NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第6章:不思議な世界

「畜生?俺がか?」

グーヤンの凍てつく視線が

「俺は確かにやってはいけないこともしてきたかもしれない。けど、どれだけお前に尽くしてきたと思ってるんだ?」

攻撃的な口調が

「お前を傷つけたこともある、親父の事だって...でも、お前が傷ついた時に世話をしてやったのはこの俺だろ?なのにお前は俺に対して感謝の気持ちもないのか?!」

鋭くグーハイに突き刺さる。

「話を逸らすなよ...俺が聞いてんのは...あの時の事故の話だ!何があったんだよ?!」

 「...お前はあの事故で記憶を少し失ってるんじゃないのか?お前の意識はすぐに回復したし、目覚めた後はお前も知っている通りのことしか起こってないんだ。まだ何か知りたいのか?」

「俺が目覚める前の話をしろよ」

「目覚める前?聞く必要あるかよ...お前を病院に急いで連れて行って、緊急手術。それだけだ」

 「......おい。誤魔化すような言い方ばっかりしてんじゃねぇよ」

グーハイは辛抱強く、少しずつ迫る

「俺が事故にあった後、病院に運ばれるまでの間。あんたはあいつと何を話したんだよ?あいつはお前に何を言ったんだ!本当のことを教えてくれよ...」

 「教えて何になる?」

グーヤンは弟を見つめる。

「もうあれから八年も経つんだ。今更知ったところでどうにもならないだろ?」

「...別にどうにかしたいわけじゃない。知りたいだけだ。真実をな。」

 「.....なら教えてやる。よく聞けよ。」

グーハイは近くにあった椅子に座り、どこかを眺めるように語り始める。

「そうだな...あの事故の日は確か、渋滞していたんだ。救急車が間に合わなかったんだろう、あいつはお前のことを病院まで自力で運んで行った。俺が病院に駆けつけた時には、あいつがお前の病室の前に立ってたんだ。お前の命に別状はなかったことを聞かされたよ。...そして、去り際にお前が目覚めたら自分は死んだことにしてくれと頼まれたんだ」

「...ありえねぇ!!!」

グーハイはその話を信じきれなかった

「あいつを脅したんだろ!?」

「信じきれないのも無理はない。あいつが国外に出て行った嘘を作り上げたのは、この俺だからな。」

「何!?」

「でも、それは全てはお前の為なんだよ。あの事故以来のお前は人じゃなくなったような虚の日々を送っていたじゃないか。お前に少しでも希望を持たせるために、死んだと伝えずこの話を作ったんだ。その後、バイロインの親友たちとも会った。そいつらにも俺の話に協力するように頼んでおいたから、お前があいつを探し出せないのも仕方がない。...これがお前が知りたがってた真実の全てさ」

夢にも思わなかった。俺はこの八年間、たった一つの嘘に騙され続けていたのか。その嘘の所為で八年も地獄のような思いをし続けていたのか。

「....親父はそのことを知っているのかよ?」

「あの人が知らないわけないだろ?」

グーヤンは冷ややかに笑う

「バイロインは最初から入隊が決まっていたんだ。けどな、それを最終的に決めたのはあいつ自身だよ。あいつ自身が今後、お前の人生に関わらないことを決めたんだ。」

グーハイはやっと理解することができた。

なぜこの八年間あの男は俺を甘やかし、バイロインを探すというデタラメな理由の出国に対して傍観を貫いていたのか。

ーーあのクソ親父!自分の息子が嘘で苦しんでいるのを見て楽しんでやがったのか!

「シャオハイ」

グーヤンの口調が和らぐ。

「最初はお前らの関係に誰も口を挟まなかった。だが、親父の人格についてはお前もよく理解しているだろう?お前が曲がりくねった辛い道を歩くよりかは、いっそのこと諦めて正しい道を歩んで欲しかったんだ。」

 「そんな上っ面だけのセリフで今までの罪を洗い流せると思うなよ!どの道を歩くかなんて俺自身が決めることだ!苦しい思いをしようと、最終的にその道を選んだのは俺なんだよ!!」

「ほう、ならお前の人生に干渉したやつがいるってのか?」

二人は息のかかる距離で睨み合う

「親父がお前に何かしたのか?バイロインのことだって入隊を決めたのは自分自身だったし、そいつを探しに色んなところへと飛び回ったのはお前の勝手だろ?お前が本当にあいつの気持ちを分かっていたのなら、お前が言うように愛情とやらの力でとっくにあいつを見つけ出しているはずだ。なぜお前は俺たちの話も聞いていないのにも関わらず、俺らの言葉がお前の人生を左右させると感じているんだ?」

「ハッ!俺が怪我で寝たきりの時、病室に会いに来るお前らの言葉以外に何を信じてたらよかったんだよ!」

「それはお前が無能だからだろう!!」

グーヤンは突然声を荒げる

「なんで自分で考えなかったんだ?なぜ俺らの話が全てだと思っていたんだ?お前は誰も頼れる人が居なかったのか?何故、みんながお前を騙すことに賛成して協力してくれたと思う?そいつらはお前に対しての信頼が全くなかったからさ!信頼がなかったから、自らの危険を犯してまでもお前に真実を伝えようとしなかったんだ!」

 「俺は無能なんかじゃない。生きていくこと自体が能力を養っているんだ。成長には過程が必要だろ。人間が作れるものじゃない」

グーハイは義兄を見つめるその双眸を赤く染めながら徐々にその闘気を顕にする。

「事故が起きた時、どうして俺の携帯だけが使える状態だったんだ?お前の人生は、誰かがお前のために用意したものだって言うのかよ?!」

「...!!」

グーヤンの右手は目の前にいる大男の襟を強く握りしめていた。

「俺は誰にでも親切なわけじゃないんだぞ!それなのにお前は恩を仇で返すのか!?」

グーハイも抵抗しようと手をあげた時、近くにいたガードマンがすぐに駆け寄りその腕を止める。

「手を出すな!!」

グーヤンの怒りはもはやグーハイよりも昂っていた。

その場は時が止まったこのように冷たい沈黙がしばらくの間続く。

少しの後、静かに口を開いたのはグーハイだった。

「なぁ、俺はずっと感じていたことがあるんだ。親切心は人間としての基本だと俺も思っているよ。あんたに本当の親切心があるなら他の何も恐れることはないだろう?けどな、お前は腹黒い奴だからよ、自分より陰険な人がいることを恐れているんだろ?」

そう言い終えるとグーヤンの手を振り解き 、部屋から出て行く。

部屋の中には、力の限りでデスクを殴り、心の中で弟を罵倒する哀れな男が一人だけ存在していた。

「俺に親切さがないだと...?お前に対して今まで様々なことをしてきたこの俺がか?...ならお前のその思いやりとやらは、あのクソ野郎以外誰に対してあるんだよ...!」

 

 

 

バイロインは部隊に戻ると、すぐに上官に呼び出しをくらい長時間の説教を受けた。

さらにこの話は幹部にまで伝わり、翌日の夜九時過ぎに再度上官室に呼び出される。

バイロインは己の過失を認めていた為、説教は昨日ほど長くなかったのだが、その代わりに五千字の反省文を書かされることになった。

しかも、提出期限は翌日。

夜中の三時まで仕事をしていた為、未だに三千字までしか反省文は進んでいなかった。

瞼はすでに重く、頭は頻繁に船を漕ぐ。そのまま、自分の机の上に重力に従った頭が勢いよく衝突する。

「...いっッゥ〜... ...これはダメだな...」

眠気を覚ますために、部屋の外に出てまだ寒い夜風にあたる。

部隊の居住区にある広い庭には誰もおらず、静かな空間が冷たさを助長する。

いくつかある灯りも、夜風に吹かれるとその光が闇に吸収され夜と一体化した。

入隊してから夜遅くまで起きることは今までにもしばしばあったが、反省文を仕上げるために起きているのは初めてのことだった。

 ーーなんで衝動的に手を出してしまったんだ...?

 冷静になった後では、あの時の自分の愚かな行為を理解することが出来ない。

 

『ーーー...お前が姿を消してからの二年間。...ずっとお前を探し続けた!噂でお前が海外に居ると聞いた時は、俺が使える人材を全て利用して世界中!お前を探し続けた!』

 

頭の中で繰り返しこの言葉が響く。

いっその事本当に死んだ方がいいのか?軍に所属した当初は、その事ばかり考えていた。

正確に働く機械が故障したら価値がなくなるように、闘志がなくて生きるための目的がなかったら、生きているより死んでた方がいいのか?

孤独を感じて眠れぬ生活は生きるよりは、死んだ方がいいのだろうか?

あいつが感じてきた辛さに比べたら自分の想いなんて軽いものなのだろうか?

交通事故から目が覚めた時、姿を消していた俺に対するその気持ちはどうだったんだ?

俺が軍で勤めてると聞いた時、どんな気持ちだったんだ?

あいつは俺の噂を聞いたら何度も外国へと赴き、何度も悲しい思いをして帰ってきたんだ。

バイロインはこの八年間のことを考えると、神経が一本ずつ切れていくような、心が裂かれるような痛みを感じてしまう。

この想いは深すぎる。早く忘れてしまいたい。....けど、それが出来ない。

「はぁ...」

バイロインは再び机に向かって筆を進める。

前まで考えることが得意だった自分なのに、いつの間にかそれが出来なくなって力で全てを解決しようとするようになっていた。

なのに、今じゃあのバカが科学技術会社を経営しているなんて。

「この世界は本当に不思議だな」

 

 

 

「バイロイン、二十六歳、国家一級パイロット。安全飛行時間は千四百七十時間で、その間に敵機を二十五機 殲滅させています。実績は二等功を一回、三等功を一回受章しております。部隊の勤務時間中に飛行技術理論の研究に参加し、無動力飛行理論において独創的な成果を収め、軍事理論の新しい概念を提出したものでもあります。ブイ、三十七歳、国家一級パイロット…」

指導官の紹介が終わり、研究所の所長に意見を求める。

「君が推薦したのはこの二人だけだが、どちらが今作成しているラジオナビゲーションプロジェクトに適していると考えているんだ?」

所長は指導官の言葉を待つ。

「はッ!この二人はそれぞれ長所があります。経験値の観点から言えば、ブイの方が豊富なのは歴然です。しかし、個人的にはロインのほうが好きです。彼は若いですが、行動は穏やかで、頭も柔軟です。この方面の研究に多く参加させて頂く機会は、彼の経験を豊かにさせ、新たな発展に役立つことだと思います。」

所長は頷き「私もその子を第一に考えていたよ。」と手を差し出す。

指導官は所長の手を握り締め,目を輝かせた。

「あいつは我が基地の誇りなんです!」

所長はにっこり笑うと指導官に声を掛ける。

「もちろん。分かっているよ」

 

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更新が本当に遅くなりました!すみません!

新年になってからというもの、体調を崩してばっかりで翻訳作業が出来ませんでした

今、大学の方で様々な作業が重なっているので次回の更新もまた遅れるかと思います!

春休みに入ると自由な時間が持てると思うので、その時にでもまた毎日更新でもしようかと思っています!

これからも頑張っていくのでよろしくお願いします。

:naruse

 

202004追記:加筆修正。正味、詳しい話は分かりません(笑)