尖った木の皮が、バイロインの破れたズボンの隙間から塞ぎかけていた生傷を抉る。

ぐちゅぅ...

痛々しい音が二人の間を抜けていく。

「インズ!!」
グーハイは焦った様子でバイロインの元へ駆け寄り、しゃがんで頬を優しく撫でる。
「さっきは俺が悪かった。...あんなバカなことを言うべきではなかったんだ。...でも、お前も知ってるだろ? お前に何かあったら、俺は自分を自分で制御出来なくなっちまうことをよ」
バイロインは落ち着いた表情で黙り込む。

沈黙に耐えられなくなったグーハイは、愛らしい顔をしながらバイロインの耳を鼻先で左右に擦り付ける。その姿は、許しをこうように近寄ってくる大型犬のようだった。
「なぁー。もういいだろ?悪かったって。...そんな仏頂面しないでくれよ」
ーーはぁ?誰のせいでこの顔になってると思ってんだよ

バイロインは上手いこと許してもらおうとするグーハイをチラリと見て、呆れる。
視線をグーハイの奥の方にやってみると、生い茂った群草を見つける。

鋭く尖った草や所謂ひっつき虫と呼ばれる黒くて細い種が所狭しと群がっていた。この中の鋭い方が、先ほどバイロインの傷にさらに危害を加えたヤツだろう。
「...ああ。わかったから、わかったから行くぞ」
そう言って手を差し出す。

先ほどまでとは打って変わり、瞳に輝きを戻したグーハイはその手をとる。

その時、バイロインはその手を前後に振り、グーハイの重心を後ろの方へずらしてそのまま後方へ押し倒した。

ドスン...

驚いた表情をしながら起き上がるグーハイの背中には、何千本というひっつき虫が見事に刺さっていた。

「ハハ、ハッ...ハハハハハハハ!!!」
バイロインは惚けるグーハイを笑いながら踵を返して走り出す。

グーハイもまた一瞬で思考を切り替え、逃げたバイロインを追いかけ、右へ左へと走り回る。

バイロインは勢いよく近くにあった木の上にするするっと登ると、後から追いついてきたグーハイのことを上から見下ろす。
「おい!降りてこいって!」
グーハイが上に向かって大声を出すが、バイロインは動こうともしない。
「この木の皮は棘がいっぱいあって危ないんだ!また怪我したら危ないだろう!」

体のことを心配して慌てるようだった。

「ほら、飛んでこい!俺が受け取ってやる!」
「なんで棘がいっぱい刺さってるお前にそんな心配されなくちゃいけないんだよっ!」

バイロインの皮肉たっぷりなセリフは、心配でいっぱいなグーハイの耳には届かず、両手を広げたままゆっくりと木へ歩み寄る。

「ゆっくりと降りてこいよ。絶対落とさねぇから」
グーハイがキャッチできる範囲に近づいたのを確認すると、それを嘲笑うようにバイロインはグーハイとは反対側の方へ飛び込んだ。

「は?!」

地面に着く瞬間にボロボロに破れたズボンの隙間から、バイロインの鍛え上げられた脚と股間部を覆う布の面積がはっきりと見え、グーハイはつい見入ってしまう。

ドスンッッ!!

軍で訓練を積んでいるバイロインは華麗な着地を決め、それを見ているグーハイはあまりにも魅惑的なその体のラインや身のこなし方に、ただ呆然としてしまう。

起きあがろうとしたバイロインだが、自分のズボンが大胆に破けていることに気づき、恥ずかしさのあまりに起き上がれない。

ーーくそっ、やってしまった!

さらにバイロインの背中には、先程のグーハイ同様沢山のトゲが刺さっていた。

「インズ!大丈夫か!!」

我に返ったグーハイがバイロインの元へ駆け寄ると、バイロインはトゲまみれになっており、さらには切り傷の部分にも刺さっている状況だった。
「この馬鹿野郎!なんでこんなことを!...この服を作ってる会社はほんとダメだな。インズを守らずにこんな姿にしやがって」

大丈夫か?と何度も体を揺らして確認してくるグーハイは、どこか演技掛かった雰囲気も感じる。

「おい。揺するなって」
バイロインはそういった。

 


それから二人は一本の木の下移動して座り、グーハイの服に刺さった棘を抜いていた。

「おい。この服、何百万もしたんだぜ。...弁償してくれるんだよな?」

ニヤニヤと笑いながらそう言ってくる具を横目に、真顔で「すまん」とだけ言い放つバイロイン。
「すまんで済んだら、この世に警察はいらねぇんだよな。...払えないなら体で払ってもらうしかないよなぁ?」

そう言ってグーハイは計算を始める。

「この服は大体八十万したから、俺と一緒に寝る事を一回一万円としたら八十回は一緒に寝ないといけないよな。ズボンは五十万くらいだから...SMプレイを一回一万で、十回はできるはずだし。あとは四十万残ってるから、コスプレを一回千円で、十回の一万円分やってもらうだろ?... 残りの三十万は俺のことを悦ばせるために使うとして。俺の息子を手で抜いてもらうのを十回と、口でやってもらうのを十回。本番を十回言うこと聞いてもらうのを各一万でやってもらって、やっと完済だな!!」

汚い計算を長々とし続けるグーハイを冷たい目で眺めながら、グーハイが計算し終えた瞬間に笑いながら「大丈夫だ、全部やらないで普通に全額返すさ」と適当に返した。

「こんッの!!」
バイロインにあしらわれたグーハイは、意地悪な顔をしながら魔の手をバイロインの露わになった脚へと滑らせていく。

「おい!やめろって!」
「ハハッ!」

二人はしばらくそのままじゃれつくのだった。

 


「ほらよ」

そう言ってグーハイは棘を抜き終わったズボンをバイロインに差し出す。
「えっ?」

バイロインは意味がわからずに、思わず「何んで」と聞き返す。
「いいから、俺のやつとお前のを交換するぞ」
意味がわからずに困惑するバイロインをよそに、しつこく何度も交換をせがむ。

あまりのしつこさにバイロインは折れ、自分のズボンを脱いでグーハイの手に渡した。

「いい子だ」
その瞬間、グーハイの手はバイロインの太ももをいやらしく触りながら、そのまま股間を覆う布の上から愛しの息子を撫でる。

「おい!」

バイロインの肘打ちがグーハイの胸に当たったが、グーハイの視線は変わらずバイロインの息子を凝視しており、痛みなど感じていないようだった。
「俺の右手はいけない子だな。何?今すぐにでもあの息子を触りたいだって?」

そう言ってはバイロインの性感帯を知り尽くしたその手で悦ばせる。

「お前のそれも、俺の右手と会いたがってるみたいだぜ?」

「ふざ...けん、なぁ」

「まずは一万返してもらわないとな。そうだ、今すぐ現金で返せるなら辞めてやってもいいぜ?」
グーハイのそのセリフにバイロインは何も言い返せないでいた。

 


お互いの欲を満たすように繰り返される手の動きがスピードを増した時、グーハイの背中の方からよく通る男性の声が。
「二人がどうしてここに?」
声をかけてきたのは、一緒に逃げてきたトンだった。

その声を聞いた瞬間にグーハイの洋服を盗んで勃起するそれを隠すバイロイン。
ただならぬ様子にトンは不思議そうな声色で聞き返す。
「何をしているんですか?」
「...何でもない。服の交換をしてたんだ」

やけに笑顔なグーハイに妙な恐ろしさを感じながらも、トンは納得の笑みを浮かべる。
バイロインは立ち上がって、自分の服を脱いでグーハイの方へ投げ捨てる。

「別に着たけりゃ着れよ、あんまり合わないと思うけどな」
グーハイはバイロインの飛行迷彩服を着て、バイロインもグーハイのスーツを身につけた。

衣服を入れ替えると、先程までの雰囲気とは全然違う二人になっていた。
「お互い自分の服を着ているのが一番かっこいいと思いますよ。生活の中の役とはよく言ったものです」
バイロインは彼の側をすり抜ける瞬間、酷く冷たい声で「よく見てるんだな」と吐き捨てた。
そう言われても一切動揺せず、トンは常に笑顔を貼り付けていた。

 


しばらくして、歩く距離がバイロインと少し離れた隙を狙い、グーハイにこっそりと話を振り始める。

「グーヤン社長はどうしてここに?」
グーハイはため息をつく。

「あいつが乗っていた戦闘機も撃墜されたんだよ。」
その言葉を聞いて絶望の色を浮かべていた。

 


グーハイにバイロイン、加えてトンが一緒に自分の前に歩いてきたのを確認し、本当に部下が自分を裏切ったことを悟る。
「そうか」グーヤンの視線はトンを貫く「お前の故郷は山東省だったのか」
トンは深く息を吸い込み「すみません、社長。あなたの会社を離れることにしました。」と頭を下げながら早口で告げる。
グーヤンの表情はあまり変わっていなかったが、これは絶対的に危険な信号をちらつかせていた。彼の瞳の中に潜んでいる激しい炎を見れば、誰でも気づくだろう。

ーー俺は自分の会社の製品を盗まれ、お金も取られた上に...香港で唯一の親友まで奪われてしまったのか。
グーハイは長年の勘から、今のグーヤンの様子が危ないことを悟る。
その合図を感じ取ったのか、バイロインはすぐさま先刻の取り決めごとを口にする。
「なぜ先ほど...トンが私を裏切っていると伝えなかったんだ...?」

グーヤンの凶悪な目つきは、まっすぐにバイロインを刺す。
「俺も彼とは先ほど知り合ったばかりなんです。彼とは緊急離脱する寸前に少しだけ話を交わしだけだったんです。それだけで何を把握しろと?」
グーヤンは顔をこわばせるだけで口を開けない。

悪い雰囲気を断ち切るため、バイロインは軽い咳払いをして話を切り出す。

「兄さん、あなたは過去の過ちをしっかりとみるべきなんです」
その言葉を受け、グーヤンの視線はグーハイとトンの間を往来していたが、何かを急に思い付いたのか、ゆっくりとその口元を引き上げる。
「いや、何。確かにそうだな。俺たちは家族なんだ、それは会社の付き合いの場だってそうだろう?」
そう言って、バイロインの方へ視線を変える。その瞳には深い色が宿っている。
「お前たちの幸運を祈るよ...」

そう呟いた。

 

 


帰り道、バイロインはグーハイに向かって疑問をぶつける。

「お前はいったいどうやってトンを仲間に引き抜いたんだ?」
「トンはお前と状況が似ていると思ったんだ。...兄貴があいつを大切にするのは、あいつを何かの身代わりにしているからだってな」

バイロインは疑惑の視線を送る。

「根拠は?」
「それは...ないさ」

そう言って両手を空へ向けて肩を窄めるグーハイ。
眉を中央に寄せ、縦皺を作ればるくるほど考えがまとまらず、次第に笑いが込み上げてくる。
「……確証もなしに行動して成功するなんて、お前が今回で一番の勝者なんだな!」

バイロインが小さく笑いながらそう言ってきたので、グーハイも笑みを浮かべる。

「何の勝者なんだ?」
「考えてみろよ。今回の騒動はいったい全部で何人の人に影響を及ぼすと思ってるんだ?...ここにいる四人だけか?...この四人の中で誰が一番損をしているのか、その足りない頭で考えてみろよ!」
「俺がバカだからこそ成功したんだろ〜」

そう言ってグーハイは暖かい顔で笑った。
「このバカめ!お前が一番凄いんだよ!!!」

 

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GW企画2日目ですね!

明日でこの連休も終わってしまいますが、みなさんはどう過ごしているでしょうか?

今回はちょっと翻訳が難しくて、自己流にしてる箇所がいくつかあります!大きく逸れていることはないと思いますが、ご理解いただけると幸いです。

みなさんのコメントがやる気につながっているので、是非ともコメント&リプライで感想をお聞かせください!

 

:naruse