第61章:全てが明るみになる
ゴロゴロゴロ...
「...ペッ」
グーヤンは取調室から出てきてずっと歯を磨いているが、あの屈辱的な味が口の中から消えてなくならないでいた。
「くそっ!!」
思わず握っていた歯ブラシをぶん投げそうになった自分がいたが、理性でそれを抑える。
トイレから出ると、ポケットに入っていたケータイが着信の合図を知らせる。
「もしも...」
『社長!!私たちの商品倉庫の中に何者かが入り込んだようです!!貴重品を管理していた箱の中身を確認しましたが、全ての中身がレンガに入れ替えられていました!』
「おい、どういう...」
全てを言い切る前に、別の部下からの着信が。
「...どうした?」
『社長!会社の経理部が崩壊しています!ここ最近の会計が全く合わないんです!!』
「は?」
話を詳しく聞こうとすると、また別の部下からの連絡が。
『社長!会社のネットワークシステムが何者かに攻撃され、多くの財務データが漏れています!!』
「おい」
何が起こっているのか理解できないまま、今度はお得意先からの連絡が。
『グーさん?! おたくの会社は最近どうなっているんですか?!ついこの間も、上級管理職の方がナイトクラブで暴れているところをうちの部下が発見して、警察沙汰になったんですよ!...もうこれ以上騒ぎを起こさないでください!』
自分が把握していない場所で何かが起こっている事実に顔が醜く歪んでいく。
最後の電話をとった時には、思わず画面に向かって「今度はなんだ?! なぜもっと早くに伝えない?!」と吠えてしまった。
『え...?!えっと、社長?...ずっと会社にいられたのでは?...電話での報告も今回に限ったことではないですが...』
電話を切り、グーヤンは自分の携帯を見返す。...いや、見返さない方が良かったのだろう。
「そんな...」
履歴を遡ると、同じアドレスから何度もメールが送られていた。そして、そのメールのアドレスは...サイバー防犯会社からのもの。
何度も自分のアクセス権を利用して会社の機密文書へと侵入を繰り返している旨の警告文が行われているようだった。
グーヤンは胸がきつく締めつけられる感覚に陥り、すぐさま部下の番号に電話をかける。
ーー...誰がやったんだ!?
グーヤンは顔色が急に暗くなり、様々な予想が脳細胞に侵入し、膨張に膨張を重ね、ついに極限値に達し...爆発した。
「グーハイを香港に留めておけ!!」
『グーハイさん...ですか?』電話にでた部下は呆けた声を出す『香港にでも用があったんですか?』
「...なぜお前が知らない? 俺の弟が香港に来ているはずだろ!」
『どうしてと言われましても...。私たちは一日中あなたの側にいましたし、その間外部との連絡は取っていません。そんな私たちがどうやってグーハイさんが香港にいらっしゃっていることを把握できるんですか?』
「一日中 俺のそばにいる...だと?」
部下から不可解な話を聞かされ、グーヤンの瞳は次第に鋭さを帯びていく。
ーーそういうことか!!
一瞬にして、今回のトリックを見破ったグーヤン。まさか、自分と容姿が似ているからといって会社をのっとるなど出来るはずがないと思っていた。
グーヤンは息を吸い、電話の向こうに向かって静かに問う。
「おい、質問にだけ答えろよ?...俺は今どこにいる?」
『は?...え?』電話の向こうからは、意味が分かっていない部下の惚けた声しか聞こえない『急にどうしたんですか?まさか、道に迷ったとかじゃないですよね?』
「道に迷ったわけじゃない、...どこにいるんだと聞いている」
『えっ?』部下の頭はさらに混乱を極めてしまう『どこに行ったのですか??え?』
グーヤンは自分の部下が間抜けで頭が痛くなって来た。まさか、いくらなんでも自分と弟を見分けることが出来ないなんて。
「いいか、よく聞け。...お前らが今まで一緒にいた相手は、俺によく似た弟なんだよ!」
『は!?!?』
「とにかく。あいつを北京に帰らせるな!」
『でも、それは...』
それはの続きを紡ごうとして、急に静かになる部下に腹が立つ。
「それは、なんだ!? とにかく、あいつを香港から出すなよ!!」
グーヤンの怒号に身を竦めながら話しているのだろう、オドオドとした声が電話から聞こえてくる。
『……それは、出来ないみたいです。今朝、秘書があなたのデスクに航空券を置いているのを見ました。...今頃、北京に帰っていると思います』
グーヤンはその言葉を聞くや否や、急いで電話を切り秘書へと電話をかける。
「お前が予約した飛行機のチケットは何時だ?!」
グーヤンの怒号を受け、秘書の焦る声が伝わってくる
『しゃ、社長!あと30分で離陸ですが!...まだ空港にお着きではないのですか?!』
聞きたいことを聞けたグーヤンは電話を切り、またすぐにボディーガードへ電話をつなげる。
「あいつはまだ飛行機に搭乗してない!今すぐ急行してあいつを必ず捕まえてこい!!」
グーヤンが部下と通話をしている時、グーハイと副社長のトンは空港のロビーに入ったばかりだった。
トンは歩きながら辺りを何度も見回し、心此処にあらずの状況だった。
転職も今回が初めてではない。しかし、今回ばかりはかなり緊張していた。
すると突然、グーハイの前を歩いていたトンが、その足を止めた。
「どうした?」
「ふと思い出したことがあるんです」
「なんだ?」
「社長の機密文書のパスワードを解読しようとしましたが、成功しませんでした...」
その言葉を受けて、グーハイは確かに、とうなずく。
「どうした。パスワードでも思い出したのか?」
「いいえ、ちがいます。...彼の携帯電話は監視サービスに管理されています。だから、ファイルの暗号を解読しようとする人がいれば、自動的に彼の携帯にメールを送られるはずなんです...。」
グーハイの顔色が変わってきた。
「つまり?」
トンは顔を硬らせながら、ゆっくりとグーハイの方を振り返る。
「だから、社長はもうあなたのしたことを知っているかもしれないと言うことです!...彼が人を派遣してセキュリティチェックのところで待っているといたら、このまま行くと罠にかかるようなものです!...セキュリティチェックを通っても、今度は待合室で!さらに、あなたが乗った飛行機が無事に離陸したとしても、彼は機長に連絡して機内で捕まえるか、北京空港であなたを捕まえる人を用意しているでしょう!!」
「...つまり、どうしろと?」
「つまり...」
トンが額に手を当てて考えていると、そう遠くはないところに見たことのある顔が、二つ並んで歩いているの見つける。
「はっ...!あっ!あっ!!」
トンの動悸が最高速のビートを刻む。
「あ、あとのことはまた後で!!とにかく走ってください!!」
トンはグーハイに自分の荷物も投げ渡すと、二人は背を向けて走り出す。
グーヤンの部下のもとまで走ってくるトンを見つけるや否や、部下二人は怪訝な表情を浮かべた。
「副社長、どうしてここに?...まさか、グーハイさんを捕まえるために?」
「私はとっくにここにきて探していたんだ!まだ見つけられていないが、どうだ?そっちは見つけられたか?」
「いえ」部下は周囲を見渡しながら呼吸を整える「私たちは今ここに到着したばかりなので」
「待合室の中を見に行こう!」部下の一人が提案すると、もう片方もそれに頷く「確かに、もう入ったかもしれない」
二人が走り出そうとした所をトンは呼び止める
「ちょっと待て!...その、お前たち二人のほかに応援を呼んでいるのか? 私一人だと、もし彼が来ても止められないぞ!...えっとだから、どうしたら」
「安心してください」
部下は笑って、トンの方を向いて説明をする。
「私たち二人は先にここに来ただけです。これから大勢の仲間が応援に駆けつけてきてくれますよ」
「大勢の..人、...が」
トンの薄い頭皮がさらに更地になる錯覚に陥る。
「そ、その応援はいつ頃到着するんだ?どこからくる?」
「もうすぐ着く手筈です。先ほど、リーダーから電話がありました。その話では、そこから入ってくると言っていましたよ!」
部下の一人がトンの後ろの出入り口を指差す。
「黒いスーツを着て、縞のネクタイをした男たちがそこから入ってくるはずです。まず先に挨拶をしたほうがいいと思いますよ。緊急で色んな人を呼び集めたので、副社長のことを分からない奴がいるかもしれません!」
トンは額の汗を拭いながら、ゆっくりと頷く
「わかった。...は、早く中に入って探してこい。飛行機が離陸してしまう」
その言葉を最後に、二人の部下は待合室へと駆け出していった。
「おい、副社長は何口だと言っていたんだ?」
「東口だな」
「それで、お前は今どこを目指しているんだ?」
「は?だから、あそこだよ!」
そう言って指を差す先には“西口”の表記が
「馬鹿野郎!!どこが東口なんだよ!」
「えっ?」部下は目を丸くして頭を抱える「場所を間違えたのか!」
「この能無しめ!今すぐにでも副社長に電話をかけて、東口に応援を向かわせるように伝えろ!」
「いや、そこまでしなくてもいいだろ」
「どうして?!」
「東口までの距離はここからそう遠くないんだ。たとえ副社長が一人で東口へ向かっていたとしても、西口から俺らが向かうわけだから挟み撃ちになるだろう?」
そう楽観的に考える仲間の頭を叩いて、深いため息を吐き出す。
「万が一だぞ。万が一、副社長がグーハイさんと先にあったとして捕まえない可能性だってある!...副社長という人物をお前は知らないのか?! 自分の利益を優先するような人間だぞ!もしかしたら裏切っているかもしれないんだ!」
「じゃあ、どうすれば?!」
「携帯は?もってるのか?!」
ポケットを探しすが、目的のものは見つからない
「しまった!急いで駆けつけてきたから、持ってくるのを忘れてしまった!」
「もういい!いますぐ戻って確かめにいくぞ!!」
トンは二人の部下と別れてから、すぐにグーハイへと電話をかけていた。
「西口から出られるはずです!」
『お前は今どこにいるんだ!?』
「ほっといてください。とにかく、あなたが西口から出られればいいんです!すぐに合流します!」
グーハイが西口へと向かっていると、その進行方向から全身黒スーツの大群が空港内に入ってくるのが見える。
ーー味方...ではないよな。
その只者ではない雰囲気から、すぐさま自分を捕まえにきたグーヤンの手下だと理解する。
トンがグーハイのもとへ駆けつけていると、自分が指示した西口から大量の応援が入ってくる様子を目の当たりにする。
二、三十人の大男たちは、形だけスーツを着ていることがわかるほどに太い首、はち切れんばかりの腕まわりをしている。
「逃げてください!!」
咄嗟に、トンはグーハイに向かって叫ぶ。
振り向いた瞬間、一群の人がグーハイに向かって突進し始めた。
グーハイの第一反応は走って逃げる。...のではなく、スーツケースを開けて“息子”を取り出すことだった。
そんなことをしていた所為で完全に逃げる機会を失い、スーツの群れはグーハイをぐるりと取り囲む。
こうなってしまったら、この危機を力で解決するしか道はないだろう。
グーハイが呼吸を整えた瞬間だった
「やー!!」
勢いのある声と同時に、数人のスーツ男が円の内側に倒れる姿が目に入る。
トンが華麗なライダーキックをかまし、そのまま流れるように数人の顎に蹴りを入れたようだった。
そのまま中央にいるグーハイの元まで駆け寄り、二人が背中合わせになった時、グーハイは思わず「見かけによらず、腕がいいんだな」と称賛のセリフをこぼす。
「褒められても全く嬉しくないことってあるんですね!」火照った身体とは違って、トンの顔はすっかり青ざめていた「私たちがピンチだってことに変わりはないんですから!」
話し終えたと同時に、スーツの数名が動き出してトンのお腹に強烈な一撃を加える。
殴られたトンはそのまま遠くへと飛ばされてしまうのであった。
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みなさん、お久しぶりです!そして、ただいまです!先に今回のお話の内容から触れたいと思います!
部下二人の会話から察するに“方向音痴な部下がいる”という設定なのかな、と思います。それで、トンが「どこから応援が来る?」という問いかけに対して返事をしたのが、その方向音痴の部下なのか、と。だから、トンが西口に逃げろとグーハイに言ったにも関わらず応援がそこからきてしまったんですね!
さてさて、いろいろあると思いますが〜...。
第一部の方なのですが、これから更新を停止したいと思います。みなさんご存知の方もいらっしゃるかも知れませんが、当ブログを手伝ってくれていたひかるさんが別件の凄いことをされているので、こちらには携われませんとご連絡をいただきました。
これに伴い、当ブログは第二部のみの更新となります。
今後ともよろしくお願いいたします。
:naruse