NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第31章:シュウ・リョウウン

「急げ!」

バイロインの怒号が夜空に響く。

招集をかけられ、宿舎から次々と部下たちが飛び出す。バイロインも最後に出てきた部下と共に集合場所へと走って行った。

新しく着任したリョウウンはすでに中央の席に着いていた。

シュウ・リョウウンは空軍部隊の伝説的な人物で、三十五歳で広東軍区航空兵の師長に就任する程の才能を持っていた。

三年ほど教官を務めた結果、そこの全師団の成績が輝かしいものを収めることになった。

数多の栄光を手にしてきた男だが、その訓練は大変厳しいものだと聞いている。

彼に率いられた軍隊は強靭な精神と強い生命力を持つと言うが、それらを手にするまでに人間の限界を知らなければいけないという噂もあった。

5分もしないうちに練習場には何千人もの人が集り、整列が完了する。

「報告します! 一大隊52人、集合完了!」

自分の部隊が揃ったのを確認してバイロインが声を張る。

それに続いてまた何人かの将校が報告する。

「報告します! 二大隊498人、集合完了!」

「報告します!同じく三大隊も集合完了です!」

リョウウンの太い声が訓練場の上空に響きわたる。

「休め!」

一斉に地面を擦る音が聞こえる。数千人の視線は一人に向けられる。

「今日諸君らを集めたのは他でもない。なに、夜に小便をする習慣をつけさせる為だよ」

突拍子もないセリフに一同、動揺を隠せないでいた。

「静粛に!!!」

幕僚長がそばで怒鳴り声をあげる。

リョウウンは表情を変えず、相変わらずのんびりとした声色で話しかける。

「一の合図で開始だ。二の合図で用を足し、三の合図でそれを戻せ。用を足したら、地面に跡があるかチェックをする。もし、その時に跡がないヤツがいたら、罰として全武装した後にグラウンドを三周するように」

あんまりな内容に思わずバイロインは苦い顔をする。

誰もが状況を上手く読み取れず呆けていると、リョウウンは「一」と叫ぶ。

その声と同時にベルトを解く音が途切れることなく続きだす。しかしバイロインは突っ立っていた。その視線をおかしな行動をとる自分の部下たちに向けながら。

「第一大隊隊長、バイロイン同志!」

リョウウンが自分の名前を呼んだので、慌てて彼の方を向き厳粛な眼差しを向ける。

「なぜ脱がない?」

「はっ....」

隣を見ると、同じ階級の将校たちも皆ズボンを下ろしていた。

ーー最悪だ!

ここに集合する前、グーハイに散々嫌らしい事をさせられていたのでバイロインのそれは硬直したままだった。

「俺が脱がせてくれるのを待っているのか?」

 リョウウンの口からとんでもない言葉が飛び出し、周囲の兵士たちから押し殺した笑いが聞こえてくる。

意を決してズボンを脱ぐと、バイロインの元気な息子がぽろんと飛び出してくる。

不幸中の幸いか、今は夜だ。暗闇であまり分からないだろう。

バイロインが「二」の号令を待っていると、リョウウンが台上から降りてくる。

そしてまっすぐにバイロインの方に歩いて行くと、隣の士官から様子をチェックしていく。バイロインの順番になると、リョウウンは口の端を少しあげた。

ーーバレた...か?

 すると突然、リョウウンがバイロインのそれを握りだした。

驚きと同時に恐怖を感じて一気にそれは萎えていく。

リョウウンが何を思ったのかは分からないが、それを手放し隣の士官へと移動する。

「おい。俺がまだ二の合図も出してないのに、お前...漏らしたようだな? よろしい。今すぐ装備を整えて走ってくるように!」

厳しい一言にそれを聞いていた兵士たちも数名、少しだけ漏らしてしまう。もちろん、そういった事をした者はみな、罰として列から抜けるように指示された。

「二だ!」

リョウウンの号令がかかったが、出そうとしても出ないものは出ない。

出なかった者も最初に走りに行った人と同様に罰を与えられた。

三の合図と同時に条件をクリアした者は、帰寮を許される。

バイロインも帰ろうとした時、リョウウンが側まで来て肩を叩く。

「君は肝が座っているようだね。俺の命令に素直に従わなかったのは、久しぶりだったよ」

褒められているのか何なのか、バイロインは困り果てた顔をして部屋に帰って行った。

 

布団に入ると、すぐにグーハイに電話をかけて泣きながら愚痴を漏らしていたら

二度目の警報音が鳴った。

「やっと布団が暖まってきたって時に...」

グーハイに別れを告げて電話を切り、重い身体を起こして外に出ていく。

 

「最初の小便から一時間以上経った。この集合は二度目の小便の時間だ」

バイロインはベッドに入る前に沢山の水を飲んでいたが、用を足せるのかわからない。

今回の集合の後、罰を受ける人は一回目より当然多かった。加えて、先ほどの罰を完遂していない者が多く、帰寮する人はとても少なくなっていた。

ここまでの出来事を見て悪夢だと思うだろうか?....いや、まだこれは序章に過ぎなかった。

 

三回目の緊急集合の警報が鳴り響く。

今回は先ほどの半分の時間しか間隔を空けていなかった。

これからまた何度も行うのかと思い、四回目の集合に備えて多くの兵士は沢山水を飲んでいたが、結局あれから警報がなることはなかった。その為、発散する場を失った兵士たちは夜な夜な、何度もトイレへと足を運ぶのであった。

 

翌朝、リョウウンの指示のもと訓練場へと集合する。

昨晩のことを思い出し、皆恐怖の色を浮かべていた。

しかし、今日の訓練は行われず清掃の時間になった。各部長たちが部下の清掃区域を指定し、三時間後にその場所をリョウウンが確認するといった比較的楽な内容だった。

開始から二時間半後、バイロインが受け持っていた清掃区域は終了していた。

途中、数名の怠け者を摘発して制裁を加えていたが、それ以外は順調だった。

バイロインは、昨日のストレスをここぞとばかりに発散する。

体罰の対象になった兵士は、甘んじてこれを受けなければならない。彼の蹴りを受けた際に、声を出したり動いたりしたら、第二撃が飛んでくるからだ。

三時間後、ほぼ全ての部隊が清掃を終了したがリョウウンは確認しに来なかった。

昼飯の時間になったが、まだ彼は訪れない。

ーー部屋で待っていてもいいのか?

昨日の夜からあんなことが続き、朝食をまともに取っていないバイロインはお腹が空いて仕方がなかった。

終了時間から一時間が経った。しかし、まだ彼は顔を出さない。

もしかしたら、このまま解散してもいいのかもしれないが、何も連絡が来ていない以上勝手な判断は出来ない。

 

「腹減ったよな〜」

 

外から呑気な声が聞こえてきたので、そいつを怒鳴り散らす。

昨夜からのストレスと空腹で、今のバイロインは野生の肉食獣のような鋭さを発していた。

ーークソっ!...もうグーハイは出張に行ったよな...

腕時計を見て落ち込んでしまう。

その時、ついにリョウウンが姿を見せた。

訓練場の周りをざっと見回し、満足そうに頷く。

「よく出来ているな。よし、お腹が空いただろう? 各自で食事を摂るように!」

その言葉を皮切りに、大勢の飢えた兵士は食堂へと走っていく。

バイロインもその場を離れようとした時、リョウウンに呼び止められる。

「バイロイン。君は俺と一緒に兵舎を案内してくれ。確認したいことがある」

ーー最悪だ。

軍隊という組織はとてつもなく巨大である。バイロインなんてその組織の末端でしかなく、彼のような一握りの存在には逆らえなかった。

 

結局、午後2時過ぎにリョウウンから解放された。

急いで部屋に戻ると、案の定グーハイはもう既に出発した後だった。

机の上に貼られていたメモを読む。

「研究室に弁当を届けておいた...だぁ?!」

グーハイは、バイロインが研究室で仕事をしながら食事をするのが好きだということを知っていたのだろう。

「何してんだよ!」

急いで研究室に向かったが、到着した頃には弁当は空になっていた。

みんなその弁当がバイロインのものだと知っていたが、コッソリと食べたのだろう。研究室には濃厚なご飯の香りが漂っていた。

「ああ、ああ…!!」

ーー何でこんな所に届けるんだよ!! こいつらが俺の弁当を狙ってるって分からなかったのかよ!?

バイロインは今すぐにでも、この研究室にいる悪党どもを機関銃で撃ち殺したい衝動に駆られたが、そうはいかない。

「き、今日の弁当が最後だったのに...もう当分食べられないのに...」

バイロインにとってどんな辛いことも忘れる事が出来る唯一の支えだっただけに、途轍もないショックに襲われる。

ドアを力任せに蹴り飛ばして外に出たはいいが、心に穴が空いたようで怒る気にもなれなかった。

もともとお腹は空いていたが、今は食欲がない。しかし、食べないという訳にもいかない。

「何を食べろって言うんだ...」

食堂はとっくに売り切れているだろう。レストランに行くにしては遠すぎる。

バイロインは迷った挙句、スーパーへと向かうことにした。

「今はあいつも居ないんだ。有り合わせで済まそう」

そう言って、カップラーメンを3箱とソーセージ2袋を買って部屋に帰るのだった。

 

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コロナで大学も延期になり、暇になったので更新しやすくなりました(笑)

いくつかのコメント、リプライありがとうございます!

Twitterからのアクセスが増えて嬉しいのですが、最初Googleからアクセスしてくださっていた皆さんは、どうやってここまで辿り着いていたのかコメントを読んでいて不思議に思っていました(笑)検索したら表示されるんですかね?僕は検索してもこのブログが出てこなかったので、ここまで辿り着いて読んでくださる皆さんに感謝ですね!

 

それと「ご報告:naruse」の記事ですが、やはりこのブログはハイロインの訳で埋めたかったので削除することに決めました。

恐らく、この章が投稿されている頃には消えているかと思いますが、上記のような考えがあったの事なので把握願います。

 

さて!今回の章から新たに登場したリョウウンですが、僕の翻訳では人物を全員カタカナ表記にしているので見辛いかもしれません!申し訳ないです!

彼だけ変えるわけにもいけないので、このままで進めていきたいと思います!

では、 次回の更新まで暫くお待ちください!

 

:naruse