第32章:正直な心
カップラーメンを食べいると、扉が開く音が聞こえた。
首を伸ばして入り口を見てみると、そこにはグーハイの姿が
ーーまだ行ってなかったのか?
突然の来訪に喜び、急いで駆けつけようとしたが理性がそれを思い留める。
「あっぶない....そうだったな」
グーハイに禁止されていたジャンクフードを食べていたので、それらをバレないように引き出しの中に入れて隠す。まだ蓋を開けていないものは布団の中に入れておいた。
玄関まで出迎えに行くと、優しい顔で口元に弧を描く最愛の人が立っていた。
「どうして?」
「出発する便が二時間遅延したんだ。空港とここは近いし、時間にも余裕があったからお前の顔を見に来たんだよ」
自分に会いに来た。ただそれだけで、今までの辛さや疲れが一瞬にして消える。
バイロインは、その厚い胸元に向かって駆け寄り抱きつく。
この一週間は本当に疲れていた。それに加えて、今日は最後の弁当も食べられなかったのだ。グーハイに甘えてしまう衝動は抑えられない。
「ああ、そうだ。知り合いでホテルを経営してる奴がいるんだが、そことコウジュンに頼んでおいたからこれからも弁当は届くぞ。一週間分だけど、十分だろ?」
バイロインはグーハイの背中を軽く叩く。
「人の迷惑になるようなことはしなくていいって言ってるだろ? そんなことしなくても、ここには専用レストランがあるんだ。別に自分で飯くらい食べれるさ」
「それはいいな。...でも、俺は変なところでズボラなお前を心配して言ってるんだぜ? どうせ、レストランになんか行かないでジャンクフードでも食べるんだろ?」
そう言ってバイロインを引き離し、いつものようにベッドへ座りに行こうとする。
しかし、その手をバイロインによって引き留められる。
「えーと......空港まで送っていくか?」
先程の言葉通り、ジャンクフードを食べていたバイロインは、今すぐにでもここからグーハイを遠ざけたかった。
「何のつもりだ? こんなに疲れた顔をしてるんだ、そんな事しなくてもいい」
やつれた顔に手を添え、親指で頬を撫でる。
「ここでゆっくり過ごそう。そんなに時間はないんだからな」
「お、遅れたら駄目だろ!?」バイロインは目を開く「だから空港まで送ってやるって! ほら、そしたら時間も無駄にならないし長い間一緒に居られる! 一石二鳥だろ?」
グーハイは無理矢理作ったような笑顔を見つめる。
バイロインは、心が弱っている時にそれを表面に出さず反対の態度をとる癖がある。
グーハイはもちろんバイロインが自分のために興奮してこんな態度をしていると思うほど馬鹿ではなかった。
ーーまた。....こいつは
「そんな事しなくてもいいって言ってるだろ? ほら抱っこしてやる」
そう言って強引にバイロインを抱きかかえ、ベッドへと向かう。
カップラーメンが隠されている本当にギリギリ、寸でのところでグーハイは座った。
ーーはぁ。危なかった...
バイロインの今の緊張度具合は、先日のコオロギ事件の二人に勝るとも劣らないと言えるだろう。
もし、先日の彼らが今のバイロインを見たら天を仰ぎ、頭を抱えてこう言うだろう「ああ、隊長も人間だったのですか」と。
「一週間も会えなくなるんだ。何か話したい事とかないのか?」
その薄い唇はバイロインの耳元で囁き、ゆっくりと耳の軟骨の辺りを挟む。
ーー話すより、今すぐお前が居なくなってくれた方が心が落ち着くんだけどな!
グーハイの唇は上から順にキスの雨を降らし、バイロインの口元まで辿り着くと舌を中に入れる。
バイロインはそんな気分ではなかった為、反射的にグーハイを突き離す。
「ん? 何でインスタントラーメンの味がするんだ?」
「は、はぁ?」バイロインはトボけた顔をする「そんなの食べてないし?食べるわけないしだろ ....勘違いじゃないのか?」
自分を見つめる視線は疑惑の色を浮かべていた。
心臓を握られる感じがする。
「...お昼に食べたお前の弁当の味だと思うぞ」
「そっか。...スペアリブは美味しかったか?」
バイロインは「美味しかった」と口にしようと瞬間、その言葉を飲み込む。
その判断は流石一流パイロットと言わんばかりの反射速度だった。
ーー危なかった!...こいつのことだ、絶対にカマをかけてるに違いない!
そこで、話を巧みにそらす。
「グーハイ...ここが痛い...」
バイロインはグーハイの手を自分の股間へと引っ張り、色っぽい表情で見つめる。
このセリフ、この表情を見せられたらグーハイはその気になるしかなかった。
今まで付き合ってきた中で、バイロインは初めて自分からにグーハイ甘えることをした。
「昔はこんな事しなかったくせに...」
ーーふ、ちょろいな。えーと...確か、弁当の残骸を見た時は骨が残されていなかったはずだ。...やっぱりさっきのは引っ掛けだったのか!
「どうして痛むんだ?...何だ、昨日ちゃんと出しておかなかったのかよ?」
ーーはぁ。俺はなんて情けないんだ。こいつなんかに甘えてた声出して....
先程から下を向いて何も答えないバイロインを恥ずかしがっていると勘違いしたままのグーハイは、さらに興奮していく。
「...頻繁に触ってないのか?」
ーーはぁ?! 何言ってんだよ!
「ほら、脱げって」
そう言って自分のズボンを脱がそうとするグーハイの手を掴む。
「や、やめろって」
しかし、興奮した猛獣はもう止められない。
「何怖がってんだよ? 見られた事ないわけでもないくせに。...いいから、ほら。脱げって」
抵抗するバイロインと脱がせようとするグーハイがベッドの上で戦い、何度も体勢を変えていると、下の方からガチャっと何かが割れる音がした。
ーーしまった.....!! カップラーメンか...
グーハイの顔色が変わり、バイロインを引っ張り起こし布団を捲ると無残な姿に変わり果てたそれが散らばっていた。
バイロインは石化したように動かなくなってしまう。
長い沈黙の後、グーハイが静かに尋ねてきた
「どういう事だ?」
「他の人に買ったやったんだ。俺が食べる為じゃない!」
「他にもまだあるだろ?」
そう言って部屋の中を漁り始めたグーハイを止めようとする
「...ほ、ほら! もう空港行こうぜ? 送ってやるからさ!」
明らかにおかしい態度をとるバイロインを睨むと、声を荒げる
「嘘はやめろ! 本当の事だけを言え!」
「そんな、怒るなって...」
笑顔を浮かべてご機嫌をとる。
そんなバイロインを押しのけて引き出しに手をかけた時、肩を掴まれて後ろに引っ張られる。
そこには拳を握ったバイロインが今にも殴りかかりそうな雰囲気を醸していた。
「グーハイ。そこはやめろ。...今ならまだ何でもなかった事に出来るが、もしそこを開けたら...もう、この部屋には入れないと思え。」
グーハイはその忠告を聞かず、ゆっくりと引き出しを開ける。
そこからは、馴染みのあるインスタントの香りが漂ってきた。
瞬間、バイロインがグーハイに殴りかかろうとしたがあまりにも緩い速度だった為、逆手に取られて逆にバイロインがグーハイに拘束されてしまう。
うつ伏せにして床にバイロインを押し付け、両手を後ろで縛る。
「何でこんなものを食べたんだ? 何で俺を殴ろうとしたんだ?!」
本当は、偶にならインスタント食品を食べてもいいと思っていたのだが、余りにも反省の色がないバイロインを見ると頭にきてしょうがなかった。
四時間前、彼は掃除を怠けた部下のことを蹴り飛ばしていた。「何でサボったんだ!」「腰が曲がってるぞ!」そう言っては怒鳴っていた男が、今では組み敷かれている。
ーーやっぱり悪いことしたら返ってくるんだな...
実は、バイロインは彼らが怠けていた事に対して怒っていたのではなく、怠けて終了時間が遅れた事によってグーハイと会う時間が減ってしまった事に対して怒っていたのだ。
つまり、超個人的な問題で怒りを覚えて部下に当たっていたのだ。バイロインという男も意外と酷いことをする。
グーハイはバイロインをベッドに連行し、枕に押し付けた顔を殴りつける。
「何故こんな事をした? 毎日オフィスでお茶を飲んだり、新聞を読んだりする分には何を食べても構わないさ。疲れて頭がおかしくなったのか? こんな下らない事で俺に嘘をつくんだ!?」
「ハハッ...縛られてる俺も可愛いだろ?」
バイロインは皮肉を飛ばす
「何だと?」
そう言って再び顔を打つ。
しばらく沈黙が流れると、バイロインが白状したように叫ぶ
「食べられたんだよ!」
本当のことを話し出すバイロインに顔が緩む。
「何で研究室に弁当を届けたんだよ!? お前の弁当は研究室の中にいるクソ野郎どもに人気で、毎日奪われそうになるくらいだったんだぞ? そんな弁当を俺が居ない時に研究室に届けてみろ! 食べられるに決まってるだろ?!」
バイロインは半泣き状態だった。
「昨夜は一晩中寝られなかったんだ...今朝も早くから訓練に参加して、馬鹿みたいに疲れたさ。お前に会えると思って部屋に戻ったら、もうお前は居なくなってて?その上、研究室のやつらに弁当まで食べられてた。....どこかに食べに行くなんて気力残ってなかった...」
グーハイの口調が優しくなる。
「何で電話しなかったんだ? そうと分かれば、買ってきてやったのに」
「...もう出発したと思ってたんだよ」
ーー何で、こんなに可愛いんだよ。こいつは...
バイロインはというと枕からグーハイの顔を覗いては小さな声で呟く
「いつか絶対にお前を泣かせてやるからな...!」
グーハイは湿った枕に触れて、自分がまた少しやり過ぎたことを後悔した。
が、先ほどの続きをしようと思い立ったグーハイはバイロインのズボンを脱がして、己のそれとバイロインのそれを兜合わせにする。
「嘘だろ?!グーハイ!?」
抵抗しようにも、心身ともに疲れ切っていたバイロインは、すでに余力が残っていなかった。
ーーありえない。このタイミングでこんな事するなんて...
バイロインは最初こそ悪口を言っていたが、次第に何も言わなくなった。
諦めたからだ。
一日酷い出来事ばっかりだった。最後の最後にグーハイに会えたので、慰めてくれるかと期待していたが、結局彼にもこんなことをさせる始末。
バイロインが何も感じていないのに気づいて、その手を止める。
なされるがままのバイロインを見ると、その顔は死人のような表情をしていた。
「...悪かった。インズ、ちょっと待ってろよ」
そう言うと、グーハイは車を飛ばして美味しい食べ物をたくさん買って帰ってきた。
テーブルに並べられた豪華な料理たちをお腹の空いていたバイロインは勢いよく食べる。
もちろん、その間グーハイなど見向きもしないで。
食事も途中に突然 警報が鳴り響いた。
反射的にバイロインは素早くお箸を置いて、靴を履き、ベルトを締め、着替えを済ませる。
グーハイの側を素通りしようとして、その足を止める。
身を翻してグーハイの方を向き、その顔を近づけて額を合わせ、硬い髪を撫でながら優しく呟く。
「行かなきゃいけなくなった。...その、ごめん。怒らないでくれるか?」
バイロインが言い終わるや否や、グーハイは顎を掴んで少し顔を右に向けさせ、頬にキスをする。
「行ってきますのチューが必要、だろ?」
顔を真っ赤にしたバイロインがグーハイの首筋にガブリと噛み付く。
そして、駆け足で部屋を出ていくのだった。
首筋を触ると歯型がしっかりと感じられる。
「....痛ってぇーな」
テーブルいっぱいの余った料理を見て、笑みが溢れるのであった。
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グーハイ何しとんねーん!って最後らへんなりますよね?!
僕も翻訳してて、ん?ってなってました(笑)
翻訳間違えてるか心配になって、翻訳機とかに何度もかけてみたんですけど、大体そんな感じのことしてました(笑)
今日は少し更新遅れてすみません!
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:naruse