NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

第59章:一目惚れ

グーヤンの会社に十日ほど滞在したグーハイは、大体全てのことを把握していた。

自分の義兄の会社のモノにも関わらず大型の機械設備から事務の備品に至るまで、気に入ったものを見つけると、その全てを自分の会社がある北京まで輸送する日々。

そんな中唯一の疑問が、経費削減を理由に計画の三分の二に資金を投資し、余った三分の一がどこに使われたのかという事。これだけはグーハイであろうと把握出来ていない部分だった。

グーヤンが何かを隠しているのかもしれない。

しかし、グーハイはグーヤンのパソコンの中に隠された機密情報を抜き出そうと画面を開くが、その前に立ちはだかるパスワードに苦戦する。

いくら社員が間違えて認識してしまう程似ている二人だったとしても、機械の目を欺くことはできないようだった。

指紋認証はもちろん、顔認証でさえもロックを外すことができずに、グーヤンの個人情報はしっかりとパスワードによって守られる。

「何かないのか...」

自分の義兄から連想できる事柄からパスワードを割り出せないか考えていると、ふとバイロインの誕生日が頭に浮かんできた。

早速試そうとキーボードに指を乗せるが、その瞬間に気分の波が一瞬にして底へと到達する。

「まさか、な」

バイロインに関わることでグーヤンの何かに関係していることを想像すると、その全てを壊したくなるほどの怒りがこみ上げてくる。しかし、グーハイは心の焦燥に耐えて四桁の数字をパスワードの欄に打ち込む。

「... ...。」

 

=システムポップアップエラーメッセージ=

 

「...フッ」

あからさまにほっとした表情を浮かべるグーハイ。そのまま別のパスワードを試していると、執務室の入り口の方からドアをノックする音が聞こえてきた。

「開いている」

「失礼します」

ドアを開けて入ってきた若いスーツ姿の男性二人組は、グーハイが北京に輸送を担当させている直属の部下だった。

「社長、北京へと輸送していた荷物ですが...全てこちらへと送り返されていました」

「...送り返された?」グーハイは鋭く目を細める「なぜだ?」

「それは...」

部下が何かを言おうとした瞬間、その先を遮るように続けて誰かが部屋に入ってきた。

「私が運んできたんですよ」

突如として現れたその人物に、グーハイは思わず口をあけて表情を固めてしまう。

その人物は完璧なスタイルに甘いマスク、瞳は覗いた者がその煌めきに目が眩んでしうほどキラキラと花火のように輝いていた。

もちろん、グーハイはその人物に見惚れて呆けていたわけではなく、なぜか昔から知っているようなどこか見覚えのあるもどかしさにフリーズしていたのだ。

「お前たち、今すぐここから出て行きなさい」

グーハイの部下である男二人に向かって、その甘いマスクとは裏腹に淡々と言い放つ。

「それで...なぜ“お前”がここに?」

二人の男が部屋を出て暫くの沈黙が流れた後、グーハイがやっと言葉を紡ぐためにその口を開いた。“お前”と呼ばれた人物は、冷たい笑みを浮かべてデスクに座るグーハイを見つめている。

「うちの会社のものをどうして北京へ?」

ゆっくりとグーハイの元へ歩み寄りながら、その笑みを崩さずに片眉をあげて怪しげな雰囲気を醸し出す。

「言ってなかったか?...ここにあるものは正規品じゃなくて、試作品なんだ。市場に流してから様子を見ようと思ってた商品たちなんだ」

話しながらグーハイは急いでデスクトップにあった人事のファイルを開き、今この部屋に入ってきた人物を検索する。

「...トン・チェ、二十八歳。社長補佐であり...副社長?」

「調べなくて結構。自分のことくらい自分で紹介させてくださいよ」

グーハイの顔色が変わった。このファイルに記載されている人物は、ここに十日ほどいた社長役のグーハイをサポートしたことも、副社長として仕事をしているところもグーハイに見せたことがない。むしろ、一度も姿を見せなかった。

情報ではグーヤンとかなり親密だと聞いていたが、グーハイがグーヤンのフリをしてここに滞在している間、一切接触がなかったのは確かに不思議だった。

「...俺がグーヤンでないとどうして分かった?」

「...別に、勘です。」

グーハイは目の前にいる人物を注意深く観察する

「ここ数日会えていなかったのは...なぜだ?」

「さぁ。国外にいたとしか」

トンはソファーに座り、その細長い足を交差させて顔を傾ける。

「いつからこの会社のトップに?」

「もうすぐ十日間だ」

もはや嘘などつく必要がないため、真実だけを告げる。

「十日...ハハッ。その期間があったならあなたレベルの才能があればこんな会社、ぶんどれたでしょうに」

「物騒な言い方だな」グーハイは落ち着いてタバコを胸ポケットから取り出す「お前たちの会社には大きな欠点がある。...俺はただ、それを修繕するために会社の舵を取ってただけだ。このまま経営を進めてたら、この会社は倒産していただろうよ」

「修繕?」トンは乾いた笑声をあげる「我が社は高性能な部品を取り扱って多くの契約を集め、簡略化されたシステムで上手いこと運営しているんです。...それを大陸の闇商人にとやかく言われたくはないですよ」

「ならお前らは黒くないのか?...全ての金の流れを確認したが、最初に投資した金額よりも実際に生産部門で組まれた予算はだいぶ少なくなっていた。そして、その消えた金の使い道は闇に葬られているようだったがな」

トンは目を細める。

「部外者が何を...。...肥沃な土地を持つものが、それを易々と手放すと思っているのですか?...あなただってその土地を持つ一人だ。あなたの会社だって大切に取ってある資金の数億くらいあるはず」

「そんな話はどうでもいい」

グーハイの突き放すような一言で、トンの瞳に怒りの感情が滾り出す。

「あなたがこの数日でやりたい放題にしてきた物と資金を返しなさい。...あなたが法律に違反している証拠を私は持っているんですよ?...傷を負いたくなかったら、大人しく私の言う通りに動いた方が賢明かと思いますが...?」

その言葉を受けたグーハイは、突然 椅子から立ち上がりトンの元まで近づき、その熱の篭った瞳でトンの顔を覗き込む。

「今思い出したんだが、後一つだけ運び出してないものがあったな」

グーハイの気迫に怖気付いたトンは反射的に顔を逸らすが、スーツの襟を掴んだグーハイがそれを強引に引っ張り、若干二センチの距離で鼻先を合わせる。

「お前も俺と一緒に行くんだよ!!」

そう告げてトンの腕を掴むグーハイの腕は、青筋が濃く浮き出ていた。

「お、お前の会社では男性社員を募集していなかったんじゃないんですか?!」

グーハイはその眼を怪しげに光らせる。

「安心しろ。...お前を特例で雇ってやる!」

 

 

取調室の中では、連行されたリョウウンと警官が呑気そうにお茶を飲んでいた。

「状況はどうだ?何か収穫があったか?」

室外で待っていたグーヤンのもとへ警官が駆けつけていたので、彼に向かって取調室の中で行われていたことについて聞き出そうとする。

「私たちは連行することしかできないんです。取り調べなどは担当外で...すみません。師長は後二日ほどで軍部の方へ連れていかれて取り調べが始まります。今回は複雑なことなので、私たちではどうしようもないんです」

苦虫を潰したように顔を顰めるグーヤン。

「つまり...それは、あいつは少なくともこの数日は豊かに過ごせるってことか?」

警官はすぐにグーヤンの意味を理解し、困った顔をした。

「師長は国家幹部の立場です!...そんなお方に何か手を出すなんて、今はいいかもしれません。でも、それがバレた後にどうなるのか...理解していただきたいです。」

グーヤンは恐れを知らない。途切れ途切れに口にする警官を一瞥すると、顔を斜めにして傲慢な言葉を紡ぐ。

「別に、俺がやるんだ。お前は関係ないだろう?」

警官の顔に驚愕の色が浮かんだ。

「な、何を!?...ほ、本当に彼が何か間違いを犯していたとしても、あなたが手を出して巻き込まれる必要はないのでは?!...それに、あなたが何かをしなくても、罪ある人間なら自然に他人が裁いてくれるはずです!...お、お考え」

「安心しろ」

警官の言葉を遮る。

「本当に大変な目にあいそうになったら、真っ先にお前に助けを求めるさ」

そう言って、冷たい表情を浮かべながら取調室へと向かって行った。

 

 

リョウウンが逮捕された後、バイロインには二日間の休暇が与えられていた。

夜、彼は布団の中で横になる。しかし、ゆっくりと横になっているはずの身体に快適なポジションはどこにもない。

腰に大きな傷があるため姿勢を横に固定する必要があり、寝返りを打つことなどは一切できない。

胃袋にも問題がある。リョウウンの訓練のせいで、バイロインはここ数日何も口にすることができなかった。何を食べても吐き出してしまうからである。むしろ、食べ物を目にすることすら辛い状態だった。

自分が寝ているベッドの横に机を用意し、パソコンを隣に立ててビデオを開く。

コールしている相手の名前は、グーハイ。

グーハイの顔が画面上に現れると、今までの辛さが嘘かのように快復していた。

『幸せそうな顔してるな』寝床の中のバイロインを眺めながら、思わず感慨深くなる『俺は仕事でまだ眠れないってのに、お前は呑気にしやがって!』

グーハイの声を聞いてさらに気分が落ち着いたバイロイン。

「何がそんなに忙しいんだ?」

『正体がバレた。...今日会社に副社長が来たんだ。あいつの右腕だよ。俺の顔を見るなり、一瞬で正体に気づきやがったんだ』

グーハイはバイロインに心配をかけさせたくなかったので、真実を話しながら、詳しいことは割愛して平気そうに振る舞う。

「正体がバレたのか?」バイロインの表情が険しくなる「その副社長とやらはこの事実をお前のお兄さんに伝えるんじゃないのか?...そしたら、お前の会社はどうなる?大丈夫なのかよ」

『お前も心配性だな。...俺の会社は国家プロジェクトに携わってるんだぞ?なんだ、そんな会社相手に手を出す度胸があいつにあるとでも思ってんのか?軍部と対決する資金力や余裕があるとでも?...ましてや、副社長はこっちの状況をあいつには伝えてねぇよ。全部お前の杞憂に終わるさ』

「なんで連絡してないってわかるんだよ?」

バイロインの疑問にグーハイは口元を緩める

『勘さ』

「勘?」

バイロインは深く息を吐いて眉間をつまむ。

「知り合ったばかりの奴と一日で心が通じ合った?」

『ああ、一目惚れってやつかな』

グーハイは至って真面目な表情で話している。そんなグーハイの様子にバイロインは乾いた笑い声をあげると「そうですか、そうですか。俺とは会った瞬間に心が通わなくて悪かったな!」と嫌味たっぷりのセリフを吐き捨てる。

バイロインのセリフに思わず頭にきたグーハイは、先ほどまでの優しい表情から次第に険しくしていく。

『殴られたいのか?』

バイロインは布団をめくって枕を腰の位置に持っていくと、そのまま開脚の姿勢を保って画面に向かい挑発のポーズをとり始める。

「殴りたいのか?いいぞ!ほら、どうした?殴れないのかよ?...今すぐそのスクリーンから腕を伸ばして殴ってみろよ!」

バイロインの挑発にグーハイはすっかりと瞳を赤く染め、その怒りの波はスクリーンを越して伝わってくるほどの覇気である。

「どうした?ズボンでも脱いで欲しいのか?」そう言ってバイロインは本当に自分のパンツを下ろし始める「ほら、見えるか? おい!」

グーハイはバイロインが次第に誘惑的な行動に変わってきたことを察して、先ほどまでの怒りが鎮火する。今のバイロインは、野生に住むヒョウのようにしなやかな身体をグーハイに見せつけていた。

『おい、お前のものがちゃんと見えない。もっとパソコンをお前の下のほうに移動させろよ』

パソコンから聞こえてくる声を無視して、バイロインは焦らすように下半身をくねらせる。

『ベイビー...俺の嫁...シャオバイ....愛しの子ロバ....』

グーハイはバイロインに触れられないもどかしさを誤魔化すように、バイロインに対する愛の言葉を並べて息を荒くする。

「...そんな顔してそんなこと言いやがって。こんな奴が一目惚れじゃなかっただなんてありえないだろ...」

『あ?なんて言った?一目惚れ?...なんだそれは、造語か? 聞いたこともないな!』

グーハイの一言にバイロインは黙ることしか出来なかった。

 

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お久しぶりです!

最近はハイロインの原作を全て読み終えている方も多くて、僕の翻訳が間違ってないか(意訳・追加訳は多いと思いますが)心配になることもたまに...(笑)

それでも、当ブログの翻訳を読んでいただきありがとうございます!

極端な間違い以外は、素人の努力ということで暖かく見守っていて欲しいです!

実習も9月には終わるので、10月からはバリバリ復活します!

コメントやTwitterなど、様々な応援がやる気の源です!いつもありがとうございます!

 

:naruse

 

202009追記:前半箇所、資金のくだりに訂正箇所あり。