NARUSE'S:BLOG

ハイロイン/上癮:Addictedの原作小説を和訳している男子大学生でした

ハイロイン【第二部】

第50章:ドッペルゲンガーの喜劇

リョウウンの鋭い眼光が、訓練場で列をなす兵を一掃する。 煌々と暗闇を照らす照明が、リョウウンの瞳に赫く反射して、沈黙を貫く彼らの姿を網膜に映しあげる。 高台に坐するリョウウンは、ある男の報告を目を閉じ、黙って待つ。 いくら待っても報告があがっ…

第49章:お持ち帰り

電話が切られた後、中々寝付けないでいた。 バイロインのことを考えれば考えるほど、段々と心配になっていき、気づいた時には衝動的に車を運転していた。 足元を照らさなければ先が見えぬほど、深い夜。 愛する嫁の部屋の前に到着したグーハイは、ドアを開け…

第48章:苦しめるモノ

グーヤンは事務室に一日中閉じ込められていた。しかし、この場は事務室というにはあまりにも閉鎖的で殺風景である。むしろ、取調室と言った方が正しく感じられた。 閉じ込められてから二人の医者が来たが、怪我の様子を少し調べられただけで、特別な処置など…

第47章:粗悪品

「何だ。そこに突っ立ってないで、お前も座ったらどうだ?」 話に来たのだと言い、リョウウンは勝手に椅子に座る。 バイロインも椅子を持ってトイレの前に陣取る。馬鹿な誰かが、勢いに任せて飛び出してくるのを防ぐ為だ。 「何でそんなところに座るんだ?」…

第46章:夜更けにきた検査

「乾杯!!」 暖かい部屋とは違い、外は風が強く寒さで苦しむほどの気温だった。 二人はバイロインの部屋でお酒を並べ、晩ご飯を楽しんでいる。 ドアや窓はもちろん、冷気が入ってこないようにカーテンもしっかりと閉めていた。 鍋は湯気が大量に立ち込め、…

第45章:一触即発

グーハイは執務室でバイロインからの返事を待っていた。 しかし、いくら待っても彼から連絡がこない。 ーーマジで怒らせたか...? 手元に残っていた写真を見返すと、いくらグーハイでもやり過ぎたかと心配してしまう。ましてや相手はあのバイロインだ。怒ら…

第44章:二人の意地

バイロインとグーハイの喧嘩は現在三日目。その間、お互いに連絡は一切とっていなかった。 今回の喧嘩の勝敗は、グーハイによって掴まれたバイロインの胃袋が先に根を上げるか、グーハイのバイロインに会いたいという衝動が抑えられなくなるかに掛かっていた…

第43章:あの時

「専門家の皆様、この度は当会議に参加していただきありがとうございます。」 グーハイの挨拶から各関係者会議の幕が開いた。 「今回のラジオナビゲーションプロジェクト実施方案交流会に参加するにあたりまして、当社がすべての協力企業を代表して進行を進…

第42章:想像とは違って

夜、グーハイは小唄を口ずさみながら、愛する嫁のために自宅で夜食を用意していた。 背後からドアを開く音が聞こえたので玄関を覗いてみてると、今から夜食を届けに行こうとしていた恋人が立っていたことに驚く。 「どうやって病院から抜け出してきたんだ?…

第41章:復讐劇

シュウ・リョウウンは訓練の監督を他人に任せ、軍事会議にて兵器の強化を図るよう主張していた。 協議の結果、科学班のプロジェクトに重点が置かれ、再調整を行う事が決定した。現在、バイロインは入院しているため、いつもは彼が行なっている企業視察を代わ…

第40章:リュウチョウの惨劇

「何で来たんだ?」 このままこの二人と会話を続けさせていたら、喧嘩に発展してしまう。 それを恐れたバイロインは、何かを言いかけたリュウチョウの言葉を遮った。 「気になったからです....俺、あなたの事が心配で」 その想いに感謝はするが、今はグーハ…

第39章:溢れた言葉

『ーーあの晩、本当は何をされていたんだ?』 グーハイの真剣な眼差しに、思わず心が締め付けられる。 「...本当に知りたいのか?」 「早く言えよ!」 「話しても...怒らないでくれるか?」 正直、グーハイはバイロインの身に何があったのか、薄々気づいてい…

第38章:二人の時間

グーハイが病室に戻った時には、バイロインは本当に眠っていたので言いたい事も言えずにいた。 ーーたとえ大怪我が嘘でも...この姿は本当なんだよな グーハイは眠るバイロインの隣へ横になり、寝返りを打とうとする恋人が傷に触れないように何度も姿勢を正し…

第37章:駆けつけた後に...

深夜、グーハイはエンの部屋のドアをノックする。 エンは風呂から上がり、髪を乾かしている途中だった。 ドアをノックする音が聞こえ、思わず呆然とする。 ーーこんな遅くに何の用かしら? 不思議に思いながらも、もしかして。という淡い期待を抱いてしまう…

第36章:『死』という言葉

曇天のゴビ砂漠は至るところに死気が漂い、赤土の地は千里にも及ぶ。 激しい砂嵐が吹き終わると、青空から突如として轟音が降り注ぐ。 赤い尾を引いた鉄の塊が、バイロイン達が駐在する場所へと向かってくる。 その光景は....まさしく“戦争”の序章だった。 …

第35章:身体的限界

見たところ、今日はそのままここで野営する様子だった。 リョウウンは自分達が必ず失敗して、不時着する確信を持っていたと疑うバイロイン。 ーー設備が整っている駐屯地に辿り着く前に妨害されたんだ。絶対そうに違いない。 まさにその読みの通りで、リョウ…

第34章:痕の意味

グーハイは今回の出張にエンを選び、二人だけで出張先の深圳へと出向いていた。 二人が目的地に着いた頃には、綺麗な夕日が姿を隠すところで、辺りが暗くなろうとしていた。 出迎えが二人を拾いホテルへと案内する。用意されていた部屋は、目を惹くようなス…

第33章:罰

訓練場に着くと、あの不気味な顔がまた現れた。 リョウウンは手を後ろで組み、集まった兵士たちを見下ろしていた。 「お前たちには一日の休息を与えたんだ。そろそろ訓練を開始しようと思う!」 突然の言葉に驚きの表情を隠せない一同。一体、どこに一日休む…

第32章:正直な心

カップラーメンを食べいると、扉が開く音が聞こえた。 首を伸ばして入り口を見てみると、そこにはグーハイの姿が ーーまだ行ってなかったのか? 突然の来訪に喜び、急いで駆けつけようとしたが理性がそれを思い留める。 「あっぶない....そうだったな」 グー…

第31章:シュウ・リョウウン

「急げ!」 バイロインの怒号が夜空に響く。 招集をかけられ、宿舎から次々と部下たちが飛び出す。バイロインも最後に出てきた部下と共に集合場所へと走って行った。 新しく着任したリョウウンはすでに中央の席に着いていた。 シュウ・リョウウンは空軍部隊…

第30章:恐怖の象徴

よく晴れた昼下がり、バイロインは職場で新型戦闘機の整備に精を出していた。 途中で休憩を取ってグーハイの元へ行く暇もなく、初めは高くにあった太陽も今では地平線の彼方へと消えていた。 「ふぅ...研究室に戻ったら進捗を纏めて....後は資料の整理か」 …

第29章:大掃除

休暇が終わる前日にグーハイと宿舎へと戻ることにしたバイロイン。 前回グーハイがここに訪れた時とはうって変わり、今では正式にバイロインの夫だと胸を張れるので、バイロインに挨拶をする兵士全員に大きい態度で威圧する。 いつでもこの場所に来れるわけ…

第28章:犬の飯

激しい夜が明け、朝早くからグーハイは出社する必要があった。 お昼に一度家に帰ってきた時、バイロインはまだ寝ていたので朝 出発する前に作った食事を仕方なく捨てる。 今度は昼ご飯を作ったのだが、あまりにも気持ちよく寝ているバイロインを起こすことが…

第27章:気怠いほどに甘く

グーハイはバイロインを自分の元へと引き寄せ、向かい合わせるようにして太腿の上に座らせた。言葉も無しにその口を優しく塞ぐ。 一度離れては再び優しく、次は狂おしいほどに激しく。全ての愛をぶつけるように何度もその口を塞ぐ。 バイロインは呼吸を整え…

第26章:深い夜

流れるまま二人家の中に入っていき、足で玄関の扉を閉める。 壁に押し付けられたバイロイン。コンクリートの壁がひんやりと背中に伝わってくるが、自分の胸はそれを上回るほど熱くなっている。 シャツの中に手が入り、鍛え上げられた肉体を愛撫する。 突然、…

第25章:心の距離

エレベーターから降りてきたグーハイは、ゆらゆらと女性たちが熱い視線を向ける一人の男の元へと歩を進める。 会社の入り口で黄色い悲鳴をあげていた女たちは、後ろから静かに現れた社長の姿を見ると一瞬にして真顔になり各々オフィスの中へと散っていった。…

第24章:変わるもの変わったもの

玄関でのやり取りの後、ご想像の通りそのままいつもの喧嘩へと発展する二人。 今までならグーハイの圧勝だったのだが、今回は混戦の末にバイロインに軍配が上がった。 これはグーハイにとって人生で上位に入るほどの屈辱である。口で言い負かされた事は今ま…

第23章:幸せな喧嘩

書類を見つめるその眉間には深いシワが刻まれている。 真剣なその表情をする反面、心ここに在らずといった雰囲気だった。 ーーあいつとこれからどう接していったらいいんだよ。 一方でバイロインもどうしたらいいか分からないままでいた。 二人とも別れを切…

第22章:心のままに

霊園にてバイロインと別れた後、そのまま実家へと帰る事にした。 玄関の扉を開けるとウェイティンはソファーで寛いでおり、ユエンは台所で食事の準備を行っていた。 扉の音に気づいて玄関の方を見ると、そこには全身が泥で汚れ少し痩けた顔になっていたグー…

第21章:過去とこの先

あれから丸三日、二人はこの場所でまだ助けを待っていた。 ある時、恐らく捜索用だと思われるヘリが二機自分たちの上空を旋回してどこかに去っていく様子を見てバイロインは決断する。 「リュックの中の食料はもうなくなってしまったし、ここで野垂れ死ぬよ…